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セカンドワールド!  作者: こ~りん
二章:地平線の騎士団
26/115

26.名瀬遙香 その一

二章スタートです。

設定などを割り込みで最初の方に投稿しています。

 □東京・名瀬遙香


「…………はあ」


 都内にある会場を貸し切って行われる立食パーティー。さり気なく、そして豪華に飾り付けられた会場内は煌びやかな灯りに包まれていると同時に、参加者による腹の探り合いによってどこか緊迫した空気が流れています。

 この場にいるのはそれぞれの家の当主や次期当主とその家族。どうしても都合が付かない者を除いて約五〇人。

 私も名瀬家の一員として参加を義務付けられています。


 そしてなぜ小さく溜息をついたのかと言うと、この場は私にとって憂鬱でしかないからです。

 セカンドワールドで倒したネームドの報酬も確認できていないというのに……呼ぶならせめて日時に余裕を持たせて欲しいものです。


「……あれが例の」

「……縁を切ったそうよ」


 故あって両親と縁を切り、遠縁の親戚を頼っている私ですが、一族の中では少し微妙な立ち位置のため腫れ物扱いされています。

 誰にも話しかけられないのは気楽ですが、それでも周囲から向けられる品定めのような視線を掻い潜るために、上っ面だけでも取り繕わないといけないので疲れるんですよ。

 ああ、帰ってゲームしたい……


「――ふん、今年も霞家は不在か」

「神崎家、扶桑家、名瀬家、久遠家、伊吹家、伊達家は揃っております。それとティアオウェツェンの末裔も今年は参加すると表明しております」


 成人したばかりだというのに、各家の当主にも引けを取らない立ち居振る舞いで堂々と会場入りしたのは、この場に集まった各家を束ねる本家にして一族の次期当主――臥龍岡(ながおか)志遠(しおん)さんです。

 文武両道の天才であり、すでに一財産を築き上げていると風の噂で聞きました。


 ちなみにですが、霞家は事業の都合で海外にいることが多いのでこういった催しにはあまり参加しません。毎回参加させられている私でも見かけたのは二回だけです。


「ほう? あの引きこもり共が顔を出すのか。珍しい」


 ティアオウェツェンの末裔は……本家の人間以外は知りませんし知らされません。

 ヨーロッパ圏の上流階級だとも、吸血鬼の末裔だとも、はたまた秘密結社だとも噂されます。

 そんな彼らが参加するとは……一体どのような風の吹き回しでしょう。


「まあ、いい。当主及び次期当主は集まって近況報告、それ以外は自由だ」

『はっ!』


 まるで王と家臣のような関係です。

 私は当主でも次期当主でもないのでいつも通り壁際で静かに待ちますが、私以外の少年少女は集まって談笑しています。


 そして報告を聞き終えた志遠さんは、各家の子ども達に挨拶回りをしています。

 とうぜん、名瀬家に属する私にも声を掛けるわけで……


「久しいな。伊吹家のいざこざは聞いているが、大事ないか?」

「お久しぶりです。おかげさまで何事もなく過ごせております」

「そうか。もしまた伊吹家が手を出すようなら遠慮なく頼るといい。ではな」


 志遠さんには伊吹家と縁を切る際にお世話になったこともあり、適当な対応をするわけにもいかないんですよね。

 伊吹家は古い慣習が未だに残っている家系で、デザイナーベビーの私に対してもそれを強いてくる酷い場所でした。


 デザイナーベビーは幾つかの欠点と引き換えに望んだ才能を与えられた子どもを指す言葉です。

 古来から続く武術を受け継ぎ体現する伊吹家はこの技術を使って私を産みだしたわけですが、伊吹家にとっては残念なことに、『仮想空間適応症候群』という障害を抱えた私と武術は噛み合いませんでした。

 『仮想空間適応症候群』はその名の通り、仮想空間ではAI並に精密で理想的な動きを可能とする代わりに、現実の身体は脳の信号について来られず不便に感じる障害です。


 脳内で行われるシミュレートと実際の身体の動きが噛み合わないため、私は武術を理解は出来ても実践できないのです。

 伊吹家はそんな私を不良品と呼び、おざなりにしてきました。

 逆に、私がお世話になっている名瀬家はVR関連の技術に出資しているのもあって、養子となってからは普通に過ごせています。


 まあ、一般人から見ればどちらの家もお金持ちなんですけどね。お金の量と幸せはイコールじゃないわけで……


 それから誰にも話しかけられないまま一時間ほど経過し、パーティーが終わって帰宅する頃にはとっくに夜になっていました。

 義両親と軽く挨拶してからタクシーでマンションに戻った私は、疲れと翌日の朝から講義があるのもあって、そのまま就寝しました。


 ♢


 翌日。

 講義を淡々と受け、休憩時間で課題を進めます。少しでも遊ぶ時間を増やしたいからですね。

 昔の学校の宿題や課題はペーパーだったと聞きます。タブレット一つで講義も課題も全てこなせる現代は、荷物が少なく済むのでとても恵まれていると思います。


 お昼は大学内の食堂で済ませます。食券を購入して列に並ぶと、後ろから聴き馴染んだ声で話しかけられました。


「やほ、ハルっち。学食何にするの?」

「天ぷら蕎麦」

「この前もそれじゃなかったっけ」

「最近暑いでしょ?」

「あーね」


 私をハルっちと呼ぶこの友人はユキと言います。彼女と食事をともにしつつお喋りしていると、話題は自然とゲームへと移ります。


「ハルっちはセカンドワールドやってるんでしょ? βテストの権利手放したとき落ち込んでたから絶対そうだよね?」

「やってるよ。ソロだけど」

「いやあ、ハルっちが固定パ組んでるとこ想像できないしソロだとは思ってたけどさ」


 さり気なくディスりましたねこいつ……


「でさ、ようやくハード買えそうなんだよね。前にぶっ壊れてから三ヶ月だよ三ヶ月」

「お陰で受験に集中できたんでしょ?」

「そうだけどさー、ご褒美がないと悲しい気持ちになるじゃん」

「それで、ユキはセカンドワールドやるの?」

「やるやる。もうすぐ次の給料日だから、その日にハード買ったらすぐやるつもり」


 ふむ、ならあと一週間ぐらいはありますね……

 ユキが始めるまでにもっとレベルを上げて突き放しておきましょうか。


「ハルっち絶対突き放してやろうとか思ってるでしょ」

「思ってませんよ?」

「ハルっちって誤魔化すとき丁寧語になるよね。あと目を逸らす」


 ……さすがに通じませんか。


「まあいいか。私もすぐ追いつくもんね」

「ネームドを倒した私に追いつけるなら追いついてみなよ」

「言ったな~? すぐ追いついて度肝抜いてやるから覚悟しててよ」


 冗談でなく本気でしょうね。ユキは有言実行しますから。


 さて、実はユキも私と同じようにロスト・ヘブンのプレイヤーだったわけですが……ランキング九位だった実力と戦法を踏まえると、私もうかうかしていられません。

 あのゲーム、トップは実力が拮抗していたのもあって入れ替わりが激しかったんですよね。それでも一〇位以内を維持していた実力は侮れませんし、とっくに体感しています。


「――っと、私はこのあとバイトだけど、ハルっちは何するの?」

「帰ってゲームしますよ。課題はもう済ませたので」

「はや!?」

実はお金持ちな主人公。

とはいえ本人からすれば劣悪な家庭環境だったのが伊吹家なので、縁を切って名瀬遥香になるまで鬱屈とした感情とストレスを抱えていました。


ロスト・ヘブンはそんな感情とストレスの解消のために始めたゲームで、やってる内に楽しくなったから全力を出した結果が、ランキング第四位と幾つかの異名です。


ロザリーという名前は、現実の柵に囚われない自分になりたかったから、彼女自身が限りなく自由な存在として作ったキャラクターです。勝つのも負けるのもいいけど自分だけは裏切りたくないという想いが込められています。


その結果が悪夢だの死神だのといった異名ですけど。

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