107.呪物庫 その一
リリーさんを見送った後、私達はこの里をお暇することにしました。
ハイエルフ達は残念そうにしていましたが、無理に引き留めることはせず、むしろお土産を渡されました。
「時間はいくらでもあるからね。また来る時を楽しみにしているよ」
フェイルさんが代表して言葉を述べると、彼らはハイエルフ式の礼で私達を見送ってくれます。
私とユキは手を振り、結界を抜け、一ヶ月前に里に来た道を辿るように進みました。
今の私たちからすれば、天蓋の森の浅層や中層の魔物は格下です。散歩するかのような気軽さで採取をしつつ、遭遇した魔物を鎧袖一触にしました。
まあインベントリの中身が一杯なのでそんなに持ち帰れないんですけどね。
マグダナの冒険者組合で素材を売却し、ポータルで王都に転移します。
向かう先は当然クランの本拠地です。
クランは基本、冒険者組合を介して設立するので、優先して対応して欲しいクエストなどはこちらに回されるんですよね。
帰還の連絡自体はフレンドメールで既にしているので、ホールにある依頼一覧から私に適したものを探して受注します。
依頼書という形で一枚一枚保管されていますが、システムを経由すればそれらを確認する必要はありません。
今回受けたのは、呪物庫にある呪われた装備を浄化する依頼です。元々は教会の人が定期的に行っていたそうですが、私が不在の間に起きた事件で呪具が市井に流され、それらを回収したことで容量が限界に近づいているそうなのです。
呪怨を支配できる私であれば、装備や道具から呪いを切り離すことが出来るだろう。そういった考えで依頼書を預かっていたそうです。
報酬は一つの解呪につき一〇万SG。難易度を危険性を考えれば高くはありませんが、数を熟せばそれなりに高額な報酬となるでしょう。
呪物庫は王城から程近い一等地に建てられており、厳重な警備と結界によって守られています。そこに訪れた私は所属と、依頼を受けたことを伝えます。
「――まずこちらからお願いします」
「これは……装身具ですか?」
「はい。武器や防具と比べればまだ解呪が簡単ですので」
案内役兼担当役の彼は私を呪物庫の中に通すと、壁際に積まれていた木箱を持ってきました。
その中には大量の装身具が乱雑に入れられており、そのどれもが呪いを帯びています。
「呪いはどれも危険なものです。解呪は危険な作業ですし、その大変さも私は承知しています。ですので、身の危険を感じたらすぐにお呼びください」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。このくらい、私の武器に比べたら大したことありません」
『呪装:骸の祈り』と比べれば、これらの装身具の呪いは大したことありません。【呪怨支配】で纏めて支配下に置き、抽出して握りつぶします。
弱いとはいえ呪いであることには変わりませんからね。同情する必要も余地もありません。
普通はどれだけ霧散させようと呪いとしての性質は消えませんが、【呪怨支配】はその性質ごと支配下に置くので、増大させるも消滅させるも自由自在です。
「こ、こんな解呪は初めてです……」
「でしょうね。きっと私ぐらいですよ、こんなことが可能なのは」
「しかし、解呪されたのは事実です。きちんと報酬は支払います。余裕があれば片っ端から解呪をお願いしたいのですが……」
「構いませんよ。私にもメリットがありますから」
【呪怨支配】のSレベを上げるためには、こうやって呪いに触れる必要があります。ハルバードの呪いだけでも十分鍛える事は可能ですが、効率はあまりよくありませんからね。
こういったスキルは試行回数がものを言います。
わたしがせっせと解呪している傍らで、担当役の彼はルーペのようなアイテムを使って解呪されたアイテムを調べています。
あれは【高位付与師】が【鑑定眼】を付与したアイテムらしく、誰が使用してもSレベ20相当の効力を発揮するそうです。
雑多に詰め込まれているアイテムの中には、ごく稀に強い呪いがこびり付いた物も存在します。
そういったアイテムは手間こそ掛かりますが、そのぶん元々の性能がいい場合が多いそうです。
「――ああ、お伝えし忘れていましたが、報酬として解呪したアイテムをお渡しすることも可能ですので、気になったものがあれば優先して【鑑定】しますよ」
「ありがとうございます」
私、武器と防具は優秀ですが、装身具は殆ど身に付けていませんからね。何か使えそうな物があれば一つか二つ貰っていきましょう。
さて、装身具が入っていた箱は三つで全てだったようです。あまり多くないように思えますが、箱自体がそれなりの大きさだったので、体積を考えるとかなりの量になります。
曰く、この呪物庫の中で最も多いのは武器だそうです。次いで防具類、そして装身具やアイテム類、の順です。
装身具及びアイテム類の解呪は終わったので、次は武器と防具に取り掛かりましょう。
このスキルはどれだけ使っても肉体的に疲労することは無いので、呪いを無視できる精神力があれば何時間でも何日でも支配し続けることが可能です。
次の解呪に取りかかる前に装身具を受け取りましょう。
「これと……これを貰いたいのですが」
「はい……はい、受理しました。どうぞ」
私が選んだのは二つで一つのアンクレット。そして、魔力を通している間だけ筋力を増加させる指環です。
指環は何の飾りもない、内側にルーン文字というものが刻まれているだけのものです。魔力が必要とはいえ、装身具一つで身体能力が上昇するのはとてもいいですね。
アンクレットの方は、残念ながら【鑑定眼】では効果が分からない代物でした。しかし、それはこの装身具のレア度が高いことを意味しています。
強い装備は生半可なスキルでは効果を見通すことが難しいですから。
そうそう、解呪が終わった装備は性能に見合った倉庫に移されるそうですよ。とても強力なものは宝物庫に優先的に移され、報償等で騎士や冒険者に与えられます。
それ以外は備品として仕舞われたり、市井に売却されるそうです。
解呪した人はその装備を報酬代わりに貰えるので、私はその権利を行使して装身具を二つ貰ったことになります。
普通の人からすれば重労働なので、教会の人間以外はどれだけ強力な装備が手に入るといえどやりたがらないそうです。




