第86話 テントの拠点 夢の中で見た者
初めての町イスティリアを昼に出発し、今は、馬車に揺られながら夕日を眺めている。
「みんな! 目的の場所が見えてきたよ!」
依頼人、ホークアイさんの声に反応し、正面を見ると白いテントが無数に立てられていた。
「へぇ、テントの集落が目的地だったのか」
「ほほぅ、長旅かと思いましたが。近かったですね」
「ですね。エクリアさん。お食事の心配はいらないから助かりましたよ」
「そうね。タヌヌ。酒の心配もいらにゃいわね!」
「タヌ! イフリータさんは飲みすぎですよ! これからお仕事なのに」
「ふん、どうせザコ退治でしょ。酔ってても余裕よ」
「タヌゥ、確かにそうですが」
「たのもしい話だけど。あのテントは集落じゃなくて、私達の拠点だよ」
「ホークアイさん。拠点って、どう言う事ですか?」
「みんなが頼まれる任務が、どれになるかまではわからないけど、ここの任務は、拠点の防衛と領主様の娘である、お嬢様の受けた任務の手伝いなんだよ」
【お嬢様の手伝い!】
「それってつまり……」
「お嬢様のわがままのパシリですか」
イフリータ、エクリアがあきれてるな。
まぁ俺も、隣町まで来た緊急の依頼が、まさかお嬢様のお守りだとは思わなかったがな。
「お嬢様の前でお酒はダメだから、イフリータさん。お酒は馬車の中に置いていってくださいね」
「わかったわ。ホークアイ」
やけに素直だなイフリータ? イヤな予感がするぞ。
話していると、テントの拠点に到着した。
ザザザァァァ、ヒヒィィィィ。
「リディア様、お待たせしました。冒険者の人達を連れて参りました」
「ご苦労でした。ホークアイ」
拠点入り口には、銀甲冑の格好をした。美女が立っていた。
ほう。中々に凛々しく美しいお方だ。お嬢様の警護って感じだな。
てか、あんな護衛がいるんなら、俺達いらないんじゃないか? 普通に強そうなんだが。
馬車から降り、リディアの前に並んだ。
「私は、お嬢様の警護部隊、隊長リディアという」
こちらも、挨拶をしたが。イフリータがいない事に気がついた。
だが、リディアさんの話に割り込めなかった。
何でいねぇんだよ! どこ行きやがったイフリータ!
「勇者の死後モンスターが暴れ出し、どの街も忙しい中、緊急の依頼を受けてくれたことに、感謝しよう。ありがとう」
リディアは深々と頭を下げた。
「えと、リディアさん。任務の内容までは、聞いてないのですが、俺達は何をすればいいんですか?」
「この辺りは、リーベルト領主さまの領地になる。リーベルト様の納めている町は、幸いにも被害は少ないのだ」
被害は少ないのか、もしかしたら俺がいた町にモンスターが集中したから、周りの町は被害が少なくなったのか?
「だが無傷ではないのでな、壊れた町の修復には、冒険者も協力してくれているが。魔力結晶がなくて、防衛機能が停止しているのだ」
前の町で、俺が英雄になった原因。紫結晶から作り出した、魔力結晶の事だな。
「魔力結晶が準備できるまでは、一部の者達で、町の周囲に拠点を作り、町に魔物が侵入しないように、防衛しているのだ」
なるほど、町が壊されないように、町の外でモンスターを迎え撃ってるわけか。
「それでは、俺達の任務は、みなさんと協力して町の防衛ですか?」
「それもあるが、何人かは、リーベルト領主さまの、お嬢様が任務をするのを手伝ってもらう」
「任務ですか? 町を防衛する他にもあるんですか?」
「当たり前だ! 食料に薬品の素材など、今は他の街からの物資には頼れないのだからな」
「すみません。確かに、そうですね」
そりゃそうだよな。前の町は魔力結晶で、町防衛機能が使えてたが。強力な魔力結晶が無い町は、今も戦って町を守ってるのかもしれないな。
「着いたばかりで悪いが、人手が足りないのでな、配置を決めさせてもらう。細かい説明は、配置先の責任者から聞いてほしい」
どうするかな、イフリータ居ないんだが。
「タヌタヌ、なんだか緊張しますね。初仕事ですよ。エクリアさん!」
「仕事ですか、イヤな響きですね。あぁ、わたし戦闘は無理なので、戦い以外で簡単なので、よろしくです。フェンリも同じですか?」
「そうですねぇ。私は鼻がいいから、血生臭いのは無理ですし、戦いは遠慮したいですね。エクスはどうする?」
「そうだな。あまり殺すとかはしたくないのですが。ロッティさんはどうするんですか? 仕事は終わったから町に向かうのですか?」
「私は、戦いは無理だけど、お金貰えるなら、馬車を使って、荷物運びならやりますよ」
「タヌ! みなさんの分も、ぽんぽこマジックでモンスターを倒してやりますよ!」
歓声が上がりタヌヌは照れた。
そういや、うちのパーティー。殆ど戦える奴いないんだった……。
ん? 話し声が聞こえないと思ったら、リディアさんが、無言で体を震わせてる。どうしたんだ?
「Cランク冒険者が、はつにんむだと……ホークアイ!!! きさま! ど素人の新人を連れてきたのか!」
あぁ、会話の内容で、初任務とわかったのか。
「あ、えと、他にいなくて。ですがリディア様。このユーリさんは、イスティリアの町では英雄と呼ばれていたんですよ!」
ガシ! ホークアイはユーリの両肩を掴み、体を震わせながら笑っていた。
リディアさんが、胸を揺らして、近づいて品定めする様に見ている。
俺は胸の谷間に目が、いってしまう。いや、みちゃだめだ、これ以上怒らせてはダメだ。
「えいゆうだとぉ、この様な筋肉のカケラもない体の者が、英雄なわけないだろうが!」
まぁ確かにヒョロイ体してますからね。
「え、あの、けど」
「言い訳をするな!」
ビュン!
「ひ!」
ホークアイがビンタされる! と思ったのが原因かはわからないが、俺の体が激しいバイブレーションの様に振動すると、光の速さで体が勝手に動き、俺はホークアイを、かばっていた。
ズバン!「グボフォ! な……ぜ、がは!」ズザザー……
「ユーリさんが、わたしをかばって! 大丈夫ですか!」
「タヌ! ご主人様」
「今のは、マスターから飛び込んだのですから、守る必要はありませんでしたよね」
「ユーリ、男を見せましたね。祈りを捧げて上げましょう」
がば!
「勝手に殺してんじゃねぇよ! エクリア!」
「おぉ、回復が早いですな。ユーリ」
「まったく、うをぉ、いてぇ」
「すみません、ユーリさん。私のせいで」
「いや、大丈夫だよ。ホークアイ。俺のランクが低いのが原因だしね」
リディアは、ユーリをぶっ飛ばした手を見て、ボソッと、つぶやいた。
「ありえない。私の目では、殴るまでユーリの姿は見えなかった。どれだけ速く移動したのだ彼は」
「なんだなんだ、騒がしいと思ってきてみたら、面白いことになってるじゃないか。リディア」
ん? なんか聞き覚えのある声だな?
「騒がしく申し訳ございません。エルザお嬢様」
エルザ! まさかと思い声のする方を見ると、そこには。
漆黒の髪に、キラリと黒光するボディアーマー! そして顔は! 踏まれたいと思わせる、幼いながらもキリリとした顔立ち! 美しい!
じゃねぇ! 人間の貴族に化けた、魔王の娘じゃねぇか!
次は、月曜日、もしかしたら火曜になるかもしれません。
変更の時は、あらすじに書いておきます。
ブックマークありがとうございます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




