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龍の居る世界     作者: 子萩丸
53/59

夜明けは近い


 セトラナダ王城前の大通りは大勢の人で賑わっている。まだ夜明け前だと言うのに、次期王アヤメの生存に活気を見せている。

 酒蔵の従業員たちはロアルと合流できるまで、無口なままだ。

 周りの声だけを聞いて、ただ時間が過ぎるのを待つ。

『五年前を思い出すな』

『以前は王族の儀式なんて、みんなこの時間に集まったものだ』

 ヘルラが王になってからずっと、儀式は昼を過ぎてからだったのだ。

 小さなたるが、人混みを縫うように居酒屋へ近付く。

『待たせたな。予定通りだ、みんな所定の場所に落ち着いた』

酒樽を頭に乗せたロアルが居酒屋の前で従業員たちに言う。背が低いので、人混みで荷物を運ぶ時に邪魔にならないよう頭に乗せたらしい。

 状況だけ伝えても、従業員たちには理解できた。それを感じ取ったロアルはサッと居酒屋へ入り、店主に挨拶する。

『国中で祝いになるからな、これは私の蔵から差し入れだ。本当は大樽を持って来たかったんだが、この人混みで動けないからな、後で持ってくる』

大樽になると仕入れ価格でも金貨が必要な酒だ。

『ロアルなら最初に挨拶に来ると思ってたんだが、事情を教えて貰おうか』

店主が奥の小部屋を顎で指す。

 苦笑いしたロアルが祝杯を上げている客に愛想良く挨拶しながら奥の小部屋に消えた。


 大通りで顔の知られる店主や重鎮たちが今回の顔ぶれだ。

『アヤメ様は、あの旅芸人の子供だろう。白い方か?それとも茶色い方か?』 

白か茶色かは、髪の色だ。

 ロアルが小部屋に入るなり聞き、

『茶色い方だ。コア様に良く似ていらっしゃる』

ロアルは落ち着いて返答しながらいつもの椅子に座る。

『白い方は、精霊なのか?昼間あちこちに現れたのと同じだろう』

『旅芸人の子供と思って聞きに行っても、ロアルは不在だったからな』

同時にヒムロが出現した昼間の出来事を質問されて、ロアルは目の前に出された酒を取り

『白い子供はな、驚くなよ。私よりもずっと歳上だ』

龍の幼体とは言わない。それに地下通路の細工をしていた事も秘密だ。

 そして、一口だけ酒を飲んで『茶が欲しい』と、遅れて入って来た居酒屋の店主に伝える。

 あわよくば、ヒムロを精霊と勘違いさせて置けば良い。

 倉庫で見せた旅芸人の催しは、ここにいる店主や重鎮たちも観ている。使節団が宿泊している宿屋の経営者も居て、憶測だけの情報では進展が無いとロアルに詰め寄る。

『砂漠の城は知っているよな』

全く無関係な話題をロアルが切り出し、何の事かと深く椅子に体を預けたり、机に肘をついたり、気に止めない素振りでロアルに注目する。

『砂漠の城を経営する奴から、旅芸人の宿泊を依頼されたのだ。若い男が一人と子供が二人』

『それがアヤメ様だったのか』

『私も まさかとは思ったぞ。ただ、若いせいか隠し芸は下手でな、少しあおったら態度に出たんだ』

皆が揃って苦笑いする。ロアルの口車に乗せられた経験があるからだ。

『若いからって訳じゃないだろう』

年齢以上に老獪で、穏やかな見た目以上に狡猾なロアルにかなう者は少ない。

 それでも人望があるのは、ロアルの提案が最終的に誰にも利益があるからだ。それに、質の良い酒も融通する。

『今回は、これの大樽らしいぞ』

居酒屋の店主はロアルが持って来た酒樽をテーブルの中心にドンと置いてから、ロアルには茶を差し出す。

『どんな厄介事だ?』

次期王アヤメと精霊。これで貴重な酒を持って来たロアルに、また無理難題を押し付けられそうだと察した重鎮たちは渋い顔になる。

『どうした、今回は祝いの為に持って来たんだぞ。まあ、頼みたい事はあるがね』

やっぱりといった表情は隠せない。付け足すようにロアルが言う。

『店の代表は妹夫婦に譲った。従業員たちも納得しているだろう。しばらく匿ってやってくれるだろうか』

『アヤメ様は偽物なのか?』

『いや、コア様ともお会いした。本物だ』

ざわりと、空気が代わる。

『伏せっておいでだろう。どうやって?』

『コア様とお会いした所から、他言無用で頼む。地下牢に閉じ込められていた』

居酒屋の店主は、誰かに聞かれてないか店の様子を見てから戻り、扉の前に立つ。聞かれてはいけない内容だからこそ、扉の向こうの気配に慎重になる。

『ヘルラ王は、国民に本当の事を伝えてない。アヤメ様が次期王であっても、ヘルラ王の行動は読めない。安全を確認できるまでで良い、従業員たちを保護してやって欲しい』

特に渋る様子は無い。

 むしろ何故なぜ、保護を求めるのか尋ねる。

『コア様にお会いしたと言っただろう』

『アヤメ様が本物なら、問題無いんじゃないか?』

『ロアルはどうするんだ?』

口々に聞かれて

『私にしか出来ない事をする』

穏やかに微笑んで見せるロアルに、詳細が聞けないとさとった。

『店と、従業員たちの保護、後は?』

『祝杯でもあげてくれ』

グイっと茶を飲み干して、ロアルは立ち上がる。

 ここに居合わせる重鎮たちも良く知っているが、セトラナダの王は 代々龍の血を受け継ぐ血族が担っていた。

 ロアルは子供の頃から、良く言えば好奇心旺盛、悪く言えば悪戯の過ぎる手に追えない悪餓鬼だった。しかし それが切っ掛けで内密の王族案件を手掛けているのも知られている。

 今回はヘルラ王に知られては いけない内容だと察すれば、迂闊に手出しするのも悪手になる。

『ロアル、落ち着いたら祝杯だな。大樽はロアルが持って来いよ。ところで お前の従業員たちには、仕事させて良いか?』

職場の違いこそあるが、それなりに使い勝手の良い働き者が揃っている。

『助かるよ。私は帰れるか わからん。本人が望めば、引き抜いてくれても良いぞ』

居酒屋の店主が扉を守るように立っている。そこまでスタスタと歩き、店主の後ろにある扉に手をかけた。

『ロアル、手伝える事はあるか?』

それでも、まだ何か手助けしようと声を掛ければロアルも振り返り

『そうだな、温厚な龍神にでも祈っておいてくれ。じゃあ、妹たちを頼む』

笑顔を向けて出て行く。


 賑わう店内を愛想良く挨拶しながら店を出て、外に待つ従業員たちに声をかける。大通りで賑わう人々と対照的な表情だ。

 ロアルが近くの従業員の背中を軽く叩いて笑う。そのまま人混みに消えた。

 程なく酒蔵に一人で戻ったロアルは、急いでアヤメたちの使っていた部屋に向かう。城の模型やルフトから持たされたセトラナダの資料を回収して荷車に乗せる。平らに広げた荷物の上から、荷車と同じ素材の板を乗せ、大きな酒樽を積み上げた。

 一人での作業は地下通路を塞ぐ頃から慣れたもので、後は荷車をルフト所有の砂漠の城へ送るだけになった。

 ドンドンと外の扉を叩く音に反応し、鍵を開けに向かう。

 扉を叩いていたのは貴族だった。

『まだ夜明け前だと言うのに、騎士の方々は何の用事だろうか』

『アヤメ様を隠していた場所だと、調べは付いている。従業員たちを全て連れて来い』

『隠していたとは心外だな。旅芸人と思って滞在させていたのだ。タタジクの奴等に言われるまでは、知らなかったし、王に謁見をできるように急遽 整えたのだぞ』

言外に従業員たちは祝いのしらせを受けて大通りに出た事を伝える。

『ならば旅芸人の滞在していた部屋に案内せよ。無駄に荒らされたく無かろう』

ため息を付いたロアルが 黙って歩き出すと、ゾロゾロ騎士が続いて来る。部屋の扉を開けて、ロアルが説明する。

『若い男が一人、子供は二人が一つの寝台を使っていた。旅芸人だけでなく、薬も多少 扱っていたと聞く』

ロアルが言うのを待たずにズカズカ部屋に踏み込み、木箱の中や大きな鞄を確認する。

 木組みの玩具を手に

『これは』

『アヤメ様たちはお子様だからな、滞在中に退屈なさらないように差し上げた』

乱暴に寝台を動かしたり家具の裏に何か隠してないか確認する様子が苛立たしくもあり、黙って見るしか出来ないロアルは拳に力を入れて耐える。

 そのうち衣装や切れない剣の入った木箱と、着替えや玩具、大きな鞄を持つと

『これは預かる。旅芸人がここに戻る事はない』

移動させた家具や寝台はそのままに、騎士が出て行く。

 馬車にシュラとアヤメの荷物を乗せ、大通りを迂回する道で城に向かう様子を見送り、見張りの為に残った騎士が二人居ることを確認する。

 模型や資料を隠した荷車を、砂漠の城に向かわせる手配をしていると

『何か送るのか?』

見張りの騎士に聞かれる。

『ああ、アヤメ様が生還なさった祝いは国外にも報せたくてな。酒樽を積んである』

上に乗せた酒樽を確認するだけで、怪しむ様子も無い騎士を横目に荷車を見送り、戸締りをしてから大通りに向かう振りをする。

 人混みに紛れれば騎士でも、背の低いロアルを見失う。



 謁見の間には、湯船が二つ用意されている。アヤメとシュラが湯浴みする為の準備だと聞かされる。

『朝の太陽の御加護を頂く時に、アヤメ様の悪臭は清めて置くように指示されておりますので』

着付けの出来る側仕えたちが、アヤメを囲む。

 普段からシュラや大人たちに「恥じらいを持て」と言われる事が多いアヤメは、さすがに大勢の前で裸になるのを躊躇する。

「へえ、アタシが臭いだろうって思ってたんだ」

小さく呟いてから、笑顔を向けて

『わたくしが儀式に相応しくない所で一晩を過ごしたと、そう言いたいのでしょうか?』

夜はコアと会っていた。

 その詳細を、場所を知る者は少ない。

 コアはまだ伏せっているだけで、地下牢に閉じ込められているなど知らない貴族の方が多いのだ。

 

 アシンの側近に両腕を抱えられた状態で入って来たシュラに、アヤメが「傷だらけじゃん、立ってられないなんて」驚いて呟いた。ただ、周りの目を感じ取って走り寄りはしない。

 ゆっくり歩き、シュラの隣まで行く。

「母親には、会えたのか」

「もちろん。シュラが頑張ってくれたからね。怪我するような事をしたんだ?」

「武器は取られた。どうやらアシンの配下になるらしいぞ」

「誰が?」

「見てわからないか?アシンの御仕着せを着ている」

「あ、それアシンの所の制服か」

 鼻と口角に血が滲むシュラが、自力で歩けない姿を見たのは初めてだ。

 シュラを抱えたアシンの側近は湯船に向かう。

『儀式の前に清められるよう、ヘルラ様が準備を命じられた。支えててやるから自分で脱げ』

勿論セトラナダの言葉はわからない振りだ。

 アシンが改めてシュラにわかる言葉で伝えると

「他人の前で裸になる訳に行かないだろう」

シュラは素っ気なく答える。

 アシンが乱暴にシュラの髪を掴み、ブチブチッと引き抜いた。

『根元まで色が同じだ。染めた髪というのは、朝になれば少しだけ元の色になるものだと、知っているかなシュラ』

「私を配下にして下さるのですよね?」

突然 髪を抜かれてジンジン痛む頭皮に手をあてて、アシンを睨む。

 制御しきれるなら、シュラはアシンの配下にする。しかし以前も逃げた相手に信用度は低い。

 いっそ紋様もんようの契約で制御が可能なら、ヘルラよりも上手く扱う自信はあるが、失敗してシュラが死んでも良いのだ。

「ああ、シュラの契約が上手く行けば、存分に可愛がってやろう」 

湯浴みを嫌がっている様子を見て、今から暴れても面倒だと儀式の後に変更させる指示を出し、使節団にはバルコニーへ出るよう促す。

 バルコニーから見下ろせる大通りには、もう国民が集まっているのだ。

 ロアルの酒蔵で見た旅芸人の舞に、もしやアヤメでは?と使節団が捜索に走った経緯を伝える事を打合せ、ヘルラの文官が用意した書類を読み上げるようにと、手渡される。

『セトラナダの不安を取り除く一助となれた事、我等一同誇りに思います』

と代表者を先頭に謁見の広間から大きな窓に向かう。


 ヘルラは玉座の下をじっと見ている。

『龍の他に、使役されていない龍の気配を感じるな。なんと、この広間に居るようだ』

ヘルラが玉座の下に敷かれている絨毯を眺めて呟き、幾何学模様の一部分を視線でなぞる。

『昨日はアヤメの気配かと思ったのだが、龍が隠れて居るな?』

ヘルラがニヤニヤと満足そうに言う。

 アシンはヘルラの近くに寄り、小声で耳打ちする。

 ヘルラはアシンの助言に頷いてから

『龍』

ラーが現れる。ヒムロの衣を纏い、王よりも 遥かに威厳ある出立いでたちに タタジクの使節団を始め、普段から近くでラーを見る事が無かった貴族たちが跪く。

 貴族たちの様子はヘルラの望まぬ態度だが、

『龍に命じる。隠れている龍を捕えよ。私に対する質問は許さぬ』

無表情のラーは、ヘルラを見て動かない。

アシンに言われた通りの言葉でラーに命令したのだ。

『ヘルラ様、龍に余計な事を言わせてはなりませんぞ。新たな龍を逃がさない為に、ただ従うように命じるのですぞ』

シュラは歯ぎしり し、アヤメは状況を察して目が泳ぐ。服に隠れるヒムロをそっと押さえた。

 ヘルラの命令に抗ったラーは無表情のまま崩れて膝を付き、瞬時にアヤメの服に隠れている白い蛇を摘まみ出した。『皆、逃走するのだ』ラーが小さくアヤメに伝えてから、あえてアヤメから距離を取る。

 ラーの手の中で白い蛇が暴れている。

 シュラが反撃に出る体制を取ろうと両腕を戻す動きに気付いたアシンがヘルラに耳打ちし、

『龍、口答えするな。このシュラという男を動けぬようにしろ』

ラーはヒムロを摘まんだままシュラまで距離を積める。

「意識を手離せ、そして機会を探れ」

シュラの腹に手を当てて思考だけを伝える。

 側近たちに腕を取られたまま、ぐったりするシュラを見て アヤメは震える体を両腕で支えるように立ちすくむ。


 

 タタジクの空は、次第に明るくなり始めた。

 ラージャは領民に影響力を持つのは領主だとルフトから言われて、ストラークの執務室に向かう。

 どうやら誰もが眠る時間を惜しんで働いていた様子だ。緩慢かんまんな動きで執務が捗る様子が無い。ただ、トレザに対する処置が間に合っていないだけなのだが、どうにも効率の悪さを感じたラージャが

「人は夜には休むものでは無いのか?」

軽く休眠してからの方が良いだろうと助言したつもりが、

「龍神から直々《じきじき》に仕事が遅いと激励されたぞ。はげむが良い」

ストラークを始め全員が 何が何でも朝食後に予定している懇談会までに、状況を整えようと執務室の中は奮起の勢いが付く。

 思いがけず鼓舞することになったが、作業が捗る様子も見られる。

「ふむ。なれば朝の光と共にアヤメの歌声を領土全域に届ける許可を領主から得るべきとルフトから助言されたのだが、良いな?」

許可は得るつもりで聞く。

「あの、異国の言葉で多分古語の歌声でしょうか」

「そうだが」

「領土全域とは?さすがに遠くまでは届かないかと」

「問題は無い。同時に振動させるので、遠くとも音は聞こえる」

いきなり神から提案された事だが、誰かが手伝う必要は無いと言われてストラークは「お任せします」と応えるしか出来ない。


 ユタとルフトは図書室に行く。扉の前で見張りをしていた兵士は、警護を兼ねてあかりを持って同行した。すでにアギルとバムがいる。バムは建築分野の本を読み込んでいる。トレザの職人が知りたいと質問してきた内容は覚えている。ただ、ちゃんと正しい解答を持って帰りたいのだ。曖昧な知識を、職人とに一緒になって考えるのも 案外楽しんでいるのだが、やはり正確な知識を得られる環境は なかなか無い。

 以前と違い「知りたい知識」の詰まった本に対してバムの集中力も発揮している。

 アギルは「報告書を作る手引き書」を ぼんやり眺めているが、こちらは集中できていない。

 ルフトは音や光の文献を求めたが あまり無く、ユタはタタジクの植物生態に関する本を見る。


 ラージャはセトラナダに朝陽が届くのを焦れる気持ちで待つ。タタジクの朝が一番早く訪れるのだ。

 次第に地平から明るくなり ラージャが朝の光に手を伸ばすと、澄んだアヤメの歌声がタタジク全域に流れ出した。

 歌声だけで、姿は無い。

 図書室に、執務室に、タタジクの城に、貯水池に、井戸に、畑に、森に、全ての家に歌声が届く。

 まだ眠る者を起さぬ程度に、対話の邪魔にならないくらいの音量で、だが ハッキリと『全ての命をたたえる祝詞のりと』が心に響く。

 タタジク領民の全てが、言葉はわからない なりに その旋律と声に癒されながら 魂が祝詞のりとの意味を受け取る。

 再び深い眠りに落ちて魂と自我が対面する者、旋律だけでも記憶に残そうと口ずさむ者、眠らずに朝を迎えた者たちは 自我が魂と直面する事態に歓喜の意識を高めて行く。

 おのれを取り巻く世界観を一変させる歌声が、今タタジク全域で静かに光る。

 太陽が音も無く世界を明るく照らして行くように、魂に直接 朝陽が射し込む。


「クウには、このタタジクの民の意識が届いただろうか」

「素晴らしいよ、ラージャ。わたくし勇足いさみあしでセトラナダの結界に崩れるのも、いとわぬ心持こころもちにあったのだ。人か得られる「気」で冷静になれたよ。感謝の言葉が見付からない」

わたしの方が、感謝しきれぬ思いだ。迂闊にも人の知識をあなどったおのれまねいた事態だ」

「人の知識や常識きまりなんてモノは、注意深く見ていても、それこそ数が多いからね。完全に把握するなんて難しいよ」

「それでも、愚かなわたしが幼い人の子供を巻き込んでいる」

「ラージャ。人に宿る魂は、前世の記憶をほとんど忘れるよね。しかし魂の生きた経験は、ラージャよりもずっと長く積んだ子も多いんだよ」

「それは、アヤメやシュラの事だろうか」

「さて、どうだろう。フフッ。人として生きる中で、目的に対して迷わぬ子の魂は、大抵かなりの年期を持っているよ。それに、導く力や周りにどれ程の影響力を持つかだね」

「それは、何度も輪廻転生を繰り返した魂ほど、善き人脈を持つと言うことか?」

「年期だけが魂を磨く訳では無いけどね。例えば初めて「人」として魂を持つ者も、自身が求め環境を整える努めに意識を向ければ 魂は光り輝くよ」

「魂が輝く……か。人の魂は朝露のことく、個性を持ち 美しいと感じる」

「全くだよ。はかないからこそ、常に全力で輝こうとはげむ姿は、常にいとおしい」


 歌声で届けられる祝詞のりとは、タタジクの朝の空気を大きく変化させることになる。


「神の神業みわざてられているせいだろうか。罪人の刑罰を見直すべきと感じるのだが」

歌声が響く執務室でストラークが呟く。

 その声に反応したのは、そこにある全ての側近とトーナだ。

 今までタタジクの犯罪者は牢獄に繋げ、刑罰の期間は特に何もする事が無い。外との交流が断たれるだけだ。共同の便所と食堂があり、食事は食べきれるだけ与えられた食器を使い自分たちで配膳する。使用後に各自で洗って管理する程度で、期間が過ぎるまで大人しく過ごすのが常だ。

 今回のトレザに火薬を運ばせた犯罪者は、およそ特定されたものの 首謀者は逃げ延びる可能性が大きいと予想される。

 何しろ刑罰の期間は、寄附金の額でも減らせるのだ。他に身分や立場によって多くの領民が仕事を失う場合。

 今回は後者にあたる。

 罪状だけで考えれば、終身刑に近い年月になるのだ。しかし、立場上それが可能ではない。

 それに『命を讃える祝詞のりと』が流れる中だ。

「罪人をおとしいれる為の罰ではなく、そこに至った経緯を明らかにした上で 形を造り直す時期になったのであろう」

取決め直す事は膨大と予測する。

「父上、トレザのおさから意見を頂戴するのは いかがでしょうか」

トーナが参考になる筈だと呟けば、自然と皆が同意する。トレザから戻ったトーナの変貌ぶりは、皆が良く知っているからこそだ。



閲覧ありがとうございます。


やっと夜明けが見えて来ました。

しかし状況は荒れ模様。

普段から緊張感が足りない私の表現力で、やっと書いてる感じです。

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