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セカンドワールド!  作者: こ~りん
三章:褪せることなき神秘を見よ
55/115

55.妖精郷へご招待(強制)

今回から投稿時間を12時から19時に変更します。複数話更新する場合は12時と19時にする予定です。

 フレンドメールの返事はすぐに来ました。ちょうど盗賊狩りが一段落して暇していたようです。


「それで、どのくらい稼いだの?」

「だいたい一〇〇万ぐらいかなー? 倉庫に火を付けた罪とかで懸賞金が跳ね上がってたみたい。強さはそこそこ」

「弱かったんだね」


 まあ仮想とはいえ人殺しの経験は豊富ですからね。

 ロスト・ヘブンは武装した人間を殺す経験を積める点だけは世界一でしたし。


「とりあえず防具を買うつもりだけど、ロザっちのオススメの店ってある?」

「始まりの街にあるシルビアって人のお店ぐらいしか利用してないけど……そもそも、私は狩りばっかりだから詳しくないよ。それでもいいの?」

「ロザっちが使ってるなら信頼できるしオッケー」


 と言うわけで、また始まりの街に転移しました。

 マグダナに転移する前に適当な防具を購入したのでとんぼ返りした形ですね。


「また来たのね……」

「こんにちは、シルビアさん。親友の防具を買いに来ました」


 防具専門店を名乗るだけあって、シルビアさんのお店は品揃えが豊富です。私は裾が長いものばかり買っているので、実は半分も見ていないんですよね。

 ユキに付いて回れば、ゴスロリ風、お嬢様風、踊り子風など、様々な防具が並んでいます。


 彼女はその中から和服に近い防具を選出して悩み始めました。純度一〇〇%の和服はありませんが、和風っぽいものは何着か置いてあるのです。

 そして彼女は真っ白な和風防具を選びました。鞘の色と合わせたのでしょう。


 代金を支払ったらまたマグダナへととんぼ返りします。転移してばかりですね。

 ポータルが無かったら片道一週間は確実に浪費してしまうので、メタ的に見ればありがたい機能ですよほんと。


「それで森に入るの? レベル上げ」

「それもあるけど……ちょっと気になったことがあってね」


 頭にはてなマークを浮かべるユキを連れて天蓋の森外縁部に侵入します。

 雰囲気は先日と同じですね。


「うーん……アクロバティックは動きは抑えるかー……」

「広さはあるでしょ?」

「いや、足下おぼつかないし、慣れていないのに下手なことすると怪我するからね」

「そう……ユキは器用だから大丈夫だと思うけど」

「器用さ以外はロザっちに負けてるけどね。というわけで索敵頼んだ!」

「はいはい……ベレス」


 いつものように声を掛ければ、ベレスは一声鳴いて索敵に向かいました。

 ベレスは先日の狩りで影をより上手く扱えるようになったようで、同化さえしていればあらゆる影はベレスの支配下です。どれだけ離れていても私とベレスは影を通じて繋がっています。


 魔物はとうぜん出現しますが、ユキもいるので鎧袖一触です。

 彼女の強みはレベル差を無視したクリティカル攻撃による即死なので、彼我のレベル差がどれだけあったとしても、彼女の刃が通るなら確実に殺せます。


 彼女は趣味でやっているTRPGでも、ダメージ通るんなら倒せるんだなとよく宣っていましたし。……あれとはまたベクトルが違うと思いますが。


 私はTRPGやったことありませんけどね。

 ――いや、一応チュートリアル的な感じで軽く触れたことはあるのですが、つい自分目線で行動してしまって導入が終わった直後で死んだんですよ。それからはやっていません。


「あ、マジカルフルーツ」

「なにそれ?」

「とても美味しい果物……だって」


 【植物学】を得るために使った事典に載っていた果物です。天蓋の森に自生していると書いてあったので探していたんですよ。


「キウイみたいだね」

「どちらかと言えばレモンかな。処理の仕方で味が変化するらしいよ」


 見た目はキウイのような産毛が生えた赤いレモンです。

 四等分にしてから皮を剥くと……オレンジの味ですね。他の味も気になるので持ち帰ってクランの皆さんに試して貰いましょう。


 それ以外にも見覚えのある植物を採取しつつ、私とユキは森の中を歩き続けました。

 そして大凡一時間経つと、私の耳飾りが不自然に揺れ始めます。


「それは?」

「妖精の悪戯羽っていう……まあ、マーキングみたいなものかな」


 このアクセサリーは薄い羽と植物を組み合わせたような見た目ですが、妖精にとっては目印なのだと思います。

 羽ばたくように揺れ、チリンと何故か音が鳴ります。


「ここが気になっていた場所? 何も無いね」


 ただ、どれだけこのアクセサリーが揺れても、周囲には何の異常もありません。フェアリーリングでもあれば妖精が関係していると断言できるんですけどね。

 そもそも、この世界に於ける妖精の立ち位置が不明です。魔物かもしれないし、自然現象扱いかもしれません。


 ベレスも呼び戻して周囲をくまなく捜索しますが、やはり私の耳飾り以外に異常はありませんでした。

 フラグが立っていないからとか、そういうゲーム的な理由があるのでしょうか?


「およ? ねえロザっち、これあったっけ?」

「金貨……? それにしては薄すぎるというか、無かったような――」


 その瞬間、私とユキの間に突如として謎の人物が出現しました。それか、透明だったものが見えるようになったとでも言うべきでしょう。

 先程まで存在していなかったはずなのに、見えるようになった途端異様な気配を感じるようになりました。


 容姿は背の高い青年で、閉じた瞳と薄い金色の長髪がやけに目立ちます。いると分かっているのに、油断すると意識から外れそうです。


「――着いてくるといい」


 そう言って彼は歩き始めます。それと同時に私達は、天蓋の森では無い場所にいることをようやく理解しました。

 マップ上では今も天蓋の森外縁部ですが、私達が立っているのは似ても似つかない丘陵近くの草原なのです。


「どうする?」

「大人しく着いていこう。ここがどこなのかも分からないし」

「分かった。いつでも刀は抜けるからね」


 何か怪しい動きがあればいつでも斬りかかれるでしょう。私もハルバードを構えられるよう注意しておきます。


 彼の後ろについて行くと、その道中で不思議な光景を目の当たりにします。

 湖から空に流れる落ちる滝、虹色の花。宙に浮かぶ無数のフェアリーリングに、苔むした石造りのゲート。

 やがて丘の頂上に佇む大樹の前に辿り着くと、複雑に絡まり合った木の根が蠢き大樹内部への道を作りました。


 世界遺産に登録されていてもおかしくないほど巨大な大樹ですので、その内部はかなりの広さを誇ります。

 中央に小さな泉があり、壁に沿うように螺旋階段があります。神秘的な光景ですが、彼はさっさと上に登って行っているので追いかけましょう。


「――ここは妖精の住む世界の裏側。通常の生物では長時間いるだけで変異が起きるだろう」

「先に言ってくれませんか?」

「……珍しいものを身に付けているな人の子」


 人の話を聞きやがりませんねこいつ。


「それは目印になるが、妖精にとっては玩具の意味合いが強い。代わりとなるものを作ろう。ある程度ならば好きな力を付与できるが?」


 いいかどうかすら聞かれずに妖精の悪戯羽を取り上げられました。何気に気に入っていたデザインだったのですが……でも、玩具の意味合いが強いって事はろくな未来が見えないんですよね。

 ほら、妖精って残酷じゃないですか。

 とすると、彼は一応配慮してくれていると言うことになるのですが……


「敏捷と筋力、あと器用をお願いします。許可も得ずにやっているんですから出来ますよね?」

「いいだろう。その三つを付与する」


 睨んでも効果無しですか。

 一分もせずに完成したアクセサリーは、妖精の悪戯羽と同じくピアスの形をしていますが、デザインはとてもシンプルな輪っかです。

 ただし、よくみれば複雑な紋様が刻まれているので、同じものを作ろうとすればかなりの難易度になるでしょう。


====================

『妖精の耳飾り』

装備可能箇所:耳

・妖精が神秘を固形化して作り出した装身具。妖精郷への通行券として機能する。筋力と器用と敏捷に途轍もなく大幅な補正が入る。

====================


 おおう、補正部分がとんでもないことになっています。見たこと無い表記ですよ。

 しかも妖精郷――妖精郷というのですねここは――への通行券として機能するようなので、再びこのフィールドに訪れることも可能になりました。


「……そちらにも渡しておこう」

「およ、貰っちゃった……いいのかな?」

「貰えるならいいんでしょ」


 ユキにも同じアクセサリーが渡されました。


「さて、今更ですし分かってはいるんですが一応……ここはどこなんですか?」

「……妖精郷、世界の裏側、君達が過ごす座標(テクスチャ)で隠されし秘境。本来なら人の子が入ることなど許されないが、資格を持つ者ならば例外的に道は開かれる」


 螺旋階段の終点、豪華な装飾で縁取られた扉を開いて彼は進みます。まだ案内は終わっていないと言うことでしょう。


 逆光で潜り終えるまで周囲の様子は分かりませんでしたが、扉の奥はバルコニーのような場所でした。狭くも広くはない――いえ、マンションのバルコニーと比べれば倍ぐらいはありますか。

 そして片隅で目立っているのは、ステンドグラスのような色合いの、そう、ゲートと呼ぶべき物体です。

 ゲートを指差して彼は口を開きました。


「……天蓋の森、その奥地へ行きたいのなら試練を受けるといい。いずれ役に立つ」

「奥地に行くこと自体に問題は無いのですか?」

「あそこを禁足地としたのは人の子だ。しかし、旧きハイエルフが守護する地でもある」

「ねえねえロザっち、これ私が聞いていていいやつ?」


 お構いなく喋ってるからいいじゃないですかね。知らんけど。


「構わない。資格を持つ者しか妖精郷に入ることは出来ない」

「ほー……じゃあさ、二人で試練に挑戦ってのも出来るの?」

「望むのならば。しかし代償は大きい」

「……その試練とやらは、今すぐ受けなければならないのですか?」

「望むときに受けるといい。諦めぬ限り試練は続く」


《――特殊クエスト:『妖精郷の試練』が発生しました》

《――このクエストはNPC、色褪せない精霊からしか受注できません》

《――推奨レベルは50です》

《――難易度変更》

《――二人専用クエストに変更されました》

《――推奨レベルは75です》


「……どうする? 私は受ける気でいるけど」

「ロザっちがやる気なら私も受けるよ。連携して強敵に挑むのって久しぶりでしょ?」


 そう言えばそうでしたね。【シュヴァルツァー】の時は集団対集団だったのでユキと二人で連携したようには感じませんし、そもそも今回森の中に誘ったのは私です。


「それに、最近の()()()()は鳴りを潜めてばかりだからね。盗賊狩りもつまらなかったし、ちょっと暴れたい気分」

「じゃあやろうか。久々に、二人だけで」


 クエスト受注っと。

 ああ、楽しみですね。久しぶりに親友と遊べるのです……戦闘欲が疼いて(胸が高鳴って)仕方ありません。

かなり最初でちょこっと触れただけのフラグがようやくクエストへと発展しました。

天蓋の森以外だと平均レベル80以上の辺境に訪れるか、フィールド上で運良くNPC扱いの妖精に遭遇する必要があったので、発生させる方法としては楽な方。発生条件の一つが完全に運任せですが。

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