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セカンドワールド!  作者: こ~りん
二章:地平線の騎士団
33/115

33.怪しい人影を追え

サブタイトルの数字を間違えていたので修正しました。

 □王都・ディルック


 冒険者組合が運営している宿の一室で、ディルックは熱心に机に向かっている。

 机の上に広がっている紙一枚一枚を確認しては丁寧に、そして素早く署名していく。


 この紙の束はクラン設立申請に必要な書類だ。

 草案やメモ書きなども含まれているため実際に提出するのは半分にも満たないが、現時点で参加希望を出しているプレイヤーの名前やクランの活動内容などが纏められている。

 クランオーナーとなるディルックのプロフィールも当然用意されており、彼は今日一日ずっとこの作業をしていた。


「………………ふう」


 クランは冒険者組合や商業組合が管理する組織であり、活動内容によって戦闘系、商業系と分類される。

 ディルックが設立しようとしているのは、冒険者組合管理下の戦闘・探索系クランだ。

 すでに参加が決定しているメンバーは殆どが攻略組であり、彼が事務作業をしている今もクエストを熟しているだろう。


「あとは組合員と相談して細かい部分を詰めて清書すれば完成……か」


 提出する予定の書類を束にしたディルックはそれをインベントリに仕舞う。


「少し散歩するか」


 何しろ朝からずっと作業していたのだ。背伸びして体をほぐし、ディルックは宿屋を出た。

 外は前日同様快晴で、気持ちのいい天気となっている。


 街中のため大剣は装備していないが、自衛用の短剣はベルトに括り付けてある。

 スキルこそ乗らないがステータス自体が高いため自衛としては十分だ。


(……たまには街中の冒険ってのもいいな)


 いつもなら組合とフィールドを行ったり来たりするばかりだったが、目的を定めずにぶらぶら歩くのも新鮮に感じる。

 そしてディルックは路地裏へと足を進めた。

 特に理由があるわけではない。たまたま、そういう気分だっただけだ。


 路地裏は表通りほど広くはないものの、王都だけあってやはり整備されている。

 むしろ隠れた名店などがありそうだと少しワクワクするほどだ。建物が日除けになっているのもいい。


 詰まれている木箱などを避けて、更に奥へと足を踏み入れる。

 やがて路地裏は細い横道へと変化し、より一層薄暗くなった。

 道端に座り込んでいる人影もちらほらと見え始める。


(スラムというやつか)


 ディルックはそこをスラムと考えたが、実際は歩く体力も無い浮浪者達が人目に付かないのをいいことにたむろしているだけだ。

 だが、危険という事実は変わらないため、ディルックは短剣の柄を握りいつでも抜けるようにした。

 そうして警戒している人物を襲うほど、浮浪者も馬鹿じゃない。怠け癖はあっても考えることは出来るわけだ。


「……うん?」


 スラムのような細い横道を抜けたディルックは、視界の端で何かが動いたのを認識した。

 一秒にも満たない一瞬だが、子どもの足のようなものがディルックには見えた。

 よほど正義心に溢れた者でなければ気のせいにでもして見なかったことにする、ほんの一瞬の出来事。しかし、彼の視力は視界の端で行われた一瞬の出来事を正確に捉えていた。


「っ!」


 だから、ディルックは迷わず駆けだした。

 ゲームのNPCだと分かってはいても、犯罪を見逃すような性格はしていない。

 短剣を抜き、角を曲がって実行犯であろう人物の影を追う。


(速い……敏捷は俺と同程度か?)


 ギリギリの距離での追跡だ。優れた視力がなければすぐに見失ってしまっただろう。

 ディルックは敏捷を落とさないために敢えて大剣を装備せず、そのままステータスの限界まで身体能力を発揮させる。


 壁を蹴ることで速度を落とさずに角を曲がる、VR慣れしていないと難しい動きを難なくこなし、だんだんと狭く複雑になってくる路地裏を迷うことなく進む。

 今まで幾つものVRMMORPGをプレイしてきたディルックにとって、この技術は何千回の失敗を繰り返して会得したものだ。五感がリアル基準まで引き上げられていようと、物理演算がしっかりしているのなら失敗はしない。


 だんだんと実行犯らしき怪しい人影との距離も詰まる。

 このままでは追いつかれると考えたのか、その人物は角を曲がらずに表通りに飛び出て人混みに紛れようとする。

 さすがに人が多い場所だとディルックも追跡が困難だと考え、せめて手がかりだけでもとローブの裾を掴もうとしたとき――


「……ディルックさん?」


 唐突に現れた女性が足を掛けてローブを被った人物を転ばせた。

 顔面から勢いよく地面に激突したため、多少のダメージでは済まないだろう。だが、攫われた子どもはどこにもいなかった。


 □王都六番通り・ロザリー


 ケインさんの雑貨屋を後にした私は、バザールを横目に散歩していました。

 しばらくは王都が活動の中心点になるかもしれないので、予めマップを埋めておきたいんですよね。さすがに細かい路地までは網羅しきれませんが、大きな通りぐらいなら二、三日で埋まるでしょう。


 バザールでは異人住人問わず、様々な人が並べられた商品を前に唸っています。

 私に審美眼なんてありませんし、本当に気に入った物以外を買うつもりはありませんが、こうやってただ眺めているのも楽しいものです。


 最近は買い物も何もかも携帯端末で済んでしまいますからね……。こうやって歩きながら商品を物色する機会って遠出したとき以外は無いんですよ。


 それとバザールを眺めていて思い出したのですが、シュアデルセで怪しい露天商から買ったこの装身具、妖精の悪戯羽のフレーバーテキストにある妖精にはまだ遭遇していません。

 妖精にも会いたいですし、やりたいことが溜まっていく一方です。


「……って、素材も売っているんですね」

「ああ、ごく一部の物好きだけだがな。買うか?」

「いえ、必要としていないので買いません」


 バザールの端っこで絨毯を広げていた壮年の冒険者さんは、並べてある商品の一つを私の方に寄せて話します。


「そう言うなって。見るだけでもいいからさ」


 ガラス瓶に入れられたそれは何かの魔物素材なのでしょうか。厳重に封をされています。

 それ以外にも真珠のようなものや動物の体毛らしきものなど、彼は様々な素材を見せてくれました。


「これは帝国で仕留めた獲物の素材なんだが、どんな魔物だったと思う?」

「生憎と私は異人なので、帝国と言われてもどこにあるのか知りませんが……狼ですか?」


 似ている素材はたくさん入手しましたからね。


「そうだ。だがコイツは普通の狼系とはひと味もふた味も違う。なにせ、氷雪と同化するんだからな」


 ベレスの【影同化】と同じようなスキルを持っていたのでしょうか。

 ですが、そんな魔物の素材なら普通に売ればいいのでは……?


「はは、まあ趣味だよ趣味。いつもは組合に卸してるが、たまに自分で狩った獲物をこうやってひっそり売ってるのさ。コイツ以外の素材も中々の粒ぞろいだぜ?」


 私が少し興味を持ったことを察したのか、彼はニヤリと笑って腰のベルトポーチから丁寧に仕舞われた瓶を取り出しました。

 衝撃で瓶が割れないようにするために包帯が幾重にも巻かれています。

 それを一枚一枚剥がし、彼は周囲から隠すようにこっそりと中身を私に見せました。


「――【彷徨竜】の鱗だ。真なる竜由来の素材なんて滅多に手に入らないぜ?」


 瓶の中に入っていたのは、銅と金を混ぜたような不思議な色合いをした硬質な鱗です。親指と人差し指で作る輪っかと同じぐらいのサイズの鱗が五枚。

 彼は私に指を五本立てて見せました。


「…………買いましょう」


 真なる竜――ネームドの中でも不滅とされる存在が由来の素材は、彼が言うように滅多なことでは手に入らないはずです。

 住人の間では常識とされる、この世界で最強の生命。人類が生存不可能な領域に住まうという伝承は聞いたことがありますが、まさか実物を見られるとは思いませんでした。


「いいか、俺がコイツを持ってるってことは内緒だ。異人の嬢ちゃんでも価値は分かるだろ?」

「ええ、間違いなく騒ぎになりますね」


 五万SGを彼に渡し、対価として一枚の鱗を手に入れました。彼がそうしていたように布で包み、私は入手した【彷徨竜の鱗】というネームド素材をインベントリに仕舞います。


「…………よし、誰にも見られていないな。他にも欲しい素材があったら値引きするぜ?」

「では……これを」


 【鑑定眼】で素材名が判明した物……ではなく、名前すら見えなかった素材を一つ選びます。

 私の【鑑定眼】が通じないということは、素材元の魔物のレベルは確実に高いはずですから。


 そして予定に無かった買い物を済ませた私は、バザールを抜け七番通りに戻ろうとして――建物の影から飛び出してきた怪しい人物を発見しました。

 その人物はフードを深く被っていて人相は分かりませんが、背格好や体格から男性だと分かります。


 何かから逃げるように脇目を振らずに走っているその人物の後ろにいる彼を見て、私は咄嗟に足を出してその男を転ばせました。

 フードを目深に被った男はその勢いのまま地面に激突します。


「……ディルックさん?」


 そして、この男を追いかけていたディルックさんに話しかけました。

 一体何をしていたのでしょう?

【彷徨竜の鱗】一枚五万SGは良心的な価格です。むしろ安すぎるくらい。


ネームド由来の素材は加工すること自体が難しいうえ、この鱗はネームドの中でも最高峰の存在の素材なので、伝手のある鍛冶師にすら依頼できずに困っていたところ、ちょうどいい売却先が見つかったから譲った感じです。

普通に売却した場合数十万SGがぽんっと手に入りますが、代わりに厄介ごとに巻き込まれてしまうので彼はこうしました。

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