第62話 魔王を見下《みお》ろす者。
グガァァァァ! 頭が割れる! む? 痛くない? あれ? デジャブか? 天使エクリアに殺された時も頭が痛くなかったが……まさか……また死んだのか?
たしか、エクスの柔らかな肌に抱かれていたら、突き飛ばされて、頭を強打してからの記憶が完全にない。むぅ?
それに、さっきから妙にふわふわして、体が浮いてるみたいだし……?!! 浮いてんじゃん! む? 体は動かないのか? 動けない……
仕方ない、このまま周りを見るか、天上から下を見下ろしてるみたいだな。
薄暗い部屋に、城壁みたいな壁? なんか見覚えがある気がするぞ? なんだっけな……
ん? これは、足音?
タタタタ! バァン!
おぉ! 頑丈そうな巨大な鉄の扉が、ゴムみたいにバウンドしたぞ! どんな怪力だ!
「魔王様!」
魔王!!!
「騒々しいぞ。ゼクス。なんのようだ」
は! 部屋は違うが! この壁や部屋の感じは、勇者カイザーが死んだ建物に似てる!
じゃあ! 今返事したのが魔王か! クソ真下にいやがる! 頭の黒髪しか見えん!
ゼクスって奴は、金髪の若い執事に見えるな。
「申し訳ございません、魔王様! 大至急お伝えせねば、ならぬ事ができましたので。お許しください」
「かまわん、もうしてみよ」
「ドクードに続き、先程我らの同朋マジェスティの水晶ドクロが砕けているのを、ゴブリンが発見いたしました」
水晶ドクロ?
「なんだと!!! それはまことか! ゼクス!」
うをぉぉぉ! 建物全体が、まるで地震でもおきたみたいに揺れたぞ! どんな声してやがんだ魔王。
「魔王様……」
「すまない、ゼクス。取り乱してしまった。それでマジェスティが死んだことに、間違いはないのか」
ん? 死んだ?
「確認はできていませんが。水晶ドクロの破損の仕方からして、まず間違いないかと」
「そうか……」
なるほど魔王配下は死ぬと、水晶ドクロが壊れてわかるわけか。
「一夜しにて、2人の仲間を失うとは、まるで夢でもみているようでわないか、ゼクスよ」
「左様でございますね。魔王様……」
ん? 死んだのが2人? ドクードとマジェスティの後に、スロットボックスでも魔王配下が死んでるから、死んだ魔王配下は3人のはず。
じゃあこれは、今じゃなく。過去のできごとになるのか?
「ですが魔王様。亡くなられた魔王配下達は全て、魔王様と人族との和解に反対していた者ばかりです」
「何がいいたいのだ。ゼクス!」
おぉ、魔王様の殺気に満ちた声、まさか仲間割れか?
「いえ、魔王様を、うたがっている訳ではございません」
「では、なんだ……もうしてみよ」
「魔王様に忠誠を誓う者が暴走した可能性もあります」
「ふぅ……」
「何しろ、勇者を失った今の人族に、我ら魔王様の配下を殺せる者がいるとは考えられません」
「確かにな」
「決まりですな魔王様。城内に、いない者を直ちに確認いたします。我らの中に裏切り者がいるのでしたら、招集命令があるなか、城内にいない者が怪しいでしょう」
「まぁ待てゼクス。魔族に、そのような者がおるとは考えにくかろう? 先ほど、びじゃくだが。魔族ではない者の魔力を感じた。その者が水晶ドクロに細工をしたのかも知れぬであろう」
げ! おれか?
「なんと! それは気が付きませんでした」
「人間が入り込んでいる可能性もあるだろう。そちらも、ついでに捜索してみるがよい」
「わたくしとしたことが、取り乱し、人間の罠にハマるところでした。直ちに城内の調査に取り掛かるといたしましょう」
「頼んだぞゼクス」
「はっ!」ガチャ。ギィィ。バタン。
おれじゃないのか? まぁ魔王様が感じた魔力が俺だとしても、動けないから逃げれないが。
「ふぅ。また仲間が死んだか。だが死んだ者達が和解に反対していたのも事実。一体誰が……」
魔王は、和解にまだ未練があるのか?
いや、俺は自由に生きるんだ。こんな話、俺には関係ない!
バァン!
「父よ!」父だと! 娘がいるのか魔王!
む! あれは! 漆黒の髪に、キラリと黒光するボディアーマー! そして顔は! 踏まれたいと思わせる、幼いながらもキリリとした顔立ち! 美しい……
「夜まで帰ってこれぬとは、人間として暮らすのも大変であろう。エルザよ」
人間として暮らす! 人間の街に潜入してるってことか? なんの目的が?
「退屈ですが。死ぬほどではないですよ」
「それにしても、相変わらず姿まで通信魔法で作り出すとは、我が娘ながら、さすがだな」
なに! 本物じゃないのかあれ! てか通信魔法なんてあるのか?
「そのような戯言は、どうでもよいのです! なぜ、人間の街に襲撃するのを中止するのですか!」
「連絡を聞いておらぬのか?」
「それは……聞いておりますが。ドクード殿が死んだことには、確かに驚きました。ですが! だからといって! 攻撃をやめるのですか!」
見た目通り娘は過激だな。まぁ魔王の娘だしな。襲撃する為に、街に潜入してるって、ことみたいだな。
「ドクードだけではないのだ、エルザよ」
「な! 他にも亡くなられたのですか!」
「まだわからぬ。今、城内を確認しているところだ」
「城内をですか? 意味がわかりません。他に死んだ者がいようと、人間など勇者がなければ何もできないゴブリンも同じです!」
「エルザよ。簡単に殺せるならば尚の事、今はドクードを殺した者の正体を探ることが先決であろう」
「くっ。いつからこの様な」
バァン!
「ゼクス戻ったか」
「度々申し訳ございません! 魔王様! それにエルザ様」
「ゼクス殿。めずらしく慌てているな」
「エルザ様。それが……」
「かまわん。もうしてみよゼクス」
「はっ! 魔族達と城内の捜索をしていた所、自室におられたガルティーゾ・レゾナス……の返事がなく部屋の中を確認した所。ベッドの上で眠るように亡くなっていました」
スロットボックスから出てきた心臓の持ち主か。
「いったいだれが……」
「まさか城内に敵が侵入しているのか?」
「エルザ様、それはまだわかりませんが。ガルティーゾの水晶ドクロも念のため確認いたしましたが壊れていました。マジェスティの水晶ドクロも、あらためて確認いたしましたが、細工の痕跡はありませんでしたから、マジェスティが死んだことに間違いないかと」
「そうか。さっき死んだか確認していたのはマジェスティ殿か。では一夜にして魔王配下が3人も殺されたわけか」
「はい。エルザ様」
「一夜にして、我がどうほうたちが、3人も……どうなっているのだ……」
「面白いですな父上よ」
「なにがだエルザよ」
「勇者が死に、戦えぬと思っていた人間にまだ、これほどの者がいることがですよ」
「頼もしい娘だ。エルザよ」
娘の方が魔王みたいだな……不敵な笑み浮かべてるし……かわいいから怖くはないが。
「では、父上。時間がありませんので、私は人間の街に戻らせていただきます」
「せわしいな。エルザよ」
「仕方がないのですよ。見回りの者が寝ているか確認に来ますのでね」
「人間の娘も大変だなエルザよ」
「これも魔族のためですから。新たなる勇者が出れば直ぐに噂は広がりますので、何か情報が手に入ればご報告いたします。では。これで」
ジジジ……ブゥン……
おぉ! 本当に娘の姿が消えた! 本当に通信魔法だったのか。
それにしても、バケツつけて戦っててよかった。
危うく新たなる勇者とか言われて、魔王軍に狙われるとこだったな。
「ゼクスよ。人間がまだ城内におるかも知れん。捜索を続けよ」
「承知しております! 魔王様」
魔王の娘は、寝てるか確認の見回りがあると言ってたが。学校の寮にでもいるのか?
む? 視界がゆがむ? 起きるのかな?
これは! ずいぶんゴージャスな部屋になったが?
「魔王の娘らしく振る舞うのも楽ではありませんね。はぁ」
あれは! 黒のネグリジェ! 人間に化けてる魔王の娘か! 学校の寮ってより屋敷みたいだな。貴族に入り込んでるのか?
「なぜ人間は夜になると寝るのでしょうか。はっ! 早く寝なくては。ふふっ、さぁて明日は何して遊ぶかなぁ。父には悪いですが。私は今を楽しむぞぉ!」
……さっきとずいぶんキャラが違うな。父親の前だけそれっぽく振る舞ってただけみたいだな。
「あ! 寝る前にトイレに行っとこ!!」
トイレだと! ズダン!! グガァァァァ!!!
「むにゃむにゃ」
「ぐ、エクリアのやろう! 腹に蹴り入れやがって! 目が覚めたじゃねぇか」
はぁ、にしても。今のは夢か? 妙にリアルだったが。もしかしたら魔王配下が死んで、魔王達がどうしてたか気になってたから見えたのかな?
ん! 部屋の外から足音!! そうかイフリータが朝になったら不審に思われるから、イフリータの結界を消したのか!
と……とりあえず、寝たふりをするか。
ガチャ! ギィィ!
な! 入ってきた! ん? この声は?
「あれ? ユーリに皆いるじゃん? なんか知らないのも増えてるけど」
「そうね。ジル」
「なんだよ! シルヴィ! 顔真っ赤にして」
「べ! 別にしてないわよ!」
そうか。俺達が避難してないから、確認に来てたのか。
「ユーリは、女だらけでエロエロみたいだなシルヴィ」
「安くする為に、みんなで同じ部屋にしただけでしょ」
「えぇ、そうかなぁ」
「ほら、ジル。ユーリさん達の無事もわかったんだから報告してから。宿屋のオーナーさんがVIPのお風呂、騎士団で自由に使っていいって言ってたんだから、入りに行きましょうよ!」
「うわうわ! わかったから、そんなに押すなよシルヴィ!」
ギィィ、バタン!
ジルのやろう! エロエロとか変な呼び方、シルヴィさんにしやがって……
だが! 重要なのはそこじゃない! このVIPフロアの風呂を騎士団で交代で使うと言っていた!
ならば、やることは1つ! 透明人間になり……
「タヌゥゥ……」ギュ……
む! みんながまとわりついて、動けん。ならば! 仕方ない次の手だ!
寝て魔王の姿を見れたならば、騎士団の風呂を見たいと考えて寝れば願望夢が発動するはずだ!
「グゥ……」
おぉ! 成功だ! 湯煙の中うごめく影! 見えてきたぞ! ぶっ!!!
「……はぁ、避難所と言っても、さすが貴族様の屋敷だな、でけぇ風呂だな。なぁ筋肉のにぃさん!」
「ふん! そうだな」
「いや、全裸で筋肉ポーズはやめろよ、前見えてんだよ」
「日課なんだきにするな、むん! キラ! ぶるん!」
「気にするわ! せめて隠せ!」
「ぶばぁ! はぁはぁ! なんで男湯の夢なんだよ! びっくりして目が覚めたわ! けど助かった。あのままはキツイ。はぁ、もう普通に寝よ……グゥ……」
2章終わりですよければ、ブクマ、下の『☆☆☆☆☆』より評価お願いします。
長い物語を読んでくれて、ありがとうございました。
3章は来週土曜日からスタート予定です。




