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龍の居る世界     作者: 子萩丸
27/59

セトラナダへ


 ラージャの速度が増して来ると、寝不足だったアヤメがたてがみうまるようにして眠る。見送りに来る皆に「帰って来るね」と約束して、数日は寝る間も惜しむように はしゃぎ回っていたのだ。


 見下ろすトレザのある山脈やまなみは、まるで大きな龍のようにも見える。シュラの心に反応したラージャから

「この山はな、心を亡くした龍のむくろだ。もう四百年位前だろうか、ヌッタに子供の龍を殺された親龍が、その山になった」


 実際には大地が龍の骸に残る『気』に集まった事で地形が大きく変化したのだと言う。龍の姿より何百倍も大きく隆起した山頂には、まだ骸が残っているらしい。雪に覆われて、上からでは見付ける事が出来ない。


「しかし、龍の子供とは言えヒムロ様だってかなりお強い。私には無理だな」

「ヌッタとはシュラの種族じゃな。今度トレザにとどまる時にはシュラがヌッタに詳細を聴くといい」

 

 同族ならば、いきなり争う事にはならないだろう。ただ、本当に幼少の頃しか家族と過ごせなかった。あらゆる情報が危険な種族とされる『ヌッタ』に再開するのは恐ろしくもある。


「それとなシュラ、ここから先は敬称や敬語は無しだ。まあ、そもそも敬語とは言えなかったからそのままでも良いがな」

 シュラは正しい敬語では無かったと笑われるが、それは言葉の使い方を知る機会が無かったからだと言い返す。


「膨れて感情を見せる所は、まだ子供らしいものじゃな」

 赤い目を細めて笑うヒムロに子供らしいと言われると、シュラはどう振る舞えば良いかわからずに動揺する。

「身を隠し、素性を証さぬよう旅を続けたのだ。言語など通じる程度に理解していれば上等だ。それに戦場は瞬時の判断が必要だ。言葉に混乱する暇は無いぞ」

 真面目な声でラージャが言う。(姿が龍なので、対話の形式で脳内伝達している)


「承知。これからはラージャ、ヒムロと呼ばせて貰う」

「それがいい。見た目が年長者のシュラがヒムロに敬称を付けて呼ぶだけで、妙な目で見られるからな」


 セトラナダでは多種族が行き交う。しかし成長の速度が似た者が殆どで、『ヌッタ』『ヤマビト』位しか例外は無い。

 ちなみにヤマビトの成長はゆっくりで、長寿だからこそ積み上げた知識は豊富なのだそうだ。体力は人並みらしい。


「他に成長の早さに違いがある種族は無いのか?」

「どうだろうな。精霊と呼ばれる者や怪獣ようじゅうは、数百年同じ姿だと噂に聞く」


 旅先ですら聞いた事が無い生き物が、まだまだこの世界には居るらしい。


「ところで、心を亡くした龍の骸と聞いたが、ラージャの知る限り教えて欲しい。ヌッタに会って詳細を聞く前に知っておくべきだろう」


「……そうだな」


 青空はラージャの姿とほぼ同じで、見上げる者にも姿は見えないだろう。小さくなる山脈を振り返って、シュラが当時の様子を訪ねる。

 ヒムロも知りたいようだ。



 当時は人々が国やら領地を造りだし、セトラナダでは龍の誕生が減り始めた。人々が集まった事で力を付けたからなのか、龍に頼る人が減ったからなのか、理由はわからない。


 それでもセトラナダに居る龍はまだ多く、ラージャも人との交流が程好くあった頃だ。


 テルシア。そう呼ばれた領地があった。

 テルシアの領地が勢い良く栄えたのは勿論、龍の助けもあったからだ。

 あらゆる知識を欲した人物がテルシア。たった一人で領土を築き上げたとも言われているが、セトラナダから出る龍が少なく、人が龍の『力』に深く興味を示さなかったのもあるだろう。


 その龍は銀に輝く白龍で、たてがみは炎のように青く白く、水脈にも地脈にも詳しかった。テルシアが聡明で周囲の者に安寧な暮らしを望み、白龍も惜しみなく望む方向に導いた。


 でもテルシアは人で、勢い良く領地を豊かに拡げても、いずれ老いて行く。充分に満足した人生だったが、大きくなりすぎた領地を治める者に思い悩むようになる。


 権力や欲望を見聞きするようになると、領地を白龍に任せると願うようになった。しかし、「人」の造り出した領地を手伝っただけだと穏やかに断れば、テルシアの「願い」が新しい龍を誕生させたのだ。


 小さな龍の子供に「領地テルシア」を任せ、人テルシアは安らかに眠りについた。

 龍の子供はヤハと名付けられた。


 白龍は、我が子のように大切に深紅の子龍ヤハを可愛がり、領地テルシアの平穏が続いた。最後に望んだのは皆の「平穏」数十年は望んだように発展を続け、更に領地も拡大していく。


 しかし、子龍に領地を奪われたと言い出す者がいた。領地テルシアの富と権力を手に入れようと、あらゆる手段を使うようになる。

 しかし子供とは言え龍の力に人が及ぶ訳がない。暫くは小競合いのような権力争奪の波があったものの、次第に落ち着いて行ったように見えた頃、深紅の龍ヤハはヌッタにさらわれた。


 数日後、ヤハの亡骸が見付かる。

 

 白龍は嘆いた。

領地テルシアはその日、跡形も無く消えた。人も、文化も、全て白龍の炎で消し去った。

 それでも哀しみは消えない。ただひたすら泣き続け、次第に心が崩壊していく。


 白龍は領地テルシアのあった場所に横たわり、哀しみに包まれたまま心を亡くした。


 天に還る事の無かった白龍の亡骸に『地脈の気』が集まり始める。『水脈の気』も流れを大きく変えた。誰の目にも解る地殻変動が、この日から始まった。


「水脈が変わったトレザの様子を見て歩いていた頃にサラの『気』を見付けてな、トレザの民を助けながらサラの様子を視ていたが、人はすぐに老いて行く」

「シュラ、この先は母者ははじゃ (サラ)の話がずっと続くぞ。」

「聞きたいであろう?」

「いや、いい」


 シュラが即答拒否しても、ラージャは全く関係ないとサラの幼少期からの事を事細かく伝えて来た。いかに魅力ある『気』であるか、いきなり隆起した土地で周りの人々を鼓舞する強さと優しさに目を奪われたのだそうだ。


「うーん、サラ様って人だった頃から凄いんだね」

 龍の『気』で包まれているせいか、アヤメの疲れも取れたようだ。大きく伸びをして、風圧に飛ばされそうになったところをシュラが掴んで止める。

「ラージャ様の飛ぶ速さって、どんな乗り物より早いよね」

「まだ寝惚ねぼけているようだな。手を離してある良いか?」

「ダメッ落ちて死んじゃう」

風圧で顔を歪ませながらアヤメはシュラにしがみつく。


 アヤメがラージャのたてがみうま

ようにしがみつくと、前方の下を見ていたシュラが

「あの土地にある店に寄りたいのだが、良いだろうか」

別に急いではいないと付け加えたがラージャは急降下して木々の多い上空で突然、人の姿になる。

「うぇえ!」


 空中で突然放り出されたアヤメが叫ぶと、背負っていた鞄からチヌが顔を出し、羽を広げる。シュラは落下の速度に任せて地上に近付くと木々の枝を使いながら速度を落として行き、適当な所に着地した。


「寄りたい店とはどの辺りじゃ?」

トスッと軽く着地したヒムロと、旅人のような身形みなりになったラージャが

「あの男の店だろうか」

「ラージャは何でもご存知だな」


 シュラが目的にしている店は、以前シュラを誘拐した首謀者が経営している店なのだが、アヤメと出会って始めの目的地だった所でもある。


「待ってよぉ、急に空に放り出されたら普通なら死んじゃうよ?」

上手く着地したアヤメが走りながら文句を言う。

「シュラが助けると思ったが」

「いや、生きているから問題ない」

「チヌがいるじゃろ」

皆で同時にアヤメが無事なのが当然だと言う。小走りするアヤメと大きな商店街に向かう。


 似たような大きな店が並ぶ中、シュラは迷わず店に入る。

「店主は居るか?」

「はい」と出てきた相手は見知らぬ男で

「すまん、店を間違えたようだ」

一度外に出るが、

「ねぇ、このお店だったよね?」

アヤメも首をかしげる。


「あの、大旦那をお探しですか?」

店主として出てきた男は、大旦那と呼んでいる相手から「若い男と小さな女の子が来たら案内するように」と言付けられていたらしい。

 用意された馬車に皆で乗る。


 商店街から離れた立派な建物の前で馬車が止まり、御者の隣に座っていた男が屋敷に急いで入る。すぐに戻って来た男が

「大旦那がお待ちです。客間にご案内します、どうぞ」

案内されるまま、皆で広い玄関ホールを抜け、天井の高い部屋に入る。


 あまり待たずにシュラとアヤメが覚えている商人が部屋に入ってくる。

「シュラは相変わらず見る度にでかくなるな。そちらの方々は、どんな繋がりだ?」

 ヒムロだけはシュラを誘拐した犯人の記憶しか知らない。警戒をあらわにして立ち上がる。


「この今にも噛み付きそうな子供に見えるこの方はヒムロ様、80年以上前からトレザを守護なさっている」

「守護……まさか土地神?」

「土地神は母者ははじゃだ。私は土地を離れられる」

「ヒムロ、少し黙っておれ。シュラを解放する手引きをした商人のようだが、ずは名を聞こうか」


「神を呼び捨てなさる貴方も神でしょうか。ああ、私はルフトと言いますが、おいシュラ、どういう事だ?」


 明らかにルフトと名乗った商人は動揺している。


「アタシが初めてルフトに自己紹介した時と、同じ顔になってるよ」 

「まさか、この方は暗殺されたと言われているセトラナダの前王なのか?」

「違うよ。お父様じゃないよ」


わたしはラージャという。セトラナダで使役されてる龍だ。どちらも分身だがな」


「ふん、ルフトが困惑するのは気分が良い。ラージャ様の分身体がセトラナダの守護神だ」


「冗談で言うなら不敬で死罪になるぞ。そもそもセトラナダの龍は人を苦しめるのを好む危険な動物だと言われている」


 ルフトの言葉で アヤメとヒムロの表情は固くなる。怒りのやり場を探す顔だ。

 シュラが困った顔で

「ルフト、語彙が少なくて悪いが、殺していいか?」

「シュラ、説明不足にも程がある、なぜ殺意を向ける?」

 ルフトが話してる間にシュラの左腕がルフトの首をがっしり固定し 右手で頭を捻ればいつでも脛椎を折れる体制になっている。


「大方ヘルラの計画通りなのだろうが 癪に触る。わたしが心より好むのはサラだけだ。故意に人を苦しめるのは正直な所 嫌いだぞ」

「ラージャ様も説明不足だぞ。セトラナダの守護神だとルフトに教えなくて良いのか?」

「ふむ、そのような問いだったか。これでどうだろう」

 

 大きな窓の外を踊るような仕草で指せば、渇いた庭が潤って来るのがわかる。空は晴れたまま、植えられた植物が生き生きし始めたのは誰にの目にも明らかだ。

 水滴が細かく浮いて、庭に小さな虹ができた。


「か……神の御力……」

「セトラナダの潤いは、わたしが保ち続けている。この程度の室内ならば、水で満たすぐらい容易いが?」

「いや、いや充分に理解いたしました。大変失礼な発言だったと、まさかシュラの同行者が偉大な龍神様だとは夢にも思いませんでした」


「ふん、そうやってルフトは私のせいにするのだな」

ルフトの首に回した腕を緩めなが言うシュラの顔は、言葉とは裏腹に穏やかだ。


「それにしても驚いた。アヤメ様をセトラナダに戻すのだな」

「そのつもりだ」


 短いやり取りなのにルフトは察しが良いのか、控えていた下働きらしき人物に指示を出す。

 その間にルフトが脱出の手引きをしてくれた事をヒムロに伝え、アヤメは使役の紋様でラージャがヘルラに支配されてしまった事をルフトに教える。

 あまり待たずに 子供が入れそうな木箱を持ってきた。

 立派な装飾の着いた木箱を開けると、アヤメが城から出た時に着ていた衣装が入っている。


「今 見ると、ずいぶん ちっちゃかったんだなアタシ」

 言う通り、今のアヤメには着られないほど小さい。


「あの頃が始まりだったのか、あるいはそれ以前からなのか。ところで セトラナダに向かうなら、砂漠の宿は決めているのか?」

「まだだ。人のふりはしているが ヒムロ様が泊まるような、神々に相応しい宿屋を知らない」

「なら、ちょうどいい宿やどに案内しよう」

「ああ、ルフトなら知っているだろうと思った」

「そうだろうな。使えるものは何でも利用しろと教えたのは俺だ。宿に着いてから不足している物も手配しよう」


 シュラとアヤメがセトラナダに向かう。それだけで全て察していたルフトの手際はいい。詳しい内容を話す前に砂漠の宿へ向かう馬車に案内される。


「移動の間に、何故なぜ 神々を仲間に引き込んだのか、経緯いきさつを知りたいものだな」

「思いがけず、捲き込まれたようなものだ。出来ればトレザで隠居したかった」

「おいおい、じいさんみたいな事を言うなよ。それとも よほどトレザは住みやすいのか」


「まあね」

「当然じゃな」

わたしは居心地が良い」


返事をしたのはシュラ以外で、違う言葉でありながら同じようなことを言う。


「そういう事だ。人が争わず、安心して眠れる」


 神々とセトラナダを背負う次期王が住みやすいなら、さぞかし素晴らしい所だろう。いつの日か訪れてみたいと思うルフトと共に砂漠の途中にある宿屋に到着した。




お久しぶりです。

18Rにして、短くまとめて毎日更新し始めました。

もう3ヶ月ぐらい、こっちは手を出してませんでしたね。


タイトルの通りに進めませんでした。

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