女番長に焼きそばパンを買ってこいと言われたので、そっと婚約指輪を忍ばせました。
──キーンコーンカーンコーン……
「隼人ぉぉぉぉ!! 焼きそばパンと珈琲牛乳とメロンパンとあんまんと漫画買ってこいやオラァァ!!!!」
「は、はひぃぃ……!!」
ひたすらにコンビニに向かって走る冴えない眼鏡ボーイな俺は『周防隼人』。高校二年にもなって、一つ上の女番長様にパシられている情け無い男だ。
きっかけは、なんてこと無い出来事だった。
物置と化した使われていない空き教室でお弁当を食べようと扉を開けたら、なんと女番長様が中でスカートに空いた穴を直していたのだ。勿論スカートは脱いでいてクマの可愛らしいパンツが丸見えだった……。
で、竹刀でボコボコにされて今に至るって訳さ☆
チーターもケツダイナマイトで逃げ出す速度でコンビニに辿り着いた俺は、急いで目的の物を買い漁る。少しでも遅れれば女番長様に殺されてしまうからだ……!!
「うー……帰りも寒そうだ」
季節は二月。もう少しで女番長様から解放されると思えば、これくらいの苦労はなんてことはないさ……。
「…………」
俺は速やかに会計を済ませ、急いで女番長様が待つ屋上へと駆けた──!!
──バタンッ!
「えりかさん! お待たせ致しました!!」
「おっせーぞタコ!!」
「すみません! すみません!」
ひたすらに頭を下げる。女番長様は待ちきれずに屋上に積もった雪で小さな雪だるまを作っていた。
「まずはあんまんだ! さっさと出せ!」
急いでエコバッグからあんまんの包みを取り出す。ちゃんとベチャベチャにならないように包みは少し開けておいた。
「何だコレはァァ!! 熱くて食えねーじゃねーか!!」
「すっ、すみません!!」
女番長様は極度の猫舌! 故に少しでも熱ければ機嫌を損ねてしまうのだ!!
「ふーふーしろや!!」
「ふー ふー 」
「よし! 食ってみろ!」
──モグモグ
少しちぎって食べてみる。結構時間も経ってるから熱くはない。
「問題ないです!」
「よ、よし……くっ食わせてみろ」
「はい」
女番長様の口にあんまんを運ぶ。小さな口であんまんを囓る女番長様。やけに唇が綺麗だなと思ったら、どうやらリップを変えたらしい。似合ってある色だ。
「よし! 漫画読みながらメロンパンを食べるからよこせ」
「あ、はい」
エコバッグから本を取り出し、メロンパンと一緒に手渡した。
「んー! バカッ! パンの袋は開けろよな!?」
「あ、すみません」
女番長様は極度の非力! 故にパンの袋が開かずに力を込め続ける女番長様は、ちょっと可愛らしいのだ!!
サクッと袋を開けて女番長様に手渡す。そして小さな口でメロンパンを囓った。なんて言うか、両手で食べる仕草がリスみたいでちょっと可愛らしい。
「どれ、漫画を……っと。ふむふむ、結婚を決めたら調べておきたい10の事──ってこれゼクシィ!!!!」
僕の顔にウエディングドレスの表紙が眩しいゼクシィ特別号がクリーンヒット。寒空の中で鼻が赤くなりジワリと痛い。
「あっ、大丈夫か!?」
「大丈夫れす……」
そして申し訳なさそうに鼻をスリスリしてくる女番長様は実に優しいお方だ。
「しかし漫画と間違えてゼクシィなんか買ってきやがって……まあいい。次は焼きそばパンだ!!」
「はい!」
俺は袋を開けて女番長様に焼きそばパンを手渡した。
「うーむ、やはり焼きそばパンはウメぇなぁ!」
モグモグと焼きそばパンを頬張り、最後の焼きそば一本をすする女番長様。
「ん? この焼きそば……やけに長いな……」
女番長様が紅生姜で赤く染まった焼きそばの先を目で辿る。そしてその焼きそばは僕の左手の小指と繋がっていた。
「──ブフォッ!!」
女番長様の口から盛大に焼きそばが吹き出した! 俺の顔が女番長様の焼きそばだらけになったが、ソースが良い匂いなので気にならない。
「大丈夫か!?」
女番長様が俺の顔を、可愛らしいキティちゃんのハンカチで拭いてくれた。マジ天使。
「何なんだその指は!?」
「運命の赤い焼きそばです」
「は?」
「いえ、それよりお口直しに珈琲牛乳をどうぞ」
俺はストローを刺した珈琲牛乳を手渡した。
「ああ、ありがとよ──ってストローの先に指輪引っ掛かってるぞおい!!!!」
コンビニで買った2カラットのダイヤモンドの指輪。電子マネー決済はこういう事に利便性を発揮するのだとつくづく感じた。俺は戸惑う女番長様の珈琲牛乳から指輪を抜き取り、そっと左手を取った。
──スッ……
ダイヤモンドの指輪が女番長様の左手の薬指に吸い込まれてゆく。
「えりかさん……いや、えりか」
「は、はひ……!?」
「クマのパンツを見たときから決めてました。俺と結婚して下さい」
「えっ? ええっ! えええっ!?」
戸惑い顔を赤らめる女番長様に、俺は眼鏡を外し頬に手をあてがった。
「お前に拒否権は無い。俺はもうえりかの愛の僕なんだから……な」
「う……うん。一生こき使って……やるからな?」
えりかがそっとゼクシィを胸に抱いて俯いた。