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龍の居る世界     作者: 子萩丸
17/59

出来ること出来ないこと

 思った通りに話しが進みません。

 どうして、自分の考えた話しのはずなのに、登場人物は勝手な事を始めるのでしょう?


 日常生活は、微妙に充実し始めまして、もっと続きをバンバン公開して行きたいと思う反面、携帯の機種変で、このサイトにログイン出来ない冷や汗を体験しました。

 無事に帰って来られた私、おめでとう。

 そして、閑話が3本消失w


 便利な世の中になって、便利に置いて行かれて不自由を実感する今日この頃。


 今回も、楽しんでいただければ嬉しい限りです。






「どうしたんだアヤメ、その旨そうなカエルは」

 シュラがアヤメの頭上に居る生き物に手を延ばすとパチッと痛みが走り、咄嗟とっさに手を引く。同時にアヤメは生き物を抱き締めて

「チヌを食べちゃダメ」

「チヌ?アヤメはカエルに名前を付けたのか?」

「カエルじゃないよ、竜なんだからね」

「……龍か?」

 シュラの知る龍神は、どちらかと言えば蜥蜴とかげを長く大きくした印象で、プリプリと肉付きの良い腹や後ろ足は、カエルのようで旨そうだ。

「あのねシュラ、アーちゃんの竜なんだって。サラ様が言ってたんだよ」

「ええ、あの洞窟に行って来たの。沢山の小さな玉が光っていてね、とても綺麗だったわ」

「そうなんだ。中でも特別大きくて、アーちゃんが抱っこしたら、もっと光ったんだよ」

 リリとイイスが交互に興奮気味に話す。

 状況が少しだけ解るが、やはり後ろ足が旨そうなカエルに見えてならない。

 チヌは再びアヤメの頭上に落ち着いて、シュラを見上げて威厳を見せ付けるように羽を広げた。

 黄緑色の体から、真っ赤な二本の羽を持ち上げ、広げれば紫色から鮮やかな青が、空の色に似て透けているように見える。

 確かにカエルのように弱い生き物は補食される身を守る為に、自然と同系色で目立たないものが多い。目の前の生き物は、色合いが鮮やか過ぎて不自然だ。

「本当に龍なのか?」

 まだ納得しきれた訳では無いが、普通のカエルとは違う。


 まだ納得できて無さそうなシュラにイイスとリリが洞窟での出来事をシュラに伝え、リリが

「そういえば、ユタや他の子供達はまだ湖かしら?」

「ああ、トト兄さんと途中まで一緒だったが、学ぶ手順を相談する者達を集めて湖に戻った」

「私は飽きたので、此方こっちに来たぞ」

 ひょっこりとヒムロが現れて、シュラを見上げる。

学舎まなびやを造る相談をしている。ラージャはオサの医術とか、ムウの画力にも注目していたぞ。オサは大規模な交流が始まる前に、何から始めるべきかごちゃごちゃになっとるがの、リリは手伝いに行くか?」

「ヒムロ様、お知らせ下さって有り難うございます。私も文字や計算は覚えておきたいので、向かいますね。イイスはどうする?」

「私も行くよ、アーちゃんは?」

「あたしはいいや。勉強って嫌いだし」


 苦笑いして二人を見送っていると、シュラが走り出した先にヒムロが氷の塊を飛ばす。音も立てずに氷に飛び乗ったシュラより高い位置にヒムロが氷を出せば、舞いのように乗り移り、それを次々と繰り返す。

「相変わらずカッコいいなぁ。悔しいけど」

 小さく呟いたアヤメを気にせず続けるが、氷への着地に失敗したシュラが地面に飛び下りた。少しの時間だったが珍しくシュラの息が上がっている。

「ヒムロ様、これでは全く余裕が無いな。攻撃されても交わす以前に気付く余裕もない」

「そうか?上手く立ち回って見えたがのぅ」

  シュラはまっすぐ伸ばした左の膝に左手を付き、右手の甲であごの汗をぬぐう。

「何を始めたの?面白そうなんだけど」

 アヤメが話に入り込む。ニヤリと笑ったヒムロが

「セトラナダのラージャを倒す算段じゃ」

 それを聞いたアヤメの胸がチクリと痛む。

「仕方の無いことだとは思うけど、やっぱり嫌だな」

 今度はヒムロの表情がかげる。しかし、身間違えたかと思うほど一瞬の事で、再び胸を張って

「セトラナダのラージャは分身体なのじゃ。息の根を止めて来いとラージャからも言われておる」

「だけどさ、あたしはセトラナダのラージャ様から戴いた手紙の言葉に助けられたんだよ。だから、今度はあたしが助ける」

 アヤメの両目が潤んでいる。

「何か妙案があるのか?」

 ヒムロの質問に、何も思い付かないアヤメは首を左右に振った。同時に涙がこぼれる。

 アヤメの肩に手を乗せたシュラが

「思い付いた時でいい、方法は幾つあっても良いからな」

 呼吸を整えたシュラが走り出すと、ヒムロも氷を出して飛び始める。しかし、今度はすぐに着地した。

「どうしたのじゃ?」

「飛び移り損ねた。やはり難しい」

 アヤメが近付いて

「あのさ、ラージャ様を攻撃したい訳じゃないけど、あたしも練習したい」

「良いぞ」

 ヒムロの承諾に、アヤメはすぐに走り出す。ヒムロの出した氷が顔の高さだったので、すかさずかがむと

何故なぜ避けるのじゃ?」

「シュラじゃないから、こんなに高く飛び上がれないよ」

「そうなのか。アヤメはどのくらい飛べるのじゃ?」

 アヤメは助走をつけて飛び上がる。腰より高くは飛べるだろうか。

「わかったアヤメ、ゆくぞ」

 ヒムロの声で走れば腰の高さに出された氷に飛び乗る。次の氷に飛び移ろうとしたが、体制が崩れて着地する。

「うへぇ、難しいね」

 それでもアヤメは楽しそうだ。

「アヤメ、怪我は無いか?」

 シュラに聞かれるが、着地は上手く出来たので何ともない。

「うん、もっと練習したい」

 アヤメが走り出すのに合わせてヒムロも氷を出し、二つ目に飛び乗るのが上手く行かない。

 何度か繰り返していると、肩から落ちた。

「大丈夫か?」

 駆け寄るシュラに、

「このぐらいなら、我慢できるよ」

「少し休むといい」

 シュラはアヤメの痛めた肩と腕を動かして、どう痛むかアヤメに尋ねながら手首や肘に刺激を与える。

「お~、痛くないや」

 アヤメが感心して腕をぐるぐる回しながら、走って行くシュラを見る。

「ヒムロ様、アヤメの高さにして貰えるか?」

「承知」

 アヤメの腰ほどの高さに出た氷に軽々と飛び乗り、次々に出される氷に上手く飛び移る。始めに見たより動きが速いし余裕も見える。

 アヤメも体験して解った事だが、かなり難しい事をしている。同じようにやってみろと言われても無理だ。しかし、シュラから「こんなことも出来ないのか」と言われると思うと、悔しいし、いたたまれない。

 普段から無理難題を押し付けて、理由も言わずに突然全速力で走り出したり、アヤメが追い付けないと解ればいきなりかかえられる。

 そんな状態は腹に立つやら、悲しくなるやら。

 だが、こうしてじっくり見れば、同じように出来ないのも仕方ないと思うほど機敏で、運動能力の差を実感する。

 アヤメは口を開けたまま、頭上のチヌも同じような表情で、素早く動くシュラを見る。

「チヌ、ああやって飛びたいね」

「クルルル」

 同意するようにチヌが鳴くと、アヤメの衿元えりもとまで下りて、肩にしっかり捕まって羽を広げる。チヌが気合いを入れて広げた羽は、ぎこちなく飛んでいた時より大きくなった。正面から見るとチヌが背中に隠れて、まるでアヤメの背中に羽が生えたように見える。


「チヌは面白いことをするのだな」

 アヤメの姿に気付いたヒムロの集中力が途切れて、シュラは足場を失い、よろけながらも着地した。

「アヤメは、このチヌと一緒なら、空も自在に飛べるのか?」

 シュラも興味深そうにアヤメの後ろに回ってチヌがしがみつく姿に目を細める。羽を広げてしがみつく姿が、何とも必死で愛らしくも見えるし、やはり後ろ足が旨そうだ。

「うーん、まだまだ自由に飛ぶのは無理みたいだ。でもさ、なんかシュラみたいに出来そうな気がするんだよね」

 その場で跳び跳ねると、シュラの目の高さを越えて、チヌが羽ばたいてゆっくり下りる。しかし、何度か跳び跳ねていると、背中のチヌは疲れてしまったようで、羽をたたんでアヤメの頭上に戻ると眠ってしまった。

「まだ幼体だものな、そのうち色々と出来ることが増えるじゃろ」

「そのうちって、いつ頃?」

 キラキラした目でアヤメがヒムロを見る。

 今夜か、それとも次に目を覚ました時か、はたまた数日中なのか。

「全く解らんな。そもそも私の周りで竜が誕生したのは初めて見たし、羽を持つ者に知り合いもらぬしな」

 ヒムロは胸を張って、堂々と解らないといい放つ。

「解らないのに堂々としていられるのは何故だ?」

 シュラの質問にアヤメも頷く。正しい答えが解らない時は、少しばかり済まなそうに言うものだと思っていた。

「うん?私が知る真実を有りのままに伝えるのだから、当然じゃな。知らぬものは答えられぬ。その代わりどの様に育つのか、楽しみは多かろう」

 ヒムロはニコニコ笑って、眠っているチヌを撫でる。

 すやすやとした寝息はアヤメの心まで心地好く、不思議と不安がけていくようだ。

「まあ、アヤメに出来ることが増えるのは良いな。いざという時の心配も減るだろう」

 チヌを見ながら優しい表情でシュラが言う。しかし、普段は見せない表情なので、アヤメは少しばかり気味悪く感じる。

 そんなアヤメの『気』に気付いたヒムロが、からかうように

「シュラはトレザの外では意地悪なのか?」

 ニヤニヤと聞く。

「うーん、意地悪じゃないんだけどね。いっつもピリピリした感じなんだよね。突然ね、凄い早さで走り出したり」

 追い付けない速度になると、呆れた顔のシュラにかかえられるのも不服なのだと、身振り手振りを加えてアヤメが話す。

「多分、見知らぬ者に付けられていた時のことだろう。事を構える(戦う)よりは、余程よほど良い判断だと思っていたのだがな。不服そうなのは知っていた」

「だったら、安全な所まで行けた時に教えてくれても良かったんじゃん?」

「アヤメは正確な情報を出すまで質問を続けるだろう。解らぬ相手から身を隠しただけなのだから、知らぬ相手の事など始めから話さぬ方が楽なのだ」

 シュラの目が呆れた時と同じだ。

「む?それじゃ、あたしのせいか?」

「変に説明して、無駄に不安を煽りたくないだろう」

「クカカカッ。シュラも悪気は無かったようじゃ。だが対話が足りぬのもアヤメは不安だったんだろうて」

 追手から逃れる為に、突然の全力疾走だったのも、のんびり手解てほどきする時間が取れなかったのも今なら解るが、不服に思っていた感情までは払拭ふっしょくされない。

「うーん、あたしが聞きたがるのも悪かったのか。だけどさ、もっとあたしに出来ることを教えてくれても良かったよね」

 突然の無理難題、出来ないと知れば呆れ顔。理由ぐらいは教えて欲しかったとアヤメが膨れる。膨らんだアヤメの頬をシュラが指でつつくブヒッと音を立てて息が漏れ、アヤメは自分の立てた音に笑いだした。突然笑い出すのはいつもの事だ。笑いが収まる頃には怒っていた事も忘れるのがアヤメの良い所で、シュラもホッとする。

 大笑いしているアヤメがどれだけ動いても、チヌは寝たままアヤメの頭上から落ちる事は無い。

「それは重くないのか?」

 シュラがチヌを見ながら言うと

「重いどころか、頭の中までスッキリするみたいなんだよね」

 息苦しくなるほど笑ってから、両目に溜まった涙を手の甲で拭いながらアヤメが答える。

「あのさ、あたしも低い位置で練習できるかな」

「うむ。私も上手くいきそうに思ったぞ」

 まずはヒムロがアヤメの膝より低く氷を出すと、アヤメも楽に飛び乗り次の氷に飛び移る。向きを大きく変えずに、次の足が届きそうな高さで出せば、上手く幾つもの氷を飛び移れるようになった。

「どうやらアヤメが上手く行かなかったのは、私の責任じゃな。アヤメに合わせる訓練で、私も学べる事は多い」

 アヤメの息が上がって来ればシュラが、シュラが疲れて来ればアヤメが交代で氷の上を飛び回る。ずいぶんコツが掴めて来たようで、アヤメが楽しそうに交代すると

「そろそろ私も休みたいぞ」

 出した氷が小さく、アヤメが足を乗せる前に砕け散った。同時にヒムロはゴロリと大の字になる。

 シュラは少し休めばケロッと回復しているが、実はアヤメもずいぶん疲れて来ていた。

「うーん、なんかすっごく楽しかったね。あたしも、もっと上手くなれるかな」

 ヒムロの隣で同じ様に大の字に寝転がると、空が遠くまで広がって見えて気持ちいい。ほてった体には草のひんやりした感触が心地好く、チヌのたてる寝息に誘われるように、すうっと眠りに落ちた。

「アヤメの訓練とチヌの成長次第では、私の方が追い付けなくなりそうだな。なんだ、寝てるのか?」

 ヒムロが休憩すれば、シュラも出来ることが無い。アヤメの隣で腰を下ろして見れば、アヤメのひたいに顔を乗せたチヌも同じ顔をして眠っている。


 ふわふわと暖かい空間をアヤメは漂っていた。飛ぶ、というよりは泳ぐように、明るい方に向かって移動すると、出会った頃のシュラとアヤメの姿が見える。

 どうやらアヤメの記憶をチヌの意識が見ているようだ。そのチヌの意識を更にアヤメが見ている事に気付く。

「懐かしいな。シュラは何でも知っていて、何でも出来るんだ。凄い奴なんだよチヌ」

 クルクルと返事をするチヌを案内するように、記憶をさかのぼって行く。


「アヤメの知識は、驚く程なのだ。セトラナダの王政の歴史から貴族の派閥まで、よく知っていた。多分、大人でも舌を巻く知識だろうな」

 シュラが得意そうにアヤメの知識を称賛する。

「アヤメの方がシュラより歳上だものな」

 シュラは少し苦い顔になって

「全く、図体ずうたいばかりでかくなった、ただの子供だと思い知らされる」

「ふむ。シュラはアヤメに対して厳しいのか?」

「厳しくしたつもりは無いぞ」

「アヤメはシュラがとても厳しいと言ってるがの」

何故なぜだ?」

 アヤメはシュラの知らないセトラナダの王政を知っていた。他にも儀式の作法やセトラナダに居た龍神の歴史、想像も付かない知識に尊敬の思いがあるくらいだ。

 だが、逆に驚く程に当たり前の事を知らなかった。自分で着替える事すら出来ず、出会った頃は体力も無かった。

「アヤメが何を知っていて、何が解らないのか、何が出来ないのかは、見当も付かない」

「そのせいではないか?」

「どのせい?」

「案外とな、相手を買い被っているのだろうよ。私自身も知らぬ事は多い。しかし、私に期待する者が勝手に失望する事もある」

「買い被って、失望するのか?」

「例えば、アヤメが他国の言語を覚えるのに時間がかかるじゃろ」

「言語の違いは、少し周りの話しを聞いていれば理解できるものではないのか?」

「多分、ヌッタの得意分野なんじゃろうな。私もセトラナダの言葉は知らぬし、覚えるのに時間が必要じゃ。ホレ、文字や計算のようにな」

 それでもヒムロは、あっという間に文字を覚えたし、計算も正確で早い。

「アヤメの方が歳上でも、得意分野が違うって事じゃよ」

「何となく、理解出来たような気がする」

 大の字ですやすや眠っていたアヤメが大きく伸びをする。そんなに眠ってなかったが、ずいぶんスッキリした顔になっている。

「ああヒムロ様だ。それにシュラ、久しぶり。でかくなったね」

 寝転がったままで左右を確認すると、妙な事を口走る。

「寝ぼけているのか?」

 心配そうに顔を近付けるシュラに

「うーん?なんかね、何年も会ってなかったような気がするんだよ」

 起き上がったアヤメはチヌを撫でながら

「あたしがセトラナダで暮らしていた頃を、チヌと見てきたんだ」

「ほう。何か有益な情報は得られたのか?」

「うん?あー、あたし、眠る前に何をやってたんだっけ」

 首を左右に傾けながら、まだボンヤリした顔で、ヒムロの質問の意味にたどり着けずにいるようだ。

「ヒムロ様の氷片を飛び渡る練習をしていたぞ。上手いものだった」

 ポンと手を打ち

「そうだ、思い出した。でも完璧野郎に誉められると気味が悪いな。何か企んでない?チヌは食べちゃダメだからね」

 眠る前の事を思い出したと顔がほころぶが、何故かシュラに頬をつねられる。

「いふぁい(痛い)、なにふんふぁ(何すんだ)」

「完璧野郎って誰だよ」

 つねる手を緩めて、ムッとアヤメを見下ろす。

「シュラは何をやっても完璧で、あたしが出来ないとバカにするじゃん」

 頬をさすりながらアヤメがにらみ返す。

 旅をしている時は、いつだってシュラが知らない言葉を教えてくれる。薬の作り方だって、シュラを手伝いながら少しは覚えたものの、売りに行って大人とやり取りするのはシュラだ。買い物もシュラに任せているし、宿屋の支払いもシュラがやってくれる。しかも、アヤメは無駄遣いするからとお金の管理もしてくれているのだ。

「バカにした事など無いぞ」

 驚いた顔で目をパッチリ開いてアヤメを見下ろす。

「アヤメの方が物知りだろう?城で育った環境を考えれば、知識は遥かに豊富だ」

 確かに、たった今セトラナダの記憶をたどったばかりだ。あやふやだった記憶が明確になり、シュラに言われた通りになった。

「だけどさ、こんな事も出来ないのかってバカにするじゃんよ」

 ムスッとした声で言い返す。

「はぁ。アヤメをバカにしていた訳じゃない。言い方が悪かった。今まで気付かなくて済まなかった」

 アヤメは歳上で、物知りだろうと思い込んだ前提で考えていたから、普通に言っていた事に気付いて素直に謝る。

「アヤメ、シュラはこんななりをしとるが、まだまだ子供じゃ」

 アヤメは口を開けてシュラとヒムロを見比べる。

「そう言えば、シュラよりあたしの方が歳上だって、トレザに来てから知った」

 しかし、見た目は大人だ。出会った頃は少し歳上に思っていた。だが旅を続けていると、シュラばかり先に大人になって、置いて行かれているような不安と、同じ様に早く大人になりたいと焦る気持ちが、ずっと付きまとっていた。見た目と同じ様に、シュラは大人なんだと思い込んで居たのだから。

「互いに相手を買い被っているのだろうよ」

 ヒムロの言葉に

「あたしも早く大人になりたいんだけどな」

 やはり、見た目が大人の姿をしたシュラには自然に頼るだろう。何となく自分自身に頼って欲しいと思いはしたものの、やはりまだ子供の見た目しかないアヤメに出来ることは少ないように思う。

 何となく、守ってやらなければとよぎった気持ちに、釣り合わないアヤメ自身の成長がもどかしい。

「すぐに体が育たんのと同じで、心の切り替えも簡単にはいかんじゃろ、気に病むな。ところでの、ケーヤクとやらは何か有益な情報が得られたかの?」

 アヤメが悪戯いたずらっぽく笑うと

「契約の陣と使役の陣は違うんだ。良く似てるけどね。書き直してラージャ様と契約し直せば良いんだから、簡単だよね」

「でかしたアヤメ。チヌも頑張ったのう」

 余程よほど嬉しかったのか、ヒムロが小躍こおどりする。

 何もかも、平和な解決になりそうだ。

「その契約の陣は、どのくらいの大きさだ?」

 シュラが尋ねる。

「あのね、ここから、ここまで」

 アヤメが歩き始めに印を付けて、十八歩先で立ち止まり、得意気に両手を上げる。

「随分とでかいな。書き直すには、どうしたら良いだろうな」

「うむ、コッソリ書き直すのはどうじゃ?」

「うーん、王の玉座から丸見えだからね、コッソリ書き直すのは難しいかも」

 両手を上げたままで難しい顔になったアヤメの頭上では、チヌが大きく欠伸あくびをすると、ヒムロを見つめてから再び眠る。

「チヌは私に何か出来ると言いたいようじゃ。シュラ、何が出来るかのぅ」

 ヒムロは考える事をシュラに丸投げする。

 そもそもケーヤクの意味も良く解らない。後でアヤメに教わる事になるが、人の知識にひたすら感心するばかりになった。



 取り敢えず、大きく前進できた事で再び氷欠片を乗りこなす練習に入る。ヒムロは少しずつ難易度を上げるように、しかし二人の技量に合わせる事を考えながら。

 疲れて来たら、陣の書き直しを話し合う。

 なかなか陣を書き直しに行く良い方法が浮かばないながらも、陽が傾く頃には氷片の移動がかなり上達していた。







 お疲れ様でした。読みきっていただいて、有り難うございます。

 チヌは煮ても焼いても旨そうなんですが、刺身はオススメ出来ません。羽は素揚げでパリパリとw

 いや、食べたらアヤメが怒るでしょう。



 自宅から徒歩10分ぐらいの所に鳥居が有りまして、本当に何となく散歩にふらっと立ち寄った所、石碑の文字に何と私の名前が刻まれてました。その下には『龍』の文字。

 昔の出来事を綴った漢文で、ろくに内容は読めなかったのですが、シュラを始め登場人物の皆さんから凄みのある笑顔で取り囲まれた錯覚に入りましたね。

 それ、さっさとセトラナダに行こうか。


 私はずっと『普通』に生きる事を目標にしていましたが、そもそも『普通』って何だろう?

 変わった事を言ってはいけない、やってはいけない。

 何が変わった事なんだろう?

 個性的で良いんじゃない?

 やっと歩き始めた『自分らしく』ですが、何故か全力疾走したくて、すぐに疲労困憊です。

 だけどね、楽しいよ。


 どうぞ、あなたを見守る『神々』と共に、幸多き時間が流れる事を祈ります。



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