58.与えられた加護
一月近く空いてしまいすみません。今日と明日で二話ずつ更新します。
□試練の領域・ロザリー
『――終わったな』
「案外時間は掛かりませんでしたね」
『時間を掛けるような試練では無いからな。さて、直すか』
鎧の男がそう言うと、彼らの負傷は巻き戻るように治っていき、フィールドも戦闘が始まる前の状態に修復されました。
「ユキ、遊んでたでしょ?」
「相性良すぎたみたい」
レベル差があったとはいえ、相手の魔法を無効化していましたからね。使っている武器が刀なのもあって、ユキはさほど苦労しなかったようです。
『――死ぬかと思ったわ。死んだのだけれど』
『ふむ、もう一人多いほうが適性難易度だったな』
「やり直しとか言いませんよね?」
『それを決めるのは神々であり我らでは無い。そして試練は達成されている』
促されて壁の上に視線を移せば、輪郭が霞んで定かでは無い人影が幾つも並んでいて、私達を観察するように眺めていました。
あれは一体何なのでしょう?
『我らは妖精に属する者であり、精霊に至る者でもある。あそこにいるのは精霊となって世界に奉仕することを選んだ者達だ』
『そして、試練の達成者に加護を与える者でもあるわ』
ふわり、とその内の何体かが降りてきました。
「加護……ですか。試練を受ける前にいずれ役に立つと言われましたが、どのような効果があるんですか?」
「――それは私から教えよう。君達は戻っていい」
降り立った人影の一体がそう言うと、三人は煙のように消えました。
この場に残ったのは私達と、輪郭が定かではない人影達です。
「……精霊は声がハッキリ聞こえるんですね」
「有り様が異なるからな。……さて、試練の報酬である加護だが、外付けのスキルと考えてもらって構わない。魂が獲得する技能であることには変わりないし、不都合が生じるわけでもない」
「それって私も貰えるんだよね?」
「もちろんだ。とはいえ、与える加護はこの場に残った我らが決める。君達はただ受け取るだけだ」
選択はさせてくれないのですね。
声は聞こえませんが話し合っているようなので、少なくとも何を与えるべきかを考える良心はあるようです。
ユキは私に抱きついてきました。暇になったからでしょう。
私はカスタムアーツの確認だけでもしておきます。とっくに使えるものなのに知らないのは、勿体ない気分になりますからね。
《――試練の報酬として加護が与えられました》
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【影の加護】
・あらゆる影への影響力が増し、【影】系統及び【呪詛】系統のスキル効果が上昇する。また、【呪詛支配】の効果対象に影が追加される。
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「加護は君と共に成長する。最初から完成されたものなど存在しない。より強い力を求めるならば、相応の努力が求められる」
それだけ言うと彼らは消え、私達は私とユキもこの空間から投げ出されました
そして、落とし穴に落ちたみたいな浮遊感に襲われると、次の瞬間には元いた場所――天蓋の森に立っていました。
「ユキ、それ」
「錆びてるね――あっ」
ユキの手にあった不思議な金貨は錆びていて、どうしようもないほどに崩れて消えてしまいました。
「使い切りの入場チケットだったのかな?」
「妖精郷とか試練の領域とか、明らかに違う場所だったから……うん、ユキの言う通りかもね」
私が身に付けていたピアスのような、目印を持っている人だけを拉致するアイテムだったのでしょう。
ユキはただ巻き込まれただけか、もしくはパーティー全員が対象だったのでしょうね。
「ユキはどんな加護だった?」
「えっとね、【風斬りの加護】だって。切断力が上がるみたい。ロザっちは?」
「【影の加護】だったよ。効果は……よく分からないから試行錯誤するしかないかな」
mya! と影の中で主張するベレスにも加護が与えられたようで、確認すると【浸透の加護】がスキル欄に追加されていました。
効果は浸透の名の通り、防御貫通や影を利用した体内への侵入に補正が掛かるようです。
「あ、クランハウスの修練場使えば色々試せるんじゃない?」
「そう言えばそんなのあったね」
クランハウスを管理しているのはディルックさん達ですし、加護のことを教えるついでに使用許可を貰いましょう。
とはいえ、【呪詛支配】を発動するのに必要な呪いを放出する訳にもいかないので、私の加護の検証はまだ先になりそうですね。
「うわ、これほんとに鉄? ちょっと鋼に変えてみて」
ユキの加護は効果が分かりやすく、金属製の案山子がスパスパと切断されています。
修練用の特殊フィールドなので耐久値などを気にせず好き勝手できるのですが、まだスキルもアーツも起動していない状態です。
案山子にスキルやアーツを使わせるUIは私が操作しています。受けたダメージや発生した状態異常なども纏めて表記されているので、高性能な修練用の案山子です。
「うっわー。鋼程度じゃ相手にならないね」
「鋼より硬い金属素材は殆ど合金だけど、リアルにある合金も試す? それともファンタジー素材に変える?」
「合金とか詳しくないしなー……ファンタジー素材で」
UIを操作して変更可能な素材からファンタジー素材を絞り込みます。
リストに表示されるのはクランの誰かが入手したものに限られるので、何でもかんでも試せるわけではないのですが、素材自体が豊富なので現状でもバリエーションが豊かです。
一番いい素材は……あっ、彷徨竜の鱗ですか。……見なかったことにしましょう。
呪魂鋼がアンロックされているのでそちらを選択します。
斬突打すべてに一定の耐性があり、魔法にもそこそこ抵抗できる素材ですか。デメリット効果として呪われるとありますが、私には通じませんし修練用なので誰も装備しませんよ。
「どう?」
「そこそこいい感じ。このぐらいがちょうどいい相手ってことみたい」
呪魂鋼をドロップするアンデッドナイトはレベル50台の魔物のようなので、ユキは格上が適性難易度になるようですね。
私もちょっと欲しいなと思う素材ですが、誰が入手したのでしょう?
「ねえロザっち、これ利用すればロザっちの加護も検証できるんじゃない?」
「……ああ、そっか。呪いだもんねこれ」
と言うわけで替わりました。
【呪詛支配】で呪魂鋼の呪いを支配下に置き、その状態で案山子の影を対象に…………出来ないですね。対象に取れるのは私の影だけですか。
呪いと影を混ぜることは出来るみたいですね。
混ぜてさえいれば影を引っ剥がして操作することも出来るようですが……扱いが難しいですねこれ。体積は影の濃さで決まるのですが、時間帯で総量が変化するのはちょっとって感じです。
ベレスみたいに他の影も使えたら……
「mya? myaamya」
「どうしたのベレス?」
「myaaa!」
ぐねぐねとこねくり回している影の中に入って一体何を……?
「ベレスちゃんがいれば他の影も使えるんじゃない?」
「そうなの?」
「mya!」
どうやらその通りのようで、私の影と同化したベレスが他の影とも同時に同化すると、【呪詛支配】の対象になりました。
これなら大量の影を思う存分に使えますね。
ただ、調整がかなり難しいです。
前腕ぐらいの太さまでなら大丈夫なのですが、それ以上に細くしようとすると影が消えないように維持する必要があるのです。
しかも、鋭くしたり刃を形成したりと、殺傷能力を持たせようとすると更に難しくなります。
「おお、これ夜だとものすっごい狡いね! 視認性悪いし状態異常に掛かるし!」
……欲張らずに適切なサイズで扱いましょうか。
スキルレベルが上がれば扱いやすさが向上するかも知れませんし、しばらくは暗い場所で使用するよう心掛けます。




