42.大地を覆う黒 その二
更新が滞ってすみません。
『これは本当に面白いのか?』と自問自答してしまい、私の中のキャラクター達が動いてくれない状態になってました。また数日遅れてしまうかもしれませんが、今はゆっくりですが動き出してくれているのでエタることだけは無い……はず。
範囲攻撃によって影狼の侵群が僅かですが抑えられ、続々と到着した援軍が更に抑えこみます。
異人より住人の数の方が多いのは王都だからでしょう。
常駐している戦力は他の街の比じゃないでしょうし、異人に関しては全員が王都まで来られるわけじゃありませんからね。
「状況は?」
「見ての通り劣勢ですよ」
「つまり、ここからは人数次第と言うことか」
大地を覆い尽くすほどの群れですから、どれだけ強力な一撃を放てるとしても人数が必要です。
「俺達は左翼を担うぞ! 一匹たりとも後ろに通すな!」
「おう!」
「タンクはいつも通り前出てくれ! 広く布陣して可能な限り倒すぞ!」
ディルックさんが攻略組に指示を出してくれるので、私は敵陣に突っ込んで暴れましょうか。
乱戦は得意なほうですからね。
「異人達だけに頼るなよ! 騎士の底力を見せつけてやれ!」
アリアさんの活躍に影響されたのか、騎士達も隊列を組んで成果を上げていきます。
実戦経験が豊富な分やはり騎士達の練度は攻略組を上回っていますが、異人の最大の強さは死んでも復活できる点にあります。HPの消耗は住人ほど深刻に考える必要がないんですよね。
「でも、数が多いと神経すり減るし……ねっ!」
とはいえ肉体的、精神的な疲労は溜まりますので、最小限の動きで倒せるように効率を求める必要があります。
大きく振るうのではなく、弱点を抉るように小さく攻撃します。
【自在帯】もふんだんに活用していきますよ。
レイド開始から数時間経過して日も沈み始めた頃。
「――だああああ! いつまで続くんだコレ!?」
「知るかよ黙って働け!」
異人も住人も後退して休息を取りながら戦っていますが、無尽蔵に攻めてくる魔物は一向に減る気配を見せません。
太陽が完全に沈んでしまえば戦況はもっと不利になるでしょう。
相手は影のような狼の大群……暗闇に紛れられると視認性が一気に落ちてしまいますからね。
私はこの数時間で三回ほどリスポーンしてしまいました。
今は休息を取っているのですが、正直に言うと勝てる気がしません。
もちろん、アリアさんがいるのでいずれは勝てるでしょう。あの人は私がリスポーンしている間もずっと休まず戦っていますから、戦力としては最強クラスです。
ですが、この場合の勝利は被害を度外視すればの話であり、王都が壊滅するような事態に陥れば、たとえネームドを倒したとしても敗北と言えるでしょう。
「……?」
そんなとき、視界の端で一件の通知が届きました。
気になって確認して見ると、それはフレンドメールの通知でした。ですが、ディルックさんのではありません。
「――ユキ?」
ネームは白雪御前――ロスト・ヘブンの時と同じ名前なので間違いなくユキです。
そういえば一週間近く経ってますし、ハードを購入していてもおかしくありませんね。
『掲示板でネームドレイドやってるって書いてあったから王都に向けて爆走中ε≡≡\( ˙꒳˙)/』
届いたフレンドメールには、王都に向かっている旨がスクショとともに書かれていました。
始めたばかりなのに王都……?
『ロスト・ヘブンより再現度高くていいね(๑•̀ㅂ•́)و✧』
二通目に添付されていたスクショには、眼孔に刀を深く突き刺されている魔物の姿が写っていました。
ハリボテ装備でよく戦えますねユキは……
『ロザっちは今何してるの(੭ ᐕ))?』
『煽ってるのか貴様は(#^ω^)ピキピキ
リスポーンしたから休息を取ってるところ』
イラッとする顔文字を送ってきやがったので送り返します。
ユキはよく顔文字を使うのですが、たまにこうやって煽りを混ぜてくるんですよね。
『へー( ˙꒳˙ )
あと二、三時間あれば王都に着くからそれまで取っといてね!』
取っとけと言われましても……
まあ、戦力としては期待できる人物なので、参加してくれるのなら有難いことです。
ですが、ユキが到着する頃となると、日が暮れて夜になっている時間帯ですね。
「――【夜天強化】!」
休息を終えて戻ると、だいぶ暗くなった戦場では相変わらずアリアさんが無双していました。
何やら強化系のスキルを発動したようで、先程よりも素早く殲滅を行っています。
スキルの名称から推測するに、夜に限定することで強化率が引き上がっているのでしょう。
私も参加して影狼を倒しますが、アリアさんの活躍が八面六臂すぎてあまり負担はありません。無理に突っ込めば死ぬんですけどね。
右翼と左翼は大勢で列を作って押し止めていますが、中央はほぼアリアさんだけで食い止められていますから、本当に基礎スペックが桁違いなのだと思い知らされます。
レベルの暴力に複数の特典装備スキル……
異人である私もいつかは辿り着ける境地なのでしょうが、最低でも年は掛かりそうですね。
「――もしかして群れじゃない?」
『……どうゆうこと?』
ふと思った独り言を耳聡く捉えたアリアさんが、テレパシーリングで質問してきました。
戦闘中の騒音で普通は聞こえないと思いますが……まあ、アリアさんなら聞こえていてもおかしくありませんか。
『見えるし、聞こえるし、触れる……だけど、消え方に少し違和感があるんです』
斬って殺した時点でポリゴン化が始まるので比較が非常に難しいのですが、何というか、生物を殺したようには思えないんですよ。
『幻影……もしくは分体の可能性はありませんか?』
『少なくとも、目の前にいて攻撃してくるのは確かだけど……異人に【狩人】スキルを持っている人はいる?』
『そもそもそのスキル自体初耳ですけど……』
『元々は狩猟で生活している人しか獲得できないスキルで、経験値に回される分のリソースが激減する代わりに死体が丸ごと残るようになるスキルだよ。騎士団だと獲得しないことを推奨しているんだけど』
『……影狼の死体が残るようならば生物、そうでないなら私の考えに近いと言うことですか』
「そうだよ」
周囲の影狼を蹴散らして私の側にやってきたアリアさんは、影狼を一体生け捕りにして渡してきました。
【狩人】スキルを持っている人を探して試してこい、と言うことでしょう。
他の人ではなく私に渡された理由は移動速度にあるのでしょうね。さっさと行ってさっさと戻ることで少しでも戦闘に貢献しろと。
【自在帯】で影狼の手足を雁字搦めにした私は、急いで後退し【狩人】持ちを探します。
騎士団は獲得が推奨されていないと言うことなのでディルックさんの方へ向かいます。
「ディルックさん! 【狩人】スキルを持っている人を知っていますか?」
「ロザリー!? いや、知らないけど何を……って、そういうことか。――誰か【狩人】スキルを持っているやつはいるかーっ!? 」
生け捕りにされている影狼を見て何をするつもりなのか察したらしく、端にまで行き渡るほどの大声で【狩人】を持っている人を探してくれました。
たしか【大声】とかいうスキルでしたね。私はソロなので取っていませんが、指示を出す立場の人にとっては有用なスキルですか。
やがて後方の生産職の一人が手を上げました。
ちょうど武器の補充をしに来たらしく、声を上げてこっちだとアピールしていますね。
「ちょうど良かった! ロザリーが何か試したいことがあるそうだから手伝ってやってくれ!」
「ロザリーってイベントの時の――って、俺生産職なんだけど?」
「【狩人】を持っているなら問題ありません。群れの一体を生け捕りにしてきたので、効果が出るか試してくれませんか?」
今攻めて来ているネームドが生物の群れではない可能性が浮上したため、正体が何であるか判明させれば友好な対処法が取れるかもしれないと説明すると、生産職の彼は快諾してくれました。
彼曰く、【狩人】のデメリット効果である獲得経験値の激減は生産に影響しないとのことで、自分で素材を集めるタイプの生産職は最初の頃から所得しているのだそう。
そして、時間を掛けてようやく影狼が倒されると、ポリゴン化せずに溶けて消えました。
ベレスの【影同化】に似ていますね……
『アリアさん、影に溶けるように消えました』
『なるほど……じゃあエレメンタル系かな』
――エレメンタル。魔物の種類の一つで、自然現象や概念など生き物のように形を得た魔物だと聞いています。通常の生物とは違い、生命維持に必要なのは呼吸などで体内に取り入れる魔力だけなので害は少なく、自我を持たない個体は対策さえしていれば安全と言われています。
ですが、自我を獲得した個体は見掛けた生物を殺しに掛かってくるらしく、それは人間も例外じゃないそうです。
エレメンタル系の魔物は発生条件がとても厳しく、特殊な環境か、偶然が重ならない限りは誕生しないそうですが、それ故に討伐難易度はかなり高いと言われています。
核さえ潰せば倒せますが、非生物なので生物が生存できない環境に逃げ込まれたら打つ手がありません。
『私が一人で突っ込んで核を潰せばそれで解決できるんだけど、肝心の核の場所が分からないからなー』
いくらアリアさんと言えど、場所が不明な核を探し出して潰すのは難しいようです。
相手は影が物質化したような魔物ですし、今の時間帯だと逃げ場はいくらでもありますからね。
……うん?
『アリアさん』
『何?』
『もしかしたら核の場所、分かるかもしれません』
私の指を働かせるためにも評価やブクマ等をしてくださると助かります。
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