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龍の居る世界     作者: 子萩丸
21/59

サプライズ

 とてもお久しぶりです。

 もう続きを書くのは止めたんだろうか?と、思わせてしまっていたらごめんなさい。

 続きはつらつら頭の中に流れてますが、流れて行ってしまうのです。

 追い付け私。捕まえとけ私。

 そして今回は、なんだか閑話みたいな内容ですね。初めてのカタカナ表記タイトルです。

 なんかさ、サプライズって素敵な言葉だと思うのよ。だけど、ちょうどいい言葉が見付からず、そのまま使いました。


 お時間のある時に、覗いてもらえると嬉しいです。




 アヤメもシュラがこんなに長い時間、無防備に眠っているのは始めて見たと言う。シュラは早起きだし、先に寝る事も無かった。

 アヤメはリリやユタの手伝いをしながら、何度もシュラの様子を見に行く。

「アヤメはシュラが心配なのね。様子はどう?」

「別に心配じゃないよ。珍しく良く寝てるから、何かしてやろうと思うんだけど、何も思い浮かばない」

 リリは何をするつもりなのか、笑いをこらえてアヤメに聞くが、本当に何も思い付かないようだ。ただ、何か悪戯いたずらをするつもりはないようで、目が覚めた時に喜ぶような驚かせ方をしたいと意気込んでいる。

「どうしてシュラを驚かせたくなったんだい?」

 ユタもアヤメがなぜ面白そうな計画を立てているのか聞き出そうとする。

「あのね、あたしはいつも先に寝ちゃうでしょ。それに熱を出したり、お腹が痛くなったり、そんな時にシュラが助けてくれたじゃん。ありがとうって言うだけじゃ足りないんだよ」

 とにかく驚くほど喜ばせたいという。微笑ましいアヤメの計画に、リリとユタも手を貸すと約束して、夕食の準備や薬草の種類を分け、同時にアヤメが薬草の中から食べられる物を見付ける。

「これ、けっこう美味しいやつだよ。ちょっとピリッとして、ほんの少しだけ入れるのがいいの。いっぱい入れたら辛くて食べられないけどね」

 香辛料のたぐいは、薬草として使っていた物の中にかなり混ざっていた。

「薬に使うと思っていたから、食べようとは思わなかったな。どうだろう、今夜の食材に使ってみるのは?」

「そうね、試してみて、美味しかったらシュラも喜ぶんじゃないかしら」

 アヤメはシュラの味覚がおかしいから、美味しい料理は解らないだろうと断言する。しかし、皆で美味しい食事ができるのは大歓迎だ。

「何か、もっと、驚くほど喜ぶ事って無いかな」

 アヤメはハッとして、チヌをシュラの隣に寝かせる。だがチヌは『旨そう』と言われた事を覚えているのか、警戒するように少し距離を取った。

 チヌが驚くほど可愛くて今朝は悲鳴を上げてしまった。シュラも喜ぶんじゃないかと言うと、リリが苦笑いで応えた。

「バムの所にあった模型は、楽しそうに見てたと思うよ」

 アヤメは模型に全く興味が無かったので、模型に向かう楽しそうなシュラの記憶は無い。それでもユタは良く人を見ている。

 それなら、バムの私物に模型らしい物があれば、少しばかり拝借してシュラに見せてはどうかとユタに聞く。

「さすがに、留守の間に勝手に私物を借りるのは、あまり気持ちの良い事ではないよ。そうだ、昨日は書きかけて眠ってしまった陣があったね。それを完成させておいたらどうだろう」

「うーん、それじゃ結局あたしだけ喜ぶ事になっちゃうよね」

「いや、アヤメしか知らない事なんだろう?ならば、皆に解る形にしてあるだけでも、何かしら解決策は増えると思うよ」

 香辛料に使える薬草を持って厨房に向かい、リリは早速料理を始める。

 ユタは食事をするテーブルに木板を三枚と筆記用具を置いて、アヤメには陣の絵を書くように勧める。

 料理の下拵えが終わった食材に、どれぐらい香辛料を使ったら良いか、ユタも一緒に考える。

 香辛料の使いすぎに注意と言いながら、アヤメは図形を木板に書き始めた。


 板が平らではないせいもあって上手く円にならないし、上下左右対象な図形がずいぶんいびつだが、記憶をたどって正しい図形を書いていく。線が複雑になってくると、ゆがんだ形でもそれらしく見えてくる。

 本来、セトラナダで使われているのは『契約』の陣なのだが、アヤメは別の板に『お願い』に変えた物も書いてみる。

 国民やセトラナダという国に対してラージャが自由な選択を出来るように。

 多分、契約が永いこと続き、神に護られるのが当然になってしまったから、神の力を自分の物にしたくなるバカ者が出てくるのだ。

 旅先の殆どが神の居ない土地ばかりだった。それでも人々はたくましく生活している。

 土地に息づく小さな神もいた。ずいぶん前に人々から忘れられて力を無くしたのだ。サラも一度は消えそうなほど、土地神としての力を無くした事があったと、ラージャが教えてくれた。

「契約がこの形で、使役はこうなるから、お願いにするなら、これで良いのかな?」

 陣を書き比べて誰に聞くでもなく呟く。


 日が暮れる前には陣もほぼ完成と思える形になる。だが『お願い』に変更するには正解が解らない。多分、これで良いのかな?といった具合で、取り敢えず後でシュラにも相談してみよう。


 ムウ、イイス、トトが、いつもより良い匂いがすると駆け込んで来る。とたんに厨房が賑やかになった。

「まだシュラは眠っているのかしら。起こして来る?」

「うん、その前に広場で決まった事を父さんに報告するよ」

 ムウに並んでトトも報告の手伝いをする。

 イイスがそっとシュラの様子を見に行った。

 若者達から預かった書類をユタに渡して、一度は子供達が学舎まなびやの対象外になった事、そこからなんとかなるまで話し合った事を二人で伝える。

 書類に目を通しながら話しを聞いていたユタは

「書類の報告が以前よりは解りやすいね。解決しなければならない問題点も話しに聞くだけより伝わりやすいと思うよ。勿論、二人の説明もちゃんとわかった」

 文字になっていると、自分だけで解決に奮闘しなくても良い事に気付いた。以前は名前と数字が書かれた物に口頭での説明を付ける形だった。この数日で報告内容が書類として残せるようになったのは画期的だ。

 大勢で始める事だから、皆に上手く振り分けられれば、効率も良くなるだろう。


「まだシュラは眠ってる。チヌが薄目でシュラを見てたよ。ねえ母さん、凄く美味しそうな匂いなんだけど何をしたのか教えてよ」

 イイスが戻ってシュラの様子を伝えると、そっとムウとトトもシュラの様子を見に行った。


 バムも帰宅してまっすぐユタの所に行き、職人達とのやり取りを報告する。

 気になっていた屋根の修理は、職人達が頑張ったので明日にはほぼ終わりそうな事、建築や製造の職人達は元々知識の伝え方が苦手だっただけで、字を書ける補佐が着けば、バムが居なくても知識の伝達は上手く行きそうだと伝える。


 普段より旨そうな食卓の準備がされる中、アヤメの微笑ましい計画は厨房に集まった皆に伝えられる。

 

 バムがシュラを起こしに行く。

「そろそろ晩飯だが、シュラさんは起きられそうかい」

 鼻腔を旨そうな匂いにくすぐられて、シュラは大きく息を吸い込んでから目を開ける。薄目でシュラの様子を伺うチヌと目が合った。

「ふっ。こうして見ると、確かに可愛い顔をしているんだな。奇声を発する程ではないが」

 シュラは安心した様子のチヌを少し撫でて、起こしに来たバムに向き直る。チヌはシュラが起き上がるとアヤメの所に向かって飛んで行った。


 バムがユタとアヤメから聞いていたので、他の兵士達が作っていた治療院の模型を出してみる。屋根の無い、間取りと小さな家具が置かれた物だ。

 小さな物が好きなのか、シュラはじっくり見始める。

「後でゆっくり見ながら、ユタさんとも相談させて欲しいんだが、取り敢えず飯に行こうか」

 シュラはバムに渡された模型を持ったまま、準備の整った厨房に向かう。

 旅先でも滅多に入る事の無い高級料理屋のような匂いに期待が膨らむ。

 香草が肉の香ばしさを引き立てている。


「ジャーン」

 アヤメが立ち上がって厨房に来たシュラに図形を描いた板を見せる。

 トトは腹ペコだと待ちきれないように話すので、陣の話しやいきなり育った大木の事は後に、夕食が始まった。

「アヤメが教えてくれたのよ」

 リリが取り分けながら香辛料の事を話すが、皆は食べるのに忙しいようで、首を向けて頷くだけで返事はない。珍しい味付けに食欲旺盛な年頃なのもあってか、普段より早く食事が減っていく。

 バムは初めて食べる味だと言って、何故か涙ぐむし、ユタとリリも食べる速度が早い。今日は喋るより食べる口の方が忙しい。

「あれ?辛い」

 突然トトが食べる手を止めて、水桶の水を汲みに行く。

「水を飲むとよけいに辛く感じるから止めときなよ」

 アヤメが言うより先にトトは水を飲んでいた。

「早く教えてよ、辛いって言うか、痛い。みんなは平気なの?」

 トトの声でイイスも手を止めた。

「え?なんか、今は口の中がピリピリしてる」

「あー、ちょっと入れすぎちゃったのかな。」

 トトが大きく口を開けて、両手で口の中に風を送るようにパタパタと扇いでいる。

「あら?ほんの少し入れただけなのよ。でも、だんだん辛く感じて来たわね」

 栄養補給としては充分に食べたが、香辛料の刺激のせいかまだ満腹感には足りない。しかし、慣れない辛さのせいか、徐々に皆は手を休めている。

 シュラとアヤメは辛さが気にならないのか、食事を続けているのは二人だけになった。

 アヤメは『姫』だと知らされたものの食べっぷりが豪快で、本当の事を知らなければちょっと陽気な子供にしか見えない。逆にシュラは大きな体つきだが、食べ方はこの中では誰よりも上品だ。

「ねえ、辛くないの?」

 イイスが二人に尋ねると

「シュラが作ると、もっと辛いんだよ。これくらいなら、ちょうどいいよ」

「うむ。どうやら私は少しばかり入れすぎたようだな。このぐらいだと、とても食べやすい。以前作った時は数日間、喉が焼けたようだった」

「ちょっとじゃないよ。シュラは味覚がおかしいんじゃない?あの時は何日も口の中がヒリヒリしてたんだからね」

 

 当時のアヤメは本当に食が細くて、簡単に飢え死にしそうだったので、何かしら食べさせようと必死だったと真面目な顔で話すシュラに、皆が絶句する。

 アヤメの印象は、とにかく良く食べる。後は良く笑い、良く喋っているぐらいだろうか。食が細い時期があったと言われても、信じられない。

 しかも、食の細い子供に激辛の食事を与えて、とどめを刺すつもりだったのかと不安にすら思う。


「でもさ、あたしシュラに会えなかったら、今頃きっと生きてないよね」

 アヤメの感覚も少々おかしいとは思いつつ、ユタがアヤメに

「どうだい、シュラが驚くほど喜ばせるのは成功かな?」

「うん、ちょっとは成功だと思うよ。まだまだ足りないけどね」

「何が成功なのだアヤメ?」


 皆で食器を片付けながら、アヤメの計画をシュラに伝える。

「アヤメはシュラが休んでる間に、どうやって驚かそうか色々と考えていたのよ。美味しかったようだから、上手く言ったわね」

 リリが少し私達には辛かったけどと笑うと、トトは少しじゃないと言うので他の皆も笑う。


「びっくり喜ばせたいんだよね」

「何を言っている。今までずっと救われて来たのは私の方だ。生きて戻るだけでアヤメは笑顔で迎えてくれたではないか。挫けそうな時はアヤメが待っていると思うだけでも本当に救われる気持ちだったのだぞ」

 喜ばせるのが足りないのは私のほうだな、とシュラがちいさく呟いた。


 体つきは大人だし、知識も多いシュラに子供らしさは全く無いが、ハッとアヤメが

「あたしの方がお姉ちゃんなんだから、たまには甘えてみろよ」

 ニヤニヤしながら言うのを

「……それも、悪くないな」

 少し目を反らして、照れを隠すように笑った。


 皆のやり取りを見ながらバムが疑問を口に出す。何故、シュラがトトを『兄さん』と呼ぶのか、今も話していたが、アヤメの方が年上にはどうしても見えない。

 トトが喋る内容は要領がつかみにくく苦笑いで聞いていると、ユタとリリで解りやすいように説明された。アヤメが楽しそうに陣の図を出すのを見ながら、ユタがアヤメの生い立ちも詳しく話す。

 驚きの隠せないバムに対して少しばかり満足そうなユタが

「とても驚く事ばかりだけど、これからもっと変化があると思うんだ。頼りにして良いんだよね」

 

 凄みのある笑顔で聞かれ、とうに覚悟を決めたバムはユタから目を離さずに頷いた。


 食後は皆と感覚のズレた発言の多いシュラとアヤメに笑いながら、陣を製図する方法をバムから教えられてムウとイイスが器用にこなす。

 治療院の模型には住居が無いが、ユタだけじゃなく大勢が順番で治療を行えるように考えた施設だと言う。タタジクにはそういった治療施設が在るのだそうだ。

 

 明日行くムウの『気』を見付けに行く準備の話しや製図した陣の寸法を図りながら計算する方法、トレザには無い他の土地の文化の話し等をしながら、トトは文字で内容を書き残す練習もしている。


 なごやかに夜がふけていく。

 アヤメの計画は皆が楽しめる結果になった。

 リリは使った香辛料の分量を調節出来れば、もっと食べやすくなると確信が持てたので、また挑戦するつもりだ。

 イイスは道具を使った製図が楽しいようで、違う模様を描き始めた。規則的に同じ模様が並ぶ図は綺麗だと、皆に見せる。

 旅先の他の土地でも見たことの無い図案にアヤメも目をひかれて楽しそうだ。


 

 一日が長く感じるほど、色々な事が起きた。ここ数日は、ずっとこんな感じだ。

 だが、何かしら期待に胸が踊るような心地好さもある。

 さて、明日は何が起きるだろうか。

 いや、何も起きなくても充分だ。まずは今、やるべき事をやっておかなくては。

 そんな感じで皆が思い思いに寝室へ向かった。




 




 お疲れさまでした。

 見に来てくれて、ありがとうございます。


 続きを早目にアップして行きたいと思います。

 ただ、活字に変えるだけの作業が、私の実力ではなかなか上手く行かないというか、読む方が好きと言うか……


 誰か続きを書いてくれないかな。

 あ、でも思う通りに話が進まないと嫌かな。ワガママだな私。

 ちょっと飛んだ先のお話は進んじゃってるので、またこまめにアップ出来る所まで行きたいと思います。


 押しくら饅頭がぎゅうぎゅう楽しく出来る時代が来ますように。




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