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第5話 ミリスとの朝食

 俺はミリスが退室した後、部屋の隅に用意されていたベッドに思い切りダイブする。外を見れば既に暗くなっており、それを認識すると体に重い疲れがのし掛かる。

 そう言えば腹減ったなー、なんて考えつつ今日の事を思い返してみる。


 轢かれたのは……不本意ながらハッキリと感触を覚えている。正直、思い出すだけで体が軋むので早々に忘れたいと思う。

 そして気付けばリアの前に居た訳だ。たまに様子を見に来るって言ってたけど、どんな形で見に来るのか。少し楽しみだ。


 そして、少し早まったか、とも思う。

 ミリスの笑顔が見てみたいと思った。それは愛想笑いや苦笑いなんてのじゃなくて、心からの笑顔。

 正直自分でもくさいと思っている。それに、これを達成するには、原因を発見及び排除しなければならない。

 今の俺にあるのは、《勇者》の称号と《成長促進》のスキルのみ。称号やスキルの仕組みもまだ分からないし、なによりステータスが低い……と思う。

 一番の問題は俺が今まで平和な日本でぬくぬくと生きていた事だろう。そりゃこういうのに憧れはしたけど、こういうイベントはもっとこの世界に馴れてから起こって欲しかった。


 それから、もしミリスが俺を騙していたとしたら。これは最初からゲームオーバーだ。俺は騙されて踊らされた、ただのアホ。異世界生活開始早々退場することになる。

 ミリスが俺を騙すメリットなんて考え付かないが、根が一般人の俺だ。もしかしたら考え付かないだけなのかもしれない。


 まぁ、うだうだ考えても仕方ない。要は騙されていても凪ぎ払える様になれば良い。

 それに、ミリスの父を案じていたあの顔は、嘘ではない……と、思う。単なる直感だが。


 取り敢えず今日は寝てしまう事にする。

 正直空腹で辛いので、こういう時は寝るのが一番だ。


 前の世界の夕食の事を考えながら、俺の意識は沈んで行った。



 朝。目覚めは悪くない。強いて言えば空腹が辛い。

 まずは体を起こし伸びをする。時計も無いので時間も分からない。

 取り敢えず、部屋を出れば何かアクションがあるか?そう思って扉に向おうとベッドから降りると、その前にノックの音が聞こえる。


「エイト、居ますか?」

「ミリスか。居るぞ」


 訪ねてきたのはミリス。「エイト」と呼び捨てなのは、昨夜、別れ際に様付けをやめさせたからだ。今は協力者という対等な関係であるし、何より俺が嫌だからだ。

 そして口調も、少し柔らかくなっている。こっちは俺が頼んだ覚えは無いので自主的な物だろう。

 扉を開け、ミリスを迎え入れる。


「どうした?」

「いえ、もうすぐ朝食ですから。ここに運ばせますか?それとも食堂へ?」

「ここでいいか?いや、めちゃくちゃ空腹だったから助かったわ」


 部屋に運んで貰う理由は特に無いが……別に知らない人間が多く居る食堂でストレスを感じながら食べるよりは断然良い。情報収集も今日からで無くても良いだろう。


「分かりました。それでは用意させます」


 そう言うとミリスは後ろに控えていたメイドに合図をする。すると直ぐにメイドは一礼し、退出して行った。


「おぉ……メイドさんって初めて見た」

「そうなのですか?」

「おう、俺の故郷では一般的では無いしな」

「この国では一般的な家庭でも使用人を雇う方は多くいますよ」

「へぇ、それじゃ珍しい事では無いんだな」


 メイドさんって裕福な家庭だけが雇っているイメージなので、この国は一般家庭まで潤っているのかもしれない。


 と、そんな事を考えていれば先程のメイドが食事を乗せたカートを押して部屋に入ってくる。そして部屋の真ん中にあるテーブルに食事を二人分乗せると、また退室して行った。


「さ、いただきましょうか」

「あれ、ミリスもここで食べるのか」

「えぇ、食堂ですと誰が敵かも分かりませんので」


 王女なのだし自室で食べればいいと思うのだが、とは思ったものの、余計な事は口にしない。「まぁ確かにな」と軽く流しておく。


 それじゃ早速、と食事を始める。メニューはパンと野菜を煮込んだスープに焼いたハムだ。

 パンは柔らかく、程よく甘い。なんというか、高級なパンってこんな感じなんだろうなっていうイメージが現実になればこんな感じだと思う。

 次にスープを口に含む。入っているのはじゃがいもや人参、キャベツの様な野菜だ。ポトフみたいな感じだ。というかこれポトフだ。うん、これもめちゃくちゃ旨い。

 ハムは……いや、普通だな。正直ハムの違いとかわかんないし。


 それでも全体的には旨い事に変わりは無いので直ぐに腹に収まった。ミリスを見れば、彼女も食事を終えたようだ。

 ミリスもこちらが食べ終わった事に気付いたらしく口を開く。


「あれから何か作戦は決まりましたか?」

「まぁな。今は取り敢えずステータスの向上を目指す」

「それについては大丈夫だと思います。本日から訓練が予定されていますから。元々私はこれを伝えるために来たのですし」

「訓練か。好都合だな」


 予想通りではある。そりゃ勇者と言えど育ってなければ役には立たない。妥当な判断だし、異世界物のテンプレだ。

 後は本なんかでの情報収集。俺はこの国の事を知らなすぎる。その状態で動くのは非常に危険だ。

 恐らく図書室の様な物があると思う。そこに自由に出入り出来れば良いのだが。


「なぁ、ミリス。図書室みたいな場所ってあるか?」

「資料庫がありますよ、立ち入り許可を出しましょうか?」

「え?ミリスが許可を出すのか?」

「おかしいですか?私はこの国の王女です。それ位の権限は持ってます」


 そう言えばそうだった。あまりにも気軽だからつい忘れてしまう。

 多少、ミリスが不貞腐れてしまったが、案外簡単に望みの場所に入れそうなので安心している。


「ごめんて。もう忘れねーから機嫌直してくれ」

「はぁ……もういいです。許可を出せば良いんですよね」

「あぁ頼んだ」

「分かりました。明日には自由に出入り出来るように手配しておきます」


 よし、ここまでは順調だ。まずは敵に対抗するための力を付けなくてはならない。ミリスには権力面や手回しなどをして貰おうと思っている。実行部隊……いや、一人だし実行員?の俺と裏方のミリスだ。

 頭の中での役割分担も済ませ、ミリスとの相談も終了する。


「またな、ミリス」

「はい、また夕食の時に」


 そしてまた、部屋には俺一人になる。特にする事も無いのでベッドに腰を掛け、ミリスが言っていた訓練の呼び出しを待つことにする。

 

「勇者よ、訓練の時間だ!訓練場に行くぞ!」


 と、ミリスが退室して20分程で迎えが来たようだ。思ったよりも早いな、と思いつつ扉を開ける。


「来たな、勇者。それでは付いて来るが良い」


 扉の前に立っていたのは身長が2m程の大男。顔には切り傷やら無精髭やらで荒くれ者ってこんな感じなんだろうなって感じの顔をしている。

 だがこの人は味方の筈だ。教官は多分この人。そして訓練には上手く自分の配下をねじ込めた、とミリスが言っていた。

 しかし、それとは別に不安が募る。自分の貧弱なステータスでこの人の扱きに耐えられるだろうか。不安だ。「勇者なんだからこれくらいでは壊れないだろ?」とか思っていそうだ。


「どうした?勇者。そんなにビクビクとして。あぁそうだった。まだ名乗っていなかったな。俺はダン。ミリス様の私設騎士団の団長をしている」

「えー、俺はエイトだ……です」

「ガハハ!キョウ!そんなにビビるな!お前のステータスが一般人並みなのはミリス様から聞いている。安心せい」

「あ、はい」


 何が怖いってこの人の笑顔だ。凶悪な顔を凶悪に歪めるのだから尚更怖い。ただ根は悪い人では無さそうで少し安心した。

 ついでに俺のステータスの事までちゃんと考慮してくれているらしいので、体が壊れてしまう事は無い……ハズだ。


 そして、自室から歩いて5分。1つの扉の前でダンが止まる。


「この先が訓練場だ!お前は俺がしっかりと鍛えてやるから安心しろ!期待しているからな!」

「は、はい!」


 つい背筋を伸ばしてしまう。慣れるのはいつになることやら……若干不安になる俺なのだった。


次回から本格的に動き出します。

ちょっとした流れしか考えていないので中々大変ですね(-_-;)

本日はあと1話投稿予定でしたがちょっとキツいかも?

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