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セカンドワールド!  作者: こ~りん
三章:褪せることなき神秘を見よ
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50.情報屋ブランの取材

序章に挟む話をどうするか悩んでいます。挟み込むときは通常の更新と同時に行いますので、その時は前書きやツイッターの更新報告でお知らせします。

「運搬依頼……ですか」

「ああ。場所は南東に向かってから更に南に進んだ位置にある都市、マグダナだ」

「うわ、遠いねー」


 ディルックさんから呼び出された私とユキは、地図上に置かれた駒と王都までの距離を見て思わず声を漏らしました。


 マグダナは王国南東の辺境に位置する街で、木材の中でも高価なトレント材の産地です。隣接する天蓋の森は魔力が豊富な地域のため、安定して確保できるのだそう。

 そして天蓋の森は、大陸中央に位置する超巨大な山脈を守護する広大な大森林です。神話に曰く、世界を形作った神々が天へと去る地を護る壁にして試練、一歩でも奥地に踏み入ろうものなら死を覚悟せよと言われる場所です。


 さすがに天蓋の森には入らないと思いますが、マグダナまでですら馬で五日ほどの距離があります。

 王都が西寄りの位置にあるとはいえかなりの距離です。キロメートルに換算すれば二五〇前後と言ったところでしょう。

 リアルだと東京から名古屋まで行けちゃいます。


「トレント材は小指ほどの太さで丸太以上の強度を誇る優秀な木材だ。壊れるわけにはいかない柱の芯に据えるのに適してる」

「およ? でも崩れたのは柱の表面だよね? 中は無事なんじゃないの?」

「……悪魔獣(デビルビースト)が内部で発生した箇所がある。たった二箇所だが、芯が削れてしまっているようでな。経年劣化による影響も危惧されているらしい」


 彼は深い溜息をつき、手袋がはめられた両手に額を預けました。


「じゃあ、なるはやで仕事しなきゃね! 出発日は今日? 明日?」

「それなんだが、馬の調達に手こずっていてな。早くても三日は掛かるそうだ」

「馬」

「馬だ」


 人を乗せて長距離を移動できる馬はこの世界だと貴重ですからね。リアルでも一〇〇万を軽く超える生き物がお安いわけないでしょう?

 ましてや、いい馬となれば数百万、数千万とどんどん値段が上がります。


「馬がだめなら亜竜!」

「もっと手こずるに決まっているだろう……馬より高価なんだぞ?」

「なんだー」


 なんだーって、それぐらい分かって言ってるでしょうに。


 馬の調達に手こずっている理由は察しがつきます。

 王都からあちこちへ行ったり来たりするのに殆どの馬が使われているからですね。騎士団が所有している軍馬も何頭か貸し出されている――信頼できる商人を契約書で縛った上で――ので余裕は無いのです。


 亜竜はそもそも緊急時の戦力としての側面がありますし、長距離を移動させるならスタミナのある重量種ですが、今回のような急ぐ必要がある遠出に使うには向いていません。

 何より、最安値ですら馬より高いのです。

 駄馬に値する個体で一〇〇万ですよ? まともなのを用意しようと思えば馬以上の出費を覚悟しなければなりません。


 私の懐事情からすれば購入可能ではあるんですが、私自身は馬も亜竜も必要と思っていませんし、馬が確保できる三日後までは瓦礫の撤去に勤しみますか。


「――ああそうだ。似合っていますよ、ディルックさん」


 白を基調としつつ、金と赤で装飾された騎士らしい礼服。炎の意匠も取り入れられており、左胸にはクランのシンボル――地平線から昇る太陽が刺繍されています。

 それを着用している彼は恥ずかしそうに「まだ服に着られているだけさ」と答えました。


 ♢


 二日後。

 瓦礫の撤去作業もようやく終わりが見え、次は破壊された地面の舗装に取りかかろうと職人達があちこちへ指示を飛ばしています。

 正真正銘の騎士となったディルックさんが率いるクランであろうと、冒険者は使われる側の存在。私達は指示に従って荷物を運ぶのが主な仕事です。


 そんな折、異人ならば誰もが少なからずお世話になり、色々な意味で有名な人が私を訊ねてきました。


「やあやあ初めまして。手前は【全知蒐集図書館(ライブラリ)】のクランオーナー兼情報屋のブラン・フォトと言う。今は有名人に取材して回っているところでね、幾つかの質問と可能であれば装備及びステータスについても訊きたいのだがどうだろう?」


 彼女はモノクルを身に付け、探偵や取材人と言われれば納得するような格好をした女性です。ロールか素かは分かりませんが変わった一人称を使うようです。


「……内容次第です」

「もちろんさ! 手前を含め、我々は情報を三つの種類に分けている。一、広く公開するべき情報。二、公開する相手を選ぶべき情報。三、公開してはならない情報。装備やステータスは二か三に属する情報だからね、答えたくなければそれで構わないさ」

「そうですか。質問は幾つありますか?」

「そうだね……五つほどだろうか。増えるかもしれないと言っておくよ。ああもちろん、答えにくければ答えなくて結構」


 どうやら良識はあるようですね。

 怪しい雰囲気が漂っていますが、一つの執念に取り憑かれている人だと考えれば理解は出来ます。彼女は情報に取り憑かれたタイプでしょう。


 他の人の邪魔にならないよう、場所を喫茶店に移します。


「さて、まずはこの世界へのスタンスについて教えてもらっても? ただのゲームとして扱う遊戯派か、本物と考える世界派か……」

「私は世界派ですよ。ただ、だからといって殺生をしない……なんて考えはしていませんが」

「私はどっちでもないかなー。殺し合いは好きだけど」

「ふむふむ……」


 ブランさんは使い込んでいる様子が見られる手帳を取り出し、熱心に書き付け始めました。

 それからは私のステータス、戦闘スタイル、特典装備と呪いの武器について訊かれました。

 ステータスはレベルと敏捷優先であること、スタイルは隠すことでも無いので奇襲型戦士、装備はフレーバーテキストだけ教えました。さすがにスキルなどの性能は答えません。


 簡潔な答えばかりですが、彼女は不満を漏らさず頷いていますね。

 答えられない、答えにくい質問は答えなくていいと言ったのは彼女ですし、文句を言うつもりは元から無かったようですが。


「では五つ目……」


 筆を走らせる手を止め、ブランさんは猛禽類のように目を細めて五つ目の質問を口にしました。

 その内容は――


「君は、何をしたい?」


 何をするか、ではなく何をしたいか。私自身(名瀬遙香)への問いかけでしょう。


「私はただ、この世界を楽しみたいだけです」

「なるほど……。では、もう一人の君にも訊こうか。君は何をしたい?」


 今度は細めた目をユキに向けて再度問いました。

 いじけてパフェを食べていたユキは「んえっ?」と間抜けな声を上げました。


「んー、私はロザっちと一緒にいたいからなあ……特に無いよ」

「そうか……そうか」


 噛みしめるように、彼女は言葉を繰り返すと微笑みます。

 そしてUIを操作したと思うと、巾着袋を二つ取り出してこちらに寄越してきました。

 中身は……金貨、SGですか。片面には一〇〇と書かれているので一万SGですね。ちなみに、SGに書かれている数字に一〇〇を掛けた数がその金貨の価値、額です。


 金額は二人合わせて合計二〇〇万。彼女は情報屋とも言っていたので、今回の取材への謝礼なのでしょう。

 少々多い気もしますが、情報屋を名乗る彼女が自分で差し出したのなら、それが妥当な値段だと考えているはずです。


 飲食代は「これくらいは報酬のうちに入らんよ」とブランさんが奢ってくれることになっているので、お金を仕舞い席を立とうとします。


「ああ、一応買いたい情報があれば売るよ? 公開可能な範囲でね」


 そして腰を浮かせた私は少し悩み、もう一度座り直しました。

 買えるのなら買いたい情報がありますからね。特に、PKや賞金首のような、問答無用で倒しても問題無い人についての情報が……


 するとその時、外から人が入ってきました。

 彼は店の扉よりも高い上背と二対の腕を持ち、仏頂面を晒しています。そのまま顔を動かして周囲を見渡したと思うと、ブランさんに近寄ります。


「戻ったか阿修羅丸君」

「……馬の調達は済んだ。苦労したぞ」


 そう言うと彼は、ブランさんが空けたスペースに座り、腕を組んで目を閉じました。


「紹介しよう。彼は手前が率いる【全知蒐集図書館(ライブラリ)】の戦闘部隊隊長、金色阿修羅丸君だ」

「君、は余計だ」

「……だそうだ。ああそこの、珈琲とミルクを一人分追加で」


 やがて注文の品が運ばれ、彼の前に差し出されます。

 彼が静かに珈琲を嗜む横でブランさんは手を組み、改めて私達に質問をしました。「買いたい情報はあるかな?」と。

手前=一人称の一つ。乱暴に言うのならてめぇ。


作中世界の地図はサイコロの一の目を四分割すると分かりやすいと思います。四分割した時の左上が王国、右上が帝国となります。

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