64.真化
「ここに置いてね……」
通された部屋は普段は倉庫として使っているのでしょう。見覚えのある素材が棚に並べられています。
ですが、五畳ほどの空間を大きく埋めているのは祭壇のような机です。
天板には複雑な魔法陣が刺繍された厚めの布が被せられており、四隅に黄金の輝きを放つ柱が固定されています。
他にも宝石を加工したと思われる小物が布に沿うように埋め込まれていて、どう見ても普段使いする机ではありません。
「これは一体? 祭壇みたいに見えますが……」
「祭壇だよ……。武器の真化と昇華に必要な儀式をするためのね……」
侵呪のハルバードはこの祭壇の上に置くよう言われたので置きましたが、この世界では初めて聞く単語ですね。
武器の強化に関係する事柄なのでしょうが……
「真化は武器に本来の姿を取り戻させること……。昇華は武器の殻を破ること……」
「つまり、強化の延長ということでいいのですか?」
「厳密には違うけどね……」
陰鬱げに小さく笑うシルビアさんは、呪魂鋼でハルバードを囲うように配置し、その周囲に幾つかの金属と呪物と思われる装身具を三つほど置きました。
装身具は布で覆われた上で箱に仕舞われていましたが、今は封が解けています。
真化と昇華それぞれの性質から考えるに、今から行うのは真化なのでしょう。そして私のハルバードがカースドウェポンである以上、その素材として呪物が必要なのでしょう。
この儀式で侵呪のハルバードに宿る呪いがどのように変化しても、私の【呪詛支配】があればどうとでもなります。つまり問題はありません。
「――じゃあ、始めるよ……」
シルビアさんが儀式を始めると、魔法陣が淡く発光しました。それから、用意された素材がゆっくりと液状化していきます。
時間を掛けて、ゆっくりと。
溶けきり液体となった金属は流れ落ちることなくその場に留まると、次第に螺旋を描くように動き始めます。おどろおどろしい呪いが混じった、赤黒い液体がハルバードを中心に。
そう。驚くことに、液体となった素材は全て浮いているのです。
そして、それは一瞬で抉るように回転しハルバードへと吸収されると、より禍々しい呪いを発するようになりました。
泥を纏うような状態であるハルバードは姿形が定かではありませんが、それでもハッキリと伝わってくる粘つくような呪いの存在感。重く、大きく、不明瞭で、どこまでも自分勝手でありながら強力な呪いです。
「最後に担い手の血を小瓶一つ分……」
「どうぞ」
要求されたのでもちろん渡しますが、まずは腕鎧を外す必要がありますね。
容器は……棚にある小瓶を使わせて貰いましょう。インベントリに入っていたナイフで指先を切り、傷口から滴る血を小瓶に詰めて渡します。
シルビアさんは受け取った小瓶を傾け、その中に満たされている鮮血をハルバードに振りかけました。
すると、ハルバードは徐々に決まった形を取り始め、放たれていた呪いもその中へと収束していきます。
――これが真化、なのですね。
「終わったよ……。この状態から改めて強化も出来るからね……」
儀式を終えた侵呪のハルバードを受け取りました。
全長は大凡二メートルと少し、真化前とそこまで違いはありません。ですがその形状は一目で分かる程度には変化しています。
まず、斧頭は一回り大きくなり、色合いも澱むような色から綺麗な黒色になっています。刃は銀色に輝き、赤熱しているかのような赤銅色が不気味さを力強さを醸し出していています。さらにその根元には、どこか清廉さを漂わせる小さな骸骨の集合体が、薄らと青みがかった銀の装飾として増えています。
先端はシンプルな形状ですが、二、三センチほど伸びているように見えますね。
鎌部分も少し大きくなり、間接のような出っ張りが二つほどあります。色合いも相まって悪魔か獣の鉤爪のような印象です。
柄も以前と同様に黒一色なのですが、滑り止めなのか蔦のような細長い物が絡み合った意匠が施されているので、少しお洒落ですね。石突は何の変哲も無い半球です。
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『呪装:骸の祈り』
積み重なった怨念は決して風化しない。生きたまま融かされ鋳造された憎悪も晴れることは無い。生者の命を奪い、その魂を呪うだろう。
恐れよ、恐れよ、そして糧となれ。死なぞ状態の一つに過ぎぬと知るがいい。
【呪怨強化】
※ロザリー以外が装備した場合、状態異常【死呪】【狂気】【即死】が付与される。
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それと、真化したことによって銘らしい銘が与えられたようですね。フレーバーテキストも相変わらずですが、武器スキルが追加されたのは偉いですよ。
……さり気なく付与される状態異常も強化されていますが、装備を外すつもりはないので気にしなくても大丈夫でしょう。
「あ、脱兎フードも真化って出来ますか?」
「――! 出来るよ……。ふふ……、まずは最大まで強化して……、そうしたらすぐにでも……」
「じゃあお願いします」
ついでに脱兎フードも真化させてもらいます。
すでに+8まで強化してあったのでそれを+10にし、とくに綺麗な脱兎の毛皮二枚を購入して素材にして貰います。
骸の祈りと比べるとシンプルで分かりやすい素材ですね。
そして誕生したのが新しい脱兎フード――『業物:脱兎フード』です。
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『業物:脱兎フード』
職人が心を込めて作り上げた逸品。脱兎の如き俊敏さを装備者に与える。
【敏捷強化】
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なんと、スキルが付きました。【呪骸纏帯】の例があるので防具にも付くことは知っていましたが、まさか脱兎フードがスキル付き防具になるとは思いませんでした。
耐久値や防御力、あと補正値が上昇するぐらいだと思っていたのですが……
「脱兎フードは素晴らしいのよ……。ちゃんと使い続ければ成長する……」
「そうみたいですね。」
「外さないでくれてありがとう……。実は付けてくれる人が少なくて……、装備してくれるのを見ると嬉しくなるの……」
「気に入っているので外しませんよ」
「ふふふ……、強化の代金はオマケしてあげる」
強化費用及び真化費用は武器のレア度と強化値に比例して高くなるので、強化だけとは言えオマケしてくれるのはありがたいことです。
しかも+5ですよ+5。
あとは……
「――終わった? 次私のお願いしまーす!」
「はいはい……」
私の用事が終わった後、ユキは刀の強化をお願いしました。
私と一緒に素材集めをしたのでこちらの強化もすんなり終わりましたが、どうやら真化は出来ないらしく、シルビアさんに謝られています。
あの刀の銘や武器スキルはユキにしか確認できないので、真化が出来ない原因はそこに書いてあるかもしれませんね。
武器スキルが魔法を打ち消す効果なのは知っていますが、やはり詳しいことが分かるのはユキだけです。
その後、私達は強化の終わった装備の使い心地を確かめるべく、未だ未踏の王国北部へと足を運んでいました。
アッシュ丘陵を超えた先、最低レベルが45のフィールドです。
真化した装備の効果は凄まじく、特に『業物:脱兎フード』の【敏捷強化】は体感で一割増しの強化となっていました。
『呪装:骸の祈り』の斬れ味と威力も純粋に上がっており、レベル40後半の魔物の骨も無理なく切断できます。狙う場所さえ気を付ければ一撃で倒せる攻撃力です。
強化と真化に大量の金属を使ったからか、重量がかなり増えています。ですが私自身の筋力も鍛えられているので、これはむしろ威力を増やせる長所となりますね。
余った素材はふもっふさんに売ってお金に換えましょう。私の手元にある素材ではこれ以上の強化は不可能だと言われたので、保管しておくメリットが薄いんですよね。




