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セカンドワールド!  作者: こ~りん
四章:変幻自在のベトゥリューガー
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71.再造依頼

『もう一回訊くけど、なんで君からボクの匂いがするのかな?』


 返答はよく考えなければいけません。もし機嫌を損ねたら、私どころか、辺り一帯の地形が消し飛びませんよ。

 ベレスは怖がって出てきませんから、私がどうにかして切り抜けないと……


『――ああ、それ、ボクの鱗か』


 気付かれた……!? 使用した鱗はたった一枚なのに、この竜にとってはそれほど明確なものなのですか……!


『あれ? でもボク、君に鱗あげたっけな……? 前にあげたのは男だったし、君みたいに禍々しい呪い宿してなかったし……うーん』

「鱗は……帝国に行ったことがあるという人から買いました。五枚ある内の一枚です」

『へえ、そうなんだ』


 じぃ……っとこちらを覗き込まれるのは心臓に悪いのですが、機嫌を損ねたわけでは無さそうなので安心です。


「ところで、あなたはここで何を……?」

『ボク? おやつを食べに来ただけだよ。ちょっと生意気なやつがいたからパクッとね』


 絶対そんな軽いノリで済ませていい惨状じゃないですよこれ。地面ひっくり返したのがただのおやつ目的って、天変地異か何かですか?

 ……って、手を出してはいけない類いの災害でしたね。


『それにしても……ふーん、面白いね君。そこにいるちっちゃいのもそうだけど、ボクに対して恐怖を抱いているのに逃げないなんて。良かったら少しお話ししようよ』

「……ええ、喜んで」


 断れるわけないでしょう!? 頬が引き攣りそうですが――私の反応を愉しんでいるみたいで癪ですが――なるべく望むとおりにしましょう。

 一応、真なる竜と敵対せずに済んだというメリットはあるので、ちょうど太さの倒木に腰を下ろして会話の意思を示します。


『うんうん、話が通じる人は好きだよボク』

「そうですか」

『たまにいるんだよね、ボクの話聞かない癖に鱗よこせだの言ってくる人。面倒だから食べちゃうけど、人って美味しくないんだよね……』


 人である私に人を食べた感想を言われても返答に困ります。


『魔物もそうだけど、なんで勝てないって分かってるのに喧嘩売ってくるのかな? そういうのボク面倒だからさ、とりあえず食べて解決するんだけど、人はそういうときどうするの?』

「それは、人によるとしか……。喧嘩っ早い人は喧嘩を買いますし、そうじゃない人は無視したり、なあなあで済ませようとする人もいますよ」

『ふうん、面倒だね』


 自分から訊いた癖に興味なさげにそう言った彼は、溜息を付くように吐息を漏らしました。

 体が吹き飛ばされそうなぐらい強烈な溜息でしたが、彼がこちらを向いていなかったこともあり、無様な姿をさらさずに済みました。


 と言うか、彼の声は若干中性的というか、少女っぽいような気がするんですよね。

 最初は驚きと恐れから上手く認識できていませんでしたが、改めて思い返すと、やはり少女っぽい声色です。


『あ、そうだ。その腕の鎧、もっと強くしたいならボクの鱗必要になると思うけど、要る?』

「……いえ、欲しいのは確かですけど、まずは知り合いを当たるので――」


 さっき鱗を欲しがった人を食べたって言いましたし、今すぐ必要になるわけでも無いので気長に持ち主を探そう。そう考えていると、彼(彼女?)が身震いしてその鼻先を寄越してきました。

 鼻先は少し砕けていて、握り拳ほどの大きさがある塊が乗っかっています。


『あげるよ。ボク、君のこと気に入ったから』

「ですが……」

『だってそれ、中途半端なんでしょ? ボクの鱗を使ったからには最高の装備にしてきなよ』

「……ありがたく、いただきます」

『うん、遠慮しなくていいからね』


 さすがにそれは無理です。

 たとえ慣れることが出来たとしても、彼(彼女?)に対して図々しい態度なんて取れませんよ。


『さてと……じゃあボクはもう一眠りしたら帰るね。どうやら小さな動物達に迷惑を掛けたようだし、土地も(なら)しておかないと』


 地響きを立てて地面の下に潜っていく【彷徨竜】は、最後にちらりとこちらに目線を向けると、そのまま瞼を閉じて完全に埋まってしまいました。

 何か言いたげな、ともすれば羨ましがっているようにも見えましたが……気のせいでしょうね。


 ♢


「ふもっふさん、いますか?」

「いますよぉ」


 【彷徨竜】と遭遇するアクシデントに見舞われはしましたが、それ以外に問題と言える問題はなく、私は王都に転移で帰還していました。

 クランハウスの一角には鍛冶専用の工房があり、鍛冶を生業とする異人が連日籠もっては作業しています。


 ちょうどいいことにふもっふさんは休憩中だったようで、ポーションを飲んでHPを回復していました。鍛冶師としては致命的な欠陥である高温への耐性の低さは、もはや名物として親しまれるほど日常に溶け込んでいます。

 そして、住人の鍛冶師からは尊敬されているそうですよ? 熱に弱いのに鍛冶を続ける凄まじい異人として。


「おやおやぁ、ロザリーさんじゃないですかぁ。工房に足を運ぶなんてぇ、珍しい素材でも入手しましたぁ?」

「ええ、腕装備を作り直すのにうってつけの素材ですよ」

「それはぁ、まさかぁ……!」


 途端、目をキラキラ輝かせた彼女は椅子から飛び降りると、素早い動きで私の腕を引っ張り、工房の奥へ移動するよう促してきました。

 工房には個室が二つ用意されてあるので、秘密にしたい装備や素材に関することはそこで話し合うことがこのクランでのルールです。


 ふもっふさんは異人の鍛冶師としてとても優秀であり、様々な素材が持ち込まれるので、口の堅さは信頼出来ます。

 個室の扉を閉め、席に着いたふもっふさんの前でソレを取り出します。


「ふおおおおおおぉっ!!! こぉ、これはぁ……?!」


 彼女が大声を上げた理由は明白です。

 住人ですら入手がほぼ不可能な真なる竜の素材は、彼女でなくとも垂涎ものの逸品であり、億以上の値が付いてもおかしくない代物ですから。

 しかも握り拳ほどの大きさです。これを前に冷静で鍛冶師はどれだけいるのでしょうね。


「最高ですぅ! 愛してますぅ! これがあれば【影追の竜鱗腕鎧】を完璧に作り直せますよぉ……!」


 バンバンとテーブルを叩き、尻尾を荒ぶらせて狂喜乱舞するふもっふさんに押されつつ、私はこの【彷徨竜の擬鱗鉱】を使って腕装備の作り直しを依頼しました。

 ベースとなる形状は動きの邪魔にならない今のままで、もし面積を広げるのなら二の腕までは許容することも伝えます。


 念のため腕の採寸も行ってから、工房に戻って作業に取りかかりました。文字通り命を懸けて本気で取り組む彼女の姿は堂に入っていて、とても素人とは思えない雰囲気です。


 邪魔をしてはいけないので私は別室に移動しておきましょう。

 仕切りもあるので作業風景は周囲から見えませんし、生産スキルを持っていない私が心配できることはありません。


 そうそう、彼女に渡した素材なんですが、なぜ“擬”の文字が入っているのか疑問に思ったんですよ。それで【看破眼】を何度も使用して読めたのがこれです。


====================

【彷徨竜の偽鱗鉱】

 【彷徨竜】と呼ばれる真なる竜が身に纏う鎧として創り出した鉱石であり、凄まじい大地の力が宿っている。真なる竜の鱗には及ばないものの、並大抵の金属より軽く、硬く、そして丈夫であり、自然回復力を底上げする性質も持つ。

====================


 【鍛冶】系のユニークスキルを持つふもっふさんは更に追加情報が表示されたらしく、そのスクショを送ってくれました。

 それがこれです。


====================

【彷徨竜の擬鱗鉱】

 ~~~~~

 【■■鍛冶師】:真なる竜は精霊よりも世界と密接に繋がっている。その証拠としてこの世のあらゆる金属との親和性が高く、魔力を反発せずに留める性質がある。それ故に、自然現象の炎だけでは融かすことは不可能だろう。

====================


 彼女のスキル名は一部伏せ字になっていますが、それに興味はありません。興味はあるのは最初の部分、世界と密接に繋がっていると言うことです。

 意味は推測するしかありませんが、恐らく、通常の素材よりも格が高いのでしょう。精霊よりも、と書いてあるので、私が装備している耳飾りより上位である可能性があります。


 アイテム名に“擬”が付いているのは、本体ではなく纏っている鎧部分だからなのでしょうね。

 バザールで購入したのはこれと比べるとかなり小さい鱗だったので、【彷徨竜】の本体は小さいと考えることも出来ます。


 まあ、全部推測、妄想の域を出ませんが。たまにはこうして考え事に耽るのも楽しいですね。

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