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セカンドワールド!  作者: こ~りん
三章:褪せることなき神秘を見よ
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56.試練の領域 その一

「試練を受けるか。ならば入るといい」


 色褪せない精霊――妖精ではないのですね――がそう言うとゲートは渦を巻き、私とユキを呑み込みました。ポータルでの転移に似た感覚ですね。

 渦が背後へ通り抜ければ、辺りは一変して古い遺跡のような様相へ変わっていました。


 けれど、そこは決して閉鎖された空間ではなく、災害によって天井が薙ぎ払われた廃墟に近い場所でした。

 吹き抜けとなった天井からは日の光が差し込み、階段らしきものも途中から失われています。


 フィールド名は『試練の領域』。つまりここは、試練を行うために用意された場だと言うこと。


「ここはエントランスだね。崩れていて分かりにくいけど」

「むむむ……」

「ユキには馴染みないだろうけど、私は嫌になるぐらいには見覚えあるから。廃墟じゃなかったら二階か三階建てで、そっちに進めば良かったんだろうけど」


 ご丁寧に、あるいは挑発するかのように、この領域に二階は存在しない。私達の意識は自然と一つの通路へと集まりました。


「進めってことだと思う」

「じゃあここは、領域的には玄関で合ってるのかな?」

「多分ね」


 そもそもエントランスは入り口のことです。大きな建物であれば相応に広くなるもの。

 豪奢に飾り付ければ権威を示し、質素であれば程度が知れる。少なくとも私はそう覚えています

 だから、ここはあくまで入り口というだけで、それ以上の意味は無いのだろうと考えました。


「あの扉を開けたら本番、死ぬまで後戻りは出来ないんじゃないかな」

「試練だもんね。なんだっけ……ヘラクレスの十二の試練みたいな感じ? あれって普通じゃ不可能な難題だったよね」

「神話は詳しくないんだけど」

「私も詳しくないって。聞きかじっただけ」

「……まあ、多分そんな感じ」


 ベレスはいつの間にか私の影に戻っていました。先行させようにも影が無いのでそのまま待機して貰いましょう。

 二つの階段の間にある焼け落ちた感じがする扉を通り、私とユキは試練へと臨みます。


「とりあえず……敵が複数いたら近い方を優先、単体ならお互い邪魔しないように、面倒なやつは最初に潰す」

「おっけー」


 私はハルバードを鞘――背負うために用意した特注品です――から外し、両手で持つことで奇襲を警戒します。

 対してユキは刀を握ってはいますが、鞘から抜かずに前へ差し出すようにしています。彼女曰く、最も早い抜刀術なのだそうです。


 石造りの通路を抜けると、辿り着いたのは円形の大広間でした。

 幸い待ち伏せはされていないようですが、通路から出た途端に鉄格子で塞がれたので戻ることは出来ないでしょう。


「貴方達が試練の相手ですか?」

『然り。試練に臨む者共よ、方法は問わぬ。我らを打破しその力を証明せよ』


 くぐもった声による試練の説明が終わると、全身を白い布で覆っていた彼らはその姿を顕わにしました。


 一人は二メートルほどの大男。重厚な鎧に全身を包み、大剣とタワーシールドで武装しています。

 一人は布で頭部を隠した女性。扇情的な衣服の上からローブを纏い、両手に短剣を持ち、衛星のように付き従う水晶玉が二つあります。

 一人は口元を布で覆った男性。弓というには大きすぎる五人張りを背負い、周囲の景色に溶け込む不思議な狩人装束を纏っています。


 明らかに連携を意識したパーティーです。回復役がいないのは挑戦者への優しさでしょうか。

 そして、【看破】による情報で得られたのはレベルのみ。全員がキリよく75で留まっています。


「二体三ですか」

『この程度の不利すら覆せぬ者に試練は達成できぬ』

「……会話はしてくれるんですね。逃げる気なんてありませんよ」

『蛮勇でないことを祈る』


 言い終えるや否や、鎧姿の大男がこちらに突撃してきました。

 ローブの女性は水晶玉を光らせつつその後ろに、五人張りを構えた男は姿を消しています。

 彼我の距離が数メートルになった瞬間、女性は二種類の魔法を私とユキに放ちました。


「――大剣と打ち合うのは初めてではありませんので……!」

「この居合いを初見で防がれるとは思わなかったなー」


 魔法を躱した私達は一先ず、彼らに連携させないよう引き離すことにしました。

 私が鎧を抑え、ユキが魔術師を攻撃します。


『――ほお、巧いな』

『――魔法を斬れるやつに言われたくないわね』


 しかし、バラバラに動けば連携が機能しなくなるのはお相手さんも承知のようで、中々思うように位置を誘導できませんでした。

 二人は一定の距離を保ちつつ私達に攻撃を加えてきます。


『ぬんっ!』

「ふっ!」


 振り下ろされた大剣にハルバードをぶつけ、激しい音を鳴らしながら刃を滑らせます。

 力で負けることは分かりきっているので技量で勝負をしているのです。


 ……しかし、盾が邪魔ですね。鎧の彼をすっぽり隠せるほど巨大な盾であり、その重量に見合った防御力があります。

 大剣をいなして攻撃しても容易く防がれてしまいました。


 そしてもう一つ注意しておかなければならないのが、姿を消した狩人風の男です。

 離れたところでゆっくりと何かが軋む音が鳴り、大きな音を立てた直後に身を翻せば、顔のすぐ隣を太い矢が通り過ぎて地面を砕きました。

 矢羽根のところまでしっかりと、地面に深々と突き刺さっています。


「もう消えましたか……」


 矢を放った男はすでに場所を移動しており、違う場所から軋む音が鳴り始めました。


『余所見をしている暇があるのか?』

「ぐっ……重たいですね……」

『やはり、巧いな。だが、受け流すだけでは到底達成できぬぞ!』


 振り抜かれた大剣が地面すれすれで一瞬止まり、跳ね上がるように私の顔を狙ってきます。それをギリギリで横に逸らすことは可能でしたが、私の体勢が大きく崩れてしまいました。

 そこにすかさず追い打ちが加えられ――


「ベレス!」

「mya!」

『ぬ!?』


 大剣の影と素早く同化したベレスが絡め取って阻止します。

 動きを止められたのはほんの少しでしたが、その僅かな時間で体勢を無理やりに整え、私はハルバードの斧頭を鎧の彼の右手に叩き込みました。


 ですが、ガアン! と金属音が鳴り、ハルバードが弾き返されます。


「嘘っ!?」

『事実である』


 足の位置を変えて盾をこちらに向けた彼は、勢いよくその盾を突き出してきました。シールドバッシュというやつでしょう。

 この距離で躱すのは無理ですね。なので自分から飛ばされることでダメージを抑えます。


 激突と同時に背後へ思い切り跳躍すると、思ったよりも軽傷で済みました。

 追撃してくる様子はありませんね。だからといって狩人を探そうとすれば、彼は間違いなくユキに攻撃を仕掛けに行くでしょう。

 二人を同時に相手にするのは難しいはずですので、狩人は後回しにして鎧の彼に集中しますか。


『……ふむ、アーツは使わんのか?』

「体が無理やり動くのは苦手でして。それに貴方もアーツを使っていないじゃないですか」


 すると、彼は怪訝そうな様子でこう言いました。


『自由に放ってこそアーツだろう。勇士は自らのアーツを望むように作り替え、最適化するものだ。それすら出来ぬのか』


 呆れたように溜息をつかれました。

 もしかして、何か重要な要素に触っていなかったのですか?


「……すみません、ちょっと確認するので待ってください」

『ならぬ……と言いたいところだが、五分だけなら許そう』


 許可がもらえたので確認します。

 ステータスからアーツを確認し、詳細を表示して…………おおう、マジですか……ちょっとへこみますねこれは。


 はい、カスタムアーツ、詳細の一番下にありました。

 時間が無いのでシステム補助をオフにして、思考入力をオンにします。試しに《スラッシュ》を意識してハルバードを振るってみると、体が勝手に動くことはありませんでした。

 今まで同様に声に出しても発動出来るようですね。


 補助以外にも色々と改造できるようなので、凝る人は細部までとことん凝るでしょう。

 しかも、既存のアーツを元に新しいアーツを作ることも可能なようです。さすがに今の私では無理ですが、時間があるときにでも試してみましょう。


「お待たせしました」

『では、再開する』


 改めて武器を構え、私と鎧の彼は相対しました。

 もう試練が中断されることはありません。たとえ待ってと言っても、躊躇うことなく殺しに掛かってくるでしょう。

 だから、私も彼を見習って、彼を殺します。躊躇せず、容赦なく命を奪いに行きます。

試練の領域:文字通り試練を行うためだけに存在する領域。試練の挑戦者に合わせて選出される門番を打ち倒すことでしか達成することは出来ない。妖精の試練、悪魔の試練、竜の試練など、幾つかの種類がある。

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