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たなびく戦旗の下に   作者: 澤木無我
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第五王子と仲間達

                 2 ゴール城内

 城壁の物見に立つその人は一瞥すれば、頼りなさそうな小柄な少年兵のように見えなくはない。でも、よく見ると普通の兵ではないことに気がつく。身につけた銀色の甲冑も黒いマントも高価なものであることがわかるし、甲の庇からのぞく顔は凜々しく若く美しい。身につけた鎧の胸の部分の膨らみは、男性ではないことが見て取れる。今、この城の防御の指揮を執っているのは、うら若き女性であった。

 物見台の下から、兵士長が一人、慌てたように階段を走って上って来た。

「アリア姫!そこは危のうございます。すぐにお降りください」

「ローダム、何を慌てている。敵は今休んでいる最中だ。攻めては来ないよ」

「たとえ、そうであってもです。それと、お屋形様がお呼びです。どうぞ主殿へお戻りください」

 アリアは少し悲しげな表情を浮かべた。呼んでいる理由は分かっている。アリアは敵陣を眺め、本陣のあるhはずの城から見える丘に目を向け、溜息をつきながら物見台を降りていった。


 城の中央、領主の主殿に到着すると執事が待っていた。執事はいつものように少し微笑んでアリアを迎えると、彼女の甲を受け取った。甲の下からは、肩の辺りで短く切りそろえられた金色の髪の毛が現れた。執事のスエンはほんの少し残念だという表情をした。

「なに?」とアリア。

「いえ。何も」とスエン。

「分かっているわよ。髪を切ったこと、残念に思っているんでしょ」

「はあ・・・。このようなことがなければ、とは思っております」

「仕方がないでしょ。髪が長いと、戦いに邪魔なんですから」

「しかし、お嬢様が戦場に出ることは・・・と思っておりました」

「領主の娘ですから。父上の子は私一人しかいませんから。それより、父上の具合は?呼び出されたのですから起きているのでしょ?」

「はい。お部屋でお待ちです」

 スエンはアリア先導して、ベネット子爵の部屋に歩み出した。


 子爵の部屋の前に立つ衛兵は、アリアの姿を見かけると姿勢を正し敬礼した。アリアは部屋の扉をノックしてから静かに扉を開けた。部屋の奥に寝台があり、その横に医師のマークスが佇んで、アリアに向かって一礼した。寝台には領主のベネット子爵が寝ていた。アリアは寝台の横の立ち、父親の顔をのぞき込んだ。子爵はゆっくりと目を開ける。

「外はどうだ」かすれた声であった。

「今は、静かです。攻め疲れたのでは」と微笑む。

「そうか・・・」子爵は大きく呼吸する。

「いつまでここにいるつもりだ」

 アリアは静かに子爵を見つめる。

「お父様がここにいる限りは、私はここにいます」

 子爵は悲しげな微笑を浮かべた。

「ワシが・・・、元気であれば・・・、たたき出すのだがな」

「無理だと思います。きっと姿を変えても、ここに戻ってきます」

「頑固な娘だ。・・・一体誰に似たのやら」

「それは、きっと父上に・・・だと思います」



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