表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンドワールド!  作者: こ~りん
二章:地平線の騎士団
35/115

35.滲み出す悪意

本日は一話だけの更新となります。

 システムが認定するタイプのクエストは幾つかありますが、チュートリアルクエスト以外はどれも発生させること自体が難しいとされています。

 しかも、冒険者組合で受注できるクエストは等級によって難易度が変わりますが、こちらは偶然起きた出来事をシステムがクエストとして設定しているので、レベルと難易度が釣り合わないことがあるのだそう。

 状況によってはレベル1でボス級の魔物と戦うことだって有り得るわけです。


 今回私達は、ケインさんと繋がりがある幾つかの店の店主に聞き込むよう依頼されました。

 兵士長さんが地図を貸そうかと言ってくださいましたが、マップ機能がある私達は場所だけ教えてもらってマーキングしました。

 UIから開けるマップ上に立てられる目印は一〇個までです。その内の五つを店の場所に立てました。


 けれど、すでに月が昇っている今の時間では店は閉まっていることでしょう。

 リアルでは二四時間営業のコンビニが当たり前にありますが、この世界では暗くなれば仕事を終えて休むのが当たり前です。

 深夜にインターホンを鳴らされるような真似をされれば、相手が衛兵だろうと騎士だろうと怒りますしね。


 翌日に改めて集合した私達は、まずは木材を加工している木工職人の店に向かいました。

 この店は食器類を専門に作成して、食べ物を扱う店や雑貨屋に卸していたそうです。

 ケインさんは商品を卸す取引先の一人でしかなかったようで、死亡したと聞いても特に何も言いませんでした。悪魔の左手のタトゥーについても知らなかったようです。


 二件目は鍛冶屋です。こちらも木工屋同様雑貨を卸していただけのようで、タトゥーのことを聞いても何も知らないようでした。

 三件目はポーションを仕入れていた店のようで、週に一度だけ在庫を買っていたようです。

 四件目は冒険者組合です。組合で商品を取り扱って貰う代わりに幾つかの仕事を引き受けていたと受付嬢さんから聞きました。


 そして最後の一件ですが……妙なことに店が閉まっています。


「休業……?」

「いやあ、俺らも何で閉まってるか分からないんだよ」

「事情も説明されずに閉まっているんですか?」

「ああ。書き置きも何も無いから困ってるんだ」


 頭を掻きながらそう言った彼は嘘を言っているように見えませんし、本当に困っているのかもしれません。

 ですが、私達はそれを解決するためにやって来たのではなく、悪魔の左手の手がかりを探すために来たのです。


「――ここの店主に何か不審な点があったりしないか? たとえば、変なタトゥーを彫っていたとか」

「不審って言われてもなぁ…………ああ、そういや暑い日もずっと長袖だったな。半袖でいるとこ見たことないや」


 なるほど。

 私とディルックさんは顔を見合わせました。


「正解みたいだな」

「ええ。では兵士さん達にも協力して貰いましょう」


 この店の店主が悪魔の左手と何らかの関わりがあると確信した私達は、早速詰め所に向かって得られた情報を伝えました。

 相手が裏社会を牛耳る闇組織ということで、大所帯で強制捜査をするらしいです。

 私とディルックさんもレベルはそこそこあるので参加するように頼まれました。


 善は急げと言いますか、準備はすぐに終わり件の店主の家までやってきました。


「開けろ! 闇組織と関わりがあるとの疑いがかけられている! 開けなければ反抗の意思ありと見做す!」


 ドンドンと強く扉を叩いていますが、中の人は一向に応答する気配を見せません。

 兵士長さんが私達を見て頷きます。武力行使を許可するということでしょう。

 私はハルバードを、ディルックさんは大剣を取り出してそれぞれ構えます。


 扉を破壊するのは一撃の威力が高いディルックさんに任せます。私は低い攻撃力をスキルと経験で補うタイプですから。

 大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろされた大剣は見事に扉を粉砕し、突入の合図となりました。


 家自体はそこまで大きくありません。良くも悪くも一般的な商人の自宅と言ったところでしょう。

 死んでも問題の無い異人である私とディルックさんが先行し、その後ろを兵士さんが付いてきます。念のため【自在帯】も使っておきましょうか。


「そこまでだ!」

「ひぃっ!」


 そして一番奥の部屋の隅で何やら逃げる準備をしていたらしい男に、ディルックさんが大剣を突きつけます。

 すぐに兵士さん達が男を取り囲み、縄で体を縛っていきます。


「わ、わた、私が何をしたと!?」

「悪魔の左手と関わりを持っている疑いがある。詰め所でしっかり話してもらうぞ」


 兵士は戦う職業の一つです。そのレベルは商人とは比較にならないほど高く、抵抗しようとしても身動きが取れないでしょう。

 しかし、縛られてなお抵抗する男は、決死の形相で近くの兵士さんにタックルをかますと、隠し持っていたナイフで縄を切り逃げ出しました。

 急いでそれを追う私達ですが、男はなぜか敷地内から出ようとしません。

 男は左手を高らかに掲げました。


「あ、悪魔よぉ! わ、わた、私の左手をここに捧げるぅ! 露呈したことを無かったことにしろお!」


 晒された左腕には悪魔の左手のタトゥーが彫られていて、それは脈打つようにじわじわと蠢いています。

 それが非常に危険なものだということは一目瞭然であり、腕を切り落としてでも止めるべきだと即座に判断した私達は武器を振るいました。


 しかし、私達の攻撃が届く直前に、見えない何者かに武器を掴まれて行動を止められます。攻撃が止められたことによって、男は誰にも阻まれることなくその儀式を完遂させてしまいました。


「これで……これで私の人生は薔薇色のままだあ!」


 そう言って私達を嘲るように笑う男ですが、その左手は黒く変色して崩れており、どう見ても今まで通りの生活は出来ないでしょう。

 崩れた左手は彼の足下で小さな山を築いています。


「――ぁあ?」


 そして、徐々に体積を増やして男の体を呑み込んでいきます。

 少しずつ、少しずつ体が真っ黒な物体へと沈み、比例するように何者かの存在感が増していきます。

 見えない何者かを振りほどこうとしても、武器は空中に固定されているかの如く、全く動かせそうにありません。


 仕方ないので武器を手放し、【自在帯】で男を捕まえようと試みます。けれど、脅威になると思われたのか、四肢を掴まれ【自在帯】も全てが防がれました。

 見えないのに確かにそこにいる何者かの力は相当なものです。万力のように込められる力が徐々に強くなっていきます。


「燃えよ――《スラッシュ》!」


 ディルックさんもこのままでは拙いと判断し、【ヴルヘイム】戦で見せた疑似エンチャントを発動しました。

 炎が苦手なのか、それとも魔法そのものが弱点なのか、私とディルックさんを掴んでいた何者かの気配が遠のいたのを感じます。


「違う、やめろ……こんなつもりじゃ――こんなことをしろとは言っていないぃぃぃぃぃいいいいいいッ!!!」


 ですが、男はすでに首まで沈んでおり、もはや救出は不可能でしょう。

 ほんの数秒で男だったものは黒い物体に置換され、今度は内側から膨らむように毛むくじゃらのナニカが染みだしてきます。

 やがてその姿が(あらわ)になると、辺り一帯に響き渡る野太い雄叫びを上げ、その膨れ上がった腕を振り上げました。


「っ、【看破】!」


====================

悪魔獣(デビルビースト) レベル50

【殺戮本能】【悪食回復】【悪魔変生(偽)】

====================


 持っているスキルは三つ。字面から効果は推測できますが、STR極振りみたいな見た目の怪物が持っているとか笑えませんね。異常に発達した腕で地面を粉砕した衝撃波だけでも、私達を怯ませるには十分すぎる威力があるのですから。

 おまけに、表示されたレベルは私達以上です。

 さすがにネームドよりは格下だとは思いますが……


 それと、見えない何者かの気配はいつの間にか消えています。私達を妨害していたのはこの怪物を誕生させるためだったのでしょうが、何かしらの特殊なスキルで変化させたのか、それともあの男の願いの代償がこれなのかは分かりません。

 ただ一つ言えるのは、ここで倒さなければならない敵と言うことです。

兵士のレベルは30~40が多い。

騎士団はレベル50以上でなければ入団できない決まりがあるため、レベルが足りない者は一旦兵士に志願して実績を積み、レベルを上げてから改めて騎士団の入団試験を受けるのが一番の近道だとされる。

ただし、才能によって到達可能なレベルが決まっているため、八割以上はレベル40以下のまま兵士を続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ