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龍の居る世界     作者: 子萩丸
20/59

才能と夢

お久しぶりですね。お元気ですか?

先月、Instagramなるモノに手を出して、路頭に迷う事態になっております。

いや、以前からお絵描きは好きなんですが、描いた物を発掘していました。殆ど残って無いわ。

デジタルでお絵描きが手軽に出来る時代になっていたんですね。これもまた、データを残しておくべきだったようです。


何事も、やってみないと何が必要なのか解らないものですね。

ちなみに、Instagramには、早速ネタに困窮してこのお話の登場人物もアップしています。


さて、私は一体、何がしたいのでしょう。

自分ダンジョン絶賛満喫中w


どうぞ、あなたは迷う事なく、ご自分の幸せの道を進んで行けますように。

 


 周りの人がざわついている中、ユタは全く動じる様子も無くその状況を見上げていた。

 周囲の声を聞き流しながらユタはここ数日の出来事を陽射しに温もる背中を感じながら思い返していた。


 数日間続いた大雨、そしておよそ三十年は探していたヒムロとの再開。そのヒムロに連れられてトレザの民から忘れられていた神サラとの出会い。

 翌日には無事を祈って送り出した息子シュラが驚くほど立派になって危険を報せに来た。

 ラージャはトレザの土地ごと、民も一緒に水を流してタタジクを沈めるつもりだった事にも驚きを隠せなかった。

 助言された事に対して出来ることを考えるだけでも、本当は逃げ出したかった。自分だけの問題ならば、諦める方法を考えたかもしれない。

 兵士による侵略は神々とシュラが防いだものの、トトの左手は戻らない。

 舞の為に準備した時間は、ただ民を安全に避難させたかっただけで、思いがけない民の結束力に繋がった。

 一息つく間も無く、アヤメは見知らぬ国の姫だと知らされ、ラージャはその国を守護しているという。それだけでも驚く事なのに、守護する立場のラージャが囚われた状態で、危険を承知でその国に向かうと言うアヤメ、気乗りしていなさそうなシュラ。

 そう言えば、今朝のアヤメの悲鳴にも驚いた。そして迅速に動くシュラにも。旅先での生活を想像出来ず、ぼんやり思考を切り替える。

 洞窟で咲いた光の花から取れた蜜を綺麗に洗った壷に移したが、薬効等を確かめたいし、広場では学舎まなびやの規模が思ったより大きくなった。手に負えない仕事量が明らかになったが、率先して動く若者達とバムに今後の作業を丸投げした。思っていた以上に快く引き受けてくれた事は拍子抜けしたぐらいだった。

 安心した所で近道を使って一人で広場から自宅に戻った所だ。


「ユタ、これはなんだ?今朝は何も無かったよな」

 白いヒヨコを肩に乗せたパウゾが聞いてくる。

「何だろうね。質問する相手は多分、シュラだと思うよ。今朝の種を植えた場所だから、間違いない」

 ユタも答えは解らない。

 もう、自分の手に負えない事態ばかりで、今朝シュラが植えた種が育って行く姿を眺めながら言う。

 皆は、ユタを探しに行った者がいると言っていたが、近道から戻ったためすれ違ったのだろう。あまり時間を置かずリリと子供たちが戻って来た。


 三本の木の中央で上を見上げたシュラが、手頃な枝に飛び上がるとすぐに葉に隠れて見えない所まで登って行った。


 バムは不安な気持ちで急いで駆け付けたのか、息を整えながら特に普段と変わらない建物の様子に安心する。

「ユタさん、皆が探してました」

「うん。すれ違ったみたいだ、湖まで行かせてしまったんだね。手間を掛けさせてしまってすまない。本当に凄いことになっているよね」

 ユタの視線は家ではなく、今朝まで特に何も無かった辺りに向いている。バムもそこを見て驚いた。

 今朝までは遠くまで見渡せたはずの景色を覚えているが、今は三本の大木があった。

「まさかね、朝に埋めたばかりの種が、こんなになるとは思っていなかったよ」

 いつもと変わらない口調でユタが言う。三本の大木は、シュラが埋めた種の場所にそびえ立っている。

 この木がスクスクと育つ有り様を見掛けた者が、慌ててユタを呼びに行ったのだ。

 急いで戻ったユタの家族は、育って行く木を見上げてもさほど驚く様子が無く、アヤメは花が咲いてないか見上げ、シュラが冷静に木を見上げたと思ったら、飛び上がるように登って行ったのだ。

「ユタさんは、驚かないんですね」

 バムが感心するように聞くと、

「いやいや、充分に驚いているけどね。ここ最近は驚く事ばかりで、なんて言うのかな、置いていかれないようにするだけで、精一杯だよ」

 ガサガサと枝が揺れてシュラが降りて来た。

「神々が上で、ことわりを何やらなさって、どうやら樹齢いっぱい育成させるそうだ」

 振り向いたシュラの顔にはうっすら髭が生えている。やはり淡い水色だ。

「あ、おヒゲ」

 アヤメに言われてハッとしたシュラは両手で顔を隠して皆から背を向けて座り込む。

 ユタが近付くと、耳まで赤くなったシュラが、初めて動揺しているのがわかる。少し伸びたように見える髪も、どうやら⁶気のせいでは無いようだ。

「周りに随分、人が集まって来たよ。家に入ろうか」

 ユタに促されて、シュラは人目を避けるように家に入った。ユタが椅子を勧めると、シュラはおとなしく座って顔を覆ったままユタが向かいに座るのを目で追う。

「どうした?ヒゲが気になるのかな」

 深く腰をおろして、ユタが言うと、シュラは黙ったまま何度も頷く。

 指先まで赤くなるほど動揺しながらシュラは考える。アヤメには生えて無いようだし、長男のムウも、まだヒゲは濃くない。気になるので今まではマメに抜いていたのだが、突然こんなになるとは思わなかった。

「裸になるより恥ずかしい」

 ヒゲを両手で隠したままでシュラが答える。色白の肌が赤くほてっているので、本音だろう。

 ユタとしては、大人なら当然の事だから、そんなに気にするなと言ってやりたいが、小さかった頃にも見せなかった狼狽うろたえる姿が、少しばかりいとおしい。

 驚く程の身体能力、信じられない成長の速度、ユタの知らない沢山の知識を持ちながら、今にも泣き出しそうな顔でヒゲに困惑するシュラに、妙に安心した。


 大雨の続いたあの日から神々と出会い、突然の襲撃からたみの安全確保、そして今は学舎まなびや。もうユタの手に余る様々な事が起き続けている。

 ごく普通に、ユタが解決してやれる案件にホッとするのも当然だろう。

「気になるなら、剃れば良い。肌を切らないように気を付けるんだよ」

 シュラの前にそっと鏡と小刀を置いた。シュラは鏡を手にとって顔を写し、初めて髭面ひげずらを眺めた。

「本当は少しずつ伸びて来るものだけどね。木の上で何があったのか教えてくれるかな」

 初めて髭を剃った時は、大人になった自分に喜びが隠せなかったと話しながら、シュラの隣に座る。


「髪と同じ色で真っ直ぐ伸びているから、結構似合っているぞ」

 ユタからそんな風に言われると、シュラも恥ずかしい気持ちが少しずつ薄れて行く。鏡を見て、前髪ごと伸びた髪を後ろできつく束ね、

「本来なら、あの種が育つ迄には時間がかかるとラージャ様が上空で何か唱えていたんだ。私に気付いたサラ様が、『気』が似ているから離れた方が良いと言うので降りて来た」

 生えたばかりの髭を触りながら、左手に持った小刀で鼻の下を丁寧に剃り落とす。綺麗になった鼻の下をさすりながら

「なんだか、ジョリジョリする」

 ユタが笑いながら「そんなもんだ」と言うので、シュラがユタの顎を触ってみると、見た目にわからない髭がチクチクする。

 ホッとしてシュラも笑った。鏡に向き直って、右耳の下から小刀を当てて行く。


「シュラは無事か?」

 突然、扉を開けたヒムロがテーブルに飛び乗ってシュラとユタの正面に膝立ちし、シュラの顔を覗き込む。

 続いてアヤメが

「ねえねえ、おヒゲ触らせてよ」

 アヤメはテーブルを回り込んで来たのだが、半分くらい剃り落とした後に気付いて

「あー、もったいねーな!」

 アヤメが何を言いたいのかわからないシュラは、手を止めて、まずはヒムロの話しを聞く事にする。無事かと聞かれ、身体の異変は髭が生えたぐらいしか思い当たらない。

「突然、こんな顔になった以外は特に何も無い」

 しかし、ほてって赤くなったままのシュラを見て

「ラージャのことわりにあてられて熱でも出たのか?」

 ヒムロは髭より赤面した顔に心配する。以前ユタが熱を出していた時に似て見えたからだ。

「シュラは薬を呑んで寝ると良いぞ、具合が悪い時は休むのじゃ」

 以前、ユタはシュラの薬を呑んだ後に泥のように眠り、目覚めた時には元気になった事を思いだし、同じようにすれば回復するとシュラに言う。本気で心配している様子に

「熱は無い、なので休む必要も無いのだ。……髭に驚いただけだからな」

「驚いただけで赤くなるのか?」

 ヒムロは少しずつ赤みの薄れて行くシュラの肌を見て、人体の不思議に驚いた。だが、ラージャが『シュラの気』を一気に育てようとしていた中に、本人が入り込んで来たのだ。

 ヒムロの説明によれば、成長の早いシュラの事だから、老人になってしまったのではないかと心配になったそうだ。シュラ自身に気付いて結界を張ったサラが言うには、身体にも影響は出るらしい。

「確かに妙な感覚だった。成長したのは普通の者の三ヶ月から四ヶ月ぐらいだろう、サラ様に気付いて頂けたのが早く、たいした影響は無い。だが成長と言うよりは、老化だろうな」

 アヤメはシュラに断りもせず、残った髭と剃り落としたばかりの頬を触ってジョリジョリすると笑っている。

「ふむ、やはり休むがいい。『気』を多量に得た時は私ものんびりするのじゃ」

「そうさせて貰おう。アヤメ、そろそろこちらの髭を剃り落としたいのだが、手を退けてくれないか?」

「えぇ?とっとけば良いのに」

 さすがに中途半端に剃り落としたままでは残せないだろうと、ユタが苦笑いしてアヤメの手を退けてやる。

「私もいつか髭が生えるかのう?」

「あたしはいつ頃?」

ヒムロとアヤメが同時にユタに聞く。

「アヤメには髭が生える事は無いだろうね」

「なぜだ?」

 剃りながらシュラが聞く。動物なら生まれた時から髭を生やしている。雄も雌も関係ない。なので、シュラは先に大人になったから生えただけで、いずれアヤメにも生えてくると思っていた。

「あたしも髭が欲しいんだけど」

 アヤメの発言にユタが声を出して笑う。

「アヤメは女の子だから、大人になっても髭は生えないな。なぜ髭を欲しがるんだい?」

「うーん、大人になった証拠みたいでカッコいいじゃん」

 外の知識は多く持っていながら、常識と思うような知識は少ない。これからセトラナダに向かうのに大丈夫なんだろうかと思わずにいられない。

「今さら聞くのも不自然かもしれないけど、アヤメには同じ年頃の友達は居ないのかな」

「前に旅芸人の皆と一緒だった時は、男の子がいた。だけど、ちょっと意地悪だったから仲良く出来なかったよ」

 旅芸人の一座とは、シュラは数日間だけ同行して何処かに行ってしまった。楽器や歌、舞もアヤメには指導者が居たから何をさせても一流の腕前だったので、旅芸人に紛れれば目立たないと思ったとシュラは言う。そのままアヤメに黙って去ったのだ。

 ただ、アヤメの実力は旅芸人の一時しのぎの芸を超えていた。近い年頃の子供たちからは、報酬の違いによる嫉妬の嫌がらせが始まり、完全に孤立してしまった。一月ひとつき程は一緒に旅を続けた結果、アヤメが受け取っていた報酬の金を全部使ってシュラと初めて行った商人の店まで逃げるように向かった。

 今まで同年代の話し相手は城にも居なかったし、トレザで初めてイイスと仲良くなったのだ。

 ほとんど会った事の無い母親をリリに重ね、父親をユタに重ねて見ていても当然だろう。

 思い出しながら、笑顔でアヤメは言う。

「イーちゃんが友達だよ。あと、トレザのみんな」

 そう、アヤメには気軽に話せる同年代の友人が居なかったのだ。

 ユタがアヤメの頭を撫でようと思ったら、チヌが眠っている。チヌを撫でながら

何処どこに行っても、いつでも此所ここに戻って来るといいよ」

「うん、ありがと」


 アヤメは良く笑い良く食べて良く喋る。以前シュラがアヤメの話しは鉄砲水のようだと言っていた。話しに呑み込まれて予定が狂うと苦笑しながら、トレザではアヤメの話し相手が多くて助かると。

 今はヒムロがアヤメの話しに呑み込まれている。シュラを訪ねて一人で大冒険の後、再開したシュラから散財した事を叱られた時の事を話している。話すのも上手いのだ。ユタもつい聞き入っていると、シュラが顔をさすりながら立ち上がった。

「兄さん達の部屋でひと休みさせて貰う」


 シュラを見送った所でアヤメの話しもちょうど句切りが良いだろうとユタがアヤメに聞く。

「明日はムウの『気』を探しに向かうけど、準備して置いたら良い物を教えてくれるかな」

 アヤメが何か考える時は右手の人差し指を顎に当て、少し上を向いて何かを探すように視線を動かす。

「そうだね、丈夫な紐は用意した方が良いかな。道の無い山なら、木の枝から枝に飛び移るとすぐに抜けられるよ」

 ぎょっとしてユタはアヤメを見る。

「出来れば地面を移動する方法が良いな。木の枝を飛び移るのは、他の皆には出来ないからね」

 準備する以前に移動手段が問題だった。

「私には出来るのじゃ」

 確かにヒムロは空を飛ぶ。普通に移動する方法を考えなければいけない。

 大人の背丈を越える草木を掻き分けるのは子供には大変なのだ。いつの間にか草木で切り傷が出来る。子供の頃に一日中森をさ迷った経験から、なたで草木をなぎ払いながら進もうと思った。忘れないうちに屶と木の板に書き出す。あと丈夫な紐。

 草木を刈り取るならば、珍しい薬草にも遭遇するかもしれないとアヤメが言うので、薬草を持ち帰る為のかご、他にも幾つか必要な物を書き出した。

 凡そ必要な物を書いた所でアヤメは明日のお出掛けが楽しみだと話し出す。早速ヒムロも夢中になって聞きながら、同行すると言い出した。

 ヒムロが地面をはって歩けば、本来の姿なら人が歩けるぐらいの道も出来る。ムウの『気』はヒムロもとても興味があるのだ。

「ヒムロ様の通った後なら、歩きやすくなりそうだけど、それではヒムロ様が怪我をされないかな」

「この土地の生き物が私に傷を付けることなど無い」

 ユタが聞くとヒムロは植物も生き物だから同じだと言う。

「ヒムロ様に道を造らせちゃって良いの?」

 アヤメは普段から神々に失礼かと思うような態度も多いが、さすがにこれは失礼じゃないかと問う。

「得意なことで役に立てるのは誇らしいのじゃ」

 と、胸を張って応えたので安心して任せる事にする。


 ラージャとサラ、一歩遅れてリリが入って来た。

「樹の成長は終わったのじゃな」

 ラージャが得意気に口角を上げる。

「シュラはどうなったのかしら」

 サラにはアヤメが答えた。

「あのね、水色のサラサラなお髭が生えてたの。ジョリジョリになって寝ちゃった」

 興奮気味に言ってしまって、意味が解りにくい。

 アヤメが見た状況を思い返しながら、トレザの言葉で文章を組み立て直そうとしていると、サラはクスクス笑い

「ひどい老化は起きなかったのね」

 そう言いながらチヌを撫でる。アヤメもホッとしてニコニコ頷いた。

 リリは皆の様子を見てから、夕食の支度をしておくと、奥に行く。

 

 

 バムはユタ達が家に入り、木の成長にも手が出せないと覚ったので、広場に向かった。

 学舎まなびやについては、トレザの土地全域に伝達も済み、多民族との交流には合意が無い者達も好感の持てる同意を得ることが出来た。

 ユタの補佐をする若者達は、文字を教えられる程度に覚えた者も多く、字を苦手とする者も他の知識は豊富だ。

 大所帯になると予測できる学舎の指導者は、まだまだ数も少ないが、今後の事を考えると、やるべき事は多い。一旦、広場の様子を見て屋根の修理をしている現場に向かった。

 皆が興味のある事を知り、学べる環境を整える為に、若者達が中心になって得意分野で教えられそうな知識を持つ者達にも伝達しに行った。

「みんな頑張っているのに、こう言っちゃ何なんだが。教えるだけじゃ見返りが無いと思うんだよな。何か、肉とか野菜とか、腹の足しになる物がありゃ別だけどよ」

 実際、自給自足が主な生活なので『教える』時間があれば食材確保に充てた方が良いと考える者も多くいる。水も湖から運んで来る事を考えれば、水を運べる年頃の子供達が学舎にうつつを抜かしては生活が成り立たなくなると不安になる者もいた。

 若者達は『やるべき事』を書き出して、そこから見付かる『問題点』を書き出す。

 書いて見直してみれば、解決しなければならない問題ばかりな事に気付いた。

 理想と現実の違いに気が遠くなった一人が

「無理じゃないかな。諦めた方がいいよ」

 と、口に出した。不可能な夢や絵空事に不毛な挑戦をしているように感じてしまったのだから、仕方ない。

 同意するように他の皆も諦めの表情になっている。解決しなければならない問題の山に頭を抱えているのだ。

「なあ、バムの所で学べる人数に制限して建築を中心にした学舎だけでも良いんじゃないかな?」

「うん、いきなり大きな事をするのは無理だよね。子供達は、いずれ建築に興味が出た時に行けばいいね」

 若者達は規模を小さくして学舎の内容を大人の建築中心にする方向で考え始めていた。実際にすぐ必要な知識は優先させたい。


 一方、ムウ、イイス、トトを中心に子供達は学舎ができたら覚えたいことに夢を膨らませている。

 舞いがもっと上手く舞えるようになりたい、衣装を本格的に作れるようになりたい、シュラやアヤメのように身軽に動けるようになりたい。

 文字や計算にも興味を示す子供も多い。


 若者達は早いうちに子供達が学舎を諦めるように説得をする事にした。

 子供達も様々な期待を込めていた学舎だ。一部の大人だけにとどまるのを不快に感じて口を尖らせて聞く子供もいる。

「なんでオレ達は学舎に入れてくれないんだよ」

 トトが言う。

「教えられる人数が足りないんだ。それに、君たちだって家の仕事があるだろう?」

 確かに、畑を手伝ったり水を運んだり。やらねばならないことは子供達にも沢山ある。それでも、字や計算を覚えたり、舞いや裁縫もいずれ役立つ。シュラやアヤメのように動ければ、狩りにはすぐに役立つだろう。出来る事が増えれば、大人達の負担だって減るはずだ。

「みんなが一緒に出来なくても、時間は過ぎて行くんだよ。いきなり全部は無理かもしれないけど、だからって全く外されるのは嫌だ」

 ムウが『嫌だ』とはっきり言うのは珍しい。

「だけどねムウ、規模が小さいなら何とかなるだろうけど、いきなり大きな事をするのは、生活に支障が出るから無理だよ」

「何かやるのに『無理だ』『駄目だ』なんて、いくらでも出てくるんだ。出来る事から始めないと、結局は何も出来ないままだよ」

「それ、五年前にシュラが言ってたよね」

 喧嘩腰で若者達を見るムウを茶化すようにイイスが言う。

 幼いシュラが家族を探しに一人で旅立つ前に、皆で止めたのだ。様々な理由を言ってもシュラは旅立った。

「そうだよ、シュラはけっこう頑固なんだ。今のままの方が幸せなのかもしれない。何もしなくても、同じような生活を続けるだけなら出来るだろ。だけどね、求めている物があるのに、何もしなければ決して届かないだろうってさ」

 ムウもヒムロから羽交い締めにされはしたものの、好きで描いた絵が認められた事は嬉しかった。ただ、今のトレザでは、のんびり描いた絵を飾るような生活をしている者など居ない。

 価値の無い『絵』も環境が変われば全く違う。それはシュラやアヤメから聞かされた。

 トレザでは子供でも作れるような傷薬がバムの育ったタタジクでは高価な物だとも聞いた。

 何かが変われば、きっと求める形に近付けるはずだ。

 楽しいから描いた。だが、誰かに認められると楽しいだけではない世界観が広がり始めている。これから出来る学舎に、何らかの切っ掛けを見付け出そうと期待しているところで、規模を縮小されても面白くないのだ。

 他の子供達も様々な期待を込めていた学舎が大人だけに止まるのを不服に感じている。


「ねえ、何で学舎は大人だけにしちゃうの?私だってサラ様みたいな衣装を作れるようになるなら、もっと家の仕事も頑張るよ」

 作りたい。だけど知識が足りない。必要な環境を整えきれないのが問題なのだ。泣き出しそうな顔で衣装の作り方を覚えたいと言う少女に若者達は口をつぐむ。

「父さんの補佐を任せっきりで悪いけどさ、みんなで考えれば、もっと良い方法は思い付かないかな」

 ムウが子供達も、他に学舎に期待する者達の為にも、誰もが負担の少ない方法を皆で考えたいと意見すると、次第に問題点や解決策が話し合われるようになる。


 バムは雨漏りの修理に向かっていた職人達の元に向かい、これから修理する建材の大きさを計って行く。

 口頭で説明するだけでも職人達は良く動き、揃える資材が明確になる。

「先に計っておくと、見習いに回せる仕事が増やせるから作業もすぐに済みそうだな」

 実際に見習いの職人が資材の大きさを揃えてくれる環境は今まで無かった事で、作業の効率が驚くほど良い。今も職人が修理を始める中で、見習い達は資材の調達に走って行った。

「出来れば資材の名前や数字は読み書き出来るようにならないと、親方から言われた資材の数や大きさを、揃える前に忘れそうだからね」

 見習いの一人が苦笑いして走り去る。忘れないうちに揃えるつもりのようだ。


 職人達は屋根の修理が始まれば、大人数は必要ないと次の修理に向かう。始めに模型を分解した職人は、ずっとバムの様子を観察するように見ていた。

「バムさんよ、この方法は面白いな。今までは俺が一人で何から何までやってたんだ。見習いは、見て覚えるものだと思ってたからな。これなら見習いに仕事を教えるのも出来そうだぜ」

 バムの方法を採り入れれば、建築関係の内容を伝えるのは難しくないと言う。

 読み書きは出来ないので、手順等を書き残せる者も必要にはなるが、バムに頼りきらなくても当面は充分に教えたい事があると挑戦的に笑って見せた。

「そうだな。バムの旦那は他の奴らにも色々と教えなきゃなんねえ。困った時には頼るからよ、ここは俺らに任せてくれや」

 職人達の蓄積された知識を伝えるなら、バムに頼りきらなくても出来るだろうと、意見は一致した。夕方までには必要な資材も揃い、明日の天気が晴れれば明日中に修理も終わるだろう。

 日暮れには頼もしい職人達の仕事ぶりに晴がましい気分でユタの家に戻った。


 シュラが珍しく昼間からずっと眠っていると、家族の皆が寝顔を見に行く。まるで子供のように気持ち良さそうに眠る姿を、誰も起こそうとはせず、具合が悪い様子も無いのでそっと眠らせておく。


 ムウが広場で話し合った内容をユタに伝え、バムも職人達とのやり取りを報告する。

「初めての仕事に難題は付き物なんだね。だけど、必要な事なら色々と試しながらやっていくと良いと思うよ。ずは、慌てない事だね」

 ユタも光の花から採取した蜜が、とても体に良い物だったと皆に伝えて、茶に入れられるように小瓶に移した蜜を皆に勧める。

 甘くて、茶の香りも蜜を入れた方が旨い。そして、朝早くから動いていた疲れがほどけて行くように気持ちいい。


 これから始まるトレザの学舎に、様々な思いを馳せて、ユタの家にいつも通りの夕食の準備がすすめられていた。

 




物語中の数字の概念は、10進法で行きます。

2進法とか、0の概念が無い計算とか、多分きっと色々な算術が世界中にあって、現在一般的なのが10進法だよね。


パラレルマイワールドなのに、みんな好き勝手に生きてくれてます。

でも、主要人物の皆が幸せになれたらいいな、と、思っているんだけどね。

どうなる事やら。


そうそう、前回シュラが蒔いた種は3つにしました。ごめんなさい。あと2つは、別の用途があるので一緒に埋めちゃいけなかったようです。


ここまで目を通していただいて、有難うございます。

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