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龍の居る世界     作者: 子萩丸
1/59

再開

 一度この話しを書いた時は昭和でした。

 もう続きを書く事も無いと思って、作った設定等々を処分したのは平成でした。

 すっかり漢字を書けなくなって(笑)勝手に漢字変換してくれる便利なスマホで書き始めました。

 現在、令和2年。

 ずっと頭の中をグルグル回っていた物語を、取り敢えず飽きるまで書いて見ようと思います。


 滝のような雨の中、広場の舞台上には一人舞う姿がある。

 普段なら行き交う人々で賑わう広場も今は人気ひとけは無く、皆各々の仕事をしながら雨が通り過ぎるのを建物の中で待っていた。

 しかし、ここ数日激しく降り続ける雨の中、舞台上の者の姿を確めようと濡れるのも構わず舞台に近付いて来た者が一人。彼は踊り子の舞う姿にしばらく見とれていた。

 歩く事さえはばかられる雨の中、まるでそよ風をまとうように滝の中で軽やかに、時に妖艶に舞う姿はザンザンと打ち付ける雨の音すら舞いに合わせた音楽のようだ。暫く舞いに見とれていた彼が踊り子の容姿に気付き愕然がくぜんとした。

 踊り子は十歳前後の少女なのか少年なのか凛と整った顔立ちをしている。髪は銀のような白で肌も陶器のように白い。唇は紅をさしているように赤く、時折見える瞳の色もまた赤い。

 その容姿は三十年以上前に森で出会った少女と同じように見えたのだ。


 そう、今から三十年以上前の事だ。

 ここトレザに流行り病が蔓延した。老若男女問わず次々と倒れ、力尽きていった。

 高山の立地のトレザには二万人程のたみがいる。トレザには当時医師らしい者がらず、山を降りるにもそもそも道らしい道は無い。例え命懸けでふもと迄行けたとしても、医師を探して更に何日もの旅路となると旅支度から始められる程の余裕は無かった。

 彼は当時まだ山を降りるには幼く、倒れた両親を助けようと薬草を探しに森へ入ったのだ。

 しかし身の丈もある雑草の中は歩き進むだけでも大変だった。しかも草木に囲まれて、半日も歩いたら自分が何処に居るのかさえ解らなくなってきた。それでもきっと薬草が見付かるはずだと信じて草木を掻き分けて探し続けると、開けた所に出た。

 季節は夏だというのに、何処からか冷たい風が吹いてくる。

 風の来る方に進むと洞窟の入口を見付けた。子供がかがんでやっと通れそうな穴だ。そこから冷たい風が吹き出ている。真っ暗な洞窟の中を覗き込んでも中の様子は解らない。少しばかり洞窟の入口から中に身を乗り出してみた時に、吹き出して来る風がピタリと止んだ。その直後、外から勢い良く風が吹き込んで来る。慌てて体制を整えて外に戻ろうとしたが遅かった。吹き込む風に押し込まれるように暗い洞窟内へ転げ落ちた。

 どうなってしまうのか、彼は暗がりに慣れ始めた目で辺りを見回す。

 入口からさほど遠く離れて無い、直ぐに出ようと勢い良く立ち上がったが、頭をぶつけた。

 さほど痛みは無かったが、ここ数日で起きた事やずっと探して見付からない薬草の事、自分の無力さに崩れるようにその場に突っ伏した。

 しばらく脱力していたが再び入口の光に向かって、今度は這って行こうと手足に力を込めるとそこに、薬草があった。嬉しかった。夢中になって両手いっぱいに持ち、入口に這い進む。しかし、入口から吹き込む風が思っていたより強い。風に押し戻されぬよう、薬草から手を放してしまった。

 外には出られたが、せっかくの薬草が洞窟の中だ。一旦外に出てしまうと中の様子は真っ暗で解らない。しかも、そろそろ日が沈む。

 もう一度洞窟に入るのが怖かった。

 どうやってここ迄来たのか解らなかった。

 帰れるかどうかも解らない。

 まだ両親が無事に生きているか気になった。

 とにかく不安と恐怖で自分でも驚く程の声を出して泣いた。何を言っているのか自分でも理解出来ない言葉を叫んだ。だから何か変わるとは思わなかったが、頭がクラクラする程、叫び続けた。

「やかましいのう」

彼はハッとして声のする方に目を向けた。

「少し落ち着け、子供。」

銀にも見える白く長い髪は、少し夕日の色を落として赤くも見える。白い肌は陶器のようで、紅をさしているのか唇は赤い。真っ直ぐにこちらを見る両目も、夕日のせいか赤い。整った顔立ちの、明らかに子供に見える少女なのか少年なのかが彼を見おろしていた。

「誰……?」

叫んでいたせいか、声がかすれる。

 森を一日中さ迷い続けた上に洞窟に落ちて這いずり回った彼の衣服はかなり汚れているが、少女(?)の真っ白い衣服は上等な物に見えるし、全く汚れてない。

 見たことの無い衣装で、真っ赤な靴と後ろの腰辺りでゆるく束ねた髪も真っ赤な玉で飾られている。

「これで良いのか子供?」

何故か、洞窟に吹き飛ばされてしまった薬草を両手いっぱいに持っている。更に見た事も無い薬草を次々と積み上げていく。

「これくらい有れば、家族もトレザの民も救えよう?」

「あ……あっ、有難うございます」

いつの間にか薬草でいっぱいになった籠があった。

「あの、君は誰?こんなに沢山貰ってもお礼は出来ないよ?」

少女は笑って

「礼がしたければ、家族と民を救えば良い」

 上品な笑顔でそう言って森の一点を踊るような仕草で指すと、サワサワと風が通る所に道が出来た。

「風にそって進めよ。家路いえじ迄これで迷うまい。」

彼は思い付く限りの感謝の言葉を伝えると、出来たばかりの道を走り出した。朝から一日中歩いた森だったが、息が上がる頃には森を抜けた。振り返るとサワサワサワと風が吹き、今走って来た道は無くなっていた。


 そこから急いで家に帰ると、早速薬草を手に取ったが、どうやって呑ませるか解らない。そう思った瞬間、さっきの少女の声が頭の中で手順を伝えてくれるような気がして、頭の中で聞こえる声に遅れないよう急いで薬を作り始めた。

 ずはたらいに水を張り、かごいっぱいの薬草を盥に入るだけ入れる。葉は汚れを落として水を切り、刻んで鍋で煎じる。少女の唇に似た色の真っ赤な実は、小さなおけに水を入れてヘタを取って半分に切ってから桶に入れて行く。真っ赤な実なのに水は緑色になった。緑色の水は、鍋でとろみが出るまで煮る。弱火が良いらしい。赤かった実は桃色になり、乾燥させておく。乾燥させると甘味になった。

 取り敢えず出来上がった薬を両親に呑ませてから、残りの薬草も作り方を忘れないうちに薬にして、おさの所へ持ち込む。

 彼はそれから毎日、まだ沢山ある薬草を薬にしていく。何度も作っているうちに、別の薬も作れるようになっていた。そして家族の回復を見ながら、作った薬を長の所へ届けた。

 ある日、同じように長の所へ薬を届けに行くと、数人の人に出迎えられ、皆が回復に向かっていると知らされた。

 森へ行ってから今日まで夢中でやってきた事が、緊張の糸が切れるように身体中から力が抜けた為に、その場で崩れるように倒れたが、何故か嬉しくて笑い声が出た。迎えてくれた皆も笑った。


 その頃から彼は森へ行って薬草を持ち帰るようになったが、本当はあの時の少女にもう一度会いたかったからだ。

 会って直接お礼がしたい、帰り際の感謝の言葉ではとても足りない。民の全てを救ってくれたのは、あの少女だから。

 数年が経ち、いつの間にか彼はこのトレザで医者と呼ばれ、森へ薬草を取りに向かう若者達には薬の作り方も伝え、他者から感謝を延べられる度に、はにかむように少女の話をした。

「いつか皆の感謝の気持ちだけでも伝えたい」

 その想いは変わる事無く年月は過ぎ、器量良しの嫁に可愛い子宝も授かり、平穏ながら人望も有ることで現在は長の仕事に就いている。


 何度も何度も森へ足を運んでは、あの時の洞窟を探すが、今だに見付けられずにいた。


 いつの間にか滝のように降っていた雨が上がり陽射しが覗いた。

 舞いに見とれて居るうちに、何時しか記憶の旅に出ていた彼は眼を閉じて今迄の記憶を巡っていた。


「久しいのぅ、子供。」

ハッと彼は目を開ける。

 一条ひとすじの太陽光が丁度少女に当たり耀いて見える。

 舞台の端に胡座あぐらをかいて、彼を見下ろし右手のこぶしあごにあて、目を細めて嬉しそうに笑う少女の姿は三十年以上前の姿と変わらない。

「あ…あの」

感謝の言葉を述べるつもりでいたのが、さすがに中年期になっても子供と呼ばれて照れ笑いしながら口ごもる。

随分ずいぶんと立派に育ったから、もう子供では無いな。」

カラカラと笑う声も耳に心地好い。

「お陰様で、民からも信頼されて現在は長を務めさせて頂いております。」

「そうか。では子供を止めてオサと呼ぼう。」

 そこから彼は、ずっとお礼を伝えたかった事や、森での散策や新しい薬草の発見、この土地での暮らしや家族の事を話す。数年前には、家族とはぐれた子供を引き取ろうと考えていた事があった。色々な薬の研究もしていて、皆の役にたっている事などをげる。

 少女は嬉しそうに聞き

「オサの言葉で聞くのもまた感慨かんがい深いものよのぅ。」

 暫くは現状報告のような対話が続いた。

 オサではなく、ユタという名前が有ると伝えたが、オサと呼ぶのが気に入ったらしい。

 少女は洞窟に案内すると言い出した。

 もう陽が傾いているが、あまり帰りが遅くなると家族が心配すると伝えると、そんなに時間はかからないと言う。


 森へ近付くと、サワサワと草が道を開けてくれた。

 あれから三十年。どれ程探した事か。サワサワと開く道を少し歩けば、大人が手を上げても届かない位の広い洞窟の入口にたどり着いた。以前落ちた所とは違うらしい。洞窟の中は発光する苔があり、凸凹でこぼこした足元を確認する位は出来る。

 それにしても寒い。そして、かなり広いようだ。奥に進むと高い所から外の光が差して居るのか、少しだけ明るい所がある。どうやら彼が落ちた所は、あの高い天井辺りらしい。下まで落ちていたら、多分生きていなかっただろう。

 ユタは気温の寒さと甦る恐怖で鳥肌の立つ両腕を押さえた。


 寒いはずである。奥は氷の柱が幾つも天井から地面まで立ち、壁一面が氷だった。まるで氷で出来た宮殿のような空間で、吐く息が白い。

「氷室……か」

「オサ、気に入った。私の事はヒムロと呼べ」

「は?」

 氷室と呟いたのは、この空間の事を言ったのだが。ユタは理解出来ない少女の反応に妙な声で疑問符を伝えると

父者ちちじゃは私の事をヘビと呼ぶのだよ。母者ははじゃはあの通り話す事が無いからな。」

少女、いやヒムロは一本の氷柱を見上げる。

 氷柱の中にはヒムロを大人にしたような美しい女性が此方こちらを見ていた。髪の色は淡い栗色で、衣装には淡い色合いの布が沢山使われている。

「母者、今から私はヒムロと名乗るよ。オサは私をヒムロと呼ぶのだよ。」

 氷柱の女性はヒムロの母親で、何故か氷の中から出る事は無いが、氷の中なら自由に動けるようだ。そして、ヒムロを見つめる眼差しは母親らしく暖かみを感じる。

 それからヒムロはオサが子供だった頃から今に至る迄の事を甘える子供のように話す。容姿が幼いので違和感は無いが、寒い氷室の中で平気なのだろうか?

「ヒムロ…様は寒くないのですか?」

「私はここで産まれたのだよ。そしてここで育った。」

「は?」

 ユタは再び妙な声で反応する。

「父者は龍で、先程迄は雨を降らせていたのだよ。」

 何でもここ数日間の雨は龍神親子の仕事らしい。今後の計画が有るそうだ。

「母上様は氷の神様ですか?」

「いいや。母者は元々人間なのだよ。この土地の柱として選ばれた。」

 人柱とは地鎮祭等で人を生け贄にするようなものだ。ユタの知識では人柱として選ばれるのは死罪にもなる程の罪人しか居ない。トレザに酷い疫病が流行った時に大人達が言っていたはずだ。先代の長からも伝え聞いた事は無い。何より、ヒムロに対してこんなに優しい表情をする彼女は一体何の罪を犯したのだろう?

 しかし、祖先がこの土地に安住の地を求めた時に、この辺りを守護していた龍神様に見初められた美しい娘が、龍神と伴に土地の神に身を捧げたような伝え話しがあったはずだ。だが、そんな昔から生きられるものなのか?

「人間の体は百年もせずに老いて死んでしまうであろう?父者はそれを大変嘆かれたそうだ。母者も同じように父者より早く年老いていくのが辛かったのであろうな。」

 だから氷柱の中で時を止めるように体を保存したのだそうだ。それでも魂のようなモノは生き続け、人から神へと代わる時に、当時の姿のままで居られるようにこの状態で居ると、良く解らない説明をヒムロがする。

 本来ならば、ヒムロが産まれる前には神格化も済んでいたそうだが、長年氷柱の中で生きていた為に氷柱からの出方が解らなかったそうだ。特に不便も感じなかったので構わずに居たが、今は非常事態らしい。


「さて、そろそろ陽が落ちる。オサ、家路につかねばな?」

 ユタは洞窟の入口迄案内されて、森の草がサワサワと道を作る。

「頼みたい事が有るが、受けてくれるか?」

少々悪戯っぽい表情で見上げて聞いてくるヒムロに

「喜んで」

と応えると、また明日の朝に話をしようと言われて草が別れて出来た道を行く。

 森を抜けて振り返れば、やはり道は消えていた。


 ユタは帰宅して開口一番に少女ヒムロの事を家族に伝えた。

「本当に三十年前と変わらなかったのですね。」

 妻のリリは少し驚いた後に、静かに彼の話しを聞く。正直な所、存在するかどうか解らなかった相手だが、妻という立場上、全く嫉妬してなかった訳ではない。しかし、三十年前と変わらぬ少女では嫉妬というよりは、まだ会った事が無い幼馴染みに近い感情になっていた。


 夜遅く迄子供達にせがまれて『ヒムロ様』の話しをしていたが、朝早くからユタは森へ向かう。長であるユタの代わりに、リリは豪雨の被害や必要な物資の確認等をする為に広場に向かった。


 すでに広場には多くの人が集まっていた。

 数日振りの晴れ間に皆が嬉しそうに見える。今回の雨はかなり酷かったが、大きな被害は無かったと報告を受ける。周りの情報を集めて皆の統制が取れる若者達も多く、誰に次の長を任せても問題なさそうな報告状況にはリリも安心する。

 既に雨漏りで食物庫の食糧が痛んでしまうと、何軒もの家から運び出された食糧で早速調理も始まっている。まるで祭りのような賑わいになった。

 今回、食糧を提供してくれた所の雨漏りをどのように修理していくか、また、食糧の補充はどうするか。次々に我こそはこう役にたてると賑やかに解決していく。他にも困った事は無いか、若い者や子供達も自分たちの出来る事を探して上手くやっている。


 ちょうど賑わっている広場には、二人の旅人が着いた所だ。

 しかし、雨が上がったのは昨日の夕方だ。梺からの険しい山をあの雨の中、何日もかけて登って来たのか?それとも近く迄たどり着いて雨に降られ、数日間の雨宿りをしてきたのか。

 二人の旅人は、一人が二十代後半位の男性で珍しい髪の色をしている。あわい水色に見える髪の色は、以前リリの家で引き取ろうと思っていた子供と同じ色だ。もう一人は十歳位の少女で髪の毛は黒に近い茶色。一般的な髪の色をしている。年頃はリリの一番下の息子と同じ位に見える。親子だろうか、あまり似ていないようにも見えるが仲は良さそうだ。

「ここを取りまとめる人と話しがしたい」

旅人の男性が申し出たので、リリは長の代理と言いながら話しを聞く事にした。

 なんでもこの旅人達は、あの酷い雨の中を強行してきたのだと言う。


 命を落としかねない状況での強行。それをして迄このトレザの人達に伝えたい事は想像すら出来ない。

 豪雨の後の賑わいの中で、リリは胸の奥がザワザワするのを感じた。

 頭の中では只のモブだったはずの人が、いきなり重要人物になっていました。おかしい。

 仕方ないので名前をつける事にしました。


 いっぱい文字を打ち込んでも、なかなか次の場面に行けません。何故でしょう。

 脳内で熟成された登場人物達は、私の想像以上に勝手に育ってしまったようです。


 ここまでお付き合い頂いたアナタ!

 有難うございます。今の所は続きを書くつもりなので、お付き合い頂けると転げ回って喜びます。

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