第132話 従順《じゅうじゅん》で素直なのも、良いとはかぎらない。
「クソ! ネズミ族の村に、反乱を考えてる奴が居るから、捕獲してくれと頼まれて来たのに、あんな、ちび1人に何やってやがんだ! テメェら!」
「ですが、あねさん。あのネズミ族は、ただもんじゃないですよ!」
「そんなもん、てめぇに言われなくても、みりゃぁわかんだよ!」
「だったら! ここは、引くべきですよ!」
「んなことできるか! 私達は、ドラゴンだって討伐した、討伐ギルドなんだぞ! あんなチビ1人に背中なんか見せられるか!」
「ドラゴンと言っても、あのドラゴンは、下級のドラゴンじゃないですか。あのチビ、ドラゴンなんてめじゃないですよ!」
「うるせぇ、んなことわかってんだよ!」
「あねさん……」
「チー! でぇいやぁ!」ズガァァァン!「ぎゃぁぁぁぁ」
「チューチューチュン!」ドゴォォォォン!「ぐがぁぁぁあ」
「なんなんだよ、あの馬鹿力は」
「あねさん! うえを!! 巨大な物体がこっちに飛んできます!」
「今度はなんだ! うえになにがあんだよ……なんだあのバカデケェのは!」
「あれ、ドラゴンじゃ」
「はぁぁぁぁ! んなわけねぇだろ! あれがドラゴンだったら、私達が倒した奴の10倍はでけぇぞ……」
「けど、あねさん」
「クソ! どうなってんだよ。マジありえねぇだろ」
「しかもあのドラゴン、人が乗ってますよ」
「はぁぁぁぁ! ドラゴンだぞ! んなわけ……マジどうなってやがんだ、背中に人が乗ってやがる」
「けど、それなら、いきなり襲われたりしないですかね」
「かもしれねぇが。あんなの相手じゃ。いきなりじゃなくても、勝てねぇよ」
「……そうですね」
バサァ、バサァ!
さすが天使、この高さでも平気で下を覗けるのか「エクリア、何か見えるか?」
「ふむ、なにやら、人のかたまりが、土煙と共に吹き飛ばされて、空を飛んでますね」
「どんな状況だそれ、まぁ、降りたらわかるか。ブルードラゴン、村の近くに降りてくれるか」
【承知した】
バサァ、バサァ、ズダァァァン!!
「助かったよ。ブルードラゴン」
【自由にしてもらったのだ、これくらい安いものだ】
「さて、この状況を誰かに聞きたいが。だれに……ん、みんなの動きが止まってる」
「そりゃそうでしょ。こんなデカブツで、空から登場してんだから、みんなこっち見て固まるわよ」
「確かにイフリータの言う通りだな。さて、ちょうどいいし、だれに聞くかな」
「まぁ、無難にあの子じゃないの。大勢相手に1人で暴れてたみたいだし」
「あの子」イフリータが指差してるのは……人の海の中で、こっちを見てる。褐色肌のネズミ族……ってあの子は! 俺の作り出した光の化身じゃねぇか!!
光の化身の中でも1番、従順だったのに何あばれてるの? お! こっち来る。
「マスター、お久しぶりです」
「え、あぁ久しぶりだなジェリー。それでジェリー、この状況は、どうなってるのか説明してくれるか?」
「かしこまりました。マスター、あれは昨日の事でした」
「チーチー! ジェリーさん! 今、領主様のお使いの方から連絡があったのですが、領主様が、こちらに向かってるそうですチー!」
「領主さま? マスターのことですチー? モコナさん」
「あ、いえ、白銀様ではなく、我々の村を守って下さる、領主様でチー」
「そうですか。この村の領主ですか。わたしも挨拶をしておきますチー」
ガラガラガラガラ、ザザザァァ、パカパカ……ガチャ。
「『領主様! よくぞ参られましたチー!』」
「出迎えご苦労。ふむ、偵察の話通り、この辺りはモンスターが少なくなっているようだな」
「領主様! それはこのジェリーさんのおかげでチー!」
「どうも、領主様。ジェリーでチー」
「ん? 話が見えんな。普通のネズミ族に見えるのだが?」
「このジェリーさんは、となりの領土、女狼族の里で、新しく国王様になられた、白銀様のお連れの方でチー、すごく強いんですチー」
「国王、白銀……たしかに女郎族の里が国になったと伝令から聞いてはいたが。まさかすでに我の領土にまで……」
「領主よ、危険です。お下がりください!!」
「まぁまて、相手は1人だ」
「ですが。1人で、この辺りのモンスターを倒したのならば、只者ではありません!」
【チーチー? なんだチー?】
「これだから田舎者は! 新しく国を作った者が、他の国に無断で侵入するなぞ! 小さい国土を広げる以外ないだろうが!」
【チーチー! そんな!】
「まぁ、質問くらいはよかろう。ジェリーと言ったな。君は、それだけの力をもちながら、なぜ白銀とやらに従うのだ」
「? 理由はとくにありません。マスターの命令だからですチー」
「そうか。それでは金で、交渉もできんな」
「はい、興味がありませんチー」
「領主、何があるかわかりません。早く避難して下さい」
「この者が、何かするとは思えぬがな……」
「今は1人かもしれませんが、いつ仲間が来るかもわかりません!」
「確かにそうだな。ここは帰るとしよう。ではなジェリー」
「チー! さようなら」
【全体! 反転し! 進め! 帰還する!】
ガラガラガラガラ。
「こんな感じでチー。その後あの人達が来たので、マスターの名に従い村を守ってますチー」
「そうか。よく頑張ったなジェリー」
「ありがとうございます。マスター」
これは他の領地の村を勝手に助けた、俺のせいか。
けど、村のモンスターをほっておいたら、ネズミ族の村は滅んでたよな。
さて、これからどうするかな。
明けましておめでとうございます。
ペース遅いですが、今年もよろしくお願いします
次は、来週金曜日予定になります。
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