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セカンドワールド!  作者: こ~りん
一章:憎念に抗え
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19.【ヴルヘイム】 その三

 とても今更ではありますが、異人はリスポーンする際に経験値を失います。失う量はレベルに依存していて、レベルが高ければ高いほどより多くの経験値を失ってしまいます。

 スキルの進化に経験値を消費するセカンドワールドでは、かなり痛いデスペナルティと言えるでしょう。これに加えて、アイテムとSGのランダムドロップもあるのですから、相当厳しいですよ。


 まあ、どちらも今の私にとっては痛手にならないんですけどね。

 必要なスキルの進化はすでに済ませているので経験値は多少減っても構いません。アイテムはろくなもん持ってませんし、SGもハルバードの強化に使ったので殆どありません。


 周囲には私と同じくリスポーンした異人が現れては去って行きます。ネームドを倒したいのでしょう、ステータスを確認する素振りすら見せません。

 死んでも解除されない状態異常があるとは考えないのでしょうか……まあ確認されていないのですが。それでも万が一を確認しないのはどうかと思いますよ。


 さて、失ったのは1レベルにも満たない経験値と、ポーション二つにボロボロの武器ですか。ポーションは少し勿体ないですね。

 ボロボロの武器は要らん。ただのゴミです。

 鋼鉄のハルバードは倉庫に預けているのでこれも無事。銀行と同じくランクアップしないと使用できない設備ですが、予備の武器などの失いたくない物を預けれるっていいですね。


 ベレスは死ぬ直前に装身具に戻していたのでこちらも無事です。もう一度私の影に同化させて、今度は奇襲が通用するか試してみます。

 ああそれと、【呪詛支配】で操っていた呪詛は死んだのと同時にゼロになりました。また回収せねば……瘴気汚染対策のために。




 前線に戻るとリスポーンで復帰した攻略組が【ヴルヘイム】の攻撃を防ぎつつ、手足を重点的に狙ってゲージを削っています。残りは九割もありますが、ダメージが通るということは倒せると言うこと。

 しかし、アナウンスにあった呪層とは何なのでしょうね? 瘴気汚染が進行するとは言っていましたが、今のところ【ヴルヘイム】の周囲に瘴気が溜まっているだけで、それ以外の場所に変化はありません。


 廃墟はかなりの範囲が更地になっていますが、それは【ヴルヘイム】の攻撃で薙ぎ払われただけでむしろこちらに有利なので気にしません。

 回収した呪詛で瘴気汚染を相殺しつつ、私は人混みに隠れるようにして【ヴルヘイム】の後ろへ回ります。


「ようし! 右腕もだいぶ追い込んだ! ブレスに気を付けつつダメージ重ねていけ!」

「遠距離攻撃できるやつは顔狙え顔!」

「攻撃手段無い人は念のため残骸を持って離れて! 再生しないとは限らないから!」


 ディルックさんを筆頭に、攻略組の人達は【ヴルヘイム】のHPを少しずつ削っています。右腕の手首から先が切り離されて地面に倒れているので、【ヴルヘイム】はより一撃の威力が減少しているはずです。

 そして、そちらに気を取られたのなら――私の【襲撃】が効果を発揮します。


 呪詛を一時的にバフに回し、ベレスと私のスキルを乗せて、ダメ押しにアーツを起動します。

 そう、私はスキルを鍛えてアーツを得たのです。


「――《スラッシュ》!」


 その威力、切断力は身を以て体感済み。無尽蔵に生えている触手の束を、斬り飛ばす!


『ォォォオオアアア……ッ!?』


 警戒していなかった方向から予想だにしない攻撃が飛んできたのだから、痛覚を持たない魔物でも驚いたのでしょう。巨体が硬直し、触手の動きが鈍りました。

 そして、隙があればつけ込まないはずないでしょう……!


「ベレス!」

「myaaa!」


 ベレスの全力で【ヴルヘイム】の背中に乗り、今度は突き出しているパイプや管を手当たり次第に切断していきます。

 太いものはさすがに切断できませんが、凹ませて折ることぐらいは可能です。


「HPは……まだ大丈夫。でも、回収できるのは呪詛だけだから、瘴気を浴びたらまたやられるかも……。ベレス、もっと深い場所まで抉れる?」

「mya!」


 任せて! みたいな感じで一鳴きしたベレスは、ハルバードの先端に鋭い矛を形成しました。

 私は折ったパイプを足場にして跳躍、重力を加えてその矛を思いっきり突き刺します。


『ァァァアアアアアッ!!!』

「くっ……!」


 が、さすがにこれ以上の追撃は許さないとばかりに巨体を揺らし、瘴気と触手で私に猛攻を仕掛けてきました。

 瘴気の中から呪詛を可能な限り奪い取りリジェネに回していますが、状態異常は治せないので酩酊や脆弱が付いたらやられますね。


 周囲の触手を斬り飛ばし、回避を優先しつつ撤退した私は、巨体から飛び降りて腕の方へ向かいます。ああ、もちろんベレスの協力が無ければこんな無茶な移動は出来ませんよ。


「おら! おら! 喰らえや!」


 っと、拳と脚に炎を纏わせて腕の集合体を一つずつ殴っている人がいますね。あれも魔法なのでしょうか。

 連撃で腕を焼きながら折っているので、断面がこんがり黒焦げになっています。

 その人の頭上を通り抜け、私も腕を何本か斬り飛ばします。


「サンキュー、ちょうど手数が足りなくなってきたとこだったんだ」


 そう言うと、彼はぎゅっと拳を握りしめ、私に背中を預けました。炎が右腕に集中しているのが見て取れます。

 私はまあ、土壇場ですが一応頼まれたらしいので、彼の邪魔になりそうな腕から無力化していきましょうか。


「ハアァァァ……ッ! 〈ファイアーボール〉熱拳!」


 ゴウッ! っと小規模の爆発が指向性を持って腕の集合体を吹き飛ばし、二、三〇本の腕を纏めて焼き払いました。

 殴り魔という奴ですか。近接魔法使いは魔法が着弾するまでの時間が短いので、威力減衰が起きず高威力の攻撃となっているように感じます。

 これだけの威力を叩きだしておいて、術者はほぼ無傷というのが凄いですね。耐性を高めているのでしょう。


「次はどうします?」

「とうぜん、死ぬまで殴る!」


 ……そう言うのだろうな、とは薄々感じていましたとも。出会って数分とはいえ、彼はそういう性格だろうと感じたので。

 ちょっと苦手なタイプです。




「――上で戦ってるのはロザリーか。それ以外にもいるようだが、ソロで戦えているのなら相応の実力はあるか」


 激戦の中、ディルックはそう呟く。

 呪いの武器である大剣を振り回し、【瘴気免疫】というスキルによる軽減とヒーラーの回復魔法で最前列に立ちながら彼は無数の腕を薙ぎ払う。


「燃えよ……《スラッシュ》!」


 そして更に、アンデッド対策として新しく取得した魔法を用い、大剣を発火させてアーツを放つ。

 エンチャント系の魔法が欲しいなと思いながらここ数日で身に付けた、なんちゃってエンチャントだ。


 使える魔法の性質上、たった一振りで燃え尽きてしまう技ではあるが、アーツを組み合わせることで元々の攻撃力に火属性を追加している。

 火はアンデッドの弱点だ。乾きながらも動いているアンデッドの身体は、水分が無いためとても燃えやすく、一度燃えれば水を掛けない限り消火出来ない。


 燃え尽きて炭になる腕の残骸を視界の端で確認し、スキルを併用しながらディルックは腕を防ぎ続ける。


(……少しでも手数が足りなくなれば、【ヴルヘイム】は数の利を活かしてこちらを叩いてくる。これだけ削ってもまだ八割残っているか……)


 ちらりと【ヴルヘイム】の頭上を見れば、そこにはネームドとしての名前とともに【ヴルヘイム】のHPが表示されている。

 何気に、HPの残量が見える魔物というのは初めてのことで、自分達の攻撃がどれだけ有効なのかを確認できるのは幸いと言っていい。

 何が効いて何が効かないのか、それすら分からないままネームドと戦うのは無謀すぎるからだ。


(だが、現状でも無謀に近い。住人によれば、ネームドは二〇〇〇や三〇〇〇の数で挑んでも勝てるかどうかは賭けらしい。リスポーン出来るとはいえ、それより少ない数で戦うのは、やはり無茶だ)


 だが、不可能では無い。


「――《ダブルスラッシュ》! はっは、こんなもんかよネームド!」


 両手に剣を握り、腕の猛攻を掻い潜りながらダメージを重ねていく者。


「《弓張月》……発射!」


 巨大な長弓を引き絞り、槍を矢代わりにしている者。


「炎の邪神よ、我が深遠なる魔力を以て、地獄の業火で焼き払え! 〈トリプレット・ファイアーボール〉!」


 高火力の魔法を次々と放つ者。


 ディルック以外にも強いプレイヤーはいる。彼らはパーティーを組まずソロで活動し、レベルこそ攻略組に劣っているものの、その実力は引けを取らない者達だ。

 何十、何百ものプレイヤーが全力で戦っている。

 ならば、僅かな可能性だとしても勝利を目指す。自然とプレイヤー達は連携を意識し、ようやくレイドとしての体裁が整い始めて来た。

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