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龍の居る世界     作者: 子萩丸
10/59

追憶 (中編)

 まさかの中編に為りました。

 来週こそは、後編です。多分。



 貴重な時間を読書にいていただき、有難うございます

    (*^人^*)



 シュラの記憶を見るのは反対していたヒムロも、セトラナダの王との繋がりは危惧きぐしていた。

「ラ-ジャ、もしもシュラが今の王にそそのかされとるならば、トレザに置いて行くのはどうじゃ?」

 ヒムロの言葉に目を瞬きながら

「そうか。アヤメだけを連れて行くならヘルラの配下でも始末する事は無いな」

 今の王政に関わりが有るなら、ユタの所に置いて行けば良いと思えば安心して記憶を見られる。

 何故なぜ安心したのだろう、タタジクを水没させる事もいとわなかったのに、たった一人の命に対して重さを感じるとは。

 ほんの数日でトレザの住人を含む人々の存在がラ-ジャの中で大きくなっていたようだ。感情の変化にラ-ジャ自身が驚いていた。


 

 セトラナダにラーの分身体が留まる事になった情景を思い出す。

「ラーよ儀式の話しで思い付いたのだがな」

「儀式の話しとは?」

 ラーが聞き返す。

「朝陽の時に儀式を行うと言ったであろうよ」

 そうだった。クウの助言で洞窟内が輝き、美しく光ったのだ。太陽の持つ力は命を育てる。

「セトラナダを守護する契約を私と代わるか、セトラナダをラーが私から奪い取り、サラをセトラナダの土地神にするのはどうだろう。それでサラは土地神として永らえるのでは無いかな」

 クウから奪い取る事になれば、どちらかが滅びる事になる。

「クウと争う気は無いぞ。だからサラがセトラナダの土地神になる事は無いな。そもそもクウに勝てるとは思わん」

 クウもコロコロ笑いながら、たまには大暴れするのも楽しかろう、若いラーには負けるつもりも無いと言う。苦笑いしたラーが続ける

「しかも私がトレザを離れセトラナダと契約などしたら、サラと会えなくなるではないか。それではサラの無事が解らぬであろう」

 それに、クウはセトラナダが好きで留まっていると聞いたばかりだ。サラの為とは言え、クウの安住の地を奪うつもりもない。

 コロコロと笑いながらクウが言う

「セトラナダは好きだよ。だがラーに会って他の地を見たくなったのだ。契約のせいで自由に他の地におもむく事が出来ぬのでな。ラーは分身体を本体のように出来るか?」

 すぐには無理だ、本体としての力が完全に二分してしまう。

 ならば分身体を強化して、本体はそのままトレザに、分身体だけが契約するのだ。

 そこでクウから提案されたのが、セトラナダの民衆に気取けどられぬように願いを拾い、達成までの援助をしてはどうかと言うものだ。人々から得られる達成の『気』は龍の命も潤う。ラーの力も上がるのではないかと言う。

 クウが行う仕事としては、水脈が淀むことなく水源を確保出来るように『気』を送るのが主で、水源が枯れる前に雨を降らせたり、水源から遠い地には度々雨を呼んだりするくらいだ。

 クウは久しくラーと話した事で、他の龍にも会いたくなったのだ。他の土地を好きなように見て回りたいと思いがつのり始めていた。

 クウには契約による制限があり、セトラナダの民衆に直接会う事も力を貸す事も無い。ラーは決まりごとに触らぬ程度に民衆から『気』を集めれば良いのではないかと言われ、クウの提案を受け入れる事にした。


 セトラナダでの仕事や今後をお互いに話し合っていると、王から呼び出しの鐘が鳴る。

「では行こうか、ラー」

 クウが立ち上がると足元まである服は大きく裾が広がり、沢山の布が使われた女性らしい衣装が目に入る。部屋中に広がっていた長い髪も綺麗にまとめ、ゆっくりと歩き出す。

 扉は開かれていて、壁沿いに人々がズラリと並びこうべを下げている。

 ラーが来た時は誰も居ないのかと感じていたが、人の多さに驚きながらクウを見習って黙って案内されるままに付いて歩く。


 通された広間には長いテーブルに豪華な食事が用意されていて、王の席は広い辺の中央で、前には給仕される前の食器が幾つも置かれている。

 クウが案内された席には綺麗なグラスと花が飾られていて、ラーが案内された席にもグラスと幾つか食器が置かれていた。

「お食事はなさいますか?」

席に案内した者から聞かれたが

「いや、食事はせぬ」

と返事をすれば、すぐに食器が片付けられて代わりに花を飾る。生きた花のささやかな『気』にラーの緊張がやわらいだ。

 王が席に着くとクウとラーのグラスに赤い液体が注がれ、王のグラスにも注がれるとクウがグラスを片手に立ち上がる。ラーも真似して同じように立つ。

「お招き感謝する。王の健康を祈り、乾杯」

 ラーはクウと同じようにグラスを王に向けて、クウが着席すると、座る。

「今日は龍神の好きな酒を準備した。記録は普段のように行うが、客もるのだ、無礼講としよう」

 王の言う龍神はクウの事で、客とはラーの事だ。

 クウがグラスに口を付けるのを見て、ラーもグラスを口に運ぶ。芳醇な香りは果物を凝縮させたような甘さを連想させる。クウはグラスを空にして、次を注がれている。ラーも同じように大きく一口飲み込んだ。

「ぐふっ」

 喉が焼けるように熱くなり、味も解らずせる

「酒を飲むのは初めてか」

 コロコロ笑うクウと対照的に、王はオロオロ立ち上がる。

「王よ、心配せずとも良いよ。ラーはまだ若い龍だから、酒は初めてだったようだ」

 またクウはグラスを空にしていた。

「龍神には名が有ったのか?」

「おやおや、他に龍が居ないと名も忘れられてしまうのだな」

 コロコロ笑いながら、記録している者達に

「私はクウだよ。忘れずに記録しておいてくれ」

と直接話し掛ける。王が無礼講と言ったばかりではないか、固くなるなと言いながら、次のグラスも空にしていた。

 クウの笑い声で広間全体が明るくなる。

「若いと言ったが、ラーは何年ぐらい生きているのか、聞いても良いか?」

 王はラーに向かって話すがクウが答える

「まだ千年にもなって無いよな。セトラナダが王政を築いてから誕生したのだから」

 記録されているなら対話はクウに任せた方が良いだろう。ラーは少しだけ酒を口に含んでみた。喉が熱くなるのは同じだが、芳醇な香りが鼻から抜ける。もう少し口に含んでみれば、喉が熱くなるのも心地好い。

「お気に召されたか」

 王がラーの様子を見て声をかけた。

「龍神……クウも好まれていてな、大変たいへん饒舌じょうぜつになるのだ」

 王はクウの名を呼び慣れていないようだが、良くしゃべってくれると記録も多く残せるから助かるのだと言う。

「良い飲み物だな」

 ラーは、それだけ答えてトレザにもあるだろうか?とチビチビと舐めるように酒に夢中になっている。そして王との対話はクウが自然にこなしてくれる。

 ラーも対話に入っているように見えるが、実は相づちを打っているだけで、それでいて不自然に見えない応対をこなすクウを改めて尊敬した。

 クウが酒樽を二つ空にした所でお開きとなる。ラーは一杯目のグラスに残った酒を一気に流し込むが、喉の先まで熱くなり悶絶もんぜつする。

 コロコロと笑うクウと一緒に王へ挨拶をして、クウの城の扉の前まで来ると、案内の者達が台車に乗せてきた酒樽をクウがヒョイと持ち上げ

「楽しかったよ」

 案内の者達に声を掛け、ラーと扉を越えれば静かに扉が閉まり、かんぬきをかける音がした。

 酒樽は大人が三人は入れそうな大きさだ。クウは酒樽を地下の厨房に置いてくると、灯りの無い階段を下りて行った。


 クウが広間に戻るとラーは蜥蜴トカゲ程の大きさの龍になっている。

「ラーは器用だね。これほど小さければ誰も気付くまいよ」

 コロコロ笑うクウに見送られて、城の窓から民家へ向かう。

 サラに連れられてトレザの民を助けた記憶が役に立つ。ほんの些細な願いでも、人は叶う度に奮い起つ程の『気』を発する事がある。サラに言われてなければ見落としそうな些細な願いは、誰でも持っているものだ。思っていた以上に簡単に『気』を集める事が出来そうだ。

 龍の感覚で人々の願いを探すとなると、それこそ反乱の元になりそうな願いばかりだろうし、探すだけでも容易よういには行かない。

 クウに報告したり、人々の些細な願いを叶えながら数日が経つ。

 ずいぶんラーの分身体が力を付けてきたようだ。



 ラ-ジャは意を決してシュラの額にあてた手から『気』を流し、シュラの五年前にさかのぼる。

「たった五年だぞ?」

 ヒムロは以前トレザに滞在していたシュラを良く覚えているが、ラ-ジャは洞窟を出なかったし、そもそも人に興味が無かった。あまりにも幼いシュラに驚いたのは当然だろう。

 まだ幼いシュラが本当の両親と生活していた姿が見える。シュラの両親も二人の兄も、髪の色は濃い青だ。

 幼いせいか記憶は少し朧気おぼろげだが、シュラは父親より母親に似ている。目鼻立ちの整った美しい女性だ。

 近くで生活する同じヌッタの民も、髪の色は濃い青が殆どで、髪が淡い水色のシュラはヌッタの中でも珍しい。

 民族がまとまって移動しながら生活している様子は解るが、どうして定住しないのかは幼少期の記憶だと解らない。ある夜の襲撃で凡そ理解した。シュラが本当の家族とはぐれたきっかけになる襲撃だった。

「ヌッタは王族や貴族の間で高値で取引されるからな。この様に隠れ、生き延びていたのか」

 記憶の散策を一度打ち切り、ラ-ジャは大きく息を吐く。

 ヒムロは目を丸くして、トレザ以外の地には危険な考えを持つ者が多いと知る。

 サラとラ-ジャは、たった五年で大人になったシュラの成長に、苦しい息を呑み込んだ。話しで聞いたものと、見たものでは実感が違う。

 ラ-ジャはサラがすぐに大人になったと思っていたが、シュラの早さはそれ以上だ。

 五年前のアヤメより少し幼く見えたシュラに動揺し、記憶の先を見る前にサラが消えずに済んだ経緯いきさつをヒムロとサラにも解るように伝える事にした。


 サラが消えそうなほど土地神としての力を無くしたトレザは、土砂崩れの影響で湖の水が減り始める。洞窟から繋がる地下水脈に硬く大きな岩が落ちてきた事で塞がっていたのだ。

 サラが人だった頃に川は枯れて、すでに川のあった所も解らない。湖が枯れる事になれば、井戸水だけではトレザの民が乾きで苦しむのは時間の問題だ。森の木々も殆ど土砂に埋まってしまった。


 セトラナダに居るラーの分身体が徐々に本体と遜色の無い状態になる。しかしクウから見れば、相変わらず顔色は悪いままだ。

「ここに残る私は、もうサラには会えないのだな。だが、故郷ふるさとでもあるセトラナダの役にたてるのは喜ばしい」

 ラーが言えばクウは、セトラナダを出られるのが楽しみだと笑う。

「百年ぐらいでどうだろう?」

 クウが何を百年と言ったのか解らずに

「百年?」ラーが聞き返す

「ラーの契約だよ。私だって自由に外を見られるのは楽しみだが、いずれセトラナダに戻りたいのだよ。旨い酒があるからな。なに、百年も待たずにサラをとどめる力も付けられるだろうて」

 コロコロと笑いながら、セトラナダの契約を交代する儀式までの段取りを手際よく始める。セトラナダの王は龍の血を濃く受け継いだ者なので、二百年位は生きると言う。以前は百年以上続けて一人の王が治める事も多かった、最近は早い交代が流行っているようだと、歴代の王の名前や業績を教えてくれた。ここ数世代には無いが、領地拡大を求めて戦争を好んだ王も居た。クウが同行するだけで戦争にもならずに制圧下に落ち着いたようだ。本当は暴れたかったと苦笑いしながら説明する。

 王や貴族にはクウが老齢なので若い龍神に交代すると伝達した。そしてラーの契約は百年で破棄される事。


 契約には王が立ち合う。そして硝子ガラスの付近には貴族が並び、早い時間だというのに手摺てすりから見下ろせば噴水の周りには民衆がひしめき合っている。

 空が徐々に白み始めた。

 朝陽の当たるバルコニーで陣の中央に立つのはクウ。引きずるような長い黒髪は綺麗にまとめられ、腰でくびれた裾の広い衣装は、セトラナダの紋章をすっかり覆い隠す。朝陽に照らされた髪が不思議な輝きで幻想的な時間を思わせた。

「龍神クウよ。長い間、大儀であった」

 王の言葉に陣がクウを取り巻くように光ながら散って行った。

「済まないなラー、私が自由になりたいばかりに、セトラナダに拘束する事になってしまう」

 ラーの本体が別にる事はクウしか知らない。言う必要は無いと言われても、クウに沢山の事を背負わせてしまって申し訳なさが先に出る。クウにうながされ、ラーが陣の中央に立つ。セトラナダの紋章の上だ。

 青い衣装で小さくまとめられた橙色に近い金の髪、セトラナダの民は龍神が黒い衣装の黒龍しか見た事が無かったので、ざわめきの後に歓声に変わっていく。民の期待が歓声からも充分に感じられた。

「では、これから百年。龍神ラーにセトラナダの守護を願う。宜しく頼むぞ」

 王の言葉で陣の中央、ラーの足下あしもとの紋章が複雑に輝くと周りの絵柄が光ながら浮かび上がり、ラーを縛り付けるように取り囲む。その場で立っているだけでも苦しい程の力に取り囲まれて、本体との情報のやり取りを遮断した。光はラーの体に入り込むように、一回りしてから徐々に消えて行った。

 人の造り出したものを甘く考えていたようだ。想像以上の効力だが百年ぐらいなら耐えられる。クウが「拘束」と言った意味が始めて解った。


 しかし、百年きりの契約が気に入らない貴族達は、契約に王の命に従う事を入れろと言う。

 人の決まりごとが良く解らないラーは

「構わない」

 陣の中央で立ったまま答えると、貴族の一人が陣に向かって何か呟く。

 先程とは違う毒々しい光がラーを縛り付ける。先の苦しさと違い、光の糸で切り刻まれるような痛みに驚くが、かろうじて意識を保ち続けた。

 短い時間で契約の儀式は終わった。

 まだ王や貴族には儀式の続きがあるようだが、ラーはクウと城に戻り休む事にした。実は立っているのも辛いのだ。

「契約の陣に縛られると、ちと苦しいが、大丈夫か?」

 クウがあまり使う事の無かった寝台を目で指す。ラーは寝台で大の字になった。

 暫くすると儀式の時の苦しさや痛みもある程度は落ち着いて

「ずっと続くのかと不安になったぞ」

 大きく息を吐いて、やっと楽になってきたと笑う。実は百年ずっと耐えるのかと思ったと話すと、クウもコロコロ笑い出す。人の前では髪を結い上げるのだが、部屋に戻れば誰も踏まないからと、髪をほどいた。

「さすがに、そんなに苦しいなら任せるとは言わんよ」

 始めの陣は、一気にセトラナダ全体の人々や、全ての生き物の『気』が流れ込んで来た為だと教えられる。しかし、次の陣は断って良かったと苦笑いになった。

「本体との連絡もっていたのだろ?もう大丈夫だよ」

 ラーは本体に今の状態もあまり知られたく無い。人が作り出した契約の偉力に負けたようで、少しばかり自尊心がえているのだ。

「トレザの本体を見せてくれないか」 

 クウが大の字で寝台に横になるラーの隣に腰を下ろした。

 至近距離で見下ろされると、萎えた自尊心を見透かされているようで恥ずかしい。仕方ないので本体に今の状態を伝える事にした。

 クウは微笑んだまま髪をかきあげてラーのひたいに額をそっと重ねる。


 トレザではサラが氷柱の中でゆっくり目を開いた。

 分身体から届いた『気』は本体も勢い良く力を取り戻し、同時にクウと分身体のやり取りにラー本体は苦笑いする。本体も同じような状態ならば、きっと連絡手段は断ち切るからだ。

「サラは消えずに済んだのだな」

 本体と分身体が同時に呟くと、青白かったラーの顔色がみるみる良くなっていく。

「ラーも心を亡くさずに済んだのだね」

 クウは上体を起こして顔色の良くなったラーを近くで良く見る。眩しいものを見るように微笑んで、

「本当に、心を亡くさずに良かった。」

 クウは長寿なので、心を亡くした龍も見た事がある。命よりも大切なものを失ったのだ。ある者は何者の問い掛けにも応じず、虚ろな目をしたまま灰になった。別の者は失くしたものを取り戻そうと大暴れしたと言う。誰の声も届かぬ虚しさは、もう見たくない。ラーがこのまま心を亡くしたら、クウもかなり落ち込んだだろうし、他の龍にも会えない虚しさに耐えられそうに無かった。

「ラーは本体ぐらい頼るといいよ。私だって頼られるのは嬉しい」

 やはりクウには見透かされていたようだ。トレザの本体と同時に苦笑いする。


 クウ自身、普段はこの広間で過ごしているが、城は広く別に寝室もあると言う。他にも浴室や厨房、客間も用意されているのだが、殆ど使った事が無いし、確認していない部屋も多いと言う。

「ラーはこのままこの城を使うと良いよ」

 クウは広い城の中でもあまり私物は無い。セトラナダと契約したてから奉納された剣やよろいたて、それに幾つもの黒い衣装は、必要無いと笑う。

「セトラナダの紋章が入った鎧は私の寸法に合わせてあるのだよ。ラーには着られぬな」

 残して行く物は好きに使うと良いよと、まだ寝台から動けないラーに話しながら、厨房に行く。酒樽を持って戻ると

「サラ復活の祝いだよ」

 グラスに少しだけ酒を注いでラーに近付き、まだ起き上がれない様子に

「口移しするか?」

 悪戯っぽく笑うと、苦笑いしたラーが体を起こす

「乾杯」

 クウはラーの隣に腰を下ろして一口で飲み干すが、ラーは舐めるように酒を楽しむ。

 クウは次の酒を注いでから、酒樽を見て悩み始めた。持って行きたいが、どうにも邪魔な大きさで困ると。

何時いつでも飲みに来れば良いではないか」

 ラーが寝台から声を掛ければ

「ラーは賢いな。そうさせて貰うよ」

 クウはグラスに並々と注いで酒樽だけを戻しに行く。

 王が交代する時は、次王の人となりを良く見るように。ラーの契約中なら一度か二度は王が交代するだろう。契約の陣に関係する時や、機密事項とされる内用は本体との連絡は、すぐにしないように。人の作り出した陣や機密の話しの間は通信している先が見付かる事もあるようだ、サラとトレザの為に隠すように。あと、人に全てを話す必要は無いと、普段以上にゆっくり酒を飲みながら注意事項を伝えてくれた。

「解放されたので、直接トレザを見て来よう。酒が飲みたくなったら遊びに来るよ」

 動きやすそうな黒い服に着替えが済んでいて、寝台から起き上がったラーにそう言うと、小さな押し花を一つ大事そうにふところにしまって窓から飛び立った。

 黒い龍が城の上空を旋回し、セトラナダの国全体をゆっくり周り、やがてトレザのある山に向かった。

 クウは他にも龍が居ないか探しながら空から見ているうちにトレザに着いてしまった。トレザに着く迄は、龍の『気』も見付ける事は無かった。

 トレザでず気になっていた水脈を確認しようと、黒髪を大きく地面に這わせて地面に突き刺さった大きな岩盤の前に立つ。

「このようになっても民は気付かぬものなのか」

 岩盤は地下の水脈を塞ぐように突き刺さっているのだ。クウは岩を片手で動かし、地下水脈を塞いでいる部分を抜くように外してみる。一度潰れた水脈は、少しだけ水を流し始めた。

 クウは洞窟を探してラー本体の『気』を探る。

 森だった所は土砂で埋まり、動物はおろか植物も無い。

 ラーの『気』がハッキリしてくると、洞窟が見付かった。

 奥の氷柱では、サラが微笑んでクウを招き入れるように見つめる。クウから見ても、サラは美しい。

「皮肉なものだな、民は滅びる手前でも気付かぬと言うのに。何故なぜに信仰の心を失くしたのか」

 セトラナダから出る事が無かったクウには、信仰が無い事が不思議だし、不自然に思えてならない。

「良いではないか、トレザの民にはまだ被害が無かったであろう。信仰が無くとも、民の無事はサラが喜ぶ」

 サラが喜べば良いと言い切るラーは、クウから見ると人に対してあまり興味が無いようだ。

「トレザのラーは本体のせいか、セトラナダのラーより顔色が良いな」

 サラが氷柱の中で気持ち良さそうに大きく伸びをした。そして踊るように首を揺らし始めると、洞窟の外から凄い音がしてくる。クウが洞窟を出て見れば、土砂に埋もれた木々がサラの動きに合わせるように土砂を押し退けて青々と葉を揺らし、ザンザンと音を立てて土砂をはねけるように伸び上がる。


 陽が落ちても森の木々は踊り続け、生き物達も動き始める。地形は大きく変わったようだが、森が息を吹き替えした。サラの土地神としての力が戻ったのだ。

 地下水脈も木々の根が張り、滞りなく流れ出す。


 クウは洞窟でサラとの対話を楽しむ。龍でもなく人を経験してながら人でもないサラは、実に興味深い。

「人が神に成り、人々の信仰が薄れても土地に生きる人を想う『気』は、ラーでなくても気に入るよ」

 サラは、最後に望んだのはトレザの民では無いと笑う。その視線には光る石がある。七色に輝く石は、サラが目覚めた時からキラキラと音を立てて大きくなっている。もう大人が隠れられる程の大きさになっていた。クウはこの石が何か良く知っていて、嬉しそうに撫でる。サラもおよその予想は着いているようだ。


 ラーの本体とクウ、サラで談笑している間に洞窟には朝陽が射し込んで来た。

「実際に見ると心に染みる光景だよ」

 乱反射して七色に輝く氷柱に囲まれて、クウはうっとりして見ていた。

 クウの言葉に反応するように、大きくなっていた石の表面がパリパリと割れる。

 丸く光るれは、七色の光をまといスルリと動き出しサラの氷柱を囲むように寄り添い、ラーに向かって行けば、すり寄るように赤い目を細めている。

「新たな龍の誕生だよ」

 反射する光が無くなれば、真っ白い龍の子供だと解る。人の大人より大きく、まだつのも無いので蛇のようだが、間違いなく龍の子供だ。


「私の誕生だ」

 ラーの記憶を見ている途中だが、両手を上げてヒムロが嬉しそうに立ち上がる。

 ラ-もサラを失う苦しみという苦痛から解放され、白い蛇を抱き締めた。

 クウによれば、サラの強い願いが産み出し、ラーの『気』で育ったのでラーとサラの子供だとも言う。

 素晴らしい時間に立ち会えたと黒いうろこをキラキラさせながら、他の龍を探しに行くとクウはトレザを後にした。クウは龍の誕生にも立ち会えた事でセトラナダの外をもっと知りたくなっていた。


 ラ-ジャが再びシュラの記憶を見ようとすると

「トレザに居た頃は、他の土地の事は知らなかったぞ」

 ヒムロが結界で遊べないのでオサの様子を覗き見ていたら、幼少期のシュラが運び込まれて一月ひとつきほど息子として滞在していた事を、覚えている限り詳細しょうさいに語る。

「あの頃結界に居たのはヌッタの民族よ」

 サラの言葉にラ-ジャが結界を監視していた時の記憶を皆に伝える。さっきシュラの記憶で見たばかりの両親が二人の兄と暮らしているのが解る。

「ああ、当時は人々にあまり興味が無かったので気付かなかったのだな」

「だけどオサは結界に入れたよな。薬草を探していた時に泣いてたぞ」

 シュラも何度も森に入っている。

「こんなに近くですれ違うなんて、可哀想なことをしてしまったわ」

 ユタが結界に入り込んでから、すぐに強固な結界にしたのだ。それでもヌッタの民は入った。

「まあ、これでシュラをトレザにとどめる理由も増えたな」

 それでもアヤメと出会う前から、どんな人物と接触したのかは知っておきたい。

 ユタと別れたシュラは更に山頂を目指し、雪や氷ばかりの中を進む事になった。遠くから白く見えていたのは雪だったのだ。薄着なので動いていないと体温はどんどん下がる。本能的に動き続けて、二日ほどで山頂辺りに着いた。来た方向を見下ろせば、トレザの位置はとても解りにくい。これから進む方向を見下ろして、緑の多い方角に滑り降りるように下山する。雪も無くなり、気温も低くなくなると、何日も眠らずに動き続けた反動で睡魔に襲われた。

 とても歩きやすくなっている広い道をフラフラ歩いていると、馬車が通りかかった。シュラの隣で止まる。

「この辺りに民家は無いけど、一人なの?」

 少し警戒して首を左右に振る。後ろから来た荷馬車は勢い良く追い越して行った。

「誰か一緒?」

 馬車の窓から顔を見せる女性は、リリのようにシュラを心配している表情だ。よく考えてから、また首を左右に振った。女性はフフッと笑って

「私達はこの先の宿屋に泊まるの。近くには民家もあるから、あなたが降りたい所で下ろしてあげるわ」

 馬車に同乗させてくれた。シュラは動き出す馬車の振動に誘われるように深い眠りに落ちた。女性と同乗していた男性が眠ったシュラの脈と呼吸を確認して

「少し体温が低い。余程よほど疲れていたんだろう、眠っているだけだよ」

 この若い夫婦は男性が医師として新しい土地で開業するために下見に出向く途中だ。まだ幼い子供がフラフラ歩いていたら、放っておける訳が無い。事情も聞けずに眠り込んでしまった子供に暖かい上着をかけ、開業準備の話しをしているうちに宿屋に着いた。眠り続けるシュラを起こさないように男性が抱き上げ、女性と一緒に宿泊の手続きをする。宿屋の主人が目を細めてシュラを見ながら

「随分と大きなお子さんですな」

 明らかに髪の色も違うし夫婦はまだ若い。

「ここに向かう途中でフラフラ歩いていたのでね、この子は行き先を聞く前に眠ってしまったんだ」

 宿屋の主人は若い夫婦を部屋に案内しながら顔の広い知人に連絡してみると言って、子供を預かろうとしてみたが

「目覚めたら少し話しを聞きたいの」

 女性がシュラを部屋まで連れて行った。

 主人は下働きの者に命じて、セトラナダの貴族に通じている商人の元に手紙を持たせた。

 その後も主人は夫婦の部屋に直接食事を運び子供の様子を見張る。食堂で他の客に子供を見られれば横取りされる可能性は高い。

「特別な待遇をされてもお金を払えないわ」

 女性が困って断ろうとするが主人は

「知人が探している子供に違いないので、助けて頂いたお礼です。追加料金などりません」

 愛想良く部屋に出入りする。夫婦が食事を始めると子供が目を覚ます。

「この子の分も食事をお持ちしますね」

 主人はすぐに子供用の食事を持って戻り、部屋に残ってお気になさらずと愛想笑いをしながら待機する。

 シュラは女性から声を掛けられた所まで覚えていたが、男性に少し怯えるような表情になる

「随分と疲れていたようだね、君はすぐに眠ってしまって名前も聞けて無い。食べながら聞かせてくれるかい?」

 勧められた食事の前に座り、

「お礼できるような物を持って無い」

 シュラが言うと男性が姿勢をただして

「一人の少年を助けられた。医師としてこれから仕事を始める僕に、君が自信をくれたんだ。僕はもう、君から充分受け取っている」

 そもそも子供から金品を取ろうなど始めから思っていなかった夫婦だ。あのまま見過して、今頃馬車に跳ねられてないか心配するよりずっと良い。それでも困ったように手を付けないシュラに

「子供は遠慮しないで食べなさい」

 男性が苦笑いして少し強引に勧めれば、ここ数日は燻製と木の実しか口に入れて無かったシュラは柔らかいパンを手に取って、ちぎりながら口に運ぶ。

 食べながらシュラは名前を名乗り、両親と家族を探していると夫婦に伝えた。

「手掛かりはあるのかい?」

 聞かれて、思い付かないと素直に答えた。

 その晩は、夫婦の宿泊する部屋に一緒に泊まる事になった。暖かい所で安心したのか、シュラは早く寝落ちた。

 まだ夜が明けないうちに宿屋の主人から届いた知らせで到着した商人は、主人に状況を確認する。子供は一月ひとつき以上前に家族とはぐれた。家族を探している。たまたま通りかかった若い夫婦に保護された。

「これはいい。貴族に高く売れそうじゃないか。子供ならどうとでもなるだろうさ」

 商人は宿屋の主人に金貨を二枚握らせる。主人は金貨に驚くが、宿の備品や下働きの衣類など、回せなかった所に使えると顔が綻んだ。何代も続いている宿屋だが修繕に回せる費用までは、なかなか捻出できなかったのだ。

 夜が明けて夫婦とシュラが目覚めると、宿屋の主人が朝食はいつお持ちしましょうと部屋に入る。主人は一度退室して、商人がさもたった今到着したように夫婦の部屋へ知らせに行く。

「この子のご両親をご存知なのね」

 女性は良かったとシュラに微笑み、シュラも両親に会える嬉しさで身体中に張り巡らした緊張が解ける気持ちだ。

「おお、シュラじゃないか。大きくなったな」

 扉の前でシュラに話し掛ける商人が居た。部屋に入る事なく、入口をふさぐように立って宿屋の主人から聞いた話しを元に適当な作り話をして家族の所まで連れて行った行くと言う。若い夫婦と商人が対話するのをシュラは眺めながら商人と目が合った。シュラは全く記憶に無い商人に不信感しか無い。

「良かったわね、ご両親の事をご存知のようよ」

 女性から背中を押されたシュラは、商人を観察するように近付く。

 明らかに警戒している子供に商人は

「おじさんの事は覚えて無いかもしれないなぁ。シュラはいつも眠っていた覚えしかないんだ」

 近付いて見上げるシュラの頭に手をポンと乗せる。怯える様子は無いので、そのまま抱き上げて立ち去ろうとすると、女性に呼び止められた。何か気付かれたのかと商人は作り笑いを深めて

「お礼がまだでしたね。シュラの家族から預かっていた謝礼です」

 銀貨を一枚手渡した。一応人探しも仕事のうちだからと、遠慮する夫婦に金を握らせると、女性がシュラの持っていた鞄を商人に手渡した。ユタの家族から持たされた大事な鞄だ。

 商人は作り笑いを崩さずに、挨拶してシュラを抱いたまま宿屋を出る。

 馬車が動き出すと、同乗していた使用人達にシュラの手足が縛られ、口も塞がれた。そのまま馬車の足下に転がされる。

「お前は家族より、もっと良い人の所に連れて行ってやるよ」

 シュラが商人を睨み上げれば生意気だと顔を蹴られる。

「おお、大事な商品に傷を付けてはいけないな」

 ニヤニヤ笑いながら大きな布を被せられた。シュラは視界を塞がれて動く馬車の振動しか解らなくなる。自分が見えないと言う事は、相手にも見えていないのだ。布が大きく動かないように注意しながら手を縛る紐を緩めていく。大きく馬車が揺れてゴロゴロとシュラが転がると布が外れた。シュラは緩んだ紐に気付かれないように身体の下に隠す。

「良いことを教えてやるよ。お前を買って下さる貴族の言う事は、従順にしておくんだな。そのうち出世しゅっせ出来るかもしれん」

 貴族の所にはシュラと同じ民族が高値で売れると言う。ただ逃げ出そうとする者が多く、気の毒に両脚を切断されて逃げられないように拘束され続けるのは、商人として面白いものではないのだ。貴族に文句は言えないので、せめて大事に扱われる商品になって欲しいと本音を漏らして再び布を被せる。

 シュラは足首の結び目に手を伸ばし、こっそり結び目をほどく。

 暫く揺れていた馬車が動かなくなると、周りの人が動く気配を感じた。鞄をしょい直して布越しに風を感じる方へ素早く飛び出せば、商人の店であろう広い通りに面した建物の側に馬車が止まっていたのが解る。隠れられる所を移動していると、馬車に置いてきた子供が居ないと声が上がるのを聞き、店の裏手に広がる雑木林に向かった。

 下働きの誰かがシュラを見付けたようで、背中で「居たぞ!」と声がする。振り向かずに近くの木に登り、枝伝いに身を隠す。

 商人と下働きの者が雑木林に着いた時には、誰もシュラの姿を見付ける事が出来なかった。

「まるで獣だな。木に登ったと思ったら、途端とたんに姿が見えなくなった」

 シュラは下の様子を見ながら、安全な所まで逃げ延びる事に成功した。商人から聞いた「セトラナダ」を目指し、人目をけるように移動を初める。

 商人達が数日間は雑木林を探し続けても手掛かりは見付からなかった。


「ラ-ジャ、何故なぜシュラの記憶なのに周りの者のやり取りまで見えるのじゃ」

 ヒムロの質問にラ-ジャが応える。

「記憶を元に時間を戻して当時の時限に干渉しているからな。当人の知らなかった事でも我々が知りたい事実なら見える事は多いぞ」

 ヒムロはラ-ジャの説明が理解出来ずに眉間みけん縦皺たてじわを作ってわかったふりをして頷く。

「なら、シュラを助けてやる事も出来るじゃろ?」

 それは出来ないとラ-ジャが説明しても、ヒムロは納得が出来ないようだ。


 ヒムロが理解出来るような説明は、どうしたら良いものかとラ-ジャが自身の記憶を巡る。アヤメの母親コアと出会った頃は、今のヒムロと似たような表情をしていた事を思い出す。


 ラーがセトラナダとの契約をしてから、特に代わり映えの無い日々が続く。水源は潤い、水路から離れた所には定期的に雨を呼ぶ。王の命令に従うという契約も、王が今までと変わらない対応だったので特に大変な事も起こらなかった。

 たまに謁見と称して貴族や富豪が来たり、体の採寸をして新しい衣装が届けられたりする。

 王との会食も毎月一度はあって、対話も随分ずいぶん慣れたと思う。

 十年に一度はクウも酒を飲みに来て、一年に二~三個増える酒樽を全部空にしながら他の土地の事を聞かせてくれた。

 常にセトラナダの『気』で満たされているので、閉じ込められている感覚も無い。トレザの本体と情報のやり取りはしているので、ごく平穏な日々が続いた。

 トレザには疫病が流行り出した頃である。

 本当に人々に対する興味が無かったラーは、一人の子供が結界に入り込み、我が子と接触した事で結界を強化した。ただ、結界に入り込んだ子供、ユタがトレザの民に小さな信仰心を広げ始めた事で少しばかりトレザの民を見直す事にはなった。サラの力が自然と増えて来たのだ。当然、本体のラーも力が少し増えて来た。


 ある時セトラナダでは、王との会食で次期の王を決めたいと話しが出る。ラーには初めての事なので、人が決めた手順を確認し、クウがやっていたように行う事にする。

 朝陽が昇る時間に合わせてバルコニーに王の子供達が並ぶ。そして後ろには付き人達が控えている。

 ラーは龍神の城から龍の姿でバルコニーの前を一回りしてから人の姿になってバルコニーに降り立ち、龍の血を濃くひいた者を示す。

 後は形式通りに王の周辺の者が民衆に知らせてラーの仕事は終わる。

 打合せの通りに朝陽とともにバルコニーへ向かえば、たいして代わり映えの無い者が四人並んでいた。人の姿になって降り立てば、手摺てすりの影で座り込んでいる幼女が居た。この幼女が辛うじて濃いと感じて民衆に見えるように抱き上げた。

 幼女は泣きそうな顔で民衆の歓声に驚き、付き人があやす。

 王が末っ子のコアだと小さい声でラーに教えた。王の子供は、みな母親が違う。五人目のコアは、母親が身分の低い貴族だともラーだけに聞こえるように言った。

 それからは、龍の城に勝手に出入りするようになったコアが居た。

 ラーがお気に入りの酒を昼間から舐めている所に突然コアが現れのだ。

 最初に来た時は、次の王と決められてからいきなり勉強の時間が増えたので、王を辞退するという申し出の後に、暫くラーの周りで遊んでいた。

何故なぜ一人で来たのだ」

 龍の城に子供が一人で乗り込むとは勇気もるだろう。

 コアは周りの大人達に王になりたくないと力いっぱい駄々をこねたのに、龍が決めた事だの一点張りで誰も聞き入れてくれなかったから、龍に直接なら聞いて貰えると思ったらしい。

「せっかく隠れていたのに、見つけ出して抱き上げたお前が悪い」

 小さい体で仁王立ちになり、堂々とラーを悪者という態度は微笑ましい。しかし度胸や行動力は、次の王に充分と相応ふさわしいではないか。

 次に来た時は、貴族の面会が増えて面倒なので王を辞退すると申し出て、やはり龍の城の散策を楽しんでいた。

 その次は兄や姉の態度が余所余所よそよそしくなったのがつらいから王を辞退するという。

 そのうちコアは王を辞退したいと来る度に申し出て、遊んでいるうちに付き人達が強制的に連れ戻すのが日課になって来る。

 コアが同席した初めての王との会食では、食事作法をコアに教える為に付きっきりで手取り足取り側を離れない女性も居た。

「父上、食事の味もわからないから、辞退するの」

 作法の通りに食事をすると美味しくないと、足をブラブラさせてコアが言う。側に居る女性は、そっと揺らす足を押さえてコアに微笑む。

 そんなコアを見て、一部の側近が王は女性だと勤まらないだろうとささやき始めていた。実際に、ここ数世代の王は男性が続いた事もある。

 ラーから見るとコアは自由奔放な子供で、この先もまつりごとに係わるのは想像出来ない。幼少期から作法や勉強に追われるのも気の毒にも思う。

 会食の時に王に伝えてみたが、コアの付き人からも聞かされていたようで、いっそ勉強でも作法でも、教えられる事を教えてやって欲しいと体裁良く子守を任される事になった。


 少しばかり巡った記憶ではヒムロを説得する為に役立ちそうな内容が思い当たらなかった。

 まだ目を覚まさないシュラの記憶を見たラ-ジャの心は重い。

 幼少からわずか五年で成人していると言うことは、短命でもあると言うことだ。

 そして理不尽にその身を狙われ、過酷な生き方を強いられている。

 重たい石でも呑み込んだような息苦しさは、サラがまだ人として生きていた頃に急いで年齢を重ねていた時の感覚に似ている。

 ヘルラと通じている可能性よりも、急いで年を重ねるシュラを見るのが息苦し事にラ-ジャは気付いた。

「やはり、私は弱いのだな。相対あいたいした命が急いで失われるていくのが怖い」

 あらがう事が出来ない『時間』によって、人が早く老いて行くのが切なくて苦しい。





 次こそアヤメとシュラの出会いが載せられそうです。

 

 いつまで続くかと思っていましたが、私にしては結構続いてますね。まだ先に控えている話しがあるので、もう少し続くと思います。


 

 今回も最後までお付き合い頂き有難うございます

   (*^人^*)



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