第16話 異常
昨日投稿予定だったんだけどな~
ま、いっか。
依頼を終えた俺達は、現在ギルドに戻ってきている。
そして俺は依頼の達成報告、及び素材の売却のために買い取りカウンターの前にいる。
「お疲れ様です!買い取りカウンターをご利用ですか?」
そう言って屈託無く笑うのは、この前アイシャと話している時にもいた明る目の茶髪をツインテールにした少女。なんというか思わず撫でたくなってしまう様な小動物らしさを持っている。
名札を見れば、「ニーナ」と書いてあった。
「あぁ、依頼の達成報告と素材の売却、頼んだ」
「はい!頼まれました!えっと、まずはギルドカードの提示をお願いします!」
そう言われたので、俺は自分のギルドカードを取りだしニーナに渡す。
「Fランク冒険者のエイトさんですね!確認しました!こちらはお返しします!」
「おう、ありがと」
「次は今回の依頼書と証明部位の提示です!」
依頼書はレイダスが持っていたが、事前に預かっておいた。証明部位の入ったアイテムポーチもその時に預かっている。
ちなみにレイダスとロムは先に城まで戻っている。なんでも騎士の仕事があるのだそうだ。
「えっと…Bランクのレイダスさんとロムさんとのパーティで…ゴブリンの討伐…はい!確認しました!それでは証明部位の確認をさせて頂きますね!あちらの方に証明部位を出してください」
そう言って示された場所はカウンターの中だ。そこは少し広くなっており、なんらかの魔法陣が描かれていた。
魔法陣は淡く青に光っており、常時発動型の魔法陣だという事が分かった。ちなみに資料庫で得た知識である。
俺は言われた通りカウンター内に入る。
「この魔法陣の中に耳を置けばいいのか?」
「はい、お願いしますね!」
確認も取れたので、俺はアイテムポーチに手を突っ込み次々に耳を取り出す。
…これだけ聞いたらかなりヤバイ絵面だな。
そんな事を考えている間も俺は手を止める事は無く取り出して行く。
「うわぁ、多いですね!何匹くらい倒したんですか?」
「100くらいか?ま、ロムが焼いちまったやつを入れれば120くらいになるけどな」
そう言って苦笑する俺。
最後の方に段々面倒臭がって来たロムは火力の調整をせずに魔法を打ち始めるもんだから…危うく俺やレイダスまで焼かれそうになったりしたが、レイダス曰く日常茶飯事らしい。
取り敢えず文句だけ言って流して置いた。
「120!凄いですね!」
「そうでもないだろ?あそこのゴブリンはいくら狩っても沸いてくるって聞いたぞ?」
「それでも1パーティでそこまで狩って来る冒険者の方はいらっしゃいませんから」
ニーナは純粋に「凄い!」と顔に出すものだから何となく照れてしまう。
ちょっと赤くなった顔を悟られないように作業を進めて行く。
10分程でアイテムポーチが空になった。
「よし、これで全部だ」
「了解しました。それでは確認しますね!」
俺が出したゴブリンの耳を手際良く確認していくニーナ。
ゴブリンの耳を鼻歌混じりに見ている元気系美少女というのは、かなりの狂気を感じる。
そんな事を考えている事をおくびにも出さず、俺はニーナに話しかける。
「随分手慣れてるんだな」
絵面はともかく、一つ一つ確認していく姿は様になっている。
「そうですか?本当なら嬉しいです」
にへへ、と笑いながらそう言う少女。頬は少し赤く染まり、恥ずかしそうにしている姿は大変魅力的に見える。手に持った耳が無ければ、の話だが。
「確認終了しました!それではカウンターの方へどうぞ」
暫く待っていれば、ニーナに声を掛けられる。
待っている間はミリス私設騎士団副団長のウィルに教わった、何時でも出来る魔法の訓練を行っていた。方法は体内の魔力を捏ね繰り回すだけである。
「こちらが報酬金と買い取り分ですね。こっちは達成書です。向こうのカウンターに持っていってください!」
渡されたのは揺するとじゃらじゃら音がする袋と、依頼クリアに関する事が記載された紙が一枚。
思えば金を手に入れたのが今回が初めてなので、どれ程の価値があるかは全く分からない。後程、レイダスとロムと山分けする際にそこら辺も聞く事にした。
これを普通のカウンターに持っていく。特に理由は無いが、なんとなくアイシャの所に並んで、用事を済ませた。
ギルドでやる事が終わった俺は城に戻る。そう言えば金と同様、街を一人で歩くのもこれが初めてだ。時間的には既に夕方になっている。
まぁだからと言って何かが起こる訳でも無く、普通に城に着く。
ある程度顔見知りになった門番と一言二言挨拶を交わし、自分の部屋に戻る。
自室には夕食が用意されていて、ミリスが席についている。今では完全に見慣れた光景だ。
「お帰りなさい、キョウ」
「ただいま」
「本日もこちらでお夕食を取らせていただきますね」
心の中で、ちょっとだけ新婚みたいだな、なんて思いつつ、ミリスとの会話に無難に答えて行く。
「あぁ、そうだ。この国を嵌めた犯人だけどな、多分だけど予想がついた」
「本当ですか!?」
ミリスは勢い良く身を乗り出す。
その勢いに多少押されながらも説明を始める。
「魔王レグリズって知ってるだろ?」
「えぇ、はい。存じておりますが…?」
「それなら分かるだろ?」
しかし、ミリスは首を傾げるばかりだ。レグリズの噂までは知らないって事か?
それなら納得出来るかも。
「良いか?ミリス。レグリズって魔王は精神干渉に長けていると考えられているんだ」
「?…そうですね。レグリズの城は招待された者にしか見えませんから。私も一度しか見た事がありません」
それでもまだ不思議そうなミリス。俺は何かがおかしいと感じ始めていた。
「つまりだな、お前の父親や貴族達に精神干渉魔法を掛けて操ってるのは、魔王レグリズじゃないか、って言ってるんだよ」
「は、はぁ?そうですか?でも、彼の魔王がそんな事をするでしょうか?」
「いや、あんなに悪評があれば、やってもおかしくないだろ?」
「悪評…?」
心底不思議そうに首を傾げるミリス。
流石にこれはおかしい。王女としてこう言った事は教えて貰えていなかったのか?だが、そうだとしても、周りの雰囲気でなんとなく、その人物が良い印象か悪い印象か分かるもんだと思っている。
「ほら、魔王レグリズが村を1つ壊滅させた、とか有名な話だろ?」
「そうですね、それなら私も知っています。それが何か?」
「え?いや、明らかなクソ野郎だろ!?」
俺は思わず机を叩いて立ち上がる。
その勢いに驚いたミリスがビクッと震えたのが見え、急激に冷静になっていく。だが心の中のイラつきが収まったわけでは無い。
「なんだ?お前の国では人殺しを許容してんのかよ」
「そういう…わけでは?あ…れ?魔王レグリズ?人殺し?なんで…分からない分からない分からない」
「お、おい。どうした…?」
今度はミリスは何かをぶつぶつと呟きながら顔を真っ青にし、うずくまってしまう。
俺は慌てた。感じていたイラつきも成りを潜め、ミリスの側に回る。外に控えているメイドを呼ぼうかとも思ったが、それではダメだ、と俺の直感が言っている。
そうだ。この城の人間は精神干渉を掛けられている。どうしてミリスには掛けられていないと思っていた?それは心を痛めてはいた物のミリスがいたって普通だったから。
だが今は?明らかに普通では無い。ならば今こそ精神干渉魔法の訓練の成果を見せる時だ。
ミリスの精神に意識を集中させる。すると見えてきた。目の大きな網だ。やはりミリスは精神干渉を掛けられていたのだ。
俺は意を決して、ミリスの精神干渉を解除する事にしたのだった。
ちょっと不穏だけど、作者がシリアス苦手だからね。安心してね