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龍の居る世界     作者: 子萩丸
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 集まる 形を造り出す 未来


 早朝から謁見の予約や衣装合わせに奔走した タタジクの使節団が居なくなった。

「まだ、謁見の時間 迄には余裕がある。訓練所に行くか、部屋で状況の確認をしておきたい」

シュラが言うと、模型の確認をしたいとヒムロが言う。アヤメも同意した事で、サッと部屋へ戻る。昼食の支度が出来たら呼びに来ると、使用人から声をかけられた。


「ここが謁見の間じゃな。王が座る位置は、この椅子で良いじゃろうか?」

模型の二階部分を指してヒムロがシュラを見上げる。

「実際に行った事が無い。だが資料や使節団から聞いた情報では、その位置で間違いないだろう」

「そうだよ、その椅子ね」

アヤメは「城の中なら何でも聞いて」と得意気に笑う。

「そうだったな、アヤメはこの城で育ったのだ。模型に無い隠し通路も聞いておきたい」

笑顔のままでアヤメは黙った。

 実は、アヤメの部屋なら隅々まで散策したが、城の中を自由に歩いた事は一度もない。大人の側近に囲まれて謁見の間や執務室、図書室等に足を運んだ事はあっても、外に出た事もなく 隠し通路などシュラの言葉で初めて知ったぐらいだ。適当に思い付きで嘘など言っては 命に関わるのだ、何も言えない。

「いや、いい。ルフトの城でも言ってたな、ほぼ室内に居ただけだと。それでも城内について 思い出した事だけでいい、教えて欲しい」

小さく「すまなかった」と言って。

「調子に乗ってたアタシが悪いの。謝んないで」

しばらくゴメンの言い合いになる。


 空気を割るように突然 扉が開く。ロアルだ。

「罠は相変わらず兵士の倉庫に保管されていタぞ。普段は使わなイのに、手入れまでされてイた。最近は警備の交代ぐらイしか、仕事が無いらしイ」

セトラナダの国内は、ヘルラの思惑通り 至って平和なのだ。他国や他領へ宣戦布告をし続けている割に、出兵する事も無い。龍の力をちらつかせるだけで相手が完全に降伏する為だ。

 タタジクも例外ではない。

「使わない道具の手入れをする程、兵士が暇と言う事だな」

「訓練は怠らんけどな、実戦は全く無イようだ。私が居た頃は、祭りの小競合いや窃盗でも駆り出されてイたものだけどな」

兵士の訓練所にも、地下通路に続く入口は隠されている。罠は入口付近に置いて、食事する為に戻ったらしい。

「実戦経験が足りない兵士なら、アヤメでも逃げ切れるだろうな」

「この服、汚れても怒らない?」

「アヤメの金を出して買ったので、構わない」

誰の金で買おうが、命さえ無事なら問題ない。この先は戦場なのだ。勿論、謁見の間で穏便に済めば良いのだ。

 間近に迫る謁見の時間に、居合わせる皆の心拍数が上がる。

「歌おう」

突然アヤメが言った。

 当然、疑問の視線が集まる。

「あのね、楽しい歌を歌うとさ、ドキドキする苦しい感じが減るんだよ」

フッと空気が軽くなった。

「アヤメ様の配慮、有難いな。そろそろ昼食だ。ところで、この衣装のまま 歩いて行くと目立つぞ?」

「どうしよう、ねぇシュラ、お城で着せてくれる?今からごはんするから、上に着けたヒラヒラの布だけ外せばさ……」

「断る。そもそも そのヒラヒラの付け方を知らん」

初めてアヤメに会った時にも、数の多い薄手の布地に迷いながら ほどいて行った。装飾品こそ少ないが、同じように着付けてやれる自信は皆無だとキッパリ断った。

「服を汚さぬように気を付けて食べればいい」

「汚しても怒らないって言ったじゃん」

「食べ汚しは別だろう」

シュラが旅芸人の衣装の中からゴソゴソと大きめのマントを出し、アヤメにスッポリ着せた。




 砂漠に広がる砂の粒の数より多い未来。広い砂漠の中では この大きく見える城も たいした大きさではない。何しろ、砂漠の城に辿り着ける客は限られている。どんなに探しても見付からないと豪語する一部の旅行者は、幻の砂漠の城と呼ぶ。

 それも そのはずで、クウの見る「未来」にそぐわない旅行者は、始めから城が見つけられないのだ。

 そんなクウの部屋。

 絵が完成し、泥のように眠りに落ちたムウも外から射し込む光に顔を照されて目を覚ました。

 イイスはムウが眠っている間に湯浴みに行っている。完成すれば、帰るだけなのだ。

 クウからイイスに声をかける。

「何か やっておきたい事はあるかな?」

そう聞かれて城の散策も 魅力を感じていたが、湯浴みを選んだ。家に戻ってから両親にも味わって欲しいと思う体験を、使われている道具や支度の手順を覚えておきたいと、イイスは素直にクウに話した。

 喜んで側仕えとして働く使用人が案内し、沸かした湯を運ぶ所から体験している所だ。

「絵師の助手に湯浴みの手伝いなどさせても、よろしいのでしょうか?」

困惑しつつ、覚えて帰りたいと ねだるイイスを連れて、和気藹々《わきあいあい》と祭りの様子やトレザでの普段の生活を話している。

「クウ様にも お会いできて、ムウの絵が欲しいってルフトさんが言ってね。前からムウは、好きでちょこちょこ書いてたけど、すぐに消しちゃうから」

なんて勿体無いと声が上がる。

「ヒムロ様が ムウの絵を誉めてくれなかったら、きっと今でも描いてない」

偶然ヒムロが見たムウの落書き。

 以前の生活では、のんびり絵を描く時間など無かった。紙も無く、布地にはほころびをつくろう程度に刺繍を入れる。飾り付ける刺繍を始めたのも、シュラとアヤメが滞在した時期からだ。

 絵具すら試行錯誤して作りながら、初めて描いたのが洞窟の蝶だった。

「沢山の才能ある者が ありながら、見出だされる事無く終るのは 何とか出来ないのでしょうか」

ふと呟いた使用人の言葉がイイスの心に残る。


 目覚めたムウも クウに促されて湯浴みに向かう。トトと一緒に湯船で両親にも湯浴みの気持ち良さを教えたいと話していると、イイスが同じ事を話して 既に手順を確認した後だと知る。

「帰ったらイイスに教わって、一緒に湯浴みの準備とか やろうよ」

「いいね、きっと喜ぶよね」

湯浴みから出てムウも初めて城内の散策をする。

 高い天井、広い階段、壁に囲まれていながら外の陽射しを取り込める細工が多く、明るい室内。城内のあらゆる所を書き残したくなったムウは、指先を動かして空中に描いている様子だ。

 ムウは夢中になって庭園や城を走りながら、四角い枠に収める「画面」を探す。クウの部屋で壁画が完成したばかりだと言うのに、もう次に描く物で頭がいっぱいだ。

 同じ物でも見上げる印象と見下ろす印象は全く違う。装飾品や柱に施された彫刻に観入ったり、城内で働く人の動きも ムウは脳内に描き込む。

 散策と称して程好く走り回ったムウも、やっと落ち着いてきた様子で 疲労感を隠さずにクウの部屋に戻った。


「ムウはここに滞在している間は 殆ど絵の前に居たけど、満足したかい?」

絵を観やすい位置から食事ができるように、もう準備が整っていた。

「満足どころか、ずっと描き続けてたのも夢みたいに思ってる。幸せって今のボクの事だよ」

クウと並んでムウも席に着き、ここに来て初めて食事を味わって食べた。





 昼の食事が済み、ロアルは兵士の倉庫から出しておいた罠を設置しに向かうと席を立つ。ヒムロは小さな龍の姿ではなく、トレザで見慣れた狩衣かりぎぬの衣装で言う。

「工具として役立つかは判らぬが、私の愛用しておる小刀こがたなを使うといい、どうじゃ?刃零れするようなヤワな物では無い」

ヒムロが小さな小刀をロアルに見せた。

「お借りして、良いのでしょうか」

「いや、私はロアルを気に入ったので、貸すつもりは無い。ロアルの物として今後は常に身に付けよ」

グイとロアルの手を引っ張り、小刀を握らせた。

「美しい刃ですが、素材が珍しく貴重な物なのでは?」

手渡された小刀をじっくり見るロアルの呟きに、ヒムロの顔がほころぶ。

「うむ、私の牙でこしらえたのじゃ。石ぐらいなら切れるぞ」

胸を張って応えた。

「それではヒムロさま が困らないか?」

「牙はちょくちょく抜けるのじゃ。他にも持っておる」

口の中に指を突っ込んでアグアグと話すヒムロをロアルが抱き締めた。

『有難うございます。私ロアル、どのような苦難に合おうと必ず、生きて再びヒムロ様にお会いします』

今までは、命の価値観が失われていたせいか「命に代えても」と言っていたロアルが「生きて戻る」と口に出した。

おのれの命じゃ、魂の器をしかと守るが良い。ロアルが生きれば この小刀も喜ぶ」

ふぅと 大きく息を付いたロアルは、そのまま訓練所に向かう。


「さて、私たちも城に向かうか」

シュラも立ち上がる。

「ちょっと早くない?あと、チヌの鞄を背負って良い?」

チヌは必ず連れて行くと言うアヤメに、この衣装では背負う鞄が似合わないと伝えてシュラが左肩にかける。ちょっと可愛い鞄を持つシュラが多少 不自然でも、他人の目にはアヤメの荷物を預かっているようにしか見えないので気にしない。

「地下の通路って、本当に迷路なんだよ。壁に囲まれてるのにロアルさんは、迷わなかったんだよね」

「うむ、ロアルに渡した小刀は 微弱ながら私の守護下になるはずなのじゃ」

「ついでにさぁ、ラージャ様とシュラみたいに離れててもお話とかできる?」

突拍子も無い事を言うアヤメに「無理じゃ」と即答する。壁の外し方を忘れても破壊できるように小刀を渡しただけだ。通話する物ではない。しかし「ヒムロの牙」を身に付けたロアルにヒムロの加護も増える。助かる道は格段に増えた。


 ヒムロは小さな龍の姿になり、アヤメのマントの襟に潜む。シュラの肩に乗るとアヤメが露骨に嫉妬するからだ。

 やはり外に出れば祭りらしく、出店や旅人が多く見られる。ただアヤメぐらいの子供は全くいない。そのせいか、背の低いアヤメに周りの視線が集まっている。

「出所が知られては、ロアルの酒蔵にも迷惑にならんかのう」

人を集めて旅芸人の芸を披露したので 今更とは思うが、厄介事を減らすなら悪くない。

「しかし、何か妙案でもあるのか?」

噴水まで早目に行っておきたいシュラとしては、謁見の間での対策で頭がいっぱいだ。

「ちとな、私が試してみたい事もできてのう」

襟から覗く赤い目を細めて、長い舌をチロチロ出す。

「何かたくらんでいるのか?」

「企みと言うより、確認しておきたいのじゃ。実は本来の大きさに戻る事も可能なのでのう」

ここで普段通りの大きさに戻られては、大変な事になる。シュラはヒムロがくわだてる計画を止めるつもりで聞く。

「何がしたい?」

「ぬ?そう怖い顔をするでない。人の形になり、あちこちで注目をされておこうと思ったのじゃ」

緊張が解けてシュラの顔から力が抜ける。

「面白そうだが、あちこちとは」

漠然と指定されない場所では、やはり不安にもなる。

「うむ、アヤメと私の背格好は同じじゃ、この姿で移動して、人の目に着く所で人形ひとがたになるのじゃ」

確かに、ヒムロに注目すれば 地味なマントの子供など、印象に残らない。

「やってみてヒムロ。そしたらアタシたちは、普通に噴水まで歩いてくよ」

やはり周囲の視線が気になっていたアヤメも頷く。同時にヒムロが消えた。

 遠くでヒムロが踊るように姿を表し、路地に隠れた。また別の方角から同じような事が起こる。ヒムロの消えた所には人だかりが出来た。「白い異国の衣装の子供」を、近くの人々が探し始める。何度も違う所から出没しているのだ。

 周りを気にせず、シュラとアヤメは噴水まで向かう。




 崖の途中で夜営する兵士の動きは、特に無い。

 トレザに運び込む物が無くなっているので 本来なら長居する必要は無いのだが、本格的にトレザを攻撃して制圧下に置きたいと暗躍する集団が存在する。兵士たちには目的があるのだ。

 水路に水は満たされた。貯水池から水を運搬するなら 舗装されたタタジクの道を馬車で運べば、干からびていた畑は潤い 金属加工の工房は 何処どこも息を吹き返す。

 ただ そこに あるのは、業務再開の喜びだけではない。長引いた水不足から 業績の落ちた工房や店は少なくない。個人の畑にすら作物の不作が続いていたのだ。大きな損失を埋める手段を模索した結果、水源を抑える案が浮上した。

 実際に水源を知るのはトーナ率いる兵士だけ。更にトレザに滞在したのは 数える程しかいない先頭班だ。

 タタジクの財源を握る有力者たちが 真綿で絡めとるように、先頭班の兵士の意識を変えていく。タタジクに水をもたらした 英雄の如く持ち上げて、降雨の儀式を再現すれば トレザでは龍が不在になると持ち掛ける。

 兵士の戦力ならトレザを制圧するのは可能だったと。偶然に神々が居合わせた時に攻め込んでしまっただけだと。降雨の儀式を行えば、龍神はタタジクの味方になると。

 トレザから届けられた薬は、身分に関係なく出兵に関わった者に使われた。薬の価値を考えれば、家や工房の事情による口減らしで出兵した者に使われる筈もない。以前より健康になって帰る仮の兵士は多く、結局 砂漠に水路を造る為に再び駆り出されたが、結果は期日以内に水路が完成する事に繋がった。


 水源と薬品を扱う知識が 存在するトレザ。そこを掌握すれば、長引いた水不足で疲弊した財源を取り戻せる。

 タタジクがセトラナダから攻められそうだという事実を知らない領民が、先頭班の兵士を懐柔していった。


 副班長が統率する兵士は、トレザを傷つけに来た訳ではないと信じている。住人の少ない広場を中心に火薬を仕掛け、爆破による火災が起きた所は速やかに鎮火に向かう。湖の位置は知っているのだ、

 怪我人には応急措置を施し、火災から救いだす。恩を売り付けて タタジクの評価を上げ、救出したトレザの民を「優しい対応」で服従させて行く。

 かつてトレザのおさユタが兵士に向けたように、怪我を負わせてから 親身に治療を続ければ、トレザに忠誠を誓ったバムのように タタジクに心酔する民を作り出せる。


 まだ砂漠に延ばした道は 馬車が通るにはガタガタで 直す箇所は多く、貯水池からタタジク領地に引き込む水路の工事にも人員は必要なのだ。

 そして水源となる湖は、ラージャが降雨の儀式に現れればタタジクの所有権を有利に進められる。

 そう信じて、火薬を大量に運び込んだ。


「今夜のうちに班長が戻る事はない。火薬の事は、まだ班長に知られていないのも幸いだろう。決行は今夜だ」

副班長の号令に統制の取れた返事が戻る。

 アギルに火薬の事を聞かれれば、全て話してトレザの制圧に助力させる予定では あった。しかし火薬の存在に気付かぬ上に、兵から離れる腑抜けだ。人柄が良くても班長としての信用は無い。飾りの班長は 適当に持上げて置けば良い。以前の班長よりもトーナの信用はあるのだ。

「昇降機を動かせば、上で滑車が鳴る。最初に上がる兵士は昇降機を使用せず、周りを見張り良ければ滑車を鳴らして合図する。良いな?」

日暮れの前に、トレザの主要地域に火薬を仕掛に向かう。

 副班長の指示を待ちながら、兵士は作戦の準備を始めた。




 三時になる前に、噴水前にはタタジクの使節団と代表者が現れる。

薬師シュラ、待ったか?なかなかの陽動だが、これも作戦なのか?」

「いや、思い付きの行動じゃ。アヤメに注目する国民が、多く感じたのでな」

アヤメの襟元から使節団の代表者に向かってヒムロがヒソヒソ話す。

 使節団の皆には声の主が何処どこなのか、探す。

 噴水の周りには、それほど多く無いが それなりに人がいる。

 ヒムロがあちこちで姿を見せて舞い、消える。それを目にした人が口々に『白い子供』の話をしている。ヒムロ自身は既にアヤメの襟元で周りの反応に満足していた。

「妙に子供の身長は注目されていたのでな、ヒムロが注目される分には構わぬと思ったのと、体の変化を確認しておきたかったらしい」

アヤメの襟元からシュラの腕を つたい、肩に乗ったヒムロが

「謁見の前に、色々とできるようになったのじゃ」

「白い蜥蜴トカゲ?」

「ヒムロだ。小さな姿ではあるが、龍の力を持つ。このまま隠れて謁見に向かう」

頼もしいと使節団から声が上がり、時刻は三時を少し過ぎた。

 互いに目配せしてから王城に足を進める。

 階段の下で警備の騎士に使節団代表者が取次ぎの挨拶を交わし、アヤメはマントを外した。騎士たちが 明らかに同情の眼差しでアヤメを見る。

 ニコリと微笑み返し、アヤメは姿勢を正して真っ直ぐに階段を上り、使節団の三名とシュラが続く。

 王城に上がる階段は、横幅が広く緩い曲線を描いている。上りきった所だけでも広く、振り返ればバルコニーの先に大通りが見下ろせる。

 華やかな衣装のアヤメ、正装した使節団、そして質素な衣服のシュラ。ヒムロはシュラの袖口に隠れている。

 緊張した空気の中、謁見の間に入るように促され 使節団代表者が先頭に立ち続いてアヤメ、二人の使節団員、最後にシュラが入り大きな扉が閉められる。

 玉座から下がった位置に立つ貴族はアシン。入室した最後尾のシュラに目を止めて、王ヘルラに耳打ちする。


 離れたバルコニーの近くにシュラが立ち、すぐに跪いた。続いて使節団員二人、代表者がアヤメを玉座の前にそっと押しだし跪く。アヤメはヘルラと目を合わせ、周りの貴族を見回して笑顔を作り優雅に跪いた。

 近くに騎士はいない。王と貴族を守る位置に立っている為、窓の外 バルコニーに二人だけだ。ヒムロが硝子ガラスの外に出たのを確認した。

 ヘルラが小さく咳払いして話す。

『アヤメと名乗る子供は其方そなたか。顔を上げよ』

最前列でひとり、アヤメが顔を上げる。

 王の玉座にヘルラ、少し下がって控えるように立つ貴族はアシン。護衛騎士が合計八人と、文官らしい貴族が控えを取る為に小さなテーブルの上でインクを付けながらペンを走らせている。

直答じきとうを許す、アヤメは今までどのように生きてきた?』

『わたくし、セトラナダを出て旅をしておりました。側仕えに誘拐され、身の危険を感じたものですから』

跪いたまま、真っ直ぐにヘルラを見て話す。

『ほう。五歳の子供が一人では、生きるだけでも難しいだろうに』

『わたくし、一人ではございませんでした。砂漠を越えた先では、庶民の教養に携わる事で 生きるすべを学びましたもの』

一人ではない なら誰が居たのか。そんな質問に答えるつもりはない。

 アシンはシュラに気付いたのか、ヘルラに質問を変えさせる。

『旅芸人の みすぼらしい若者よ、髪の色は染めたものか?』

『周囲の注目は芸に必要です。染めていると聞きました。それと、旅人はセトラナダの言語に理解が浅い為、代返する事をお許し戴きたく願います』

シュラではなく代表者が返事をする。

 打合せの通りだ。使節団員二人が通訳する。

「清潔な服だが、王に対しては失礼だったか」失笑するシュラもセトラナダの言葉は知らない振りで通す。

 対話が始まった為にバルコニーのヒムロを確認できない。緊張と焦り、アヤメは意識して最前列で笑顔を張り付けたまま ヘルラの次の質問を待つ。

閲覧ありがとうございます。


やっとこさ王と対話が始まりました。

ヒムロの状況は、次でお届けできるでしょうか。

ラージャならぬラーは、どう動くのか。

ロアルは何をしてるのか。

アヤメの母コアは一体……?

どこまで書けるかなぁ。

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