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99話 第五位・灼熱地獄②



 それはまるで真っ白な床に赤い液体が入ったバケツを豪快にぶちまけたように世界は赤く染まった。

 まだ序盤であろう状況でエマ・ラピリオンは最大の権能である世界系〈紅蓮の世界〉を発動した。

 通常ならば、切り札として使用する世界系であるが、エマにとっては飛躍的に己と能力の性能を向上させる手段なのだ。


「チッ、領域環境型か――区画隔離」


 そんな彼の詠唱により地面から壁が出現し、二人を囲われる。内部の広さは五十の区画という存分な広さだ。

 周辺が一気に炎に包まれ、相手であるエマの魔力が向上していることから彼女の世界系が環境領域型だと見破り、隔離した範囲を広くしたのだ。


 世界系の領域環境型――その効果は発動した存在を中心として領域を築き、その内部では発動者の能力性能を大幅に向上させる。

 一見、攻撃特化型に似ているが、相違点は発動直後に飛躍的向上をする攻撃特化型と違って時間経過で性能が向上するのが領域環境型である。


 そして世界系に共通するものとして強い衝撃、発動した存在が崩れる際には世界系の効力は切れてしまうという所謂、解除方法が存在する。

 だが、その特性とは別に領域環境型にはもう一つ別の解除方法が存在する。

 それは発動者が領域外に出た時点で世界系は解除されるという唯一無二の弱点を持つため、敵からしたら打開策は最初から用意されている。


 だが、それが可能であるならば、という話だ。

 領域環境型の世界系はその領域範囲が時間経過とともに広がっており、その範囲内では能力が向上するため、領域内に引きずり込んで戦いを優勢にする。


「世界系の発動時、魔力が放出した――」


 だからこの一帯が獄炎に包まれている。

 今回、敵対する者の中では最重要人物であるレイム・レギレスに次ぐ存在であり、戦闘能力に関しては互角の存在。

 そのため、口では余裕と言っていても最初から自身の能力『座標神冠シグディネイト』を発動していたのだ。

 エマ・ラピリオンの魔力量はレイム・レギレスと大体、同じくらいだ。魔力枯渇を狙うなら、長期戦になるのは間違いないだろう。


 だが、相手は時間経過とともに能力が向上し続ける領域環境型であるため、長期戦は絶対になく、素早く決着をつけるしか勝利はない。


「余裕で処す――〈双座そうざ弾丸だんがん〉」


 長銃をエマに向けて引き金を引く。

 ダァンッと音を立てて、弾丸がエマに迫るが、既にエマ・ラピリオンの領域範囲内であうため、音速で迫る銃弾を感知して手に握る黄金の剣を振るう。


 それは黄金の刀身が弾丸を断つ、と思っていた。

 だが、違った。


「なに――」


 現在地が変化したのだ。燃えている景色は変わらないが、世界系の中心に立っている自分が少しずれている。

 ここはさっきまでシリウスがいた場所だ。

 この前の彼の行動が瞬間移動であることは見ただけで分かっていたが、シリウスが保有する権能には弾丸を放った者と命中した者の位置を入れ替える力がある。


「だから、なんだって話だけどぉッ!!!」


 思いっ切り剣を振るい、紅蓮を周囲に広げて牽制する。

 エマはまだ領域外に出ていない。

 意図的に魔力を多く費やせば、領域の範囲を力で押し広げることができるが、エマはそれをしない。長期戦を望んでいるわけではないが、すぐに戦いが終わってしまうことは望まない。


 最初は手を抜くが、最後は絶望で終わらせる。


「分かってらぁッ!!!」


 ガキンッとエマの足下で金属音が響く。

 そこにはシリウスが握っていた長剣が突き刺さっていた。

 ダァンッとまた銃声が響き、ガクンと身体が傾ぎ、足下の地面が半球型にぽっかりとなくなっていた。


 その行方はすぐに分かった。

 ズドンッと頭から足まで強い振動が走り、目の前が暗闇となった。

 そう、自分や他者を転移できる力を応用し、地面を自身の頭上に転移させて重力に任せて落下させた。


 だが、領域内でただの物理法則を用いた攻撃などはエマの身体にかすり傷すら与えることは出来ない。


「――〈対座たいざ点解てんかい〉」


 上から降ってきた地形に埋まったせいで声が籠っているが、力がエマに降り注ぐ。


 それは複数の斬撃――地形を突破し、対象であるエマを切り刻む。


「ぐッ――」


 これは単純な物理攻撃ではなく、彼の能力の性質である【座標】に対して剣撃という形のものが迫っている。

 その【座標】とはエマ・ラピリオン――能力の性質に対して絶対に干渉可能であり、その干渉域に相手を取り込むことだって可能であり、その【座標】に干渉した場合、それは物理攻撃ではなく、概念的攻撃になる。


 つまり高温の熱量、炎すら大水のように質量と化して操るエマに対してもダメージは通るのだ。


「があッ――」


 防御力は高いが、それを突破されれば、外見通りに本体の耐久は防御程ではないため、命中さえすらば、勝ち目は存在する。


「――〈遠座えんざ弾丸だんがん〉」


 剣の間合いの距離でシリウスは即座に長銃を向けて引き金を引く。

 ドゴォンと銃声が鳴ると同時にまたしても景色は一変した。

 さっきまで火の海を物語っていた炎が消え、強大な力が一瞬にして消失した。


「ッ…………」


 あの至近距離での発砲。

 いつもだったら、弾丸なんぞで傷をつけることは出来なかったが、あれは能力を付与していなかったみたいだ。

 煽る奴だから、知能は低いと思っていたが、意外と計算している。

 ただの銃弾を放つ、と思い込もうと……いや、あれはただの牽制か、耐久を見ていたのか。


 そしてあの銃弾は自分という【座標】に対して放たれた。


「いった……」


 頭部からの痛み、熱、そして血液が、頬を伝って地面に落ちる。


「はぁ~……」


 エマは急な緊張感に襲われて大きく息を吐いた。

 そう、さっきは『危なかった』のだ。


 だが、エマのような存在になると人体の一部である脳が機能を停止しようと意識が肉体から消えるが、『魂』が無事な限り、生きたいと望めば、意思に従って魔力が人体の治癒を開始する。

 エマは銃弾が当たった頭の側面、右側を手で確認する。指を入れるわけではなく、掌で穴を確認し、体内にある銃弾を熱で処理し、傷口を治癒する。

 傷の状況は脳の中心には届いていなかったが、普通なら右脳はダメになっていた。


 更に展開した世界系のおかげで自分に関する能力が向上していたおかげだ。

 エマは領域環境型の世界系を展開しただけで攻撃を仕掛けてはいなかった。世界系の影響でその内側は紅蓮の炎で満ちていたが、上手く避け、多少のダメージを負う覚悟で仕掛けてきたのだろう。


 と、エマは自分なりに分析する。


「領域外に出された、か……」


 舐めていた。

 自分は『遊び』だったが、相手は『殺し合い』だった。

 自分は『余裕』だったが、相手は『本気』だった。


 その違いから起きたこと、それに冷や冷やとした感覚……何度か、覚えた感覚だが、万全の状態でこれを感じるとは予想外だ。

 小細工は嫌いだ。

 正々堂々という自分の決まりに反しているからだ。


 自分は死を恐れている。

 自分は生きるために存在しているのだから……。


 それは暗闇を照らす星、自ら光を発する恒星のように……。




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