46.管理者の一幕 その二
本日三話目です。
□地球・セカンドワールド運営会社
「こんな短期間でネームドと戦わせる予定など無かったはずだが?」
「仕方のないことさ。内部世界で勝手に起きた現象に私達が介入するべきではないだろう? 自然現象によって生じた事故なら尚更だ」
前回イベントから一週間ほどで発生した二回目のネームドレイド。
どういうことだと問い詰めてきた新堂に、やれやれと肩を竦めて反論する安堂。
公に出来ない事情を抱えた二人が会話をしているのは、彼らの価値観からすればレトロな機械が鎮座し、幾つものコンピュータがケーブルで繋がっている秘密の部屋だ。
毎日のように専用の椅子に腰を下ろし、にやにやと口を歪ませながら内部世界を観測している安堂からすれば、今回のネームドレイドはただの事故のようなものだった。
その結果一つの国が滅びたとしても、正常に動作している自然現象だからこそ彼女は介入しない。
「そりゃあ、私に落ち度があるのならある程度修正するさ。だけど、これはあくまで自然現象――内部世界が生み出した自滅装置だ。言い換えれば、これがあるからこそセカンドワールドは本物だと奴に誤認させられるのさ」
「……だが、プレイヤーが離れてしまっては本末転倒だろう」
「それを何とかするのが君の仕事だろうに……私は自分の仕事はきっちり熟しているさ」
普段より少し真面目な態度で告げられた事実に、新堂は言葉を詰まらせた。
安堂の言っていることが正しいからだ。
世界というのは万が一に備え、何かしらの自滅装置を用意している。
それは、内側で異常に増殖した生物を淘汰するためであったり、外敵を駆逐するためであったり、何を犠牲にしてでも世界を存続させるために必要不可欠なものなのだ。
これがあるからこそセカンドワールドは本物だと証明できる。
逆に言えば、無理に介入して自滅装置が消失、或いは停止してしまえば証明が不可能となり、瞬く間に機能不全に陥るだろう。
「――ほら、ログを見てごらんよ。君のためにわざわざ呼び出してやったぞ」
安堂は追い打ちを掛けるように、ザガンと呼称されているモノに関するログを文章化して表示させた。
そこには生物としてのデータは一切無く、嵐や地震のような自然現象と同じシミュレート結果だけが淡々と綴られている。
「…………はあ、分かった。私の負けだ。もう何も言うまい」
証拠を用意されている状況ではどれだけ反論しても徒労に終わる。そう考えた新堂は眉間を揉んで溜息をついた。
そもそも、自滅装置については新堂も知っている。それを持ち出されてはどうしようもない。
新堂の仕事は会社の社長兼運営責任者だ。そして、安堂の仕事は内部世界とプレイヤー及びNPCの監視だ。
安堂は仕事以外は不真面目だが、間違えてはならない仕事自体は完璧に熟す。
「あともう一つの用件だが、アリアのデータを再確認させてくれ。久木が掲示板でアリアがチートだなんだと騒がれていると報告してきたからな」
「それなら……ちょうど特典装備を獲得した時点のデータを保存してあるから、それを確認するといいさ」
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『アリア』レベル328
右手:【流浪剣 トザマノツルギ】
左手:――
防具:【信義眼 アンサラー】
├騎士の戦闘礼服(上)─【影狼装甲 シュヴァルツァー】(上)─【夜天纏 シン】
├騎士の戦闘礼服(下)─【影狼装甲 シュヴァルツァー】(下)
├頑丈なベルト・改─【蟲灯籠 ブレンダ】─【空間強針 アングルムジャ】
├【螺旋双 フールーダ】
└【次元渡 ポートルート】
装身具:【彗星竜の護符】
├筋力増強の指輪
├敏捷増強の指輪
├テレパシーリング
├ルーンの腕輪(力)
└ルーンのペンダント(命)
スキル:【軽装騎士ⅡLV61】【片手剣ⅣLV37】【体術ⅢLV57】【斬撃ⅡLV42】【打撃ⅢLV37】【悪路踏破LV73】【跳躍ⅡLV47】【鷹の目LV34】【猫の目LV41】【識別LV48】【頑強LV10】【強靭LV10】【宣誓LV22】【魔纒LV49】【威圧LV4】【舞踏LV7】【美食LV14】【礼節LV18】【指揮LV25】【天運LV50】【戦闘継続LV11】【視野拡大LV21】【矢避けの加護LV45】
アーツ:《スラッシュ》《旋風斬》《インパクトブロウ》《寸勁》《魔力撃》《カウンター》
ラストアーツ:《閃光裂破》
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「無茶苦茶だろう? まさにイレギュラーそのものだよ」
せいぜい二つが限度であるユニークスキルを複数獲得し、更には特典装備すら八つも装備している正真正銘の怪物。
レベルも100どころか300を超えてなお上昇している、運営の思惑を超えて人並みを外れたイレギュラーの一つがアリアという存在だ。
スキルに比べアーツは殆ど持っていないが、アリアの場合は素の身体能力とスキルだけで事足りてしまうため、あまり使われていないだけである。
「リソースの容れ物である魂がバグった典型例だからね……。これと同等の人類NPCは、片手で数える程度だけど、これから先増えないとは限らない」
このアリアと肩を並べられる存在はセカンドワールド中を探せばいるにはいるが、やはり片手で数えられる程度しかいない。
逆方向にバグった者はもっと希有だ。一人でもいれば奇跡と言っていいほどだろう。
才能による限界が用意されていないプレイヤーならばいずれは比肩するようになるだろうが、少なくとも年単位の時間が必要になるのは明らかだ。
レベルが上がれば上がるほど、次のレベルまでに必要な経験値も多くなる。
アリアのようにネームドに複数回遭遇した上で単独討伐を為したのなら、短期間でも強くなれるがとても現実的では無い。
「まあ、いずれ超えるべき壁としてならいい試練になるだろう。オンリーワンスキルを取られていないだけマシさ」
「……確か、取得制限を掛けているんだったな」
「プレイヤー用に調整したスキルだからね。NPCじゃ満足に扱えんよ」
オンリーワンスキル……これもまた、いずれプレイヤーが手に入れるであろうモノだ。
だが、少なくとも今はその時では無い。
「――さ、用件は済んだのだろう? さっさと上に戻って仕事を熟してきたらどうだい?」
「ああ、そうだな。では私は会社の経営に戻るとしよう……。――くれぐれも、【邪神】に染められるようなヘマはするなよ」
扉を潜り、部屋を後にした新堂を視線で追い、安堂は深い溜息を零す。
「……それはこちらのセリフだよ、哲学的ゾンビめ」
これにて第二章終了となります。まだ出し切ってない設定ばかりですが、楽しんでいただければ幸いです。
三章はまだプロットが作成できていないので未定となりますが、書き溜めせず更新していくつもりでいます。
最後に、私の指を働かせるために評価やブクマ等をしてくださると助かります。
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