28.鍛冶と霧の街、あとゴブリン
本日三話目の更新です。
鉱山の街ミストレイル。
街の北西に面している巨大な鉱山と、街に掛かる霧が有名な、鍛冶と霧の街。
日夜問わずあちらこちらから鉄を叩く音が聞こえるのがこの街なので、住むには適さないでしょう。まさに鍛冶のための街といった感じです。
ポータルを登録してから冒険者組合でクエストの達成報告をしつつ、大量のドロップ品を売却することで約五万SGを入手出来ました。
前と同じく軽鋼の腕鎧を買ってもいいのですが、せっかくミストレイルまで来たんですし、色々見て回ろうと思います。
鍛冶の街と呼ばれるだけあって、通りに並ぶのは無数の鍛冶屋。それぞれの店の鍛冶師が他の店の鍛冶師を凌駕しようと切磋琢磨している関係上、並ぶ商品は高品質なものばかり。
軽鋼の腕鎧も、前に私が装備していたより性能がいいものが三万SGで売られていました。
「採掘用のピッケルは買ったから、鉱石素材を持ち込んで作って貰う手もあるんだけど……」
オーダーメイドはガンツさんの店以外でする気が起きないんですよね。
鉱石素材は、この街から入れる坑道の内、これ以上採掘しても採算が取れないと判断されたものは立ち入り自由なので、採掘用の道具があれば簡単に入手出来るそうです。
ただ、採算が取れないと判断されるだけあってドロップ率は低めです。
それでも鉄鉱石を初めとして、銀鉱石や金鉱石、銅鉱石、錫、鉛など、豊富な種類の金属が採掘できると言われています。地層どうなってるのかという疑問は尽きませんが。
そういえば、ディルックさん達は王都に向けて出発したそうですよ。掲示板に道中の様子を書き込んでいましたから、今日か明日には王都に着いていると思います。
「……やっぱり採掘してからにするか」
ピッケルは予備を含めて三本買ったので、残りは三万と少しだけ。いい装備を買うには少し心許ない所持金です。
仕方ないので採掘してから売れる鉱石を売ってお金に換えたいと思います。
さて、坑道は街の北西から入ることが出来ます。街と坑道が直通なんですよね。
魔物避けのアイテムを使っているので採掘が行われる坑道は平和ですが、私が入ろうとしている廃棄された坑道などは奥まった位置にあるので、外から魔物が侵入していることがあるそうです。
看板の案内に従って横道を通り、凹凸が激しい山道を登ります。
私が目指している坑道は数十メートル登った位置からさらに横に移動することでようやく辿り着けます。
坑道の入り口には看板で注意書きがあり、魔物が存在する可能性と、灯りは残してあるけど幾つか取り外しているから自前の灯りを持ち込むことが推奨されています。
ピッケルと一緒に腰に下げるランタンを買っていた私に不足はありません。
「ベレス、先行して様子を見て貰える? 安全なら一回、危険なら二回足を叩いて」
「mya!」
私の影から離れたベレスが坑道内部の影と同化して奥へと進みます。一部を私の影と繋いでいるようなので合図はちゃんとしてくれるでしょう。
右脚を一回軽く叩かれたのを確認してから、ピッケルを装備して入ります。
看板に書いてあった通り灯りの数は少なく、ランタンが無ければ進むのに難儀していたでしょう。
採掘の方法ですが、採掘用ピッケルには鉱脈探知のスキルが低レベルで付与されているので、それが反応する箇所に叩きつけるだけです。
運が良ければ鉱石がドロップします。簡単ですね。
「……まずは一個」
ごろん、と掌サイズの鉄鉱石が落ちました。
五回ほどピッケルと叩きつけても一個だけですか……分かっていたとはいえ渋いですね。
それをインベントリに仕舞い、近くの鉱脈を片っ端から採掘していきます。
一時間ほど無心で採掘をしていると、視界の端に表示させておいたスキル取得欄に【採掘】が追加されたのを確認しました。
流れるように【採掘】をレベル1で取得。
検証スレの人達が第一回イベントの最中に掲示板に投下した、最初から高レベルのスキルを取得する方法もありますが、戦闘に関係するスキルでは無いので実行しません。実行するとしても、スキルレベル1毎に1レベル分の経験値が持ってかれるので、私自身のレベルに余裕があるときしか使えませんけどね。
まあ、画期的とは思いますよ。レベルを犠牲にスキルレベルを上げられるのですから。
「【採掘】の効果は……いいね。たくさん増えた」
一つしか鉱脈が無かった場所の付近に、ついさっきまでは無かった三つの鉱脈が見えます。
【採掘】の主な効果は鉱石のドロップボーナスですが、検証スレが隠し効果として鉱脈探知に似たものがあると断定しています。
ほんと、検証スレの人達には頭が上がりません。あの人達はあらゆる事を検証して情報を確定させたうえで、更にそれを掲示板に投下してくれているので、後ろから進むような異人にとって有用な情報源になっています。
見えるようになった鉱脈からも鉄鉱石を入手して、ベレスの合図を確認して進みます。
それを何度も繰り返して一〇時を回った頃、ベレスの合図が二回になりました。
「……数は?」
ピッケルを仕舞うのとハルバードの装備を同時に行い――瞬間装備と呼ばれる技術です――、ベレスが先行している坑道の奥を警戒します。
ベレスは私に脚を三回叩きました。魔物は三体いるということでしょう。
やがてその姿が灯りに照らされます。
僅かな食料さえあればどんな環境でも即座に繁殖し数を増やす、ゴブリンと呼ばれる魔物。その中でも暗闇を寝床とする個体は【暗視】などのスキルを獲得することがあるそうです。
しかも、現れたのはただのゴブリンではなく上位種。
細く、それでいて引き締まった体。採掘道具を手に持ち、額の角が浅黒く変色した上位種。通常のゴブリンより一回り大きく、ボロとはいえ装備品を身に着けています。
「【看破】!」
====================
坑道小鬼 レベル17
【暗視】
====================
====================
坑道小鬼 レベル14
【暗視】
====================
====================
坑道小鬼 レベル19
【暗視】【指揮】
====================
三体全部が暗視持ちですか……しかも【指揮】を持つ個体まで混ざっていますね。
ですが、レベルは私の方が上です。
「ギャギャア!」
「「ギャアァギャ!」」
【指揮】を持つ個体が後ろに留まり、残りの二体が武器を振り上げて襲い掛かってきます。
それに対し、私は【自在帯】で暗闇に紛れ込ませた【呪骸纏帯】を即席のトラップに仕立て上げます。
「ギャア!?」
「はあっ!」
引っ掛かって転んだのは一体だけ。二体目は一体目より後ろにいたので咄嗟にジャンプして避けましたね。
ジャンプした個体はそのまま私に飛びかかり、手に持ったピッケルを振り下ろしてきます。
私はそれに絡め取るようにハルバードを突き出し、返す動作で首を斬り落とします。
「ベレス!」
次に、ベレスが奥の三体目の首を奇襲で落とします。
「ギャヒィィ……!」
そして残った一体目は、仲間が一瞬で殺されたことに怯えて命乞いをしましたが、立ち上がった瞬間に【自在帯】で振り回して脳天を尖った岩に叩きつけました。
ちょっと血とか脳髄とか飛び散りましたが、私に掛かっていないので何も問題ありません。すぐにポリゴンになって消えるので血飛沫も全部消えます。
上位種とは言え、この辺りのレベル帯の魔物では私に適いませんよ。
私は二度リスポーンしたとはいえネームドすら屠ったのですから、たかがゴブリン数匹に後れは取りません。
「採掘を再開するよ。ベレスは同じように先行してね。あと、ベレスだけでも倒せそうなら倒していいよ」
「myaaa!」
坑道内なので可愛らしい鳴き声が反響していますが、張り切っているのでいいでしょう。
私はピッケルを取り出して採掘を続けます。三本全部折れるまで続けるんだ……!
――まあ、やり過ぎてログアウトするのが深夜になったんですけどね。
「さすがに熱中しすぎた……。明日の講義は昼からだっけ」
UIを開くと、フレンド欄に一件の通知がありました。
今のところディルックさんのパーティーとしかフレンド登録していませんが、一体何の用件でしょう?
開いてみるとそれはフレンドメールでした。
====================
【クラン設立に際したメンバー勧誘】
拝啓、フレンドの皆様へ。
今回の旅の目的地、王都にある冒険者組合にてランクアップの手続きをしたところ、新たにクランシステムが解放されました。クランを設立できるのは組合側が定めた条件を満たした者だけですが、クランへの参加は等級を問わないとの説明を受けたので勧誘した次第でございます。
このメールはクランに参加して欲しい者に送っております。参加する意思がある方は返信欄からその旨をお伝えいただけると幸いです。
正式なクラン設立は後日ですので、それまでに掲示板を用いてメンバーを勧誘する予定です。
敬具
攻略組リーダー ディルックより
====================
「これは……」
クランのお誘いですか。
てっきりアップデート待ちだと思っていたのですが、王都の冒険者組合に到達すれば解放されるんですね。
「うーん……明日にしよう」
しかし、今の時刻は深夜。メールが届いたのは一一時頃ですので、ディルックさんもログアウトしていることでしょう。
それに、クランへの参加自体二の足を踏んでしまうので、メールへの回答を含めて一旦保留にします。
じっくり考えてから返信しましょう。




