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第7話 ミリス私設騎士団副長

ちょっと間に合わなかったけどセーフ!

 午後は練習場内にある魔法練習用の的を使う。待望の魔法訓練だ。

 そして魔法を教えてくれる教官は、どことなく軽薄さが漂うこの(イケメン)。綺麗な金髪と涼しげな碧い瞳。


「おっ!君が噂の勇者ね!いや、午前中にうちの団長と打ち合ってるのは見てたけどね?」

「あんたが魔法を教えてくれんの?」

「うん、オレはウィル。よろしくね~」

「俺はエイト、よろしくな」


 お互い軽く挨拶を済ませ、今のステータスなどの必要事項をウィルに話す。

 それも終わればいよいよ魔法の訓練の始まりだ。


「それじゃ、最初は……魔力の扱い方からだよね!えーと、うちの姫さんから聞いたけど、君は魔法を使った事が無いんだよね?さっき聞いた感じ、魔力は多そうだから直ぐに使えると思うよ!」

「ん?俺の魔力は多いのか?」

「うん、めっちゃ多いね。魔法を使った事が無いのにその魔力量。流石は勇者って事かな?多分、冒険者ランクで言えばBランク……いや、Aランク冒険者と同じくらいはあるかな?それでもオレの10分の1位の量だけどね!」


 Aランクの冒険者がどれくらいの実力だかは知らないが、ウィルはその人達に比べても圧倒的に魔力量が多いらしい。俺の10倍の魔力量という事は約10000もの魔力量だという事だ。


「はい、それじゃ体内の魔力を感じるんだ。それをゆっくりゆっくり掻き回す様なイメージで循環させるんだ」

「魔力を……感じる……」


 そもそも魔力というのはどのように感じれば良いのだろうか?ステータス見たいに念じれば良いのか?

 なんとなく漫画とか小説で、初めて魔力を感じる主人公をイメージして、10分程頑張ってみたが全然分からない。


「あぁぁ!ぜんっぜん分かんねぇ!体内の魔力ってなんだよ!?」

「ありゃ?分かんなかった?エイト程の魔力があればすぐに分かると思うんだけどなぁ」

「いや、全然分からん」

「うーん、ちょっと面倒だけど、オレが直接いじった方が速いかな?」


 そう呟くと俺に近づき、おもむろに俺の両手を握る。ウィルの両手は少しヒンヤリしていた。


「ちょっとオレから魔力を流すから、何か分かったら一人でやってみようか?」

「分かった。やってみる」


 ウィルが静かに両目を閉じ、しっかりと両手を握り直せば、ウィルの両手が淡く光だし、やがて俺の両手も同じように光っていた。

 5分ほどそうしていただろうか?じわじわと冷たい何かが染み込んで来るのが分かってきた。


 それから更に5分程たっただろうか?……いや、寒い。なにこれ、めっちゃ寒い。まるで何も着る事無く、真冬の寒空に放り出された気分だ。魔力ってこんなに冷たいモノなのかよ!?

 ガタガタ震える体をどうする事も出来ず正面に居るウィルを見れば、相も変わらず目を閉じ俺の両手を握っていた。


 早くこの状況を脱出したくて色々と試してみる。すると段々分かってきた気がする。確かに自分の体の中にも似た様なのがあるのがなんとなく分かる。そんなことより寒い。

 とりあえず早いとこ手を離して貰おう。


「も、もも、もういい……なんとなく分かったから」

「そう?まだ出来るけど……あれ、顔青いね?どうしたの?」

「いや、お前のせいだよ!寒いわ!……ふぅ、とにかく分かったから自分でやってみる」


 ガチガチと鳴る歯を抑えながら集中するために目を瞑る。まだウィルの魔力が体に残っている感じがして少し寒いが、まぁ今は無視だ。

 「ありゃ属性乗っちゃったか~」みたいな声が聞こえたが無視無視。自身の意識を底の方、底の方に沈めて行く。前の世界の時には感じた事の無い不思議な感触だ。気を抜くとフワフワと漂っていってしまいそうだ。


 長い間そうしていた気もするし、短い間だったかもしれない。ようやく魔力の流れを掴めた。

 すると、先程とは打って変わって暖かい感じがする。俺はその事に心底安心した。自分の魔力を感じる度に凍えてるとか笑えない。


「よし、掴めたみたいだね。次は自分が思うように動かしてごらん。一度分かってしまえば後は簡単だからね」


 言われた通りにしてみる。頭、腕、手、足、胴体。満遍なく動かして行く。不思議な感覚だ。自らの意思で海の潮の流れが出来てる様な……


「上出来だよ!後は無意識にでも出来るようになるハズだよ!」


 そう言ったウィルの顔は明るく、自分の事のように喜んでくれていた。ウィルに魔力を流された時はめちゃめちゃ寒かったので、その笑顔に一発拳を打ち込んでやりたい衝動はあったが、まぁウィルのお陰で魔力を掴む事が出来たので、それでさっきの件は相殺して置いてやる事にした。


「ふぅ……魔法を使うまでで詰んだらどうしようかと思っていたが一先ず大丈夫そうで安心した」

「ハハハ、そうだね。よし!次は実際に簡単な魔法を使ってみようか!本当は良く学んでから実践して欲しいんだけど……時間もあんまり無いし、なによりエイトからは感覚派って感じがするし。暴走してもオレが抑えてあげるよ」


 そんな事まで見抜かれていたとは。実際にその通りで、聞いて理解するより、動きを見てそれを実践する方が遥かに向いている。一度でも出来れば、その後もある程度出来るようになる。だから前の世界でも勉強も運動もある程度出来た。

 ただ、教えるのは壊滅的に下手くそだった様で、友人に「いや、お前は勉強会来なくていいぞ」と言われた時はそれなりにショックだった記憶がある。


 ともあれ昔の事は今は関係無い……いや、良く考えてみると昔って程、前じゃないんだよな。

 どうでも良い事を考えていた思考を打ち切り、現実に戻す。


「それじゃあ、詠唱を教えよう。まずは火球(ファイヤーボール)の詠唱から。見ててね」


 ウィルは的の方に人差し指を向けると、『火よ、敵を穿て』とだけ言う。すると指先にサッカーボール程度の大きさの火の玉ができ、次の瞬間には的に向かって勢い良く飛んでいった。

 火の玉は的に当たると、勢い良く爆ぜ、ただ燃え盛る炎と化して的を飲み込む。炎の勢いが消えると、的があった位置には焦げた地面があるだけだった。


「あぁ!ウィル副団長!また的をダメにしましたね!?こっちの的は頑丈には作られてないんですから!もう、また発注しとかないと……」


 俺が間近で見る魔法に感動していると、黒ローブの女性がウィルに詰め寄っている。

 てかウィルは副団長だったのか。


「ハハ、ごめんごめんて。次から気を付けるからさ、次からは向こうでやるから。それなら良いだろ?」

「何度注意したと思ってるんですか!?最初からそうしてくださいよ!」


 未だに勢いが止まらない女性魔導師にウィルは、「ほら、落ち着いて」とにこやかに笑いながら、頭を撫でる。

 するとそれだけで彼女は顔を赤らめ、口をパクパクさせる。照れが怒りを上回った様だ。そして止めにウィルが顔を覗き込めば……


「も!もういいでひゅ!」


 彼女は呂律の回らない様子で一言を残し逃げて行ってしまった。


「ウィル、あれいいのか?」

「さっきの?大丈夫だよ。いつもの事だからね」


 いつもの事なのかよ!という突っ込みは間一髪で飲み込み、ウィルが「向こう」と言っていた方に向かう。

 到着するとそこには、なるほど、先程の的よりも頑丈そうな的が7つ程並んでいる。


「さて、キョウ。さっきのオレの火球を強くイメージして詠唱をするんだ。頑張れよ!」

「わかった、やってみる」


 イメージするのは先程のウィルの火球。サッカーボール台の大きさで的に当たると、爆ぜて的を飲み込んだあの火球。

 先程の魔力の流れを思いだし、指先に魔力を集めていく。イメージしているのが火だからだろうか?集まる魔力はかなりの高温に感じた。しかし自分が火傷する様な事は無い。一体どういう仕組みなのやら……


「無詠唱ってのもあるけどそっちはよっぽど才能が無くちゃ無理だからね。まずは詠唱魔法から練習しよう」


 ウィルが何か言っているが今は聞いている余裕が無い。思ったよりも魔力の扱いが難しく、指先に留まらず身体中に霧散してしまう。

 イメージをもっと強く。火をただ一点に集中させる。


「オレも無詠唱を使える様になる為に一年は修行したからね」


 今、一瞬しっかりと形を作った気がする。今の感覚を忘れない内にもう一度球を形成する。

 今はただ、熱い魔力が指先に集まっている状態だ。それが火に変わる様にイメージする。

 そして、詠唱を開始する。


「多分、キョウも出来る様に…」

『火よ…』


 だが火球は俺が詠唱を言い終わる前に射出されてしまった。

 勢い良く飛び出した火球は的には当たらず、右に逸れ後ろに用意されていた壁の表面を削って爆ぜた。


「は?」

「あり?まだ詠唱終わってねーんだけど?」

「嘘……だろ?無詠唱?」


 何やらウィルが驚愕した表情でこちらを見ているが、俺が何かしただろうか。

 あ、いや、したな。詠唱をすっ飛ばした。何故か詠唱が終わる前に火球が飛んでいったのは俺のせいでは無い……と思う。


「おい、ウィルどうした?」

「エイト、今の、もう一度出来るかい?」


 「今の」というのは詠唱をすっ飛ばしたやつの事だろう。

 「ウィルがやれと言うのなら」ということで、最初から始める。とは言っても一度こなした手順だ。先程よりもスムーズに火球を完成させ、射出する事が出来た。ちなみに今度はしっかり的に命中している。


「一発で無詠唱を成功させるとか……エイト、君にはよっぽど才能があるみたいだよ。無詠唱魔法のね」

「無詠唱魔法……」


 これまた、異世界魔法のテンプレ、無詠唱魔法。

 それに詠唱とかちょっと恥ずかしかったりするので丁度良いかも知れない。

 

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