ステータスを確認すっぞ
すさまじい光が迸り、マリナとお姉さんは咄嗟に目を覆い隠す。突然光の魔法でも使用されたかの蛮行に、衆目を集めることとなった。
自分がとんでもないことをしたという自覚もなく、陽介はしゃっくりをしている。瞬きを繰り返しつつも、お姉さんは浮かび上がって来たステータスを確認する。
そして、わなわなと口を震わせることとなった。目をこすってみても、提示されたステータスに変わりはない。マリナが所在なさげに首を動かす。
「な、なんですか、これは! こんなステータス、見たことありません」
仰天の声をあげるお姉さん。マリナもけた違いの数値に開いた口が塞がらなかった。問題のステータスは以下の通りであった。
サカキ・ヨースケ
体力 9302
魔力 9098
攻撃力 9828
守備力 9331
俊敏性 9511
「正直、Sランクの冒険者でもこのステータスを持つ者は皆無ですよ。あのグランデ様でさえ、これよりも1000ぐらい低い数値だったはずです」
グランデの名を出した途端、ギルド内がざわめきだす。そうでなくとも、Sランク相応の冒険者など滅多に現れるものではない。とんでもない数値を叩き出したという自覚があるのかどうか、陽介はポリポリと腹を掻きむしっていた。
続々と冒険者たちが集まってきている中、受付のお姉さんは咳払いをする。職員たるもの、不測の事態にも冷静に対応しなくてはならない。
「この数値であれば、いかなる職業を選んだとしても達人の域まで極めることができるでしょう。いかがなさいますか」
「どんな職業にもなれるのかぁ。なら、あのクソ専務に成り代わることもできるってか」
「センム。戦士のことでしょうか。肉弾戦のみならず、魔法による攻撃も得意とし、臨機応変に戦える職業です。オールマイティゆえに、大多数の方がこの職業を選んでおりますし、ステータスの傾向からしても適正は高いでしょう」
「なら、専務といわず、社長なんてどうだ」
「シャチョー。聞いたことがない職業ですね。私としても戦士はおすすめだと思いますよ。鍛え方によっては、魔法戦士だったり、凶戦士だったりに派生することもできますし」
「じゃあ、そいつでいいやぁ」
執着されるかと覚悟したが、あっさりと戦士への就職が決定した。
ステータス上ではSランク相当ではあるが、実際にランクアップするには依頼を数多くこなしたという実績が無くてはならない。「けちくせえなぁ」と文句をぶつけられつつも、最終的には「Cランク戦士」で落ち着くのだった。
陽介がとんでもないステータスを出してしまった後で審査を受けるのは肩身が狭い。別に低い数値を出したところでペナルティがあるわけはないのだが、マリナが水晶に触れる手は必要以上に震えるのだった。
ようやく、ままよと水晶に手のひらを密着させる。途端、陽介ほどではないものの、ひときわ大きく水晶が輝いた。まさか、二連続で目くらませを受ける羽目になるとは思ってもいなかっただろう。お姉さんは虚を突かれて棒立ちしている。
どうにか我に返り、提示されたステータスを確認する。途端、顎が外れそうになるほど開口する羽目になった。マリナは自分がとんでもない光を発してしまったことに驚き、未だステータスを受け入れる態勢になっていない。
冒険者たちのざわめきがその場を支配する。立て続けに規格外のステータスを持つ冒険者が現れたのだから当然だ。困惑して上半身を小刻みに動かすマリナ。お姉さんは咳払いして指を組んだ。
「結論から申しますと、Bランクへの昇格、および戦士から別の職業への転職が可能です」
「本当ですか。もしかして、魔法使いになれたりしますか。昔から憧れていたんです」
浮足立つマリナ。登録時に突出した項目が無く、一般職である戦士を進められて落胆したものだ。それでもあきらめきれずに、なけなしの小遣いをはたいて魔導書を購入し、必死に勉強して来た。もしかして、その成果が認められたのだろうか。
Bランクに上がったというのも喜ぶべきだが、転職の提案はそれ以上に魅力的だった。カウンターから身を乗り出すマリナ。期待に胸を膨らませているところ、お姉さんは朗らかに告げた。
「マリナさん、あなたには武闘家への転職をおススメします」
「は?」
何を言っているか分からなかった。
「えっと、間違いではないですか。私が武闘家なんて」
武闘家は魔法を一切使わず、己の肉体のみで戦う者たちだ。マリナが憧れる魔法使いとは正反対の存在であった。
自慢ではないが、小枝のような細腕である。脚力にしても自信があるわけではない。なのに、お姉さんはしきりに武闘家への転職を推奨してくる。
「実際にステータスを見てもらった方がいいですね。どう考えても武闘家一択です」
促されて、憮然としながらもステータスを確認する。
マリナ・アウェイク
体力 283
魔力 129
攻撃力 10472
守備力 245
俊敏性 198
「どういうことですか、これは」
逆に質問してしまう始末だ。お姉さんは「こっちが聞きたい」とばかりに手を挙げる。
異常なまでの攻撃力からして、武闘家一択であった。お姉さんの勧誘の理由は分かったが、当然の如く別の疑問が浮かび上がってくる。
「なんで攻撃力だけ異常に高いのですか」
「聞かれても困る」とばかりにお姉さんはたじろぐ。
「考えられる理由としては、ステータスを上げる魔法を受けたか、特別なアイテムを手に入れたかでしょう。ステータスに干渉するアイテムは、本人に資質が無いと効力を発揮しませんので、正式に認められています。もちろん、ステータスを改造する魔法は基本的には違法ですからね」
最近、ステータスを改造するような出来事があっただろうか。ふと、スカートのポケットに手の甲が触れ、はっと気が付く。
どう考えても神具「打出のミョルニル」のせいだ。おそらく、これを捨てたら正確な数値が得られるだろう。
だが、神から与えられたアイテムをおいそれと捨てるわけにはいかない。それに、陽介と行動するなら、彼を唯一沈静化できる武器は必須だった。
「あの、魔法使いとかどうですか」
ダメ元で尋ねてみる。すると、お姉さんは笑顔で首を振った。
「申し訳ありませんが、適性があるとは言えませんね。Bランクになりたてでしたら、300ぐらいはないときついです」
きっぱりと断言され、マリナはため息をつく。彼女の本意を知ってか知らずか、「いいじゃねえか、武闘家」と陽介は無遠慮に肩を叩いてくる。
更に落胆を加速させるように、パンツ一丁で筋肉質な褐色肌の男が白い歯を光らせて来た。
「おお、嬢ちゃんも武闘家か。一緒に鍛え合おうぜ」
「お断りします」
まかり間違ってもああはなりたくないと誓うマリナであった。