94.深層探索
タイラント・ハイオーガを斃した後も私達は深層の探索を続けました。
さすがにレベル100を超える魔物と何度も遭遇するのは勘弁ですが、そもそも高レベルの魔物ばかり生息しているだけあって、難易度は中層とは桁違いです。
「あーもう! なんでこんなに集まってくるかなー!?」
「ユキが調子乗ったからでしょ!」
不整地である森の中を全力で疾走する私達の背後から、大量の魔物が押し寄せてきています。連携せず暴走しているのが唯一の救いですね。
これの原因はユキにあります。と言うのも、金色に光る猿のような魔物を斃したとき、油断してトドメを刺すのが遅れたんですよ。
ほんの数秒の遅れでしたが、死の間際に絶叫を放った猿の影響で周囲の魔物が暴走し、それからは撃退しつつ逃げ回っています。
あの猿――【看破眼】ではゴールデンハウルと表示されました――の最後の絶叫は完全に予想外の行動でした。しかもかなり広範囲に響いていたみたいなので、逃げれば逃げるほど追いかけてくる魔物g増えてくる悪循環です。
「なんか範囲攻撃ってないの!?」
「あったらとっくに使ってる!」
「だよね! 前から三体!」
迫ってくる蜘蛛型の魔物をすれ違いざまに切断し、ドロップ品の回収はせずそのまま走り去ります。
蜘蛛型の魔物がドロップする糸は丈夫らしいので回収したかったのですが、大量の魔物に追われている現状でそんな余裕はありません。
しかしどうしましょう……。この集団をどうにかしないと里に戻ることもできませんし……
「……ユキ、あれ全部斃せる?」
「え゛」
ユキの油断が原因なんですからいっそ丸投げしてしまえとも考えましたが、さすがに鬼畜過ぎますね。
何か注意を引ける道具でもあればいいのですが……
「あ、肉ばらまくのはどう?」
「たしかに量はあるけど……やるだけやろうか」
インベントリから加工前の肉を取り出し、後方へぶん投げます。
すると、集団の戦闘にいた数体は釣られて足を止めたり、追い抜いてしまった餌を食べようと振り返りましたが、次の瞬間には集団に激突され踏み潰されました。
……少量ですが経験値が入っているので、きっと罠として判定されたのでしょう。
「効果あり! 少しだけだけど! でも十分!」
ユキの言う通り、少しだけだとしても数を減らす成果は出せました。時間は掛かりますがこのまま減らし続けましょう。
幸い、肉類は消費しきれないほど余っていますので。
勿体ないとは思いますが、魔物の集団を放っておくよりはマシです。
「――そろそろ大丈夫じゃないかな!?」
二時間ほど掛かりましたが、ようやく直接相手をしても問題ない数にまで減りましたので、反転して迎撃を開始しました。
ユキは向かって右を、私は左側を殲滅します。
本当に種類だけは豊富なようで、それぞれ弱点が異なりますから、見極めつつ効率重視で斃していきましょう。
虫系の魔物は頭を斬り落としてもすぐに死なないのが厄介ですが、胴体も切断すればさすがに死にます。面倒なのは変わりませんが。
ゴブリンなどの人型をしている魔物は、弱点が人間とほぼ同じなので特に考えなくても斃せます。四足歩行の魔物も同様ですね。
それに多少頑丈でも、私の武器はハルバードですから、斧頭の一撃で粉砕できます。ユキは的確に血管や間接、目玉を狙って斃しています。
圧倒的な数でさえなければ作業のようなものですので、一〇分後には殲滅完了しました。
【シュヴァルツァー】と比べれば楽勝です。あっちは終わりが見えなかった分、斃せば減るだけまだマシですよ。
里に戻り、私達には必要の無いドロップ品を倉庫に置いて、宴の時間になります。
私とユキはリアルの食事も必要なので一旦ログアウトしましたが、再度ログインした後も宴は続いていました。
この里で暮らして一週間と少し。彼らは私達が思い浮かべるハイエルフとは全く違う存在だと言うことは理解しても、この大量の肉に喜び大騒ぎする様子は何度見ても慣れません。
「ところで友よ、来週にはトレントの枝の採取に行けそうだが、出発はいつにする?」
「本当ですか? あと二週間はあると思っていたのですが」
「例年より安定化が早くてな。すでに麓までは道が生まれているから、数日も経てば狭間に流されることは無いだろう」
なら、予定より早く座に挑戦できそうですね。
あと一週間でレベル100を達成するためにも、明日からは狩りのペースを上げていきましょう。
そう言えば、ディルックさんはディルックさんで面倒なクエストを受けてしまったとぼやいていましたが、レベリングする時間はあるのでしょうか? グレイのように犯罪を犯す異人もそれなりの数がいるので、その対処に当たっているそうですが……
一番最初にレベル100を達成した人は、一体誰なのでしょうね?
今更ではありますが、この作品は不定期更新になりました。最低でも一週間に一回は更新しますので……




