第137話 食を握る者は、天下をとる!かもしれない
さて、お堅い護衛のリンクに貸しを作ったし、次は中々に好意的な、領主ルージュさんとの交渉だな。
「では、ルージュ殿、リンク殿、みなさんも、食事をしながら、交渉をいたしましょう」
「いま、みなさんって」
「え? 私達も?」
「そういえば、イスの数が人数分ある」
「変だよね。ここに来る人数は、出発の直前に決まったのに」
来る人数は、イフリータの空飛ぶ偵察魔法で、確認してたからな、さすがに人数分用意したのはあやしかったか?
「ほんとうに、私達も座るの?」
「あやしくない?」
「コホン!」
【ルージュ様!】
「我々は、交渉に来たのです。わかりますね」
【はい! ルージュ様】
スッ! カタ。
うたがわれはしたが、みんな座ったな。
「さわがしくて、申し訳ありません。白銀様」
「いえ、かまいませんよ。当然の反応でしょうから」
「ありがとうございます」
「ねぇ、ずっと思ってたけど。すごい、ごちそうなんだけど」
「だね。私、勇者様が死んで、モンスターが凶暴化してから、ろくな食事してないんだよね」
「それは、みんな同じだよ。私達や、ルージュ様だって」
「わたしもう我慢できない! パクっ! グンン!!!」
【ちょっと!! 大丈夫! まさか……どく?】
あ、あれ、そんなはずは……
「おいしぃぃぃぃ!!! モンスターのじゅうしぃな、お肉なんてもう食べられないと思ってたよ! 口の中で肉がとろけて、私の舌に肉汁がからみついてくる。しあわせ、あ、みんないらないなら貰うね! ハムハムンググ!!」
「誰がいらないなんて!」
「あ! こらそれはわたしの、自分のがあるだろうが!」
【私達もたべよ!】
「本当だ! この肉、歯で噛み切れるぞ!」
「ご飯が、こんなに美味しいなんて、久しぶりだわ」
「さわがしくて、本当にすみません。白銀様」
「いえ、かまいませんよ。よろこんで、くれている証拠ですから」
「ありがとうございます。それにしても本当に美味しい食事ですね……うわさ通り、食材を狩るのに困ってないようですね」
うわさ! どうやら順調に、女狼族に頼んで流したうわさが、周囲に広まってるみたいだな。あとはどれだけ、買いたい奴らが来るかだな。
「えぇ、何の問題もなくモンスターを倒せていますから、あぁもちろん和解の際には、お売りする用意もありますし、お詫びにいくらか、お持ち帰りください」
ん? よろこぶと思ったら、ルージュさんの表情が暗くなった?
「大変ありがたいお話ですが。残念ながら、これからの事を考えますと、これほど豪華な食糧を、大量に買うのは難しいでしょう」
ん? ざいせいなんか? いや、さっきのリンクの全財産の賭け話を聞く限り、財政難じゃないよな。
「先ほどのリンク殿の話を聞く限り、お金はあると思いましたが。何か他に理由があるのですか」
「少し前まで、無抵抗のモンスターを狩っていた我々は、町を守るすべも少なく。今や、モンスターに狩られる立場、食糧は最低限にし、今は町を守るすべを増やさねばなりません」
そうか。町の砦化、修復、冒険者を増やすのに金が大量にいるし、町の人が飢え死にしないように、食糧を用意する必要があるから、贅沢な食糧は買えないわけか。
確かに、今回持って来た食糧は、高い物ばかりだからな。
「確かにそうですね。それでは、お手頃な食糧も用意できますので、町の人達が、うえないように大量に、お送りしましょう」
「いえ、先ほどもいいましたが。そんなには」
「いえ、ルージュ殿。これは、領地を侵略した、お詫びですから、今回は料金はいりませんよ。これから買っていただければそれでかまいません」
「そうですか。それならばお言葉に甘えるとしましょう。それにしても、すごいですね」
「何がですか?」
「我らでは、小型モンスターのボア(イノシシ)を狩るのにも、戦いなれた者たち5人がかり、しかも30分で一体がやっとのありさまです。やはり女狼族がいると、凶暴化したモンスターも簡単に倒せるのですね」
「えぇ、女狼族は、力もスピードも、人族とは桁違いですからね」
「そうですか」
まぁ、女狼族も倒せるが。食糧あつめしてるのは、子ダヌキのタヌヌなんだよな。説明めんどうだし、勘違いさせといていいか。
「あら、このお酒は、果物の香りがしますね」
「そのお酒は、女狼族の里で作った、新しいお酒になります。どうぞお飲みください」
「では、ゴク。甘くて、飲みやすいですね。ほのかに香るのは、レッドベリーの香りですか」
「お気に召したのでしたら、こちらも無料でお渡ししましょう」
「お酒まで、よろしいのですか」
「はい、評判になれば売れますから、問題はありません」
「問題あるに決まってるじゃないの!」ダァン!!
「なんだよ。イフリータ、地面に穴あけて。みんなが驚いてるじゃないか!」
「な、なんだあのメイド……地面蹴っただけで、大穴が空いたぞ」
「ゴクリ……あれでメイド、戦わなくていいんだよね。本当に……」
「てか、メイドなのに主人にケンカ売ってるよ? しかもおさけで」
「なによあんた達、文句あるわけ!」
【いえ! ありません! メイド様!!】
「せっかく話がうまくいってるのに、何言ってるんだよ。イフリータ」
「何がうまくよ! 私の大事なベリーちゃんを渡すなんて、私は反対よ!」
「お酒ならまた作ればいいだろ」
「町の奴らに、渡してたら大量にいるじゃないの!」
「量産の準備はできてるから、大丈夫だよ」
「信用できないわ」
「あのメイドのイフリータさん」
「なによ! 今大事な話してるでしょ!」
「その大事な話ですが。お酒や食糧の代わりに、我が領地の、町、村の周囲以外で、食材を取る権利を、お貸しするというのはどうでしょうか?」
「そんな物、借りてなんになるわけ?」
「ふふ、まだみぬ、お酒が作れるかもしれませんよ。イフリータさん」
「まだみぬ、お酒! 悪くないわね!!」
「ふふ、そうでしょ」
「あなた話がわかるわね」
「おほめにあずかり光栄ですわ。イフリータさん」
ルージュさん、俺よりイフリータを使いこなしてるな。けど……
「ルージュ殿、今の話、本当によろしいのですか? 領地の食材を取る権利を我々に貸したりしたら、町の人達が困るのでは」
「今の我々では、町の外に出て、採取するのも、人数が必要ですから、商売として売るなら、肉一切れですら、異常な金額になってしまいます」
予定通りになってるな。やはり金を稼ぐなら、胃袋をつかむにかぎるな!
「今では、町から1番近い森や川にすら、誰も近づきません」
「確かにそうですね。それで領地での、食材を取る権利を借り続けるには、何をすればよいのですか?」
「簡単ですよ。我々が食材を取るより、簡単に取れるのですから、これからお酒、食糧などを、安くゆずっていただければよいのです」
「そういう事でしたら、問題はありません。できる限り、安くいたしましょう」
「ありがとうございます。町の者も喜ぶでしょう。それと、こちらの領地は、白銀様の領地として下さい」
「え! よろしいのですか?」
「モンスターが凶暴化してからは、領地を守る部隊は、殆どが町に集まっています。ですが、こちらの領地は、町からは遠く、今の我々では、この村を守り続ける余裕もありません。ですから、白銀様との友好の証として、このままお譲り致します」
「わかりました。そういう事でしたら、ネズミ族の村は、女狼族の里、国王白銀が譲り受けさせてもらいます」
「よろしくお願いします。白銀様」
次は、来週金曜日予定です。