鎮魂祭の歌
タタジクの使節団が三人、酒蔵の食堂に入る。トーナの兵士先頭班が砂漠に向かった翌日にタタジクを出発しているので、トレザ迄の水路が完成した事を まだ知らない。更に追手をかけた筈の「薬師」が逃延びてタタジクとトレザの交流が始まった事も。
食卓を囲んでロアルが口を開く。
『さて、何処から話したら良いのかな?シュラはタタジクに何をした』
『作った薬を少し売って、滞在したのは一泊。他は特に何もしていない』
『何もしない者に追手をかけるのか タタジクという領地では?』
『買い物はした。値段が高いと話した。それぐらいだ』
使節団の代表者らしい男が
『セトラナダに引き渡せば、戦争を回避できると聞いたぞ。お前の事だろう』
『良く聞く話だな』
シュラは あっさり肯定した。
『生きてさえいれば、シュラの手足は無くても良いと、タタジクで耳に致しました。わたくしが 深く眠ってしまい、シュラが居なければ捕まる所でした』
『使節団に手を出す訳には行かないが、不条理が過ぎて腹立つな』
アヤメが話し始めると、ロアルが隣の代表者を睨みながら言う。
『セトラナダとの戦争を回避する為に、旅人の二人ぐらい消えた所で 困る者は無い』
領地と住民を守る為の犠牲が、無関係な旅人なら尚更だと豪語する代表者に対しロアルが更に険しい顔をする。
『敢えてセトラナダから戦争をふっかけられてる所は避けて旅していたつもりだが、タタジクは金属加工が盛んな領地だからな。取込みたいのだろう』
『シュラは、こんな理不尽な態度に怒らないのか?』
『怒った所で、無駄に敵を増やすだけだからな。行く先々で似たような感じだ、始末しきれない。隠れて無難にやり過ごせれば、アヤメの負担も減らせる』
『次期王の存命が守られたのは、シュラの尽力だな』
ロアルの言葉に驚いたのは使節団の全員だ。
『セトラナダの次期王は生きてるのか?』
『ここに居りますわ。わたくし、シュラに何度も助けて貰いましたの』
スープで口の中の食べ物を流し込んで アヤメが話す。
「私の為に命を提供した数々の者に心より感謝の念を届けよう。私自身の血となり肉となり、共に生きようぞ。満たされし」
綺麗に空になった食器を前に、ヒムロが掌を合わせて呟く。使節団は、さっきから呟きつつ食事を進めるヒムロの存在も気にしては いた。
「食事が済んだら子供は出ていくがいい」
代表者がヒムロに言う。
「はて。私よりも子供が何を言うのじゃ?」
「言葉もわからないのか?食べながら流暢に喋っていたようだが、次期王はともかく 無関係な子供が聞く内容ではない」
代表者を睨み、ヒムロは刺繍した図案を幾つか出す。アヤメに聞いて、セトラナダの結界に干渉しない程度の力を取り戻す事には 成功していたのだ。椅子の上に立ち、ふわりと浮いて見せる。
「どうせ芸のひとつだろう。大人の話だ、出てけ」
そう言った代表者の前にある茶をヒムロが睨むと凍り付く。
「芸にも使えるのか?良い事を聞いた。こう見えて私は皆よりも年上じゃ」
『ヒムロちゃんの言葉を教えて欲しい』
ロアルはアヤメとシュラを見て話し、アヤメがロアルに通訳する。
『ヒムロは龍神だ。まだ幼体だが、多分ここの中では最年長だろう』
『次期王だけでなく、龍神だと?ストラーク様の代理といい、お前は何者だ?』
代表者は立ち上がり、シュラに掴み掛かる勢いで話す。
『私は何者でもなく私だ。周りが勝手に騒ぎ、私の命すら勝手にやり取りする。放って置いてくれるなら、何より望む所だ』
『シュラ、ここにいる目的を知りたいけど その話しはどうなんだ?』
『ああ、セトラナダ迄来た目的だったな。ヘルラに使役されている龍の奪還だ』
『は?』
使節団は疑問符しか浮かばない。ロアルが
『いくらなんでも龍に手を出すのは危険だろう。殺されるぞ』
現在セトラナダ王であるヘルラが国民に向けて伝えた「龍の邪悪な諸行」を、殆ど信じているのが現状だ。
外からは「鎮魂祭の歌」が聞こえてくる。
ルフトの城にはクウが突然 現れた。同時にヨレヨレの薄汚い衣服の子供が三人。
画材や道具を下ろす姿をクウが溢れる笑顔で見つめている。クウがいない間に部屋を整えていた使用人たちは、綺麗に整えられた部屋に対して異質な子供たちに眉根を寄せる。
「クウ様、ここ とても綺麗で、でも寒くない」
洞窟のような空間を想像していたので、温かい室内に対する正直な感想を口に出す。
「ここが我の部屋なんだよ。ルフトの所で働く皆にもムウたちを紹介するね」
クウの声に反応した使用人が集まる。ムウ、イイス、トトは初めての場所に視線を巡らせて 興奮気味に ため息を吐く。
「朝の洞窟みたいな お部屋なんて、初めて」
イイスは息と一緒に声に出す。
「我ね、この壁の辺りに絵画を飾りたいと ずっと思っていたんだよ。ルフトの紹介で理想の絵師が見付かってね、連れて来てしまったよ」
クウが満面の笑顔で使用人たちに話し掛ければ、眉根を寄せていた使用人も納得して頷く。ムウがルフトから預かったいた手紙を渡すと、内容を確認してキビキビ動き出す。
間もなく台車に乗せられた色取り取りの瓶と、真新しい絵筆や絵皿が部屋に運び込まれた。
ムウは初めて見る画材に驚きと興奮が隠せない。すぐに使える染料が、透明な瓶の中で鮮やかな色を見せ「早く使って」と言われてる気になってくる。一色ごとに手に取って、思い描く作品の どの辺りに配置する色になるのか、絵の具に直接 話し掛けた。勿論、返事をする絵の具は無いが、ムウは夢中だ。
それでも、やはり足りない。思い描く色に不足した原料も手に取って、トトに話す。イイスは後ろから聞く。
「ムウ、突然 作業を始めなくても、良いんだよ。少しゆっくりしたらいい」
「だめだよクウ様、こんなに描く状況が揃ってるのに、他の事なんて考えられない」
勿論、ムウの指示で新しく絵の具を作るトトもイイスも 似た感情なのだろう。
「そうかい、とても頼もしいよ。疲れたら いつでも休むといいよ」
「うん。ねえ、クウ様、この壁に直接 絵の具を付けて良いの?」
「勿論だよ。高い所まで届くよう、梯も用意するよ」
すぐに持ち込まれた梯を、何度も登り下りしながら、部屋の反対側まで離れて絵を確認するムウ。絵の具を作るトトとイイスもムウの様子を見ながら、作品の完成を楽しみにする。
鎮魂祭の歌が聞こえて来た途端、アヤメは表情を変えずに止まらない涙を拭う。シュラとヒムロだけなら弱音を吐くが、初めて見る他人には 見せられないからだ。
ロアルは隣で黙って涙を拭うアヤメにぎょっとする。
『アヤメちゃん、どうした?何があった?』
アヤメは返答できずに笑顔で首を左右に振るだけだ。
『歌が終われば、普段と変わらぬ。今は不調なだけだ』
『歌が聞こえるだけだろう?泣く程の事か。腹痛とか、不調は無いかい』
確かに歌が聞こえるだけで泣くのは、周りにしてみれば 変なのだろう。
「歌詞は古い言葉だな。解るか?」
「そりゃ、グズッ、毎日 嫌々聞いてるからさ、ズズッ、歌詞ぐらい覚えたけど、ズビビッ、古語じゃ わかんないよ。ズビーッ。書いておくから、シュラも一緒に調べてくれる?」
話しながら鼻水をすすり、途中で鼻をかんだ。
「他国の古語では私の出番無しじゃのう」
「意味があるのかもしれん。後で調べよう」
『アヤメちゃん、落ち着いたら また通訳して貰えるかな』
『喜んで。お歌が終るまで、少々お待ちくださいね』
「おい薬師、セトラナダの古語なら文字だったら解読できるぞ」
「聞いただけでは、解らないのか?」
「旋律に邪魔されて発音が判り辛い。ずっと聞き流していたしな。文字になっていれば、時間をかけて解読できる」
「頼もしいな。それと、王の行動範囲や護衛の状況は、どれぐらい解っただろうか」
「今までの行動と、予定は入手した。こちらでは、鎮魂祭が終ると同時にタタジクに向けたセトラナダ王からのお手紙を預り、届ける事になっている」
「宣戦布告の?」
「おそらく」
「タタジクでは、私たちが出発した頃からアヤメの生誕祭を開催している」
「ストラーク様が、領主様が始められた事か?」
「当然だ」
外から聞こえる歌が終わった。
『ふう。ロアルさん、ご心配おかけしました。あの お歌はセトラナダの古語で歌われておりますでしょ?わたくしには意味が殆どわかりませんけど、書き出したらこちらの方々が解読して下さる そうですの』
『本当に、お腹が痛いとか、我慢してないか?』
『お歌の時間は、ずっとシュラとヒムロだけ でしたから、皆さんには醜態を見せずに済んでおりました。いつも、こんな感じなのですよ』
『もっと酷い状態だがな』
ギャン泣きして暴れる事もある。ただ、そこまで言う必要も無い。
『古語なのは聴いててわかっていたが、内容までは考えてなかったな。王や龍を讃える言葉は少し聞き取れるけど 私も古語には詳しく無いので、任せて良いかな』
『文字で見られれば、可能だ』
代表者はアヤメに書けるのかと目で訴える。察知したロアルが記入できる紙とペンをアヤメに出す。皆の注目する中で、アヤメは綺麗な字を紙に並べ始めた。古語特有の文字も間違わずに書く子供は、なかなか いない。
静かになったユタ家の厨房では、ルフトの「価値観」講義が始まっている。
先ずはタタジクに届く水。
ユタにしてみれば、タタジクの兵士が工事をして 水路まで整え、神々の御力 有っての事だから、自然に届くままで良いと考えていた。これにはバムも顔を しかめたぐらいだ。
「あのなあ、お人好しも 過ぎたら争いの種になるんだぞ」
ルフトがユタに理解させようと必死だ。
「どういう事です?」
勿論、水は天の恵みで優位に立つ道具として考えるのは、ユタには難しい。
「あの、ユタさん、いいですか?」
「何かなバム」
「あ、えーと。タタジクでは水が無かったんだ。全く無い訳じゃなくて、凄く少なくなって来ていた」
「それは聞いたし、水が届けば畑も潤うよね」
「畑も潤いますがね、産業は金属加工が主体だって覚えています?」
「産業も効率が上がって良い事ばかりだよね」
「金属加工品は、農具や工具ばかりじゃなくて、武器が特産だと言ったら?」
「剣舞の他にも見応えある舞に出会えるかもね」
「ユタ、良く考えてくれ。他の土地は、こんなに平和じゃ無いんだ。武器と言ったら戦争だと子供でもわかる」
「子供でも?」
ユタにとっても戦争は遠い国の話であって欲しいし、武器から連想するのは剣舞だと、それがこの土地全体の常識で良いと考えていた。
他の土地では子供も戦争を思い付くと言われて、戸惑う。リリも同じだ。
「でも水は、天からの恵みだろう。無いから工事までして、届くよう努力したのはタタジクの人だよね」
「タタジクでは水が届けば武装も出来るって言ってんだよ」
「しかし、武装するのはタタジクの民を守る為じゃないのか?」
「ユタさん、シュラ君を捕獲する命令を出したのもタタジクです。忘れた訳じゃ無いでしょ?」
忘れる訳が無かった。シュラの捕獲命令に身震いした事、民を安全に避難させて、それでも起きてしまったトトへの攻撃。左手を切り落とした時の感触が蘇る。
「なあユタ、シュラはずっとトレザに居たいと言っていた。俺が見てきた土地では、ここは どこよりも平和だ。だけどな、喜んで与えるばかりじゃ 次は むしり捕られるんだぞ。俺だって、クウやシュラが関わって無ければ、自分の利益だけで ここを見るぜ」
ルフトの言葉にバムも続く。
「ユタさん、相手に攻撃しなくて良いんだ。無償で与える事で相手に舐められる。それを止めたい、解って欲しい」
「山奥だってのに、トレザは豊かな土地だろう。シュラや神々が居なくても、自分たちの土地を守る手段を持てって 言っているのは解るか?」
記憶に新しいトレザの戦争でさえ、一番の被害者バムに言わせても大したことない物だったと言われ、ユタとリリは青ざめる。利き腕を失くす大怪我で、命を落とす危険もあったというのに。本来の戦争では、大勢の人が犠牲になると聞かされた。
負ければ殺される。又は生きて捕らえられ、奴隷として生涯を終える事もあると。
「ルフトさん、シュラの言う事が随分と物騒だと思っていたし、アヤメでさえ小刀の他に武器は持っていた。でもね、武器なんて狩りに使う道具だけで良いと思いたい。せめて、民はこのままであって欲しい」
「ユタはどうなんだ?」
「私は、皆にまで無理強いしたくないけど、そうだね。他の土地から攻めて来られても困る。理解は遅いけど、ルフトさんに教えて欲しい」
「よぉし!俺に任せろ」
ユタとリリは、他の土地では通用しない常識がある事を知っただけでも、大きな収穫だろう。ルフトとバムも寝室に使う治療室に向かった。
陽が落ちてもクウの部屋は明るい。ムウが壁に向かって絵の具を着けて歩き回っているのだ。時々 立ち止まって書き込んだり、遠くから見て確認したり、梯の位置を何度も動かして 高い所の書き込みをしたり。
そんな様子をクウは笑顔で見守っている。
「ねえムウ、ワタシそろそろ眠いんだけど。絵の具は明日には作れるからさ、休んでいいかな」
「おや、イイスは眠る前に湯浴みをするといいよ。さあ、イイスは女の子だからね、アヤメの使った部屋に案内してあげておくれ」
ムウが返事をする前にクウが指示を出す。実際に描くのはムウだけなので、イイスが眠いなら「おやすみ」ぐらい言うつもりでいたムウは、湯浴みが何か気になるものの 描く手が止まらない。
絵の具に囲まれて、自由に壁に描く事が愉しくて、夢中になって描き続けている。トトは梯を支えたり、ムウが梯から身を乗り出して落ちそうになるのを止めながら、絵の具や筆を手渡している。
「トトも眠かったら、休んでいいよ」
ムウは言ったが、トトは梯から落ちそうになるムウを止めないと、怪我をしそうで眠れる訳が無い。それに、どんどん色が着いて行く壁を見ているだけでも愉しくて仕方ないのだ。
イイスは別室に案内されて、温かい湯船に浸かる。ルフトはアヤメの身長が予想できなかったので、女子用の部屋着の寸法は幾つも誂えていた。当然イイスにちょうど良い寸法の部屋着も用意されている。
「うわぁ。お湯に入るの初めてだけど、凄く気持ちいい」
普段は水を浴びるぐらいだ。丁寧に髪を洗われるのも初めてで、湯船でウトウトする。土と埃でジャリジャリだった髪を洗うと、案外サラサラした髪になる。
湯船の気持ち良さと洗髪の気持ち良さで、湯上りはトロトロに眠そうだ。そのまま天涯のある寝台に案内されて
「あのね、ワタシみんなの所で寝ちゃダメかな?とっても素敵な所だけどね、知らない所でみんなと離れてると、なんか寂しいの」
新しい部屋着に着替えて、クウの部屋へ戻った。
クウの部屋には長椅子も寝台もあるのだ。あまり使っていないだけで。
「ムウ、ちょっと見てないだけで、ずいぶん進んだね」
「……誰?」
ムウとトトが同時にイイスに言う。見慣れない部屋着にサラサラの髪をした、イイスの声で喋るイイスに似た少女。
「えーとワタシ?って言うか、もう眠い」
「イイス、汚れを落としただけで、見違えたよ。さあ、ゆっくり休むといいよ」
クウの言葉とイイスの変わりように ムウは驚き、トトも近くに寄る。
「イイス姉ちゃんだ。すげえ、もう寝てる。それに、良い匂いがする」
長椅子に横になったイイスに、柔らかい毛布をかけた使用人が退室する。
「うん、イイスだね。ちょっと……驚いた。よし、イイスが起きてビックリするぐらい描くよ」
「え?ああ、うんオレもガンバる」
トトは梯を支える為に、ムウが怪我をしないよう頑張ってムウに付き合う事になった。
鎮魂祭の歌。
歌詞は間違わずに書いた。
「やっぱ、わかんない言葉ばっかり」
「解らない言葉でも書けるのが凄いのじゃ。アヤメの知識は救いじゃからのう」
使節団の皆に歌詞を渡しながらアヤメとヒムロが言う。
「音は聞き取れるし、文字はずっと前に覚えたけど、意味までは知らないんだよね」
「セトラナダの姫、ある程度の規則性さえ理解すれば、古語は覚えられる」
「へえ。面倒くさいからさ、今は頼んじゃっていいかな」
「言語が違うだけで、身分まで違って見えるな」
『アヤメちゃん、何を話してるのかな?』
『ああ、アヤメたちは、古語の覚え方等を話してる。すぐに覚えられるものでもない、タタジクの使節団に頼んだ所だ』
『ええ、わたくし あまり頭を使うのは得意ではありませんので。難しい事はシュラや周りのみなさまに 助けていただいて おりますの』
使節団の三人で、歌詞の古語を翻訳し始めた。シュラには王の行動範囲の資料を手渡してあるので、黙って資料を睨む。
しばらく時間だけが過ぎて行く。
「今夜、龍の城に忍び込む」
「承知じゃ」
「わかった」
「薬師、勝算はあるのか?」
「様子を見るだけで、終るかもしれない。だがな、大きく事が変わるかもしれない」
『アヤメちゃん、シュラは何を?』
『ええ、古語はやっぱり難しいって話してますね』
アヤメはシュラの顔色を見ながらロアルに伝え、上手くいった安堵の表情になる。
『うむ、知識も戦力の内だと、つくづく思った所だ』
シュラもロアルに知られないよう、アヤメの言葉に相槌を打つ。
「ここの主には教えないのか?」
「世話になっているだけで充分だ。心配させたくない」
使節団も、ロアルに知らせないというシュラの意見を汲んで返事をする。
『ロアル、シュラには翻訳を任された。だが、自分たちで聞き取れるんだ。古語も覚えておくよう伝えた』
『ふうん?まあ、そういう事にしておくか。だがシュラ、迷惑とか考えるなよ。私に出来る事なら協力するからな』
『ああ、ロアルが頼もしい。ルフトの紹介だし戦力にもなるし、とても期待している』
『古語の翻訳に少し時間が欲しい。明日の朝、歌が流れる時間までには持参する。古語の資料が手元に無いんだ、待てるか?』
『明日の朝か。……待っている』
『明日な、ロアルではなく、薬師に手渡す。約束だ』
『必ず』
使節団の三人は歌詞の紙を大事にしまって退室した。
『シュラ、本当に無茶な事はするなよ。私に出来る事はあるか?』
『いや、ああ、明日、もしも誰も戻らなかった時は、使節団の歌詞を受け取って欲しい。それと、荷物はルフトに届けてくれると助かる』
『少し、大事なお散歩に行って来るのです。ロアルさん、わたくし ロアルさん大好きですわ』
アヤメとヒムロはトコトコ走って部屋へ向かう。
シュラも後に続こうと立ち上がった時にロアルが
『おい待て。そう言っても待たないだろう。私も行く』
『は?』
『武芸には、少しばかり自信があるんだぞ。邪魔はしないと思うが、ダメかな?』
『ルフトに荷物を……』
『シュラが自分たちで持ち帰れ!』
かなり本気で怒らせたようだ。
肩を落としてトボトボ歩くシュラを追い立てるようにロアルが歩く。
ロアルは余程 察しが良いのか、それとも思考を見る事が出来るのか、セトラナダの言葉で対話する内容は、歌詞の翻訳だけだった筈だと思い返しながら、これからの対応に困惑するシュラ。
部屋に入るとアヤメとヒムロが驚きの表情で出迎えた。
閲覧ありがとうございます。
今月中にあと1回は更新したい所存にございます。
間に合わなかったらごめんなさい。
龍の城に潜入したり、色々と予定してます。




