54.影追の竜鱗腕鎧
□始まりの街・ロザリー
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二日間の全力の成果がこちらです。
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【地平線の騎士団】
『ロザリー』レベル50
右手:侵呪のハルバード+5
左手:――
防具:脱兎フード+4
├紳士な衣服(上)
├紳士な衣服(下)
├ハイドスネークのベルト─頑丈なベルトポーチ
├――
└【呪骸纏帯 ヴルヘイム】
装身具:妖精の悪戯羽
└ベレスの絆
スキル:【奇襲戦士LV2】【ハルバードⅡLV29】【鑑定眼LV22】【看破LV19】【悪路LV21】【襲撃ⅡLV1】【斬撃LV20】【跳躍LV16】【呪詛支配LV18】【瞬発力強化LV5】【持久力増加LV5】【状態異常耐性:麻痺LV2】【状態異常耐性:毒LV12】【状態異常耐性:出血LV2】【採取術LV4】【採掘LV7】
アーツ:《スラッシュ》《旋風斬》《カウンター》《カースドスラッシュ》
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【軽戦士】が【奇襲戦士】になりました。戦士系のスキルなので被ダメージが減りますし、奇襲系スキルの効果も混ざっているらしくヘイト率減少とAGI上昇も付いてきました。
ユニークスキルなのでこれ一つで5レベル分の経験値が持って行かれましたよ。
【襲撃】はそのまま【襲撃Ⅱ】となりました。これは純粋な強化ですね。
【斬撃】も進化させたかったのですが、そうした場合レベルが50を下回ってしまうので止めています。
他のスキルも地味にレベルが上がっていますし、私自身のレベルに余裕があれば順次進化させていく予定です。
防具? 全滅ですとも。衣服と腰装備は残っていますが、どちらも耐久値が限界なので戦闘を行えば即座に壊れてしまうでしょう。
さて、私が始まりの街にいる理由ですが……実は新しい装備を受け取るためなんですよね。
前回のネームドレイド――【シュヴァルツァー】との戦いの後すぐに依頼したのですが、素材が素材なので完成するまで時間が掛かると言われていました。
私がガンツさんに渡した素材は二つ。
【シュヴァルツァーの水晶片】と【彷徨竜の鱗】です。どちらもネームド素材であり、鱗に至っては格が違います。
鍛冶師のハンマーですら太刀打ちできず、どれだけ高温に晒しても融解することのない鱗。
この世界で最も加工が困難とされる素材の一つです。
それらを使った装備が完成したと連絡が来たのです。
ガンツさんのお店の扉には臨時休業の看板がぶら下がっていますが、私は取っ手を捻り中へ入ります。
店に灯りは付いていますが、人の気配は奥の工房にしかありません。
「――おう、来たか」
「来ましたねぇ……」
工房にいるのはガンツさんともう一人、【地平線の騎士団】所属の鍛冶師であるふもっふさんです。
ふもっふさんは狐の半獣人ですが、キャラメイクの際に種族特性を色々と弄っているそうです。アルビノを始めとして、性癖を詰め込んだ自信のある容姿だと公言しています。
「全く、とんでもない素材寄越しやがって。俺じゃなきゃ無駄にするとこだったぞ」
「出来ると思ってましたから」
「……ったく」
「いやあ、補助とはいえ作成に携われたのは嬉しかったですよぉ……」
私は丸投げしただけなので二人がどんな作業をしたのか分かりませんが、少しでも油断すれば失敗してしまう状況だったのでしょう。
二人ともかなり疲労しているように見えますし、ふもっふさんに至っては死にかけてますからね。
「私が言うのもなんですが、これほど加工に命を懸ける素材だとは思いませんでしたよ」
「あ、私の状態は種族特性のデメリットなので関係ないですぅ……」
ハーフエルフは選べる特性が殆ど無いので知らなかったことですが、獣人と半獣人は狼や猫などの身体的特徴を始め、選択できる種族特性が一番豊富らしいです。
「鍛冶師のくせに高温に晒されるだけで死にかけるなんて意味不明な体質だが、コイツのスキルが無ければ十中八九失敗してただろうよ」
「それよりもぉ、完成した防具を装備してくださいぃ……私が死ぬ前にスクショをぉ……」
ふもっふさんが指し示したのは布を掛けられた机です。埃や煤を被らないようにしていたのでしょう。
言われるがままに布を取ると、存在感を放つ恐ろしい防具がそこにありました。
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【影追の竜鱗腕鎧】
装備可能箇所:腕
・鍛冶師の技術と異世界の知恵が詰め込まれたネームド装備。真なる竜の鱗を溶かして作られたこの装備は、その薄さと反比例するかのように途轍もない防御力を誇る。更に、彷徨竜と影の力が混ざり合った結果、不完全ながらもその力を再現することを可能にした。
装備スキル:【影追】
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この装備を一言で述べるのなら、墨、ですかね。
【呪骸纏帯】はおどろおどろしい黒色ですが、これは光を飲み込むような漆黒です。
金属光沢のお陰で凹凸を把握出来ますが、それでも遠目から見れば錯覚を起こすでしょう。
色彩は黒一色ですが濃淡で鱗のような模様を表現しています。しかも、前腕の外側は段々畑のように装甲が重なっているので、より竜らしい見た目になっていますね。
爪部分も邪魔にならない程度に尖っていますし、厨二心を擽るいいデザインです。
装備スキルの【影追】ですが、影を掴んで実体化するスキルのようです。なぜ“追”の字が付いているのか不思議に思いましたが……なるほど、実体化させた影を攻撃すれば相手にダメージが入るのですね。
影に与えたダメージが相手を追う、と。実用性があるかどうかは使ってみれば分かるでしょう。
「実は鍛冶師として非常に屈辱なのですがぁ、私のユニークスキルで何とか形にしただけなのでぇ、改良の余地がまだまだ残っているんですよぉ……」
「……レア度がハイレアなのはそのためですか」
「いつでもいいから同等の素材を持ってこいよ。その時こそ完成させてやるからな」
ネームド装備にしてはレア度が低いと思ったら、お二人の技量でも適わないほど難易度が高かったのが原因なのですね。
「恐らくですがぁ、ネームド由来の素材はレベルよりも経験が物を言うと思いますぅ……」
「俺も同意見だ。そもそもの質が異なるみたいだからな、普通の鍛冶師なら何回も試行錯誤したうえで作るんだろうよ」
♢
ふもっふさんにスクショも何十枚も撮られた後、私は王都の方の冒険者組合に向かいました。
この装備の使い心地を確かめる前に【植物学】を取得するためですね。あと、無いとは思いますがネームド素材の加工法についても調べます。
【植物学】の取得に使うのは植物図鑑です。これはこの世界で判明している植物の名前と使い道が網羅されているもので、王都などの大きな都市にある組合か図書館でしか閲覧できません。
印刷技術が無いに等しいこの世界で本は貴重ですが、組合は植物素材の買い取りも頻繁に行うので、冒険者に知ってもらうために置いているのだそう。
……暗殺桃も載っています。三種の猛毒を持つため取り扱いには細心の注意を払うようにと書いていますね。
不用意に口にすればどうなるか、初日に自分自身の体で味わったので知っていますとも。
半日ほど熟読すると【植物学】が取得可能になりました。
読んでみると意外と面白い図鑑でしたね。小動物を捕まえて捕食するクリオネのような植物など、リアルには無い植物は特に。
さて、そろそろマグダナに戻ってユキを回収しましょう。彼女は二日前からずっと盗賊を追いかけては討伐し、懸賞金を受け取る賞金稼ぎムーブをしているそうなので、そろそろ一緒に遊びたいなと。
フレンドメールを送ればすぐ気付くはずです。




