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龍の居る世界     作者: 子萩丸
24/59

準備期間

お元気ですか?

読みに来て下さって有難うございます。


やっと、イメージしていた冒頭部分が終わります。


晴れた日が続けば、どこの家でも湖までの往復が増える。井戸が近くにあれば水汲みも容易なのだが、井戸は少ない。多くのたみが湖に行く事になる。

 当然、人が集まるのでそれなりに情報交換もあるのだが、時間を示し合わせる事がないので確実な情報伝達とは言えない。

 それでも湖には人が集まり、家の家族がどれぐらい文字を覚えたのか、気になる変化を楽しむ様子で賑わっている。

 地面の下では、シュラが埋めた二つの種が誰にも気付かれずに根を広げている。


 シュラが先に植えた三つの種は、その日のうちに大人が四人で手を広げるほどに育ったものの、実が着くには数日が必要だった。

 やっと実ればアヤメが食べてみたいとうるさいので、シュラが収穫しても良さそうに熟した実を幾つか取って下りてくる。小さな実は皮が硬くてぶつかり合うとカチカチ音がする。アヤメは小さな実を一つ取って口に放り込んで、奥歯を使って硬い皮を砕く。

「ぶふぉふぇ?」

 同時に変な声を出したかと思うと、アヤメの姿が白いふわふわした何かで覆われて行く。

「綿の実なのだが、味はあるか?食えそうか?」

 たった一粒で大人がスッポリ隠れそうな量の綿になるとは思わなかったと呟きながら、アヤメを取り囲む綿を回収する。

「味なんてわかんないよ。息が止まるかと思うほど苦しかったよ。絶対に食べられないね」

 ペッペッと口に残った綿と皮を吐き出して、涙目で大きな実を掴んでかじる。

「ゲッ、なんかこれも食べられないかも。苦くて口の中がベタベタする」

「多量に取らなければ害は無いが、苦いのか?」

「なんか飲みたい。っていうか、口の中を洗いたい」

 肩掛けカバンの中から出した水筒を渡と、アヤメはガラガラうがいして言う。

「これはまだ完熟じゃないいんじゃないの?」

「いや、合わせる食材によっては食える筈なんだが」

 本来は食べる用途に考えてなかったと言いながら、アヤメのかじった実の残りはシュラが食べている。

「美味しい?」

 小さな種も咀嚼して飲み込んだシュラは

「好みじゃないな。でも食える」

 多量に取らなければ害は無いと言いながら、一つ食べきって大丈夫なんだろうかと思いながらも、最後の実を手にしたアヤメは

「これも変なヤツ?」

「いや、これは確実に取り敢えず食材にもなる」

 シュラが言い終わらないうちにかぶり付く。皮の表面は硬いようだが、手でも簡単に剥けて始めの一口で口に残った皮だけ出すと、皮を剥きながら黙々と食べきった。

「なんか、草みたいな味だけど。甘いのを期待してたんだけどな」

 

 

 大人が隠れそうな程の綿をアヤメが持ち上げ

「うわ、軽いや。何も持ってないみたいなのに前が見えないよ」

 そのままシュラが綿を持ち上げ、ユタの家に入る。


「ねえねえ、これって何に使うの?雲みたいだね、美味しくないけど」

「綿なら紡げば糸が出来る筈だ」

 スタスタと厨房まで行くと、腕ぐらいの長さの棒で、太さは指ぐらい、片方の端に丸い板が刺さった物を取り出す。丸い板の刺さった先に綿を引っ掛けられる突起があり、綿を少し引っ掛けて棒を回転させる。

 回転する棒の重さを利用して、綿から糸を紡ぎだすつもりだったのだが、見様見真似の初体験でいきなり上手く行く訳がない。ひと塊の捻れた綿になった。

「うん?こんな予定では無かったのだが」

「なんか、枕みたいだね」

 抱き抱えやすくなった綿を抱き締めて、布でくるむと気持ち良く眠れそうだとニコニコするアヤメに苦い笑いでなぜ失敗したのかシュラは考えている。


 結局、綿から糸を紡ぐのは慣れたリリに任せる事になった。獣から抜けた柔らかい毛や小さな綿花からでも器用に糸を紡げるリリにとっては、この大きな綿はとても糸を紡ぎやすいそうだ。綿から細く引き出しながら棒を回転させて太さが均一になるように器用に紡いでいく。

 見た目どおりに上手く行かないが、アヤメとイイスも夢中で練習を兼ねて手伝う。

 小さく硬い実を砕けば、ふわふわの綿が大きく広がる。幾つも砕くと部屋いっぱいになってしまう試、糸を紡ぐ分だけ砕いていく。


 他の大きな実は試しに圧搾して果汁を絞り、別々の器に入れて薬の調合に役立つか薬草が保存してある部屋に持ち込む。


 まだ動きが鈍いユタの元には学ぶ者達の情報も届く。トレザ全体の学舎として建物を造るのは、取り敢えず後回しだ。だが、知識の応酬に適した人物を解りやすく伝え合えば、今までの生活に大きな負担をかける事もなく、皆が得意分野を伸ばしていける。

 試してみたいこと、確認したいこと、得意な事を教えてみたい者。誰の目も期待に輝いている。


 ヒムロは人々の求める知識や生活に役立つ物を積極的に教えている。もうすぐ千年を生きるラージャの『気』を上回るのは簡単では無いが、少しでも差を縮めようと努力は惜しまない。

 人々の『気』を集める事で、ヒムロが漲る力を感じ取れるのだ。優雅な身のこなしや美しさにも一層磨きがかかったようで、ヒムロから直接助言を受けられた民はため息と感動を隠せない。


 シュラとヒムロはそれぞれの時間を合わせてラージャと闘う訓練も怠らない。幼年とはいえ神の力を持つヒムロとシュラの戦力は、ほぼ互角。だがヒムロが少しずつ強くなっている事で、シュラは追い付くだけでも必死だ。

 ラージャが簡単には倒せない相手だからこそ、裏をかく戦略も話し合い、色々な方法を試しながら実力を上げている。


 アヤメの仕上げた陣の製図は、ラージャにも確認して正確な寸法で作成が進む。ムウが中心となり、ヒムロの一番新しい脱け殻を使って製図した通りの図柄を刺繍する。

 シュラが埋めた綿の木から取れたた綿を紡いだ糸を使い、砕いた石の粉を使って糸に着色する。

 着色の方法も、皆が頭を付き合わせるように意見の交換や思い付いた様々な方法で試され、均一に染めるには技術も必要だとか、色によっては簡単だったり、ムラになったりと様々だ。


 セトラナダに向かう準備は着々と進む。

 同時に人々は学び会い、教え会う日常に慣れてきた。

 ラージャからシュラに珍しい色の宝玉が手渡された。

「これを心の臓にあててみよ」

 言われるままに、シュラは服の首もとから直接肌にあてると、溶けるように体へ吸い込まれた。

「これは?」

 体の中で血液が逆流するような不快感で脂汗が吹出してくる。息苦しいし、目が回る。

「通信手段の一つだと思えば良い。意識が保てるならば、馴染むのも早いであろう」

 いっそ気絶した方が楽かもしれないと、ラージャの声を聴きながら大きく息を吐く。出来るだけゆっくりと、深く呼吸をしながら立っているだけでもやっとだが、ラージャが背中を軽く叩いて何かを唱えると、何も無かったように苦しさが引いていく。

「声も出せぬほど苦しかった。今は不思議なほど何ともない」

 ラージャの文身体とは、通信を絶っている事、アヤメもセトラナダの関係者なので一応は警戒しておくのでシュラを選んだ事、ヒムロとは離れていても、連絡が取り合える事を述べて


「このぎょくを取り入れ命を落とす者も居ると聞いたが、無事で何よりだ」

 何ということもない顔でそれだけ言うと、立ち去るラージャにシュラは身震いした。



彼等の世界に足を踏み入れていただき有難うございます。


楽しいだけで始めたら、誰が主役なのか解らなくなってしまいました。


動き始めた登場人物には、どうにも思い入れが出来ますね。

次回で本当に冒頭部分が終わります。


そして、練り直して出直す予定です。


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