31.王都到達
おはようございます。
朝からログインした私は宿の朝食を平らげ、移動を再開しました。
遭遇する魔物は私の胸当てにも使われているインパクトボアや、始まりの街西にも出現した狼の群れですね。レベルはどちらも30を超えています。
それらを倒しながら街道沿いに進み、やがて見えてるのは堅牢な壁に囲まれた王都です。巨大な門の脇には一対の石像が直立し、その足下に行商人や旅人の列があります。
そして、ここからでも見えるのが王都の中心であり国の中枢でもある巨大な城、クリスタル城です。
クリスタル城は地盤から巨大な水晶が突き出ており、それを活かすように建築された建国当時から存在する王国最古の城なのだそう。
ゆっくりと進む列の最後尾に並んだ私は、だんだんと壁に阻まれて見えなくなる城を見上げながら、同時に壁の装飾にも視線を向けます。
王都を守る壁には、本来であれば不要なはずの彫刻があり、その精密さが王国の技術力と豊かさを表わしています。
「――出身と目的を」
「異人の冒険者です。観光とクエスト目当てに来ました」
「……通ってよし」
手続きはとても簡単なようですね。あからさまに怪しい人物以外は数秒で通れるようです。
異人の存在も周知されているようで、特に驚かれることもなく私は王都の中へ足を進めます。
王都は建築物や通路が整然とされており、広い通りが真っ直ぐに奥まで続いています。通路もリアルの道路のように歩行者用と馬車用できちんと分けられており、犯罪抑止のためか兵士の巡回も行われていますね。
そして何より、冒険者の数が多いです。
通りを歩くだけでも両手で足りない数のパーティーとすれ違いました。
人間以外の種族もちらほら見掛けますし、中にはお金が掛かっていそうな全身鎧を着込んだ人もいます。国中から様々な人が集まっているのでしょう。
「やあこんにちは」
「こんにちは」
私がハーフエルフだからなのか、エルフやハーフエルフの人には出会い頭に軽い挨拶をされますね。
人類種にカウントされるとはいえ、人間以外で同じ種族に会うのは珍しいのでしょう。エルフやハーフエルフは五人としか出会いませんでした
当然ながら、冒険者組合も相応に大きな建物で、出たり入ったりする人の数も始まりの街の比じゃありません。
受付に並ぶ人も多いです。
私は用事が無いので依頼板に向かいましょう。
「ポーションが……」
「食べ物も幾つか……」
「前より報酬が高くなっているな……」
などなど、依頼板を眺めながら手持ちや仲間と相談している声が聞こえます。
この世界で生活している住人の冒険者達は日々のクエストが命に直結しますので、自分の実力とクエストの報酬、そして手持ちの消耗品などを秤に乗せて悩みます。
しかし、異人である私は気楽にクエストを受けられますが、そうやってクエストを受ける異人が増えれば住人の冒険者は仕事が無くなるのでしょうか。
……いえ、雑用の仕事は恐らく無くならないでしょうね。
異人――つまりプレイヤーは楽しむためにセカンドワールドをプレイしています。受けるクエストも戦闘系ばかりでしょう。
生産系の人達も自分達に関係するものを優先するでしょうし、依頼板の端っこにある日雇い労働や雑用は必然と残るはずです。
「これにするか」
私が選んだのはインパクトボアの討伐。当たり障りのないクエストですね。
受付で受理してもらったら来た道を戻って王都の外に出ます。
レベリングの時間です。
さて、突撃猪の特徴ですが、成人男性の腰ほどの高さと自分より大きいものに突撃する生態が上げられます。
人間に対しても視界に入ったら突撃かましてくるそうですが、遠くであれば何も問題ないそうですよ。
「はああ!」
私はむしろ経験値のために殺しに行くんですが。
レベル30台の魔物の経験値は美味しいですね。ガンガンいきましょう。
「mya!」
「ナイスベレス!」
ベレスには離れているインパクトボアのヘイトを集めてもらっています。
怪我をするほどのちょっかいを掛けられたら襲わずにはいられませんよね。そして私が視界に入れば標的をこちらに変えます。
そうやって向かってきたインパクトボアは全て経験値にしましょう。
【自在帯】で転ばせれば突進の勢いをそのままダメージに転換できますし、そこにハルバードを叩き込めば大きなダメージが見込めます。
それに侵呪のハルバードって元々の攻撃力が高めなんですよね。耐久値も高いですし、クリティカルが入れば一撃で倒せます。
「【怨念解放】【呪詛支配】!」
【自在帯】で対処しきれない時は、この二つのスキルで自分にステータス上昇のバフを掛けることで、攻撃力を上げて戦います。
【怨念解放】は呪詛、瘴気、怨念の三つからばらまくものを選択できます。そして私が選択しているのは【呪詛支配】で自バフに変えられる呪詛です。
瘴気と怨念は自由に操作できないので自然と呪詛一択になるんですよね。
そして、遠心力も加えたハルバードの威力は、頑丈なはずのインパクトボアの頭蓋を簡単に粉砕します。
「ふっ!」
頭蓋を砕いた個体を足場にして跳躍すれば、今度は重力を威力に上乗せできます。
死亡してポリゴンに変わるまでの数秒さえあれば、足場としては十分ですから。
「っと、次は狼ですか」
名前は草原狼、常に群れで生活する魔物です。
群れを形成する数は五体前後である場合が多く、獲物の逃げ場を塞いで狩りをするため、基本的にはソロで相手をするべきではありません。
「……五体程度じゃ私には通じないよ」
そんな私の余裕を見て警戒したのか、狼達はじりじりと包囲網を狭めて隙を窺ってきます。
私の影に戻っているベレスは移動先になる影が無くて困っていますが、私はハルバードを構えて待ちの姿勢を貫きます。
やがて業を煮やしたのか、一番小さい個体が飛びかかってきました。
それは群れの中で若い個体だったのでしょう。
諫めるように他の狼が吼えてその後に続きますが、来る場所が分かっていれば対応するのはとても簡単です。
「ヴォフ…………」
跳ね上げるようにハルバードを顎の下に叩き込むと、小さな嗚咽と血飛沫が漏れてきます。そして勢いを失って落ちたので後ろの邪魔になり、動きが止まった首に向かって斧頭を振り下ろせばまずは一体。
【自在帯】で仕留めた個体を振り回して続く三体目以降の狼の動きを阻害し、無事な個体を優先して攻撃します。
「連携されると厄介な魔物だけど、私のペースに持ち込めば簡単に崩れるね」
私には奇襲のためにあの手この手を使ってきた経験がありますからね。連携されたときの対処法も頭に入れてありますし、どのみち五体程度じゃ私を倒すには足りません。
数が減るほど私の動きがよりアクティブになります。
「これで五体目……!」
鎌部分で最後に残った個体の喉を斬り裂き、大量出血で五体目のプレーリー・ウルフも無事討伐出来ました。
そして今のでレベルが40に到達しましたね。
スキル進化もあるので欲を言えばもう少し上げたいのですが、自バフが切れたので今日の狩りは終わりにします。
【怨念解放】はリソースを貯め込んで放出するタイプのスキルなので今日はもう使えません。
インベントリも埋まってきたので売却したいですし、冒険者組合に戻るとしましょう。




