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どうしてここにいたいと思ったのか。
私の解答はもともと極めて単純なことだった。
つまり、あなたのそばに、できるだけ近くにいたいから。
すると次の疑問がページをめくるように現れる。
それはどうしてなのか?
あなたが大好きだから。
また次の疑問。
それはどうしてなのか?
自問自答を繰り返してゆく。
どうしてと返したくなるのはどうして?
そう思うのはどうして?
そして、あなたがいてくれるのはいったい何故なのか、と。
袋小路が見えてくる。
ページの順番どおりではなく、時には大量のページをとばしたり、かつて開いたことのあるページを、確認のために何度も見返すようなことさえある。
かなり分厚い「疑問全集」が、私の心の書架にずらりと並んでいるかのようだ。
きっとその本を開くと、見開きの片側のページは空白なのだ。
何故なら、その空白は私が解答を残すためのものだから。
そもそも、全集があるのなら、編んだのもそこに詰まっている疑問も、すべて私によるものだ。
解答を残すのも私にしかできないのだ。
*
なら、今ページを開いているのは第何巻なのだろう?
そして、この全集はいったい何巻までになるのだろう?
だって、私にはまだまだ刊行は継続中な気がするからだ。
考えたところで自分では答えが見つかるとは思えない疑問から、ちゃんと時間をかけて考えれば分かりそうな疑問まで、私は知らず知らずのうちにけっこうな量を貯め込んで、きっと見栄えがする豪華な装丁の本を書架に並べ続けてきたのだ。
── どうして?
いたちごっこと呼ばれる状況に、私はまたたどり着く。
どんな疑問でも、納得できない自問自答は必ずそこにたどり着く。
疑問が疑問を呼び、解答の手がかりが見つからなくなると、終了時間のないクイズ番組を見ているかのようなテレビのスイッチをオフにして、自問自答を終えるしかない。
稀に、途中の疑問のどこかで自ら納得できそうな名解答があったような気もすることがある。
としても、それは一過性のもので、そのときだけ、疑問のごく一部に該当するだけのささやかな納得だ。
遥か遠くにそびえ立つ「どうして」の山脈が……心の書架の全集が、いっそう見栄えを良くしているように思えてくる。
疑問がなくなることはない。
例え私の身体がなくなったとしても、魂が存在するならばいつまでも自問自答が終わらないかのような想像さえしてしまう。
自分ひとりでは解答できないさらなる難問が、数える気にならないくらいあの「全集」の内で、私がページを開くのを待っている。
そんな気がしてならない。
*
自分ひとりでは解答が見つからない疑問は、質問という形に換えて誰かに助けを求めることになる。
私はあらためてもう一度考えてみる。
質問の原点に戻って、あなたを好きになったきっかけを。
あなたほど私と会話が続く人はいない。
このことは過去完了形であり、現在進行形でもあって、他に誰かがいるなんて考えられない。
あなたは真剣に私のことを考えてくれる。
誰にも打ち明けたことはないが、あなたが本気で怒ってくれたとき、私の涙には嬉しさが溢れていた。
そのときのことは一生忘れない。
忘れるはずがない。
あの頃の私は、自分の人生だというのに、あなたの前でも脇役を演じていた。
今の私はそう理解している。
それまでに経験したことがないことが立て続けに私に起きていた。
私はそうした状況に自分を見失い、流されていた。
そして、自分の人生であるにも関わらず、いつの間にか周りの人たちにうまく合わせる脇役に成り下がっていた。
自分の人生の主役は、自分以外にあり得ないというのに。
私の人生は私自身だけが創造できるものなのに。
あなたはそのことを二度と忘れないように、心に刻めるように思い出させてくれたのだ。
普段は文字数が少ない返事ばかりで、ぼんやりしているかのように見えがちのあなたをよく知ってから、私はどんどん深く理解できるようになった。
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一見しただけではちっともそんな気はしないのに、あなたのポーカー・フェイスはあなたにとってきっと大きなマイナスになっているのに、「ボクはボクだからさ」と言って、自分を変えようとはしない。
そうだね。
あなたは、あなただね。
そのことなら私に一切疑問はない。
ただの言葉としてではなく、このひとことに含まれている全部を私は分かっているつもりだ。
あなたのことなら、世界でいちばんよく知っている。
あなたがあなただからこそ、私はあなたを心の底から大切に思っている。
あなたはプラスにもマイナスにも私の心を揺らすことができる。
私の心を嵐の海に突き落とすことも可能なら、潮騒が心地よい渚へ導いてくれることも可能だ。
そんな恐るべきことを、と私は思っているのだが、いとも簡単にできてしまうなんて、やはりあなたしかいない。
そのくせ、あなたには自覚がない。
あなたはかつて自分でそう言ったし、私もそれは嘘ではなく事実だと感じている。
私はとても悔しいと思う。
あなたが私にできることなら、私だってあなたにお返ししてあげたいのに、ほんの少しだけでもそうできているのかいないのか、私は知りたいのに、あなたはなかなかそのヒントさえ見せてくれない。
私は「今に見てろよ」と思っている。
いつかあなたにお返し……それとも仕返しだろうか?
私はあなたを盛大に見返してあげたい。
そんな恩返しをしたい。
そのためにもずっとあなたのそばにいて、もっともっと、もっとあなたを知りたい。