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4話 昼食会へ向かう途中で

「うわぁ。迷いそうだよ」

「問題ありません。私が案内しますから」

「フェリスさん、やっぱり頼りになるね」


 今、私は、ルカ王子と共に、昼食会の会場へ向かっている。


 ルカ王子は自分の住んでいる城の内部さえ完全に把握してはいないようだ。どうしてそれほど無知なのかは分からない。


 けれども、私は先ほど見せてもらった図のおかげで、行き先を覚えている。だからちゃんと案内できるだろう。城内は広いが、正しく記憶できているはずだ。


「それにしても今日は、慌ただしいね。侍女たちも忙しそうだし」

「ですね」

「あ、そうだ。フェリスさんは立派なドレス着てこなくて良かったの?」

「はい。問題ありません。ドレスだと動きにくいので、この方が良いのです」


 そんな風に言葉を交わしながら、私たちは歩いていく。


 重そうな荷物を運ぶ男性使用人。掃除や昼食会前の最終打ち合わせをする侍女。城内の人々は、皆、とにかく忙しそうだ。


 城の中で、こんなにのんびりしているのは、ルカ王子だけである。


 周囲を警戒しつつも、そんなことを考えていると、唐突にルカ王子が話しかけてきた。


「そうだ、フェリスさん。前から思っていたんだけど……」


 何か言いたげな顔だ。私の働きに問題でもあるのだろうか。少し心配になるが、その心配を極力顔に出さないように心がけつつ、「何ですか?」と返した。


 すると彼は、ゆっくりと口を開く。


「フェリスさんは、どうしてそんなに淡々としているの?」


 一瞬嫌みかと思ったが、彼の純粋な表情を見る限り、嫌みではなさそうだ。単に気になったから聞いた、といったところだろうと思われる。


「私ですか?」

「うん。女の子って、もっとキャッキャするものだと思っていたんだけど、フェリスさんは違うよね」


 ルカ王子の前で女性がキャッキャするのは、彼が第一王子という身分だからではないだろうか。


「もっとキャッキャした方が良いですか」

「いや、それはいいよ。フェリスさんはフェリスさんらしいのが一番だからね」


 それはどういう意味なのだろう……。


 良い意味にも悪い意味にも聞こえる言葉だ。


「ただ、不思議なんだ。フェリスさんは僕に必要以上に近づいてこないし、こうやって話す時も目が輝いていない」


 目が輝いていないですって?

 失礼極まりないわ!


「どうしてなのかなーと思って」

「それは、私がただの護衛だからです」


 ルカ王子とは、あくまで仕事上の関係だ。それ以上の関係に発展することなどありはしない。


「ただの、護衛?」


 きょとんとした顔で可愛らしく首を傾げるルカ王子。


「そうです。私はルカ王子の護衛になるよう頼まれたので、ここへ来ました。なので、もしルカ王子の身に危険が及ぶようなことがあれば力を尽くしはしますが、それより踏み込んだことはしません」


 線はしっかり引いておく方がいい。

 後々揉めても厄介だし、城内で悪い噂が広まっても困る。


「でも、侍女だってお仕事なのに、僕に近づいてくるよー?」

「それは単に狙われているのです」

「えっ! 僕の首を狙って近づいていたってこと!?」


 いやいや……なぜそうなるのか。


「違います。その方はきっと、ルカ王子に気に入ってもらいたかったのでしょう。だから距離を縮めようとしたのだと思いますよ」

「なるほど、そっか。ちょっと怖いなぁ」

「笑いながら言うと本気さが伝わりませんよ。むしろ、実は喜んでいると思われてしまう可能性があります」

「えっ。そうなんだ。……人って、難しいね」


 近い将来一国の王になることが約束されたルカ王子がこの様子では、モノハシカ王国の未来も安泰ではなさそうだ。彼にはもっとしっかりした人になってもらわなくては、最終的には国民が困る。つまり、私も困るのだ。


「フェリスさんは色々詳しいね」

「普通です」

「そう? 僕なんて、ずっと城の中にいるから、外のことはほとんど知らないよ」


 ——ずっと城の中にいる?


 私はなぜか、そこが引っかかった。

 王子が城内で暮らしているのは当たり前なのに。


「外へは行かないのですか?」

「うん。僕は出ちゃ駄目って言われてるよー」


 ルカ王子は相変わらずにこにこしている。


「なぜですか?」

「国王から言われているからだよ」

「そうでなく。なぜ城の外に出てはいけないのですか?」

「あ、そっちだったんだね。それはもちろん——」


 刹那。

 視界の端に、飛んでくるナイフが入った。


「危ないっ!」


 叫び、ルカ王子を突き飛ばす。

 床に転んだ彼は、驚いた顔のまま硬直していた。


「あら。避けられちゃった」


 いつの間にか私たちの目の前に立っていたのは、一人の女性だった。濃い紫のローブをまとった、大人びた雰囲気を持つ、色気のある女性だ。その手には、数本のナイフ。間違いない、先ほどルカ王子を狙ったのは彼女だ。


 私はすぐに、腰につけた革製のカバーから剣を抜き、構えた。


 どうやらいよいよ、私の出番がやってきたようである。

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