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セカンドワールド!  作者: こ~りん
六章:機械と共に生きる国
115/115

115.三者三様

 ♢


《――【創填遺 リングリング】が討伐されました》

《――MVPを選出します》

《――レアンタールがMVPに選出されました》

《――MVP報酬として称号“創弾機械を討つ者”と特典装備【火種創填 リングリング】が与えられます》

《――貢献度一〇〇位以内のプレイヤーとNPCにネームド素材『リングリングの金属装甲』が与えられます》

《――レイド参加者に称号“リングリングと対峙した者”が与えられます》


「――ひゅぅ、やっとか」


 ボロボロの体でアナウンスを聞き届けた男は回転弾倉型の大型拳銃を仕舞い、今しがた入手した特典装備を手に取る。

 その効果をウィンドウで確認し、実際に使用し確認した彼は、その性能に満足して口笛を吹いた。


 そんな彼に拍手を送る女性がいる。


「さすが異人ですね」

「いやいや、姫さんには劣りますって」

「それは事実ですが、異人には異人の強みがありますし、なにより成長速度が凄まじいの一言に尽きます。詰め込んだとはいえ、二ヶ月でここまで強くなるとは」


 帝国に到着した当時はレベル30程度だったレアンタールだが、紆余曲折あり彼女の指導によって今はレベル100に到達している。

 スキルも相当数取得しており、装備の充実している。


「というか、本当に俺が貰ってよかったんです? 姫さんなら一人でも獲得できたでしょうに」

「軍人として取り立てるために実績が必要ですからね」

「ああ、それで唐突なネームド討伐に……」


 掲示板でうるさいのに絡まれる未来が脳裏を過ぎり溜息をつきたくなるが、今は彼の上司となる人物が話している途中だ。

 これからの予定などを帰還しつつ頭に詰め込んだレアンタールは、これからもっと増えるだろう異人のために増設された軍人用の宿舎の自室のベッドで、改めて特典装備の性能を確認する。


 その頭の中では上司――この国の第三皇女から伝えられた、聖王国との戦争の可能性が反芻されていた。

 人間至上主義を掲げる亜人差別国家に対して、王国と帝国の連合で戦争を仕掛けるという話だ。


「(リアルじゃ銃すら持ったこと無いってのに、こっちじゃ銃持って軍人として戦争に参加か……。やっぱゲームって最高だな)」


 生粋の日本人であり、戦争とは無縁の生活を送ってきたが、銃や兵器には少年の頃から憧れを抱いてきた男だ。

 今回の話も渡りに船……彼がやる気を出すにはもってこいである。


「にしても、戦闘中にも思ったが便利すぎてチート級の能力だなコイツ。どうやって使用すっかな」


 【火種創填 リングリング】の名称通りの装備スキルが破格なものであり、自身の戦闘スタイルと非常にマッチしていたため、これからもレアンタールのメイン装備になることは間違いないだろう。


 ♢


 イシュタリア王国王都。カースメイカー事件が一先ず終結し、後始末も終わった頃。

 そこに住む人々はそれぞれ日常へと戻っていた。

 商人は商人の、冒険者は冒険者の、鍛冶師は鍛冶師の仕事をする。

 バザーも再開し、珍品や素材の売買が以前のように盛んになっていた。


 そんな王都の()()()()では、一人の男が石碑を前に佇んでいた。

 その男――グレイ・アンビシャスは、宝物庫から盗み出した本と石碑を見比べている。


「――ぅ、ぐぅ……! 貴様、何をする気だ……!」

「おや、まだ息がありましたか。さすが、一二勇士の称号を与えられた騎士はしぶといですね」


 腰から下を失い、血と臓物を流し続けながらも気力だけで這い動いた男を、グレイは呆れるような様子で見下す。

 もはや風前の灯火。グレイが何もせずとも、あと数分もしないうちに死ぬだろう。


「答えろ……犯罪者ァ!」

「ふむ……ではその気力に免じて、私の目的を話すとしましょう。簡潔に言えば戦力の増強であり、私自身が強くなるため。ここに封じられている()()()()をクリアすることで取得できる力――たしか、()()()()()()()()()と呼ばれているんでしたっけ? それを手にすることが目的です」


 グレイの回答に、死に体の男は憤怒の形相で歯を食いしばる。

 彼はその右手を掲げ、意識を保つことすらたっとの命を捧げて最期の大魔法を行使使用とする。

 火属性と雷属性を極め、【賢者】というユニークスキルを鍛え、一二勇士に数えられてからも研鑽を怠らなかった男の切り札だ。


 それは魔法そのものを細く絞ることで相手を防御を貫通し、相手の体内で膨れ上がることで確実な死を与える〈炎雷渦〉だ。

 彼が開発し調整したオリジナルの魔法であり、威力は彼が扱える魔法の中で最も高いが、閉所ではリスクが大きすぎるとして使用を控えていた。

 だが、たとえ自分が死ぬとしても、遺跡を崩落させてでも防いでみせるという覚悟が、彼にこれを行使させる。


「貴様に……渡してたまるものかァ! 王国が、我ら一二勇士が封じ続けてきた禁忌を、貴様のような犯罪者の手に――」

「《ライフ・イーター》《マジック・イーター》」


 だが、男は呆気なく殺された。

 相手の生命力を与ダメージに比例して奪う《ライフ・イーター》に、発動中の魔法を捕食して無効化する《マジック・イーター》の使用。

 万全の状態ならともかく、死に体の男一人を殺すには十分なアーツだ。


「……ああ、この魔法は便利そうなので()()()()()


 ついでに頭――正確には脳――を捕食することで〈炎雷渦〉をストックする。

 彼が他者の魔法を使うには対象の脳細胞が必要なのだが、これは脳が魔法を構築するのに必要な計算を行っているからだとグレイは推測している。


「さて……これがオンリーワンスキルを封じていることは盗んだ文献から分かりましたが、そのうちのどれなのかは結局分かりませんでしたからね」


 そう呟きつつ、彼は石碑に触れる。


《――条件の一部達成を確認》

《――人類種の殺害数クリア》

《――累計犯罪件数クリア》

《――ラストアーツの習得クリア》

《――■■■■■■■■未クリア》

《――■■未クリア》

《――【犯罪王クライム・オブ・ワールドレコード】の取得は不可能です》


「やはりまだ条件は達成できていませんか。二文字の伏せ字は試練のことでしょうが……もう一つはスキルかなにかでしょうか? 達成している条件と名称からすると、犯罪系のスキルの取得……あるいは称号か実績か……」


 名称と伏せ字の数から内容を考察したグレイは、封じられているモノが一〇〇%ではないがそれなりにシナジーがある当たりだと確信し、取得できるようになるまで保管することを決める。


「《イミテイトシフト:8BS(エイトビーエス)》」


 腹部を巨大な口に変化させ、土台ごと石碑を呑み込む。

 或いはこれで封印が解ければ……と淡い期待もあったが、石碑は通常通りのメッセージを流したので、この程度で機能が損なわれることは無いようだ。


 グレイは目的であるオンリーワンスキル入手のため、この広大な地下迷宮を再び探索するのだった。


 ♢


「――ふふん、満足でしてよ」


 そんな言葉を贈られたが、彼の頭の中は「やっと終わった……」という苦痛から解放される喜びしか無い。

 クランハウスで、最近座るのが辛くなってきたふかふかの椅子に腰掛け、ディルックは一連のクエストで取得するに至ったスキルと、それによって進化した装備の詳細を呼び出した。


 【血炎】から始まり、自身の選択で【血炎・改】へ、前々回のクエストで【血炎奮迅】に、今回のクエストで【陽炎爆血】へと進化を果たした、浄化の力を兼ね備えた炎を操るスキル。

 第一回イベントで入手したカースドウェポンである大剣は【血炎】によって性質が変化し、【陽炎爆血】によって見た目が大きく変わり新機能が増えた。


 これらは非常に有用なもので、今の彼にとって外すことのできない装備とスキルになっている。炎を纏って大剣を振るう姿から、ディルックには“焔騎士”の称号が与えられているのだ。

 だが、ここに至る過程が非常に辛いものだった。


 なぜなら、わがままな令嬢の要望に応え続けなければ強力なスキルに進化させる道を与えられず、複数のクエストがチェーンしているため拘束期間もかなり長かった。

 おかげで以前よりマルチタスクが容易となり戦闘技術も向上したが……可能ならもうやりたくないと考えている。


「……次はあの貴族達と面会か」


 令嬢の伝手とやらで入手した素材を基にふもっふが作成した装身具を握り、ディルックは瞳を閉じる。

 大きく呼吸し精神を整えたあと、装身具を服の下に隠して席を立つ。


「(あまりやる気が湧かないが、あの三人はクランの中でも特に癖が強いからな。交渉が拗れたら王国を見限られる可能性がある)」


 配信者でもあるハイトリカブト、単独行動が多いロザリーと彼女に付いていく白雪御前。

 ディルックと同等以上のプレイヤースキルを持ち、つい先ほどたった三人でネームドを討伐したのもあって、実力が王国貴族に知れ渡るのも時間の問題だろう。

 ネームドの討伐は、それ自体が偉業と見做される行為だからだ。


 決意したディルックは未だ窮屈に感じる礼服を身に纏い、権力を求める貴族の謀略と政治の中心地、クリスタル城に向かう。

 得意ではないが、クランメンバーの自由を保障するためにも、彼は政治の舞台に立つ必要があった。

 一二勇士には未だ届かないが、それでも王国からすれば並みの戦力では太刀打ちできない実力を持つ。だからこそ貴族と関わりを持つことができ、単なるクランオーナーでは不可能な交渉の席に着ける。


 なんでゲームの中でまで仕事しているんだろう、と思いながら、彼は自ら苦労を背負い込むのだった。

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