第84話 はじめての依頼人
町の防衛隊長リーシェさんの人避け魔法は、本当に用事がある人には効果がない。
人避け魔法を無効化するほど慌てた様子の金髪少女は、息を整えると、冒険者ギルド受付に向かった。
「冒険者の方を探しているのですが。どなたか紹介をお願いできますか?」
やはり、依頼のようだな。メイド服のままクレアさんが笑顔で応対している。
「どういった冒険者をお探しですか?」
「そうですね。冒険者ランクC以上で、隣町でモンスター退治を手伝って欲しいんです」
ほう、冒険者ランク指名で、モンスター退治か中々厄介そうだな。
クレアさんは、どんな冒険者紹介するかな。
ん? クレアさんの表情から笑顔が消えた。
「申し訳ありませんが。ランクC以上の冒険者は、現在、手の空いている者は、おりません」
あら。
「え! 1人もいないんですか!」
「はい、他の町に行けるランクC以上の冒険者は現在、騎士団が契約していますので、騎士団の交代部隊が揃うまでは、1人もおりません。申し訳ありません」
「そんな、こっちの町でも冒険者がいないなんて、せっかく怖い思いしてきたのに」
そうか。今朝、ライザ団長の騎士団が急遽、町を出発したから、人手不足を冒険者で補っているのか。可哀想だけど仕方ないよな。
「ふぅ。仕方ありませんか。町から英雄を失うのは辛いのですが」
ん? リーシェさん何の話だ。英雄を失う? 英雄って俺の事だよな。
「私達、騎士団のせいで、冒険者が足りないようですし、仕方ありませんね」
「何の話をしてるんですか。リーシェさん?」
「いえ、騎士団の評判を落とさない為の苦肉の策の話です」
リーシェさんが、不敵に笑ってる。綺麗だが嫌な予感しかしない。
「あぅぅぅ、どうしよぉ。みんなに、なんていえばぁ」
「受付前で、うなだれてる方、こちらに来てください」
「え? わたしですか」
リーシェさんが、冒険者ギルドで、依頼を断れた少女を呼んでる……。
「冒険者をお探しなら丁度いい人達がいますよ」
リーシェさんは、俺を見てる。やはり、そうきたか。
「ほんとうですか! あれ、けど、Cランク以上の冒険者は、騎士団が契約しているのでは?」
「この方は、最低ランクのFランク冒険者です」
「Fランク……私より低い」
「ですが、この町を救ってくれた英雄なのですよ」
「英雄ですか! そう言われてみると、それとなく光を放っているような、ないような」
光ってるわけないだろ。
「こちらに、おられるユーリ様は、神の手を持つ英雄ですよ」
「神の手! 本当ですか!」
「まぁ、言われてるだけだよ」
「おぉ」
「ユーリ様の実力は、空から降りし赤き岩を破壊し、国を救った英雄として。紅の英雄、紅の破壊神と呼ばれる。ライザ団長と肩を並べると言っても過言ではありません!」
「それは凄いですね!」
紅の破壊神。そういや、そんな噂聞いたな。ライザ団長は、否定していたらしいが。
巨大化したライザ団長が、赤き岩を破壊したと、目撃情報が多数あり、問答無用で英雄に選ばれた、とかだったかな?
巨大化したのは、ライザ団長に似せた、俺の魔法、光の化身ランファなんだが。
まぁ理由なんて、どうでもよくて、勇者亡き今、新たなる希望を求めて手当たり次第に、英雄を作り出してるだけだろうな。
まぁライザ団長は、本当に頑張ってたから英雄で間違い無いだろうが。
確か他の町でも、英雄がいると噂で聞いたな。
変な名前の英雄はチキン英雄だったか、何やったんだよチキン英雄……。
「英雄ですか。それならランクが低くても、みんな怒らないかな」
「ユーリ様なら問題ないですよ」
俺はまだ、行くと言ってないんだが。
「あ、安心したら思い出しました。私はお礼も言いたくて、人を探してるのですが、英雄様なら、わかりませんか」
そんなに知り合いは、居ないが、聞いてやるか。
「どんな人ですか」
「うぅ、それなんですが、簡単な特徴だと思うのですが。町の人達に聞いたら、笑われるのですよ」
?聞いただけで笑われる?
「ウルフに追われているのを助けてもらったので、お礼を言いたいのです。家ほど巨大なフェンリルを召喚できる人を探しています」
あの馬車は、おまえか!
「家ほど巨大な召喚獣を召喚できる方なら、有名だと思うんですが。この町の人ではないのかもしれません」
「それで、町の人達は、なんと言ってました?」
「それがですね。リーシェさん。そんな巨大な召喚獣なんて、いるわけないだろ。それはブルーケルベロスだよ。お嬢ちゃん、と。ブルーケルベロスとは何でしょうか?」
「だ! そうですよ。ユーリ様」
ぐ、なんだろう。いきなり弱みを握られた気がする。
リーシェさんの不敵な笑みが憎たらしく見えるぞ!
「え! もしかして! さっきのフェンリルを召喚してたのは、キミなの!」
リーシェさんの反応で気がついたようだな。仕方ないか。
「まぁ、そんなとこだ。この事は秘密にしてくれると助かる」
「よくわからないけど、命の恩人の頼みだから秘密にするよ。それとさっきは助けてくれて、ありがとう! 本当に死ぬかと思ったんだよ」
「怪我がなくてよかったよ」
「ありがとう。それで……依頼は受けてもらえますか?」
断りたかったが仕方ないか。
「いいですよ」
「ありがとう! 先ずは自己紹介しないとですね。私はホークアイ・ロード。ロード家の娘です」
「ロード家と言えば、確か騎士の家系でしたか」
「はい! リーシェさん。元騎士の父さん、みたいに強くはないけど、一応冒険者です!」
俺達も自己紹介をした。
「えと、依頼して何ですが。ユーリさんのお仲間は、全員連れて行くのでしょうか?」
んん、町に戻ってくるかもわからんし、今回は全員で行った方がいいよな。
「そのつもりだけど、問題あるかな? 酔っ払いはダメとか?」
「にゃによ! ご主人様、私を置いていくつもり」
「私達は、ようなしなんですよイフリータさん」
「おかわり! ちょび髭マスター!」
だいぶ酔ってるが仕方ないな。
「いえ、酔ってるのは問題ないのですが。私の馬車に全員乗せると、馬車が遅くなって、多分だけどモンスターに簡単に追いつかれるん、じゅないかと思って」
「なるほど、重量オーバーか」
とは言っても、普通のモンスターなら簡単に倒せると思うが。それをホークアイに説明するわけにもいかないし。
フェンリをフェンリルにするのも、今は目立つしな。
「ハムフフフ、お困りのようですね! みなさん! その悩み私が解決してあげましょう!」
「ユーリさん、何でしょうかこの、低音でひびく小さな声は、一体どこから」
ホークアイさんの言った通り、声の主は低音で、どこから聞こえてくるのかもわからず、全員で辺りを見渡したが見つけれないでいた。
「ここだよここ! 何でわからないかなもぉ!」
「そりゃ、そんだけ小さいとな。ほらよ」
ひょいと、だき抱えるように、メイド服のクレアさんに、持ち上げられたのは。
テーブルに隠れたイスの上で飛び跳ねていた、ハムスターのロッティさんだった。
次は、月曜日予定です。
すみません、他の町に、旅立ちできませんでした。旅立ちは月曜日になります。
スローペースの作品を読んでくれてありがとうございます。




