15.呪われてるのに従順な
イベント四日目。
殆どの異人が島に乗り込んでいるため、調査は順調に進んでいます。廃墟へ侵入する人も増えてきたようで、検証が捗ると男爵さんが言っていました。
探索率は大体七〇%らしいですよ。
私はと言うと、島の北で武器の使い心地を確かめていました。ベレスも一緒です。
侵呪のハルバードは、台座に突き刺さっていた頃とは比べものにならないほど従順になっていて、特に違和感を覚えるような事はありませんでした。
倒した相手に勝手に呪いを掛ける……なんてこともなく、武器としてきちんと仕事をしてくれています。
それとベレスですが、一部とはいえ呪詛を取り込んだ影響か【瘴気変換】のスキルが生えていました。【瘴気変換】は呪詛や怨念などの負のエネルギーを正常なものへと変換し、魔力や体力の回復に充てることが可能なんだそう。
ですが、【呪詛支配】でも同じ事が出来るそうで、こちらは呪詛限定ですが高い回復力があります。侵呪のハルバードを利用して確認したので間違いありません。
腕鎧から発生している呪詛を回復に回せば、微量ですがリジェネになります。
そしてベレスの【影同化】ですが、やはり私ととても相性が良いです。
森ではないので私の【襲撃】は生かしづらいですが、私の攻撃に魔物の意識が向いている間に、ベレスは私の影から魔物の影に移動して下から奇襲しています。
【影同化】中のベレスは実体を持たないのですが、影から飛び出る際に槍のように先端を尖らせることで、かなりのダメージを与えているのです。その一撃に怯んだ隙に私が首を斬り落としています。
南の廃墟ほどではありませんが、効率は中々に高いです。
ちなみにですが、ディルックさん達は南の廃墟の探索を続けています。彼らもあの空間に辿りついたそうで、ディルックさんとシェィ・ランさんが呪いの武器を手に入れたそうです。
あそこで入手できる呪いの武器は一人一人異なるそうで、メイン武器に対応していると思われます。
仲魔に関してですが、ディルックさんは蝙蝠を、シェィ・ランさんは鷹を手懐けたそうです。二人以外は遭遇と同時に倒してしまったらしいです。隠し通路さえ見つければ問題無く進めたそうですが、呪いの武器は入手出来ずにリスポーンしたと言っていました。
イベント五日目。
そろそろ終盤に近づいてきました。相変わらず廃墟だけ探索率が低いようですが、それ以外のマップは完全に埋まっており、調査も進んでいます。
廃墟に出現する腕がイベントのキーになっていると大多数の異人が考えているようで、かなりの数のパーティーが廃墟に挑んでは返り討ちにされています。
私はスキルレベルを上げるために南以外を回っています。
採取したり魔物に襲われたり襲ったり……一気にレベルが上がったのでスキルが今一つなんですよね。
レベルよりスキルの方が地味に重要だから、出来ることを探してコツコツ積み上げないと強くなれないんですよ。
倒した魔物は基本的に、ドロップアイテムとして魔石を落とすので、お金もある程度稼げるおかげで長時間続けられています。
単純作業は報酬が無いとやってられませんからね。面倒だと放り投げればあっと言う間に新規に追い抜かれるでしょうけど。
二日ほどスキルレベルの鍛錬に集中していた甲斐もあって、【戦士】が進化して【軽戦士】に、【ハルバード】が【ハルバードⅡ】に、【襲撃】がレベル10を超えました。
【軽戦士】は被ダメージ減少とAGI上昇の二つの恩恵が得られますが、重量武器に威力補正が掛からないのが難点ですね。片手剣や双剣を使う人向けのスキルだと思います。ただ、スキルは進化によって変化するので、いつか私のスタイルに合致したものになると信じていますよ。
「ベレスもだいぶ強くなったね」
「mya!」
攻撃に使えるスキルが軒並みレベル1だった最初と比べれば、著しい成長です。
【爪】が【影爪】に、【牙】が【致命牙】に、【奇襲】はそのまま【奇襲Ⅱ】へ進化しています。
【影爪】はMPを消費することで影属性を自分の爪に付与するスキルで、【影同化】からの【影爪】は猪やロックリザードの首を両断するほどの威力があります。
【致命牙】は単純に威力が増大しているのと、より深く抉るほどダメージが上昇するスキルです。
【奇襲Ⅱ】は【奇襲】より一撃の威力が増しているはずです。
【潜伏】も追加で獲得しているので、より暗殺に適したスキル構成になっていますよ。夜はほぼ無敵ですね。
インベントリのアイテムを冒険者組合で売却して、UIから貢献度の確認をします。
ちなみにですが、多めに狩ったロックリザードの素材は革鎧に重宝されているそうで、防具を生産する異人がよく購入してスキルレベル上げに使っているそうです。
私が装備しているインパクトボアより耐久値が低くなる代わりに、防御力は少し高いようなので買い取り値も高めに設定されているんですよね。
需要と供給によって商品の値段が変わるのもそうなんですが、流通の有無によっても値段が変化するので、高くていいものほど流通が少ないんですよね。
たとえばミスリル製の装備品は、産出地か王都ぐらいでしか手に入らないそうで、値段も数百万――場合によっては数千万するのだそう。
もちろんレベルに見合わない装備品は性能を発揮出来ませんし、自分に合った装備を探したりオーダーメイドするのが、この世界に慣れてきた異人の常識です。
例外は特典装備だけでしょう。あれは一部の限られた猛者しか入手出来ない貴重品ですので、価値を付けられないのが普通と住人から聞きました。色々と特殊なので、ものによっては比較することすら難しいらしいです。
いつか私も入手したいものですね。
閑話休題。
無人島ですが、実は四日目の夜辺りから不穏な気配が漂っていまして。
今は攻略組が中心となって原因の究明に努めているそうですが、どうやら廃墟の方から発せられているらしく、調査が難航しているとのこと。
特に、あの巨大な腕が高頻度で複数出現するようになったのもあって、掲示板を通して異人全体に大規模レイドを呼びかけているそうです。
私は自分を鍛えたうえで可能であれば参加する方針です。
スキルを鍛えればレベルが、レベルを鍛えればスキルが……劣る。同時に鍛え、習熟し昇華しなければ、この世界では有象無象に成り下がるだけ。
ただのモブは私の柄ではありません。
どうせなら、ロスト・ヘブンの時のように、大勢の注目を集める個として、私は最前線に立ちたいのです。
異人としてではなくロザリーとして――それが今の目標。
だから私は、もっと限界まで自分を鍛え上げるつもりでいます。イベント最終日に出現するであろう、ボスとの戦いに向けて。




