13.地下空間に潜むモノ
状態異常、気絶。
外部からの衝撃で気を失っている状態……を再現するために、プレイヤーの意識は気絶が解除されるまで別空間で待機させられます。
限りなくリアルに近づけるため細分化された状態異常の総数は、運営しか把握できないのではと思われるほど膨大で、気絶もその状態異常の一つです。
耐性系のスキルを持っていればある程度は防げますが……あらゆる状況を想定して耐性スキルを獲得するというのはまず不可能です。
総数も分からない耐性スキルを得るのではなく、必要なものに絞って取得を目指すのが現実的です。私が持っているのは毒と麻痺と出血……どれも有用なスキルですね。
……暇ですね。UIは使えますが、操作できるのはステータスと掲示板、システムぐらいですか。
気絶が解除されるまで暇なのでステータスでも確認しておきましょう。
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『ロザリー』レベル24
右手:鋼鉄のハルバード
左手:――
防具:脱兎フード+1
├紳士な衣服(上)─インパクトボアの胸当て
├紳士な衣服(下)
├ハイドスネークのベルト─頑丈なベルトポーチ
├軽鋼の腕鎧
└頑丈なゴシックブーツ
装身具:妖精の悪戯羽
スキル:【戦士LV7】【ハルバードLV6】【鑑定眼LV3】【看破LV9】【悪路LV5】【襲撃LV6】【状態異常耐性:麻痺LV2】【状態異常耐性:毒LV2】【状態異常耐性:出血LV2】【採取LV11】
所持金:15,103SG
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ふむ、レベルは9も上昇していますね。スキルもそこそこ育っているようで私は嬉しいですよ。アーツが未修得なのが少し残念ですが、それはまた今度ですね。
さて、新しく取得可能なスキルもあるようですし、シナジーがありそうなものを取得しておきますか。
どれどれ……取得可能なスキルはっと……うーん微妙。【斬撃】と【跳躍】だけ取っておきますか。
……【斬撃】。もしかしたら、アーツに繋がる何かがあるかもしれませんからね。
「――冷たっ」
気絶が解除されましたが、どうやら気温が低い場所で倒れていたらしく、身体が少し冷えてしまっています。
現在地は地下……でしょうか。自然に出来た洞窟には見えませんね。天井もあります。
周囲にあの腕らしきものは見当たりませんが、地上と繋がっていると思われる穴は天井の端にあります。ですが、そこまで時間が経ってないのに太陽光が入っていないことから、通常の方法では移動できないのでしょうね。
それに、パーティーは強制解除されているようです。進入制限――それもソロですか。
GMが言っていた隠し要素でしょう。
「通路はあるけど……少し狭いかな」
大人が二人並んで歩ける程度の広さはありますが、武器を振るって戦うには狭すぎますね。サブウェポンとして短剣でも持っておくべきでしたか。
天井付近の壁に一定間隔で灯りが設置されているお陰で視界は良好ですが、この灯りも少し不自然ですね。
科学的と言うにはあまりにも原始的で、かといって火を灯した蝋燭よりはよほど近代的で……エネルギーは一体どこから供給されているのでしょう? 配線が見当たらないのでファンタジーな灯りなのは確かですが……
それと、通路には石畳が敷かれているので、やはり人の手が入っているのは間違いありません。
念のため隠し通路がないか確認しましたが、どこにも見当たらなかったのでこの道を通るしか無いようです。
かなりの距離を歩くと通路が広くなりました。
ハルバードを振り回すにはまだ狭いですが、短く持っていれば戦えるはずです。魔物がいるかどうかすら分からないんですけどね。
広くなった道を警戒しつつ進み、今度は鉄格子が嵌められた空間に出ました。何かに破壊されたのか、鉄格子が外れた部屋の方が多く、風化してボロボロになった骨ばかりが散乱しています。
牢獄のような場所だったのでしょう。
ちょうど空間の端に繋がっていたみたいなので、最初の部屋からここまでずっと一本道になっています。
ですが……一〇〇メートルも進まないうちに壁に当たりました。瓦礫で塞がっているわけでもない正真正銘の壁です。行き止まり?
――いえ、何かがいますね。
「myaaa……」
「っ! ……猫?」
振り返った先には謎の猫らしき生物……? シルエットは猫なんですが、首から下がヘドロというか、ゴワゴワしてるというか……尻尾が蛇ですし、魔物では?
恐らくキメラ的な魔物だと思うのですが、攻撃してこないんですよね。
「【鑑定眼】……【看破】」
「maa?」
擬態している魔物が相手でも情報を得られる組み合わせですが、名前も種族も分かりませんね。イベント用……と考えるのは早計だと思うのですが、もしかしてギミック? これを倒すのは何か違う気がしますし、隠しパラメータでもあるのでしょうか……
友好度を上げる、もしくは仲間にするのが正解なのでしょうか。ですが、私は魔物を従えるようなスキルは持っていませんし……餌付けすれば取得できますかね?
インベントリに仕舞ってある食べ物をあげてみますか。
「mya!」
パンと干し肉しか残ってなかったですが、この猫のような魔物は喜んで食べています。……もしかして、可愛いのでは?
首から下は若干のグロさがありますが、中身が見えているわけでもありませんし、アンデッドではないのでしょう。よく見れば小さな手と足があります。
それからスキルを取得するために数時間ほど戯れました。警戒心の低さで有名なカカポみたいで、遊んでいる内に愛着が湧いてきました。外見は猫なのに子犬みたいな性格なんですよこの子。
さて、スキルは……【テイム】が増えています。取得して使ってみます。
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合成獣をテイムしますか?
[YES/NO]
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おっと、選択肢ですか。スキルの使用で選択肢が表示されるのは初めてな気がします。
種族は思っていたとおりらしく、様々な魔物を合成して生まれたのでしょう。地上のことも含めて考えるのなら、人間によって身勝手に改造され、そして隔離された生き物だと私は思います。
「イエス」
《――合成獣の好感度は一定値に達しています》
《――合成獣が仲魔になりました》
《――装身具『???の絆』を入手しました》
《――ステータスに仲魔が追加されました》
《――ヘルプが追加されました》
……さて、ヘルプを見ましょう。
ヘルプによると、仲魔は【テイム】のスキルでしか得られず、主である異人と共に戦い、そして加護が分け与えられるそうです。加護はリスポーンのことですね。HPがゼロになっても絆アクセサリーの中で復活するようです。
この絆アクセサリーは一つしか入手できないので、仲魔も一体だけなのでしょう。装備品は装備しないと意味が無いので装備するとして、装身具の名称は仲魔の名前が反映されるそうなので、名前を決めましょうか。
名付け……苦手なんですよね。
「クロ……ダイフク……マメ……うーん嫌ですか」
「maaa……」
イヤイヤと顔を横に振っているので私の言葉は理解しているようです。……思いつかないので外部検索で良さそうなのを探しますか。
猫の名前一覧……ペットじゃないので却下。猫……キメラ……猫の悪魔っていましたっけ? 悪魔的可愛さとか言いますし、悪魔から取りましょうか。
見つかったのはベレト……メスなのでベレスですね。
「ベレスはどう?」
「mya!」
気に入ってくれたようです。装身具の名前も『ベレスの絆』に変わりました。私のステータスに補正は付きませんが、ベレスと一緒に行動するためには必須なので外せません。
『ベレスの絆』は首から提げるネックレスのような装身具で、半透明の宝石の中にはポータルの土台に刻まれている魔法陣が浮かんでいます。綺麗ですが、高価な装飾品を身に付けているとPKに遭うリスクが高まるので、服の裏に入れておきましょう。
次はベレスのスキルとかの確認ですね。
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『ベレス』レベル15
種族:合成獣
スキル:【影同化LV5】【爪LV1】【牙LV1】【奇襲LV1】【獣の勘LV10】
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ふむ、数が少ないうえレベルも低いですね。まあ、何も無い地下で何と戦えって話ですけど。
【影同化】は【隠密】系ですかね? ちょっと使ってみても……わあ文字通り影と同化しました。アサシン系の構成ですねこれは。
偶然だとは思いますが、私のスタイルととても相性が良いです。私の影と同化して貰えば、私の【襲撃】と同時にベレスの【奇襲】を使えるので、悪くないのでは?
「ベレス、私の影に入っていて」
「mya!」
するりと私の影に入り込んだベレスの存在感は全くありません。『ベレスの絆』のお陰なのか、見えなくてもどの辺にいるのか分かりますが、私以外の人は恐らく気付かないでしょう。
そして、そのままあちこちに移動していると、壁の向こうに広い空間があることに気が付きました。
その部分をよく観察してみると、周囲の壁より微妙に新しく、後から作られた壁だというのが分かります。どうやらこの空間を作った人は、この先に進んで欲しくなかったようですね。
それでも劣化はしているので、ハルバードの斧頭を叩きつけると簡単に破壊できました。分厚い壁ならどうしようも無かったですが、幸いにもそこまで分厚くなかったようです。
破壊した壁の向こうは下り階段になっていて、奥から肌寒い空気が流れてきています。
念のためハルバードを構えつつ、ベレスと一緒に降りていきます。
魔物を仲間にする系のスキルは【テイム】と【使役】の二種類ありますが、【テイム】が絆を育んで共に育つスキルだとすれば、【使役】は魔力(MP)を用いた支配関係です。
【テイム】は一体にしか使えず、条件を満たさない限りスキルが進化しても上限は増えません。その代わりに加護によって倒されても時間をかけて復活します
【使役】は個体数制限はありませんが、意志を奪って支配下に置くスキルなので倒されるとドロップ品を残して消えます。




