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龍の居る世界     作者: 子萩丸
22/59

ちょっとずつ前進

 今回も、見にきていただき有難うございます。


 もっと早く更新したかったのですが、現実はこんなモノです。でも、前進です。ちょっとずつだけどね。

 いや、彼らは私よりずっと働き者だな。


 楽しんでいただけると嬉しいです。

 


 まだ空が暗いうちにユタの家族一同は氷の洞窟に到着した。


 リリの『気』で咲いた花が香りを広げているせいか、寒いはずの空間なのに、それほど寒さを感じない。まだ他の『気』の小さな玉が幾つか小さな音を立てながら輝くのを、踏まないように気を付けてリリとユタが奥に向かう。


 ラージャとサラは奥に座ったまま、皆の事を黙って見守って居るのが暗がりでもわかる。皆で感謝の言葉を思い思いに伝えると、嬉しそうに目を細めて頷いた。


 ムウはラージャ達から少し離れた所に立ち、二柱の姿をサッと描いてから洞窟内の様子を観察するようにじっと見回す。


 甘く優しい香りをいっぱいに吸い込めば、何故か不安に感じていた事が解消されて行く気分になるから不思議だ。


 トトが自分の『気』に近付くと、大きく輝いてトトが光に包まれたように見えた。眩しいトトの辺りに目を凝らせば、次第に光が消えていき、光に包まれる前と何ら変わらずに、ただ何かが吹っ切れたような清々しい顔で座り込んでいた。


 イイスの『気』には、まだ変化が無いようだ。ただ、シャラシャラ良い音を発てて、周りまで心地好さに包まれる。


 バムがユタの光る花に近付いて、採取を交代すると言う。陽が差し込めば暫くは採取で動けなくなるが、明るくなると同時に動ければ移動も楽に行えるだろう。


「ヒムロ様のお姿が見えないようだね」

 ユタの言葉で皆が洞窟内を見回す。薄暗い洞窟内でも、すぐに現れていたヒムロが居ない。ラージャとサラの間にも居ないようだ。

「間もなく現れますよ」

 落ち着いた鈴の音のようなサラの声に誘われたように、朝陽が洞窟を照らし始める。

 同時に洞窟の入口には七色に輝くヒムロが現れた。


 朝陽に照らされているせいか、透けるように見える肌や髪が普段より神秘的だ。ただ足取りがおぼつかず、微睡まどろんだ表情は普段の姿と明らかに違う。

 そのまま洞窟に入ると思ったら、朝陽に向かって振り返り、大きく手足をゆっくりと動かし始めた。

 とてもゆったりとした動きのヒムロの舞いは、今すべき事を忘れる美しさで、皆が見とれている。

 バムは最初に咲いた光の花から蜜を取り零して我に帰り、徐々に各々が目的を思い出して動き始めた。


 何故かアヤメとイイスが『イイスの気』の近くでヒムロの舞いを夢中になって真似している。


 ラージャと何やら話していたシュラが洞窟を出る時にヒムロの姿に目を奪われつつ

「気のせいか昨日までとは随分と雰囲気が違うようだが、何かあったのか?」

 ヒムロに向かって呟くと

「シュラが休んでる間に脱皮したのじゃ。普段なら数日かけて脱皮する所を急いでみたので、どうにも勝手が解らぬ」

 陽に照らされて舞う姿はまさに神々しく美しい。だがヒムロは脱皮したての身体に馴染む為に、ただ伸びをしているだけだと話す。そんな声が聞こえないアヤメ達は、明るくなった洞窟でヒムロの舞いを真似するのに真剣だ。


 シュラは洞窟を一人出て、種を一つ埋めに行く。水脈に合わせ、人があまり来ない所に、かなり深く穴を掘る。

「こんなものかな」

 種を置いて、同じように石の混ざる土をかけた。


「皆の準備が良ければ出発しよう、どうじゃ?」

 どうやら伸びは終わったヒムロが声をかければ、すぐに出発できるように準備していた皆が洞窟の入口に集まる。

 身軽な動きで斜面をかけ上ったヒムロがムウだけを呼び、ムウが斜面をよじ登るとヒムロは白い大蛇のような龍の姿になった。

 この中でヒムロの姿を見たことがあるのはユタだけで、皆がおそれに固くなっているが、ヒムロはそんな皆を全く気にせず道案内のムウを頭に乗せて斜面を進み始めた。


 遅れないようにトトとイイスがよじ登る。斜面を掴む左手が無いのは少し不便なようだが、自然にイイスが手を差しのべてユタはトトが滑り落ちても支えられそうな位置を見計らって進む。


「ヒムロ様、トトを代わりに乗せてやってよ」

 ムウがヒムロの頭上から声をかければ

「目的地にムウを下ろし、ひどく遅れているようならそうしよう」

 大きな赤い目でチラリと後方を確認して、速度を上げて草木の生い茂る中に入る。


 速度を上げたヒムロに遅れないように慌てたイイスに

「ヒムロ様の通った跡は、迷わないから急がなくて大丈夫だと思うよ」

 アヤメが声をかける。今、トト達が居る急な斜面には目立たなかった草木が多くなる所で、なだらかになった辺りでアヤメが下の皆に声をかける。

 掻き分ける前の草はアヤメの身長を越えるぐらいだし、太い木は大人が両手を広げても届かないぐらいで空を隠すように葉が繁っているため、薄暗い。掻き分けられた跡は数十年、いや、それ以上かけて落葉した葉でフカフカと柔らかい。寝転がるには気持ちいいが、歩き難いだろう。


 シュラは最後尾から大人の足より太い木を何本か斬り倒しているが、ラージャから受け取った剣だと一太刀で切れるのが楽しいのだろうか。倒れた木の枝もはらっている。

 

 生い茂った草木を掻き分けた先には、ゴツゴツとした岩の多い道のような明るい所に出た。更に先にはまた崖がそびえて、見上げれば上は白く雪が残っているのもわかる。

「ヒムロ様、この辺りだよ。有難うございます」

 ムウが滑るようにヒムロから下りて、見上げる程のヒムロの大きさに改めて驚く。

「では私はトトを迎えに行くのじゃ」

 だが、急斜面は登り終えたようで、遠くにイイスと小走りで来る姿を確認し、ムウの前で人の姿になった。透けるような肌の白さに胸を打たれる衝撃を感じながら

「ヒムロ様、綺麗だね」

 思った言葉が見付からず、ムウが笑って言うと

「誉められるのは嬉しいものじゃ」

 眩しい程の笑顔で返す。


 ムウは照れるような、恥ずかしいような気持ちを隠すように岩の物色を始めた。


「明るいけど岩ばっかりで、この辺は何も無いんだね」

 イイスが辺りを見回しながら軽く息を切らせて言う。少し遅れてトトもイイスの言葉に頷くが、怪我をしてから暫く安静にと言われて、あまり走る事も無かったせいか、大きく息が上がっている。息が整うまで、喋るのも苦しいようだ。


 アヤメは最後尾のシュラとユタと一緒になってシュラの斬り倒した木々の枝払いに夢中になっている。


 ムウは岩の中に、鮮やかな青が混ざる石や赤い石を探し、一ヶ所に集めながら

「絵にね、色を着けたいと思った事は前からあったんだよ。だけどね、草や花の色はすぐに茶色になっちゃって、その色のまま残せないんだ」

 ヒムロはムウが描いた絵は素晴らしいと力説する。

 着色する為に必要だと、目的がわかったイイスとトトも鮮やかな色の石を探し始めた。


 そんなに経たない間に、色とりどりの石山が出来た。さすがに全部持ち帰るのは大変な量だ。

 しかし、ムウの絵を楽しみにするヒムロも、発色具合を試したいムウも、運び方に悩み始めていた。

「ねえ、そろそろ朝ごはんにしない?食べればきっと何か思い付くよ」

 イイスが石山に橙色の石を乗せ、ユタ達を呼びに行く。トトも久し振りに走った後なので、もう腹が減っていた。その場に座り込んでから寝転がる。

 石を運ぶのも大変だろうが、トトが来た道を帰るのも大変なのだ。


 イイスとアヤメがユタの荷物から食事を出して広げる。まだシュラとユタは、何やら作業を続けているのでトトが呼びに行った。


 食事を取りながら、シュラとユタで帰りの道をある程度ととのえていた事を伝える。遠回りになるが急斜面ではない所を通れば、トトも安全に下りられるだろう。

 重たい石は、とりあえず必要な分だけを持ち帰り、次は道を整えに来る時に持ち帰る方向で落ち着いた。

 一度に運びきるのは無理でも、何度も来られるならば持てるだけを運べば良い。

 ただ、今はヒムロもいるので獣に襲われる事は無いが、普段から立ち入らない区域なので決して一人で来ない事、出来れば大人が同行できる時にする事を約束して、食事を片付けたら帰り支度を始める。

 


 来る時は薄暗かった森の中は、細い木々を伐採したせいか木漏れ日で見晴らしの良い通り道になっている。

 ヒムロの通った跡を途中かられて、急な坂には綱を渡してある。

足下あしもとも整えられれば良かったのだが、時間がなくて出来なかった」

 シュラが済まなそうに言うけれど、トトも綱に掴まれば一人で下りられるのだ。誰も文句など言わない。


 洞窟に立ち寄ってみたが、誰も居なかった。ただ以前と違ってリリの『気』で咲いた花の香りが入口までほんのりと香る。ヒムロとは、ここでいったん別れ、ムウは家まで走って帰った。何か嬉しくて、じっとしていられない気分なのだ。

 重たい石は家の前に一度下ろし、

「母さん、擂り潰せる道具あるかな?」

「干した薬草の近くにあるはずよ」

 すぐに薬草の棚の下に置かれている道具を持って外に出る。

 しかし、薬草と違って岩は道具に納まらない。少し小さくする必要がありそうだ。

 どうやってこの岩のような石を砕こうか考えているとリリが様子を見に来た。

「岩から薬を作れるの?」

 着色する顔料だと思っていないリリは不思議そうな顔で聞く。

「薬じゃないんだけどね。粉にしたいんだよ」

「あら、それならこの道具じゃ無理よ」


 結局、石を粉にするような道具は家に無いとわかり、ムウは大きくため息をついて他の皆が戻るのを待った。


 子供達が集めた石を、出来るだけ持ち帰ってやろうとユタは少しばかり無理をしたようだ。途中で一度休憩して、下ろした荷物を持ち上げる時に立てなくなったらしい。腰を痛めてしまったのだ。

 シュラがユタを背負い、チヌがユタの運んでいた荷物を前足でしっかり持ってフラフラ飛んできた。

 アヤメ、イイス、トトもちょっと重たい荷物に小汗をかきながら、チヌとシュラを応援している。


「あらユタ、どうしたの?顔色が良くないわ」

「いやちょっとね。ムウの探し物を欲張って運んだら、途中からシュラの世話になってしまったよ。本当に済まない」

「途中で置いて来る方が不安だ。何度も言ってるが、気にしないで欲しい」

 ユタを治療室に運ぶか、寝室に運ぶかをリリとシュラでやり取りし、治療室へ向かう。

 チヌはムウの近くに荷物をそっと下ろすと、アヤメの頭に乗って眠りについた。


 ムウは皆の荷物の袋から、色の綺麗な石を出して並べて行く。すぐに粉にして、今朝も見た洞窟内の風景を描きたいのに、色を着けたいのに、もどかしい気持ちでユタの様子を見に行く。


 治療室には、バムの私物も置かれている。寝台は複数あるので、ユタは薬品室に近い寝台で横になっていた。

「どうだいムウ、良い絵は描けそうかな」

 油汗をかきながらユタはムウに聞く。

「うん、石を粉に出来るような道具があると良いんだけどね。父さん達が沢山運んでくれたから、色は多分、大丈夫だよ」

 リリがユタの汗を拭いながら、シュラの持ってきた薬を水で伸ばし、大きな葉にベタベタ付けて手際よくユタの背中と腰に張る。


「横になっている暇は無いんだけどな。こうも痛いと、自由に起き上がる事も出来ないよ」

 苦笑いして、リリに支えられながら体を起こす。洞窟で咲いたリリの花から採取した蜜を、お湯で割った物を飲む。

「折角だから試しに飲んでみて、何かしら効果があったら教えてちょうだいね。ユタはこの頃ちょっと動きすぎよ、休む時間が必要なんだわ」

 空の湯飲みをユタから受け取り、また横になれるように介助する。

 ユタは光の花から採取した蜜を調べたいとシュラに伝え、バムに預かった報告を書き記した板に目を通す。

 痛みが落ち着いてきたのか、リリが静かにユタの汗を拭ううちに、静かに寝息をたて始めた。

「そっとしておきましょ」

 リリの言葉で、皆が静かに診察室をでた。


「広場に行ってみようか」

 アヤメが子供達に声をかける。

「私は湖に用がある。広場には後から行こう」

 シュラは一人で湖まで行くらしい。広場の方が近いので、後で合流するなら行き違いになる事もある。

「シュラも広場を経由して湖に向かえばいいじゃん」

 アヤメがみんなで一緒に行くと言い出したので、面倒な話し合いをするよりは、取り敢えずシュラも広場へ向かった。



 ムウはバムを見付けて、周りの職人達から石を粉にする方法を聞き出そうと、色々な職人に話し掛けて行く。

 アヤメとイイスが香辛料の素になる薬草を持って、料理に興味が有りそうな集団の中に入って行く。

「シュラ、オレ達は湖に向かおうぜ」

 トトがこの場には用が無いと、シュラを誘う。

「そうだな、肩車するか?」

 嬉しそうに見上げたトトが

「人が少ない所で頼む」

 と、子供っぽく見られたく無いとそっと呟いた。


 湖に着くと妙に水面が波立っていて、良く見れば白い大蛇が泳いでいる。

 ザバッと湖から上がったヒムロが

「蛇ではないぞ。ちゃんと龍なのじゃ」

 大きな赤い目で少し伸びたつのを自慢するように見せに来る。

「ムウは気が利いた事を言えるのに、シュラやトトはどうなのじゃ?」

 言いながら人の姿になると期待した目で二人を見て笑う。

「ヒムロ様さ、背が伸びた?」

 もう少し小さかったとトトが背比べ出来そうな距離で話し掛ける。

「気が利いた事……とは?」

 シュラは全く解っていない。

 誉め言葉が欲しいと暗に言ってみたが、この二人に期待する方が間違っていたと、すぐに気付く。

「まあ良い。脱皮したからの、背も少しばかり伸びたじゃろうて」

 それでも身長が伸びた事に気付いて貰えたのは嬉しかったようで、自然と笑む。


 シュラは最後の種を手に、

「何処に埋めたら水脈の効果が高いだろう。今は水路を造る人手は無いからな」

 今朝シュラが洞窟の近くに埋めた種と、これから埋める種は同じ物だ。

 地下に太く根を張り、洞窟の水や湖の水が根の中の空洞を流れ、民家の近くまで水を届けられるようにするのだ。

「しかとラージャから聴いて来たのじゃ。この辺りならば、何処に埋めても滞りなく流れる」

 ヒムロが踊るように近くを指せば、シュラは深く穴を掘って、朝と同じように埋める。

 シュラを見上げてヒムロが

「シュラの『気』は、トレザの為の種しか無かったではないか。欲が無いのう」

「いや、この地に居たというあかしを残せれば、生きた私が確かにここに居たと、誰かに覚えて貰えるだけで充分だ。皆がおおらかに笑うこの土地で、家族として迎えられた事で、とっくに願いは叶っている」

 目を細めて、満足そうに話すシュラを、トトは不安の混じる目で見上げた。




 ぎっくり腰をやりました。私が。

 激痛で、トイレまで這っていくし、階段は上れない、下りられない。そんな2日間を体験しました。

 だけど腰のサポーターベルト、有能ですね。湿布もあちこちに張ってます。

 腰痛の時の太ももに湿布って、良いと思う。凄く。


 で、私が痛いからって、ユタさんも巻き込みました。

 ゴメンねユタさん。少し休んでて。きっと周りは理想的に何でもやってくれたりくれなかったり。


 温かくなり始めるとね、ぎっくり腰って増えるらしいですよ。背中、肩、腰、太もものストレッチや軽い運動と充分な休息で、予防出来ると思います。

 どうぞ、気温の気持ち良い季節です、充実した時間をお過ごしくださいね。

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