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セカンドワールド!  作者: こ~りん
一章:憎念に抗え
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20.【ヴルヘイム】 その四

『ォォォオオオオオ……!』

「大技来るぞ!」


 【ヴルヘイム】が瘴気を吸収し始めました。ブレスが来るのでしょう。

 ブレスには範囲がありますから、腕に登っている私達はあまり気にしなくてと思いますが、念のためリジェネに回す分を増やしておきます。


「くぅぅ……耐えろぉ!」

「〈ヒール〉! 〈ヒール〉! あっちにも〈ヒール〉!」

「吹き飛ばされるな……持ちこたえろ!」


 大盾を持った人達が前に固まってブレスを凌ぎ、その後ろから他の人が懸命に支えています。

 そして、一〇秒ほど続いたブレスを耐えきったのは、放たれる前と比べて半分以下でした。


「秒数!」

「1、2、3、4、5――」

「よし、立て直すぞ! 挙動に注意しつつ集中!」


 ディルックさんが指示を出し、それに合わせて他の人達も自分の役割に集中しました。タンクはタンクとして、アタッカーはアタッカーとして行動しています。

 一番忙しいのはヒーラーでしょう。大技のクールタイムを数えつつ、戦場を見渡して回復魔法を掛けています。


 【ヴルヘイム】の猛攻を防いでいる人には専属のヒーラーが三人付いていますね。それ以外にもバッファーが意外と活躍しています。

 味方にバフを掛ける魔法は殆ど無いうえに、その効果も修得難易度の割に低いらしいのですが、複数人のバフが積み重なった場合の一撃は太めの腕を叩き潰すほど。




 …………レイドが始まって一時間。


「ハァァァァ……〈ファイアーボール〉熱拳」!

「《スラッシュ》!」


 【ヴルヘイム】の攻撃や瘴気によるダメージで何百ものプレイヤーか何十回もリスポーンし、それでも攻撃の手を緩めずにダメージを与え続け結果、【ヴルヘイム】のHPは遂に五割を切りました。

 そして――異変が起こる。


「今度は何だ!?」

「布!? ――いや、形態変化か!」


 一番最初に【ヴルヘイム】を覆っていた、黒い帯状の物体が胴体を包み始めました。半分ほどは巻き付かないまま漂っていますが、その先端は明らかに異人達を狙っています。

 表面に深紅の罅のような奇妙な紋様は、侵呪のハルバードと同じ呪いでしょうか。


「一旦降りますよ!」


 とてつもない速さで伸びた黒布が私達がいた場所を掠め、ぞわりと背筋が凍るような冷たい呪詛が辺りに撒き散らされました。

 侵呪のハルバードが優しく思えるほど、殺意に特化していますねこの呪いは。


「ぬ……仕方ないか」


 殴り魔の人も私の後に続いて地面に着地しました。ベレスの補助がある私と違い、地力での着地です。


「――っ、追撃が速い」


 しかし、【ヴルヘイム】は黒布を用いてすぐさま追撃を仕掛けてきました。地面に突き刺さるほどの威力です。まともに喰らえば防具なんて紙も同然でしょう。

 そして、これまでの【ヴルヘイム】の行動が変わったのかといえばそうではなく、再び口腔へ瘴気を集めると喉に当たる部位を膨らませ、辺りを一掃するようにブレスを吐きました。


「ベレス!」


 瞬間、ベレスが【瘴気変換】を全力で行います。私が【呪詛支配】で呪詛の変換を補っているので、ベレスに掛かる負担は二割ほど低下しているはずです。

 それでも無傷では済みません。


 瘴気汚染が重篤化し、追加で毒と衰弱の状態異常が発生してしまいました。


「これ、は……」

「む、筋力系のステータス半減か……」


 衰弱の効果は筋力系ステータスの半減。……重量武器を扱う人や筋力に火力を依存している人ほど掛かりたくない、実にいやらしく明確な弱体化です。

 魔法職の人にはほぼ無害ですが、前衛の殆どが役立たずになってしまいます。


「――前衛は一旦撤退! 状態異常が治るまで無事な奴と代わるか、さっさとリスポーンして来い! 魔法職は継続して攻撃! ヘイトは回避タンクが受け持て!」

『了解!』


 メインタンクが下がり、後ろに控えていたサブタンク達がヘイトを受け持ちましたね。

 衰弱に掛かった人はディルックさんと同様に下がったり、HPが少ない人はそのままリスポーンしました。

 私も一旦下がって合流しましょう。


「どうですか?」

「……何とか戦えているがかなり厳しい。正直に言えば、あと二、三〇〇は戦える人が欲しいな」


 装備の質が低く、攻撃を回避する行動すら取れない人は数に数えていないでしょうね。最低でも攻略組として戦える人をディルックさんは求めていると思います。

 私のようにソロで活動している人は、普通とは少しズレた戦い方をしたり、変わったスキルを持っていたりしますが、本当に少数派ですからね。


 殴り魔の人だって初めて見ましたし、今も最前列で舞うように戦っている人は空中ジャンプまでしています。

 どっちもレアスキルを持っているでしょうね。


「瘴気汚染だけならともかく、重篤化に伴う他の状態異常がキツい。【瘴気免疫】持ちがもう少し居れば……」

「私は【呪詛支配】のスキルがあるので、呪詛だけならむしろバフに使えるんですけどね」

「呪詛を含めたあらゆる負のエネルギーだからな……カースドウェポンの情報をもっと早めに出すべきだったか」


 カースドウェポンの持ち主は、私含め数名しかいないらしいです。

 現状を鑑みるに、もっと持ち主が増えるよう情報を出すべきだったのは確かです。ですが、呪いをどうにかするのは簡単ではなく、増えてもせいぜい二、三人が限界だったのではないかと私は思います。


「……衰弱が治った。ロザリーはどうだ?」

「あと二〇秒ですね。先に行ってて構いませんよ」

「分かった。治り次第アタッカーに加わってくれ」


 集団行動は得意ではないのですが……相手はネームドですし四の五の言っていられませんね。

 【ヴルヘイム】は相も変わらず雑な範囲攻撃で大勢薙ぎ払っていますが、それに対処出来る人がだんだん増えているお陰で、特定の個人に依存せず戦えています。

 ディルックさんが抜けた状態でも維持出来ていたのが証拠です。


 ……さて、私も衰弱が治ったので加わりますか。


『ォォォオオオオ……ッ!』

「くそっ、また範囲攻撃か!」

「黒布に注意しつつ散開!」


 っと、最前列がばらけましたね。私は……右の方に行きますか。


「こっちの戦力が足りなさそうなので手伝いますよ!」

「助かる! 腕と触手の攻撃は防げるから、黒布を防ぐかダメージ出してくれ!」

「分かりました!」


 アタッカーが少ない代わりに、防御が得意な人が集まっていたようです。腕と触手はタンクの人に任せて、私は攻撃に集中しましょう。


「ところで……弱点とかって見つかりました?」

「いや、よく分かってない。たぶん胸の辺りにある赤いやつが弱点だとは思うが……」

「さすがに届きませんね。魔法があれば別なんですが」

「どうも、触手とかは魔法の迎撃を最優先に動いているみたいだからな。俺達はとにかく注意を引く必要があるってこった」


 攻撃を凌ぎつつ、タンクの人と会話を交わした結果、遠距離攻撃が出来ない私達は腕や触手の注意を引きつける必要があると分かりました。

 弱点らしき部位への攻撃は魔法職に任せるしかないでしょう。


「っと、そうこう言ってる内に早速当てたみたいだぜ!」

『アアアアアア……ッ!?』


 苦しそうに藻掻き、デタラメに辺りを叩きつけた【ヴルヘイム】の弱点は、やはりあの赤いコアらしきものみたいです。

 が、デタラメなせいでネームドの攻撃がより激しく感じます。


 そして、腕と触手が赤いコアを守るように固まり、黒布の殆どが攻撃するようになりました。

 鉄ぐらいの盾なら易々と貫通する程の攻撃です。


「ぐぉ!? すまない任せる!」


 タンクが一人倒れました。任せると言われても、サブタンクも同時にやられているのですが……仕方ありません。防御を捨てて攻撃に回りますか。


「ベレス、全力で攻撃するよ」

「myaaa!」


 【呪詛支配】を全力で用い、周囲の呪詛を脚と腕のバフに使います。幸い、【ヴルヘイム】の近くは濃瘴気が漂っていますので、抽出できる呪詛も相応に濃いものです。

 DOTダメージの相殺はベレスの【瘴気変換】に任せて、私は【ヴルヘイム】を攻撃することに集中します。


 一番近い黒布をハルバードで下に逸らし、その上を駆け上がります。バランスを取るのが凄く難しいですが、勢いに任せてどんどん距離を稼ぎます。

 その間も黒布は私を狙ってきますが、偏差攻撃しない限り当たりませんよ……!


「ベレス、あそこまで移動したら最大まで範囲広げて!」


 黒布を掻い潜り、コアの真下にはベレスに補助してもらって移動します。

 そして、次の瞬間にベレスの刃が薄く広がり、ハルバードの四倍近い大きさの刃が斧頭の辺りに生成されました。

 駆け上ってきた勢いそのままに腕と触手の間を通り、触れるもの全てを斬り裂きながらコアへと近寄ります。とうぜん、【ヴルヘイム】が看過するはずもなく、数に任せて私を押しつぶそうと、無数の攻撃が私に殺到してきます。


 脇腹が抉られ、片足がもぎ取られ、それでもコアへ辿り着いた私は、残りのHPゲージ消える瞬間まで全力でハルバードを振るいました。

 視界の端で出血の状態異常が点滅し、HPがゼロになります。

 【ヴルへイム】のHPは四割を下回り、三割に到達しようとしています。


 私のアバターがポリゴンとなって消えていきますが、それでも最後の瞬間にもう一度ハルバードを叩きつけ……この攻撃が何をもたらしたのか確認する暇もなく、私はポータルでリスポーンしました。

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