第8話 様々な魔法
俺が無詠唱魔法を一発で成功させたので、ウィルも詠唱魔法ではなく、無詠唱魔法の練習をさせることにしたらしい。
「無詠唱魔法ってのはね、よっぽどセンスがある人か、長い間研鑽を積んだ人だけが使える手法なんだ」
「それじゃあ俺にはそのセンスがあったのか。なんか嬉しいな」
こういうのは単純に嬉しいものだ。
「センスがあるなんて物じゃないよ。普通ならどんなにセンスがあっても何回かの練習は必要なんだから。ちなみに俺はそのパターンね!」
どうやらウィルはセンスがあった口らしい。まぁウィルは見た目も若いし、長い研鑽とやらを積んだ様には見えないので、当たり前と言ったら当たり前かも知らないが。
「うーん、でもまずは詠唱魔法と無詠唱魔法の違いから説明した方が良いか…」
そう言ってウィルは顎に手を当て、何やら考え始める。こういった仕草も様になっているのだからイケメンは得だと思う。
そして数分後、考えが纏まったのか説明を始めた。
「一括りに魔法って言っても何種類かあるんだけど、それは大丈夫?」
「いや、全く知らない」
「うーん、そこからか~」
そう言って苦笑しながら、基本的な魔法手法と呼ばれる四種類に付いて説明していくウィル。
まずは詠唱魔法。詠唱と呼ばれる力を持つ呪文により発動させる手法だ。詠唱には「魔力の制御」から「発動」までの一連の流れを半自動的に行う力がある。多くの魔導師、魔術師が居るがその殆どが使用している。
2つ目は無詠唱魔法。こちらは詠唱を省き、詠唱が行っていた全ての行程を自分の力で行う難易度が高い手法になっている。ただ出来るならば魔法の発動は詠唱魔法の比では無い程速くなるし、イメージで魔法の効果を決める為自由も効く。咄嗟の応用力でもこちらが上だろう。使用出来る人は殆ど居ないらしいけど。
3つ目は法陣魔法。法陣とは、前の世界で言う魔方陣ってやつの事だ。この手法は詠唱の代わりに法陣を使っているだけ。違うのは法陣を事前に書いておく必要がある点。つまり罠などに優れている。それと詠唱よりも補助の効果が高いので、自分の技術力よりもワンステップ上の魔法も使えるようになる。詠唱魔導師なら使えるようになっておきたいのがこの手法だ。
4つ目は精霊魔法。これは精霊族という種族と契約する事で使える魔法なのだが…分かっていないことが多すぎるらしい。
「まぁこんな感じかな?なにか質問は?」
「いや、取り敢えずは問題ねーな」
「色々あるけど、どの手法にも欠点はあるから一概にどれが優れているとは言えないから、どれも使えると良いよね。とは言ってもオレは詠唱と無詠唱しか使えないけどね」
そう言って手のひらの上に球状の氷を作って見せてくれた。確かに詠唱はしていなかったと思う。
「さて、無詠唱の練習を始めようか。今のままだとまだ使い物にはならないからね」
それから俺は的に向かって魔法を撃ちまくった。教官である筈のウィルまでも、何故か的に向かって魔法を放っていた。どうやら、一発で無詠唱を成功させた俺に触発されたらしい。
ウィルの魔法は凄まじく、普通より頑丈に作られているハズの的も一発で吹き飛んでいた。そのくせ、動いている的にも外さないしで、騎士団の予算を飛ばしまくっていた。
対して俺の魔法は発動も遅く、消費魔力も大きい。威力だけはそこそこあるが、所詮は初めて魔法を使う素人が、そこそこ多い魔力に頼った力任せの魔法だ。
取り敢えず、色々試しては見た。火系統の魔法も球状だけでは無く放射状にしてみたり、水を出してみたり、電気を出してみたり。
無詠唱なので、大体イメージ通りに魔力が変化して楽しかった。
ただ、詠唱魔法と無詠唱魔法で消費魔力を比べた時に、無詠唱魔法の方が消費魔力が多く10発程魔法を使うと魔力が枯渇してしまう。
今回は高価な魔力回復薬が大量に用意されていたので遠慮無く撃ちまくれたが。なお、全てウィルの自費である。
「ふぅ…そろそろ今日は終わりにしようか!」
「了解。今日は肉体的にも精神的にも疲れた…これが明日からも続くと考えると多少憂鬱になるな」
ちなみにステータスを見れば俺の疲労が一発で分かる。
種族:人族
名前:エイト
年齢:16
職業:無し
体力:80/200
筋力:100/190
魔力:130/1400
精神力:30/340
運:100
スキル:《言語理解》《成長促進》《剣術Lv.1》《魔法Lv.3》
称号:《勇者》
魔法を使うと精神力も減るらしく、かなり伸びていた。
そしてメインはスキルに追加された《魔法Lv.3》だ。こちらは剣術よりも上がり安いのかも知れない。どちらにせよ《成長促進》様々である。
ちなみにこのスキル《魔法》のレベルが4以下なら魔術師、5以上なら魔導師となる。
「にしても魔法ってスゲーな…極めれば大抵の事は出来る様になるんじゃないか?」
多分、俺の顔は今めちゃめちゃ輝いていると思う。そんな俺を見てウィルが苦笑している位だ。
「今のキョウでも、結構色々出来ると思うよ?精密な作業はまだ出来ないだろうけど、そういうのがコントロール出来る様になれば…ほら」
そしてまた手のひらの上に氷を造り出すウィル。前と違うのは、その氷がどんどんと形を変えている所だろう。
粘土の様にグニャグニャとしていたかと思えば、段々と人の形になり、ドレスを着飾った。それでも変化は留まる事は無く、最終的には無表情の少女の顔になった。
「これ…ミリスか?」
「そうだよ、うちの姫さん」
「そして…」とウィルが呟くと、ミリスの氷像は白い霧に包まれ、中が見えなくなる。
霧が晴れるとそこには、満面の笑みを浮かべたミリスが居た。俺が目指すその場所は、思った通り美しかった。
「なぁウィル、これ、俺が貰ってもいいか?」
「いいよ、保存の魔法も掛けといたから溶ける事も無いからね」
「あぁ、ありがとう」
俺は、これを目指している、という事を改めて実感した。次は本物のミリスが心から笑みを浮かべられる様に。
と、自分の世界にトリップしているとウィルに声を掛けられた。
「それで?どう?」
「ん?どうって?」
「魔法だよ!続けられそう?」
「そりゃめちゃめちゃ楽しいからな!何よりワクワクするし…ま、剣にしろ魔法にしろ手を抜くつもりは無いから安心しろって」
そう、今俺はめちゃくちゃ楽しいのだ。今まで触れなかった事に触れ、前の世界で憧れたラノベの主人公の様な体験を実際にしている。
魔法なんてのも使えるし、スキルなんてのもある。触れる物全てが未知なのだ。
確かに不安もあるし、日本が恋しく無い訳じゃない。しかし、それを差し引きでこの世界には魅力がある。まだノーマルな人間しか見ていないが、獣人や魔族なんてのも居るのだ。これでワクワクしない方が不思議だろう。
「お、なんか生き生きした顔してるね!その調子だよ、勇者君」
ウィルはそう言って俺の背中をバンッと叩き、手をヒラヒラさせながら訓練場を出ていった。
「…いてぇ。ウィルの筋力ステータスも相当な物なんじゃないか?こりゃ」
取り敢えず夕食までは特にやることが無いので、部屋に戻って寝る事にする。
昼食から4時間ほどしか経っていないのでまだ夕食には余裕がある。時計が無いので、正確な時間は分からないが。
これで書物庫に入れたらそっちに行っていたのだが、まだ許可は出ていないので仕方ない。
「っと、着いたか」
ドアノブを回し、中に入る。またミリスが居るかと思ったが、流石に居なかった。
そして俺は、今度は手に持っていたミリスの氷像をどこに置くか悩むことになった。
「あ、そう言えば夜もここで食べるって言ってたよな…普通に考えて男の部屋に自分の像が置いてあるって怖くないか?」
正直そこまで考えていなかった。これを部屋に唯一置いてある机の上に飾っておくのは色々マズイだろう。
「引き出しに入れておけばいいか…」
結局俺は、氷像を引き出しの奥深くに封印する事にしたのだった。
実在する女の子の氷像を持ってるエイト君ヤバくないですか?
ちなみに大きさは20cm程度です。