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妖怪悩み相談室 巡  作者: 新山まり夫
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 大阪の片田舎にある古びた小学校。古き良き伝統を守ることを大切にしているこの学校は必要最低限の補強しかしていないため、骨組みは頑丈で至る所の作りはしっかりしているものの、外装はひどく荒廃している。言ってしまえば見た目は絶望的で、まるでお化け屋敷のようである。

 この学校に通う生徒、職員達は減ることもなく又増えることもなく、

創立100年を超えて尚、開校当時と変わらぬ教養の波を毎朝毎夕生み続けている。

 その一連の流れを開校時より毎日欠かさず見守り続けている者がいる。

 それは当校門前に建てられた二宮金次郎像である。

 校舎よりも高くそびえ立つ古い大木の木陰に被さりながら、どっしりとした台座の上からいつも優しげな笑みを浮かべている。

 今日は晴天快晴、朝の柔らかな空気と共に生徒達の登校風景が近付いてくる。

「おはようさん、いよいよ明日から令和の始まりやな!」

「お前朝一絶対それ言う思たわ。さっそく浮き足立っとるやんけ」

「いやいや、元号変わるんやで。お祝い気分丸出しでいかな逆に失礼やろ。おかんなんか朝から飛び跳ねとったで。見てみて、こんな風に…」

 生徒達の賑やかな会話が溢れかえり、古びた学校が少しばかり色付く。

「今日は皆すごく元気そうに登校しているなぁ、良々」

 金次郎像は勉学意欲に湧く子供達、熱心に生徒達の未来への可能性を引き出す職員達が大好きである。何を学びどう感じるかの原点が小学校にあるとみる金次郎像にとって、この学校と共に生まれ憑いた事に感謝している。

 始まりは何も無い土地から少しずつ開発されていき、街全体がこの学校建設を祝った。たくさんの汗と笑顔を浴びながら、二宮金次郎像は勤労と勤勉の象徴として学校設立と同時期に建てられた。あれから100年余りの年月が流れたにも関わらず、特に風化の兆候などは見られない。校門前を横切る人達、特に学校に関わる人達が何時も清掃を怠らなかった為である。誰かが決めたルールに則っているのではなく、気付いた者が大人であれ子供であれ汚れていれば皆自発的に金次郎像を綺麗に磨き、ゴミが転がっていれば周辺の掃除を必ず行っていた。

 そんな日々風格を増し続ける金次郎像だが、頭の一部分が欠けている。いつ誰が何をしたというのを探るには年月が経ち過ぎたようだ。校門を通り過ぎる人々の認識としては、最早欠けた部分を含めこれが完全なる金次郎像になっている。今や誰もその部分を気にかける者はおらず、金次郎像本人もまさか自分の身体の一部が欠けているとは夢にも思っていない。

 ただただ大勢の人間の寵愛を体全身で受け止めながら、この金次郎像は校門前で見守り続けている。 彼の愛する学校、生徒、職員、そしてこの街を。

 いつにも無く感慨深く浸っていると、もう下校のチャイムが鳴り出していた。

 背丈の違う生徒達が賑やかに帰宅を急ぐ。

 すると、今朝聞いたひときわ際立つ大きな声が辺りに響く。

 「今夜11時50分頃に電話するから出ろよ」

 「はいはい、ほんで0時なるタイミングで飛んで令和おめでとう言えばええんやろ。何回も確認するから耳にタコできたわ」

 純粋無垢な笑い声が校門周辺を黄色く染める中、金次郎像は何度も繰り返される生徒のある言葉に気を引かれ始める。

 そんな中、生徒達の明るい会話に混じり、どこからか獣の咆哮のようなものが重なった。思わず背すじがざわつく。無意識に距離を取りたくなるような気分を遮断し、声の主を推測する。

 日本は歴史が古い島国だと以前生徒の会話から聞いたことがある。その時はテスト前だったようで、色々な情報が校門で飛び交う中、金次郎像はそんな生徒達の会話を聞きながら自らも学んでいた。

 「歴史が古いとまだ誰も見たことない動物とかいるのかなぁ。でも変だな、あんな大きな叫び声なのに誰も反応しないなんて。もしかして…」

 心当たりが無いわけではない。

 ただそこに結び付けるのに躊躇う臆病な自分がいるだけであった。

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