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バース・デイ

作者: こたろう

 ――どうか、どうか想いを伝えて。ここに姿を成して。

 わたしの中の、もう一人のわたし。わたしであってわたしではない、わたし。わたしにはない力を持った、あなた。

 どうか、どうか想いを伝えて。ここに姿を成して――


「――アラヤ!」


 白き衣の少女の願い、その思いに呼応し、遙か地の底より集合し結合、凝固し硬質化したそれは姿を現した。

 地殻を割って、灼熱と超重の揺り籠より這い出でしは五体持ちしヒトガタ。赤熱化した肢体は大気に触れて瞬く間に冷却され、蒸気を上げて黒く変わって行く。

 そうして黒鉄の姿を現したそのヒトガタは少女により名付けられた。アラヤ――原初のもの、と。

 黒鉄の奥で二つの眼を蒼く瞬かせ世界を見て、逞しき両腕は備えた手のひらとそこから伸びる五指を用いていまだ大地に埋まる身体を引き摺り出す。

 少女は今こそ生まれ出でんとするそれに願う。非力な自らと共に想いを遂げることを。その為に力強く立ち上がって欲しいと。

 アラヤと、そう呼ばれしものは両手と両足で大地に跪く。そして四肢を使い、獣の様に地を這う。小さきもの、その少女の元へと初めて得た身体を用いて這い寄って行く。


「――サリプス」


 遙か百三七億光年もの彼方の、さらにその先より来たりしもの。もう一人の少女。地の白き衣のものと対成す、宙の黒き衣のもの。それが従えしは、もうひとつの原初のもの――サリプス。

 黒き少女の指先が眼下の白き少女を指差すと、黒き超鋼で成りしそれの差し向けた両手の五指が閃光を放つ。迸った赤き熱線は大気を焼き、その悲鳴を指揮しながら二人に迫る。

 そして大地に炎と衝撃が生み出す爆発が生じ、震え上がった。

 もうもうと上がる黒炎と土煙。しかしその中で白き少女は未だ健在し、祈りを捧げ続ける。

 その祈りは他でもない、護るため初なる肢体を必死に操り、苦痛を耐えて少女にも降り掛かるべき災難を一心に引き受けたアラヤのため。

 そうして白き少女の祈りが届いた時、それは変わる。手酷き仕打ちを耐えた黒鉄が傷付きひび割れ、崩れ落ちて行く。肢体を遂には従えたアラヤが少女のように二本の足で立ち上がる時、その姿はもう歪なる鉄塊ではなかった。

 黄昏れた空のように燃え上がる橙。その中に泳ぐ雲が如き白。それが生まれて初めて見た世界の色が、その身には宿っていた。

 アラヤと呼ばれたものは、己を見上げる白き少女へと振り返り、彼女を見下ろす。そして垣間見た少女の涙からそれは己の使命を理解する。

 再び迫る無数の熱線へと対峙しながら、それは少女の心に触れる。そして繋がり、伝え、伝えられ――引き出す。

 その白き諸手が赤き閃光に差し向けられた時、広がったそれぞれの五指から生じたのは蒼い光の壁。灼熱の赤き破壊をそれは受け止め、弾け飛んだ赤が周囲のことごとくを打ち砕く中、光の庇護の元で二つの存在は無事であった。

 二つの存在――ハイヤーセルフに発現した力は太極であり、そしてそれはつまり白と黒の少女もまた然り。

 決して交わることなきエゴたちの衝突は一つの終わりとなり、そのエゴが生み出す一つの力は新たな始まりを生む。

 フォトンベルトと呼ばれる、終わりと始まりである。


 ――どうか、どうか想いを伝えて。ここに姿を成して。

 わたしたちの中の、わたしたち。わたしたちではない、わたしたち。わたしたちにはない力を持った、あなたたち。

 どうか、どうか想いを伝えて。そこに愛を育んで――

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