第5部*想い・すれ違い
「ばか兄‥」
放り投げ、そして兄に激突して床におちた枕を拾い上げ、ぎゅっと抱き抱えながらつぶやく。
あの兄は自分が何をしたのかわかっているのだろうか?
否、酒によっていたようだから覚えていないかもしれないけれど。。
でも、あんな事をするなんて、、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「おい、壱!?」
バタバタと駆け寄る足音と、心配そうな声が聞こえた。
何かと思いきや、
「ってこれ酒じゃん?!」
どうやら、ジュースと間違えて買った酒を飲んだらしい。。
熱で自分の思うように動かせなくて、重たい体でのそのそとベッドから起き上がり、
兄の様子を見に行こうと壁を伝って歩き出す。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
リビングまででてきて兄の親友に問う。
「あ、水城ちゃん…
壱、ね?やー、ジュースと間違って酒のんじゃってさ〜。」
そういって床に横たわっている兄を指差す。
「こいつ酒、弱いんだな…どうする、壱の部屋のベッドにでも運ぶか?」
え。
そうきかれて、水城はリビングを見渡す。
「あ、いえっ、と、とりあえずそこのソファーにでも」
そういってソファーを指さす。
「ん、わかった。」
そういって姫様だっこの要領で床に寝そべっていた兄をソファーへと移動させてくれた。
兄の部屋ではなくソファーにしたのは、
兄の部屋が、未知の空間だからだ。
何故だか水城が部屋に入っているのを禁じているし、何があるのかもわからない。
そんな部屋に兄の親友といえども入らせるわけにはいかないだろう。
脱衣所からとってきたバスタオルを兄にかけ、
起きたときにすぐにのめるように机の上にペットボトルにはいった水とコップを用意しておく。
まったく世話のかかる兄だ。
「ねぇ、壱の事うっとうしいとか思ったことないの?」
そういわれてすぐには答えられなかった。
「ん〜‥。特にはそんな事ないです。」
もし鬱陶しいと感じていても、
それは慣れすぎてしまっていて鬱陶しいなどと思わなくなってしまっていたから。
「ふーん。壱、極度のシスコンみたいだよ。
で、僕は・水城ちゃんの事が心配だったから聞いたんだけど、心配するほどの事でもないみたいだね♪よかった、よかった。」
そう、ひょろっとした方の和也が答えた。
「そういえば、チョコもらったのか?」
兄をソファーに移動させた方のがたいのいい流が問う。
「はい、もらいましたよ♪高級店のチョコとかあって‥美味しかったですっ」
壱に高級チョコを贈るようなやつもいるのか、と内心で感心する流。
「で、兄はもらったっていってたんですけど、もしかしてくれたのって、、」
「僕たちじゃないよ。壱の彼女サマ達からだよ」
水城の言葉をつないだのは、和也だった。
「‥は?」
それはもしや、二股、いや、あのチョコの量からすると‥十股というやつか。。
ほー。と、納得、なんかできなかった、
「って、えぇえ!?うちの兄そんな事してるんですか!?」
信じらんないっと、ヒステリックになっている水城をみて和也が笑った。
「嘘。本当は、つきあってる人なんていないよ」
へ?と、和也の言葉に水城は目を丸くする。
「壱ってもてるんだけどねー、彼女がいないのが不思議だよ。」
そうなのか、と兄が十股をしてなくてよかったーと、安堵の息をつく。
「じゃー、僕らは帰るわ。。壱にお酒を飲ましちゃってごめんね」
そういって和也と流は帰宅した。(午後・4時20ーー
そして水城は2人を送り出したあと、部屋に戻ってベッドに入り休息をとった。
がちゃ。
と、ドアの開く音が聞こえてうっすらと目を開ける。
「‥?お兄ちゃん?」
立っていたのは兄、そして手には水城が兄のために机の上に置いていたあの水とコップ。
どんな寝ぼけかたしてるのぉ!?
よくわからない状況に目を白黒させつつ兄の行動を目で追う。
コンっ
突如、兄がペットボトルとコップを床に落とし、ペットボトルが床をはねた。
そして気付いた時には何故か、
兄に抱きつかれていた。
「お兄ちゃ…っ!?」
引き離そうとしても兄の力は強くて。
男の子みたいに強くて。。
「渡さない‥」
ぼそっと水城の耳元で言葉が囁かれる。
そんな言葉に硬直し、
「お‥にぃ‥ちゃ、、」
水城は何かを伝えようと、口を開いたが、
さっき兄の親友と話していた事を思い出す。
『壱ってもてるんだよねー、彼女がいないのが不思議だよ。』
本当は、兄には彼女がいるのかもしれない。
親友にもいえないような大切な恋をしているんだろう。
だから多分、
これはきっとその彼女への思いなのだろう。
でも
そんな人と妹のあたしを間違えるなんて許せないよ‥?
お酒によっていて頭が回らないのはわかっているけれどね‥
あたしは、お兄ちゃんの
「妹」なんだから。